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第三十五話 どうする!? どーすんの? 俺!?

 俺は恐る恐るもう一度部屋へのドアを開けると、そっと中を覗き込んだ。


 部屋の中では、二人の女性がベッドの上でくんずほぐれつしている真っ最中。


 一度目を強く瞑って、もう一度開けてみる。肌色。


「……やっぱり(もうそう)じゃなかったー!?」


 二人に気づかれる前にと慌てて廊下に引っ込む。


 ど、どうする、俺!? とりあえず手札の確認を……。


 1.知らないふりをして廊下で大きな音を立てる。


 2.おいおい君達なにやってんだいとなに食わぬ顔で突入する。


 3.そ、そういうえっちなのはいけないと思います!ってメイドさん風に突入する。


 4.すべてを忘れてもう一度風呂に戻る。


 よ、よし。ひとまずこの四枚かな。どーすんの? 俺!?


「うーん……。最適解は恐らく4だが、これ以上浸ってたらのぼせちまう。次善の策なら1になるか……。2と3は正直どういうことになるのか、さっぱり予想がつかなさすぎる。やめておくべきか……」


 よし、決めた。ここは1だな!


 脱衣所の扉を音を立てて閉めれば、流石にあいつらも気づくだろう。


 お隣さんには夜分の騒音大変申し訳無いが、どうか必要な犠牲だとご理解をいただくしか無いな。後日。


 では、と俺が部屋の扉に背を向けた時だった。後ろの扉が普通にガチャっと開けられた。


「ユウお兄ちゃん、そんなとこで何してるの? 入らないの?」


 うーん、マユさんがいつも通りですねー。いつも通り。


 表情も態度も着衣もどこにも乱れがないですねー。ないんだ。なにも。


 そうか。これはやっぱり何もなかったってことなんだよ。見間違え見間違え。


 のぼせて幻覚でも見たんだよ。なんだ、特に気にする必要とかなかったな。やれやれ。


「そうだよ。ユウ君の枕はわたしが死守したからね! 安心して戻ってくるといいよ!」


「やっぱり幻覚でもなんでもなかった……!!」


 なんですか先輩。そのマユの後ろから超ニコニコして手を振ってるのは。かわいいな!


 で、枕? 枕って何? 布団セットにちゃんと新しい奴あったよね? 何、枕二個ないと眠れないの?


「幻覚って何のこと? お風呂でのぼせちゃったの? だからいつも言ってるでしょ。ユウお兄ちゃんは湯船に浸かり過ぎなんだよ」


 お? マユさんナイスパス? これはそういうことでいいんですかね? いいよね?


 なんとなく、このままいつも通り脱線していけばうやむやに出来そうな気がする。


 そうしよう。流してしまおう。全部お風呂の水と一緒に流してしまおう。それがいい。


「だってしょうがないだろ。湯船に肩まで浸かってゆっくりしなかったら、何のためにお湯張ったのかわかんないじゃないか」


 湯船さんに失礼ですよ。使った水道料金やガス代も泣いてますよ。もったいないオバケが出ちゃう。


「ほどほどに、ってことだよ。ユウお兄ちゃんがいつも言ってることじゃない。バランスが大事だって」


 そうそう。なんでも行き過ぎは良くないわけです。程々に収めるか、少々少ないくらいがいいのです。


 ロリっぽいやつがロリロリした格好したって、盛りすぎでそれはもう逆にウッてなるわけですよ。


 そこはちょっと頑張って、私おとなのおねーさんなんですってぐらいの格好してくれたほうが萌える。


 つまりはそういうことなんです。頑張って背伸びしてる女の子とか、いいよね!!


 当方は健気(けなげ)萌えを応援しております。


「ユウ君はあれだよ。わたし達が浸かった湯船にきっとたっぷり浸かりたかったんだよ。なにせユウ君は立派な変態マイスターの一員だからね」


 先輩よ。その悪意あるニヤニヤはやめなさい。あと俺は別に変態じゃないから。


 だいたいね、例えそれが事実であっても、名誉毀損はちゃんと成立するんですよ!


「先輩のその俺を躊躇なくdisっていくスタンスちょっとよくわかんない。俺、なんか怒られるようなことしたのかなぁ?」


「いいえぇ? 別に、毎日マユちゃんと一緒にお昼寝とか羨ましいなぁとか思ってないですよ? ぜんぜん思ってないですとも。ええ」


 嘘をおっしゃい。この大うそつきめ。そんな、いーって顔しながら言ってもぜんぜん説得力ないわい。


「先輩、それ絶対マユとお昼寝がしたいわけじゃないですよね。それ俺に対してのあてつけですよね。普通に居間で雑魚寝してただけですから! 遊んでてゲームとかしてたら疲れて寝落ちしちゃったとか、先輩だってあるでしょ!」


 人生をルーレットで決めるゲームとか、鉄道で日本を縦横するゲームとかが眠気誘引率特に高くて危険です。


「は? ないから。少なくとも幼なじみの男の子とそんなこととか、あるわけないよ。なに、キミはそういうことがあった方が良かったって言うのかな?」


 具体的に想像するとそのお相手を助走してグーで殴りつけたくなるので、想像を瞬時にシャットダウンする。


「いやそれはないですわ。ありえない。先輩GJです。でも先輩ボッチだったの? 俺それだけちょっと心配」


 まぁ、先輩仲の良い異性の幼なじみとか特に居ないとは前に聞いたことがあるような気がするけど、一応ね。


「キミは言うに事欠いて、わたしの事をボッチ扱いとは言ってくれるね! キミはわたしがユキコと昔から親友なの、知ってるでしょ!」


「でもそれは中学時代からなんでしょう? 俺達が雑魚寝してたのなんて、主に小学生時代ですよ? その時分にそのぐらい仲の良い、家で遊ぶお友達とかいなかったのかな、って」


 女の子同士なら、外よりむしろ中で遊んでそうだからね。


 まぁ小学生時分だとまだ結構外で遊んでたりもするんだろうけど、そこまで多くもないだろう。


「う……。それは、その。その位の頃のわたしはキミも知っての通り、外で遊ぶ方が楽しかったからね。家の中で遊ぶってことはあまりしなかったかも」


 毎年夏にだけ会ってたからかもしれんけど、先輩超真っ黒だったからね。褐色って言っても通じるレベル。


「先輩、超アグレッシブでしたもんねぇ……。川底とか普通に引きずり込まれましたし」


「川底!? ユウお兄ちゃん、あの川で一体どういう遊び方してたの!? 結構深かったよねあそこ!」


 マユが隣でギョッとした顔をしてる。まぁそりゃそうだろうな。単語だけ聞いてたら完全にヤバいやつだもん。


「いや俺が何かしたわけじゃないんだが……。普通に橋からの飛び込みでな? 俺がこう飛び込むだろ? そしたら先に飛び込んでた先輩が更に水底に引きずり込むだろ? で、より大きい石を拾ってきた方が勝ち」


 あんまり大きな奴を狙いすぎると、重くて浮き上がれなくなるからな。溺れるぞ! 注意しろ!


「死んじゃう! そんなの下手したらユウお兄ちゃんが死んじゃうよ!? 毎年水難事故で何人子供が死んじゃってるか、二人共知ってるの!?」


 マユさん超怒ってらっしゃる。まぁ普通の人が聞いたらそら怒るよね。親とかグーしてくるレベル。


「あ、はい、すみません……」


 でもこれ、俺悪くなくね? いやまぁ、ここは謝っておく一択ですけど。


「ええー。その辺はちゃんと気をつけてやってたし……」


 あっ。ここに抗っちゃう人が居た。バカなことをしおる。


「じゃあサヤカさんは、なにかがあった後にも、そう言うんですか?」


 ご家族の前で存分に主張してください、ってマユさんそれはちょっと言い方キツくね?


「いえ……すみません……。もうしてないです……」


 する場面もないよね? 話そこじゃなかったよね? もっとちゃんと反省しよ?


「そんなの当たり前ですからね」


 そう言ってふんすと息を吐くマユさん。だから怒らすなっていうのに。先輩も学習しないね。 


 ともかく川遊びは、安全第一で。ハッキリ分かんだね。


 みんなもこの夏、気をつけてね! いや大人も結構危ないからマジで。

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