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第三十七話 導火線は深く静かに沈み、その時を待っていた

「じゃあ、次は、マユ、ちゃんの、番、ねっと!」


 そう言って先輩がマユにポンプの場所を譲ると、マユの首が音もなくぐりんとこちらを向いた。


 いや音鳴ったら怖いけど。今その表情も怖いけど。何もかもが怖いよ俺!! 誰か助け……。


「……ユウお兄ちゃん。あとで、覚えておいてね」


「ひぃぃぃ……それは、俺のせいじゃないような……」


「誰が、これを、始めた、のかな?」


 マユが恨みのこもった目で俺を睨みつける。足元は律儀にしゅこしゅこやっている。


 その足元は離れたところからでもキッチリ見ていたらしく、しっかりと体重の乗ったかかとだ。


「お、俺でした……」


 さぁ、お前の罪を数えろ!


「そう、いう、こと、だよ、ねっ!」


 残念ながら、そう言うマユのぽよぽよは見つけられない。その小山は微動だにしないのだ。


 いや、これは違うんですよ。多分、マユさんはちゃんと締め付けてらっしゃると思うんですよね。


 それをほぼつけてない先輩と比べるから、おかしくなるんですよ。


 いや、マユさんがおかしいとかじゃなくてね?


 だからね、そんなに睨まないでほしいなって。


「でも、これもうほぼ膨らんだと言っていいんじゃない? 後ちょっとで完成するよこれ」


 正直今は膨らむ膨らまないの話は大変リスキーな話題ではある。できれば避けたい。


 だが、ここはあえて先輩GJと言わせてもらおう。もう脱出のチャンスはここしかない!


「よし、じゃあ後は俺が仕上げまでやっちゃうよ。マユ、ありがと。もういいよ」


 だから心安らかにお休みください……。どうか、どうか!


 しゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこ。


 俺は無心となってひたすらポンプを踏みつける。踏んでる間だけは現実を忘れられる。


「ユウお兄ちゃん、全然膨らんでないよ? ほら、もっと早くもっと強く踏まないと。ね?」


 しかし無情にもマユさんのムチが入る。もう許してくださいよォ!


「は、はいいいいいい!!」


 しゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこしゅこ。


 もう全力疾走に近い。息が……! あ、刻が見える――。


「ん。これもういいんじゃないかな。ユウ君、お疲れ」


 先輩の声にハッと意識を取り戻すと、俺はその場へ崩れ落ちる。


 見れば先輩はぱんぱんに膨らんだエアーベッドの端をぽんぽんと叩いて、具合を確かめている。


 そしてエアーベッドはその性能を遺憾なく発揮させて、先輩の手をぽよんぽよんと跳ね返している。


 おまけに別なところも影響を受けているが、今は直視しないほうが身のためというものだろう。


 俺だって保身ぐらいは考える。直接的な身の危険を感じればなおさらだ。


 そりゃ惜しいって気持ちはいつだってあるけどな!


 男の子なら誰にでもこの気持、わかってもらえると俺は信じてる。


「はぁ、はぁ、やっと、はぁはぁ、おわった、はぁ、はぁ」


 野郎の息遣いなんて面白く無いでしょう? 申し訳ありませんね。これで終わりましたんで……。


「私はやったのちょっとだけだったけど、これ結構疲れるんだね。ふたりともお疲れ様」


 マユはそう言うと、コップに用意してあった水を一杯手渡してくれる。


「あ、ありがとー。わたしちょうど喉乾いてたとこだったんだ」


「お、さんきゅ。……ってなんで俺だけ中身ジュースなんですかね」


 今は糖分が喉でべたつくぅ!


「ユウお兄ちゃん、オレンジジュース好きだったよね?」


「そ、そうだな。オレンジジュースのゼリーとか特に好きだぞ」


「もう夜も遅いから、ゼリーはまた今度ね」


 と言いながらふふふと笑うマユさん。


「あ、そうですね……」


 あのツルンとした喉越しとか、良いと思うんですよ。特に今みたいな時とかね!




「よーし、じゃあマユちゃんを気持よくさせて死守したユウ君の枕。堪能しながら寝るかー」


 さて寝支度も出来たしそろそろ寝るかという雰囲気になったところで、先輩の爆弾が炸裂。


 俺は口直しに飲んでいたペットボトルの水を思わず吹き出してしまう。


「ゴホッ! 先輩、何を……」


「ちょっとサヤカさん! あれはなかったことにとあれほど……!!」


「えー? 大丈夫だよ。未経験のうちは、ああいうことも気になって当たり前なんだからさ。初心者講習だと思って……」


「――っ!!」


 マユが慌てて先輩にすがりつくも、先輩はあっけらかんとしたものでへーきへーきとか言って手を振っている。


 何をどういう根拠で平気と言っているのかは俺は知らない。知らないったら知らない。


「今、聞きたくないものを聞いてしまった気がする……」


 そして連想されるのはめくれ上がった服の裾と、そこから覗く肌色成分。


 重なりあう二人の体。軋むベッド。これもうあれなやつですよね。あれ。


 てかこの話、終わったんじゃなかったの!?


「ユウお兄ちゃん、誤解のないように言っておくけど、私何にもされてないからね!!」


 誤解も何もどう見てもそういうのにしか見えなかったですけど!


 マユの超真っ赤な顔見ても、そういうことだってわかんじゃん!?


「何にもってなんなの!? 余計気になる!! 先輩マユになにをした!?」


 ああ、ついに聞いてしまった。聞かなきゃ良いのに。


 世の中には知らない方が良いことってあると思うの。


「えーと、わたし達がそういう時いつもどんな感じか、とか? その時の格好……姿勢、とか? こう、色々実演をね」


 先輩は人差し指、中指と一本ずつ立てると、そのままピースサインを左右にふるふるさせる。


「なんてことしてやがる! 予想の範疇ではあったけど、当てたくはなかった! 斜め上でなかったことだけはホントよかったけども!!」


 人の睦事(むつごと)を何だと思ってんだ、この人は! いや先輩も当事者の一人ではあるけども!


 俺にもプライバシーってものはあるんだぞ! その辺忘れてませんかね、この人。


「うーん、まぁ。あんまりどうかなって思ったけど、マユちゃんが真剣な顔して聞いてくるもんだからさ……」


「わー! わー!! わー!!!」


 マユが今まで見たことのない暴れ方をしている。


 これ両手でぽかぽか殴りたいんだろうけど、同時に肩口からタックルしてるから、どっちもできてないぞ。


「いやもうホント、先輩今すぐ口閉じて? もうこれ以上マユをいじめないでやってくれよ。一杯一杯だぞこれもう」


 普段純情なマユにこれは相当キツいぞ。てかなんでそんなこと聞いちゃったんだこの人に。


 今までの様子で先輩に聞いたらどうなるかとか、わかんなかったんですかね。


 いや、だからって俺に聞かれても困るけどさ。教えられないよそんなこと。


「まぁ、ね。多少はサービスのつもりもあるんだよ? これでも」


「一体何をどうサービスしたらこんな爆発寸前になるんだ。拷問にしかなってないぞこれ」


 マユは色んな感情が焼き切れてしまったのか、ぐったりと先輩の乗っているベッドに突っ伏している。


 ……これ、立ち直れるのかな? 流石にマユさんにちょっと同情。


「サービス足りてないかなぁ? じゃあ、マユちゃん。ユウ君と実演してみる? もちろん、入り口の簡単な真似事だけだけどね」

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