第六話
「さぁさぁ、こちらですぞ」
白髪でスーツ姿の老人に連れられ、俺とルーシーとベリーの三人は大きな門を潜る。
その先には真っ直ぐに長い大きな道が一つ。その両脇には屋台のような店がズラリと並んでいて、果物、野菜、服、雑貨など専門店のようにそれぞれのお店がある。恐らくはここがこの都市の最も盛んな通りの一つだろう。通りは人で埋め尽くされていて、これからこの道を通ると思うと気が引ける。
ここがアルカディア。ルーシーたち組織の拠点。都市の形は綺麗に四角形になっており、その四隅にある大きな柱を結ぶように城壁みたいに都市全体が囲まれている。柱と柱を結ぶ城壁の真ん中ほどに門があり、それぞれの面に門があるため、全部で四つあるらしい。今俺たちが潜った門はこれの東側になる門、『青門』である。その他に、北は『黒門』、南は『赤門』、西は『白門』と呼ぶらしい。普段はこの門は扉で塞がっているため、外からは中の様子が全くと言っていいほど見えない。まぁ、空からは丸見えとのこと。
俺たちは老人に先導され、大通りを歩く。
あの後、ジュンさんはまた任務があると言って窓からカッコよく飛び降りてしまった。その数分後、馬車は停まり、アルカディアに着いた。その間は特に何もなく、説明されたことも特にない。馬車を降りると、青門付近で待機していた白髪でスーツ姿の老人に案内されるように門を潜り、現在に至る。ざっくり説明するとこんな感じ。因みに、この老人の名前はブレイズというらしい。とてもアツい人で、第一印象は悪い人ではなさそうだったから嫌いではないかな。話し方が少し特徴的ではあるが。ただ、ベリー曰く、本当に『アツい』人らしい。何がアツいのかって言うと――――――。
「キール殿はこの都市の成り立ちをお聞きしましたかな? この都市は初代王となった『ウィル・アシャー』がお作りになられた、言わば初代様の遺品! 時代と共にシステムは変化していくものの、根本的なものは初代様の掲げた『軍事と民事の両立』は変わらずそのまま! 軍事都市とは言え、ご覧の通り道行く人のほとんどは一般のお人! 軍事が民事を守り、民事が軍事を支えるという、お互いがお互いを支えあう、人々の夢や希望が詰まっている都市ですぞ!! アルカディアの名に相応しい、我らの『理想郷』なのですぞ!!!」
こんな風に一人で語ってしまうほど『熱い』人だ。
だけど、『篤い』人でもあるらしい。こんな性格だからか、人助けをすることに自分を顧みないそうだ。特には任務中の話らしいが。そんな姿を見た部下たちが心を打たれて、ブレイズという器に惹かれるんだとさ。そんな姿を見てないから何とも言えないが、良い人なんだな、ブレイズさんって。
そんなことを思いつつ、俺たちはブレイズさんに連れられ大通りを歩く。人が多いせいで大通りは賑やかだった。
しかし、今の俺には全く気にならなかった。
馬車での話がまだ俺の中で引きずっていた。
――みんなの記憶に俺はいない――
その事実が俺には少し受け止め難かった。
ジュンさんには叱られたが、今は迷っているわけではない。
『もうここには戻れなくなる』とルーシーに言われた時は、多分考えが甘かったのかもしれない。いつかこっそり帰ってきても大丈夫だろうと、どこか考えていた部分はあった。いつもは邪見にしていたが、その時はニコラスに会うことを考えていた。
だけど会えない。
いや、厳密には会ったとしても今までのような関係ではなくなる。
俺とニコラスは『幼馴染』から『赤の他人』になってしまった。
そんな事実が痛い。
俺が俯きながら歩いていると、ベリーが肩をチョンチョン突いてきた。
「落ち込むのは勝手なのだがね、人を無視するのはぁよくない」
そう言ってベリーは目で前方を指した。
するとそこには俺たちを誘導してくれているブレイズさんがいる。
しかし、無視をしたつもりはないんだが……。
そう思いつつ耳を澄ましてみると…………あ、ブレイズさん、かなり元気に語っていらっしゃる。
周りが煩いためブレイズさんの声が小さく聞こえるが、音量的には一人の人間が普通に話すときの声の大きさじゃない。例えるなら、応援団が出す大きな声のような――いや、これは言い過ぎか。しかし、老人にしては大きな声に、どこか力強さを感じる。元気過ぎる。
「――――ですぞ、そこで当時は――――」
途切れ途切れに聞こえる話は、恐らくはアルカディアについての話をしているんだと思う。恐ろしいほど語るな。
するとまたベリーが俺の方を突いた。
「ブレイズさんってさ、とってもアツい――いや、アツ過ぎるくらいな人でさ、所謂熱血バカってわけ。気を付けた方がいいかもよぉ。ブレイズさん、モラル面に関してめっちゃ厳しいから、人を無視とかしてると……こう、頭がボカーンって」
『ボカーン』のところを強調するベリーだが、今一『ボカーン』の表現からは恐ろしさが伝わってこなかった。ただ、こいつはバカだということが面白いほど分かる。
ただ、ブレイズさんのあの姿を見るだけで想像はつく。ここは、ちゃんと話を聞くべきだな。
「――――れが確立されたのですぞ。その頃は私もまだ小さ――――」
それにしても長い。今がどんな話をしているのかさえ分からない。
「――――の柱ができると同時に対――――」
まだ続く。
「――――は、生まれが違ったからですぞ、ここに来た時は、それはもう――――」
まだまだ続く。
「――――の住民は皆、心の広い方ばかりなのですぞ。それは――――っと、キール殿、お聞きしておりますかな?」
まだまだまだ続――――どぅわっち!
「は、はい! ちゃ、ちゃんと聞いておりまふっ!」
ふ、不意討ちだった……。今のは危なかった。軽く聞き流してた……。
「先輩、聞いた? 『おりまふ』だって、『おりまふ』。ウケる」
コ、コイツ……。
「――――はなのでござりまする。それ故に彼は周り――――」
また始まったよ……。
よくあんなに話せるよな。しかも話題はずっと同じでアルカディアのことだけ。
悪い人ではないんだろうけど、あまり関わりたくはないかな。
この調子が約二時間ぐらい続いた。
しかし、気付けば俺の中で引きずるものはなくなっていた。
---
宿舎のような場所に着いた。
入口には大きな看板に『龍』と書かれている。ブレイズさんの話ではここがルーシーやベリーが普段生活している寮になるらしい。
あれからただ真っ直ぐ、門から続く大通りを歩いた。その間、ブレイズさんの語りを聞く羽目になってしまった。ブレイズさんの語りは時間にすると約二時間、ノンストップだった。そして、目的地に着くや否や「それでは私はやる事がある故、これにて御暇させていただきまする」と言ってどこかへ言ってしまった。
俺たちは三人で宿舎へと入っていった。
そして辺りを確認した。先程までの大通りとは違い、この宿舎近くには店は一つもなく、人もいない。閑散としている。
誰もいないことを確認し、俺たち三人は手摺に凭れるように崩れた。
「は、話クソ長えぇ……」
やっと解放された自由を噛み締めた。
「だから言ったじゃん……ブレイズさん……はぁ……長いんだって…………キールのせいで……ウチまで話聞かされたじゃん……」
ベリーは床 に凭れ掛かっている――いや、這いつくばっている。
「それは自業自得だろ。ブレイズさんの話を聞かずに人を小バカにしたようにニヤニヤしてるからだ」
俺が指摘すると、口をへの字にしてはぶてている。
「ベリーちゃん……床に寝そべるのは汚いよ。私やキールみたいに壁にしなさい、女の子なんだから」
するとルーシーが真面目に指摘した。
かく言うルーシーもいつの間にか床に這いつくばっている。
「えぇぇぇ、嫌だよ先輩。ウチは床が大好きなんだぁ! 床ちゃんLOVEなんだぁ! 一生離れたくないぃ~」
ジタバタと駄々を捏ねる子どもがそこにいる。
「だぁーめー。床ちゃんは私のものなんだから! ベリーちゃんは手摺で我慢しなさい」
「えぇぇぇぇぇ」
…………。
これは注意する側もダメだな。
こう見ると、この二人はよく似てる。何というか、子どもな部分が同じだな。
ベリーは本当に子どもだが、ルーシーはなぁ……。もう高校三年生だというのに、中学生くらいの女子と精神年齢が同じじゃないか。
すると、二人ともネタが尽きたのか何なのか、助けを求めるように俺を見た。
やれやれ。
「ブレイズさんの後なのに、こんなノリに合わせる元気ないぞ」
冷たくあしらうと、二人同時に溜息を吐いた。
そして起き上がると何やらコソコソ話し出した。
「なんなのかねぇ、あの態度は。学校で命を救ってあげた恩人にあんな態度を取るなんて、先輩の彼氏としてどうなのかねぇ」
「ほんとよ。いっつも言うこと聞いてくれないし。こっちがどれだけ心配してると思ってるのか」
いや、聞こえてますって。
それになんか、ルーシーのはリアルな不満じゃないか!! 胸にグサッってくる。
「それはそうと」
すると、変なノリを止めてベリーが真面目な話に戻した。
「これから省長さんに挨拶しに行くんだけど、ウチの省長さん、気を付けた方が良いよー。すんごい人だから」
『すんごい人』。
この言葉にピクッとした。
「『すんごい人』って、ブレイズさん並に?」
恐る恐る聞いた。
もしそうなら……ヤバい。
連続で『あれ』を乗り切る自信はない。
「そうだよ。あ、でもタイプは違うね。個性が強いんだよ」
どんな風に強いのか気にはなったが、それを聞く前に二人が先を行きだした。俺もそれについて行く。
俺の中で一抹の不安を感じた。
省長さん。『長』が付くってだけでも偉い人だということが分かる。
アルカディアでは四つの省がある。『政治省』、『民事省』、『研究省』、『軍事省』である。
政治省はその名前の通り、アルカディア内の政治を行っている。アルカディアが軍事都市であることから、軍事省と連携して政治を行うこともあるそうだ。
民事省は一般の人に不自由のないように色々と取り組みをしている。軍事都市ということで一般の人への対応が疎かにならないためにである。
研究省はアルカディア内での先端技術の開発を行っている。アルカディアを囲む城壁と門を作ったのが研究省だそうだ。また、対悪魔用に武器になりそうなものを研究開発しているとか。
軍事省は対悪魔用の機関。ルーシーやベリーはここに所属している。軍事省の中には『蛇』、『蜥蜴』、『龍』の三つの組織があり、それぞれ組織としての重要性が違う。『蛇』は軍事省に入ったばかりの人が所属する組織。基礎的な訓練をし、悪魔に対抗できる体作りをする。『蛇』は所謂、初心者育成所のようなもので、最初の内は任務などほとんどないらしい。『蜥蜴』は中堅的なポジションで、ある程度戦闘に慣れ、昇格試験に合格した人が所属する組織。『蛇』とは任務の量が全然違い、訓練と任務の両立が大変らしい。『龍』は対悪魔組織の中で最高戦力で、ルーシーとベリーもここに所属する。稀な才能を持つ人か天才ぐらいしかここには入れないらしい。あの二人がそんな凄い人には普通に話してると分からないけど、学校での戦闘を見たからな、うん。そして、『蛇』、『蜥蜴』、『龍』にはそれぞれ隊長がいて、組織をまとめているとのこと。
主に軍事省の組織の話になったけど、四つの省にはそれぞれ省長がいて、各省の実権を握っているらしい。
そんな偉い人と今から会うのだが、本当に不安。
すると、先を歩いていたルーシーとベリーが止まった。
「この先に省長さんがいるから。行ってらっしゃい」
そう言うと、その先にある階段を指さした。
あ、二人の案内はここまでか。
勝手に納得して俺はルーシーが指をさした階段を上っていった。
いやしかし、そんなお偉いさんに一人で会うのはちょっとな。
そう思って後ろを振り返ると、二人とも後ずさりするようにその場から逃げようとしていた。
俺と目が合うと、二人とも苦笑いをして手を振ってきた。ルーシーはというと、目線が右斜め上を向いていた。
間違いない。何か隠している。
慌てて引き返そうとした、その時だった。
振り返ると階段の先に何かいた。
「あらん♪ 可愛い子はっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええん!」
ドッッッッッッッッスゥゥゥゥゥゥウウウウウウンン
目の前が真っ暗になり、凄まじい音がしたと思ったと同時に後頭部に激痛が走った。
痛ぇぇぇぇえええええええ!
叫ぼうかと思ったが叫べなかった。目の前に何かあって、フゴフゴとしか言えない。
手探りするように手を前へ伸ばそうとしたら何かを掴んだ。
それはとても柔らかく、弾力のあるもの。
少しずつ頭が働くようになってきた。
俺が階段を上っていくと、ルーシーとベリーが不自然に逃げようとしていたよな。
確かその後、人の声が聞こえた。そうだ、女性の声が聞こえた。
それから大きな音がしたと同時に目の前が真っ暗になった。
そしてこの手に伝わる感触。
あ、やばい。分かってしまった。これはもしかして――――っ。
「ま、マシュマロ!?」
あれ、今度はちゃんと言えた。
気付くと真っ暗だった視界には光が差していた。
「ご名答! よく分かったわね」
急に目の前が明るくなったから、少し目がボヤけている。
目を擦りながら視界が鮮明に見えるようになるまで待つと、そこには美人な女性がいた! しかもなぜか俺の上に座っているし!
美味しい状況に興奮しつつも、俺は平常心を装った。後ろにいるであろう人から殺されそうだから。
振り返るともちろんそこにいたが、恐ろしいほど怒っていない顔だった。笑顔なのが逆に怖い。
いつの間にか俺は階段の手前まで落ちていた。さっきのあの後頭部の衝撃はそのせいか。
「さすが、あのサーフェスの息子ね。私の胸がマシュマロだって気付いたのは、あなたで二人目よ」
え、何言ってんだろ。色々ツッコミどころがある。
確かに俺は何かを触ってマシュマロだと判断したけど、こんな美人の胸をマシュマロとは判断していない。
それにもしマシュマロだとしても、マシュマロなんかじゃないぐらい本物に見える。
じゃあ、俺は何を触ってマシュマロだと判断したんだろ。
俺が考えていると、女性は俺の上から退いて立ち上がった。
「まさか、本当にその胸は…………マシュマロ……」
察してしまった。
周りを見たが、マシュマロと間違えそうなものが何一つなかった。
床は大理石でできており、そこら辺においてあるインテリアは全部堅そうなものばかりで、マシュマロなんてどこにもないじゃないか。
そんな状況だと、目の前にいる女性が発した『マシュマロ宣言』を受け入れるしかない……。
しかし、なぜ胸にマシュマロを詰めているのか。
あ、もしかして実は胸が小さくて、それを隠すために詰めている、とか?
うん、ありえる。コンプレックスは人それぞれ。大丈夫。世界はまだ捨てたもんじゃない。
そんなことを考えていると、不意に肩をつつかれた。
「変な気を起こす前に、い、ち、お、う、言っとくけど、あの人は男だよ」
振り返ると、ルーシーに呆れ顔で忠告された。
いやいや、ルーシーというものがありながらそんな変な気は…………ん?
「男ぉぉぉおおお!? こんなに美人な人がぁ!!?」
思わず大きな声が出てしまった。
いかん、平常心平常心。
「あん♪ 嬉しいわぁ、私のことを女だなんて。でもざぁーんねん。あたしは正真正銘のお、と、こ、なのよ。だからこの胸はマシュマロなのよん♪」
あ、なるほど。だからマシュマロなのか。
――――じゃない! こんなに美人な人が男だなんて……。詐欺だ。
「あれ、でも声は? 男なら変声期で明らかに低いはずなのに」
俺がそう言うと、男は咳払いをした。
そしてこれでもかと息を思いっきり吸い込んだ。
「ゴォルゥゥゥアアアアアアアアア!」
俺は唖然とした。
さっきまでの女性の声とは違い、この声には野生感が溢れていた。
まるで、ゴリラそのもの。
人は見かけによらないな、と人生の教訓を一つ学んだ。
それにしてもこの人は誰なんだ? めっちゃ女装が上手で、ゴリラのような怒声持ちだなんて、個性が強すぎる。
小声でルーシーに耳打ちした。
「あの人はね、さっきベリーちゃんの言ってた省長さんだよ、この軍事省の」
あ……なるほど。確かに『すんごい人』だわ。ブレイズさんとはまた違った個性の強さだな。
「じゃあ、キール。はい、ご挨拶」
ルーシーはパチン、と手を叩いた。
その音で急にスイッチが入った様にビシッ! としてしまった。
急いで立ち上がり服装を正し――いや、制服だからちゃんと決まらないが。
「あ、初めまして。えっと――――」
「あぁ、いいのよ、そんな堅苦しいご挨拶は。それに、あたしは君のことは何でも知ってるからん♪」
省長さんの発言に悪寒がした。
え、ストーカー……?
「その顔は、あたしが変態だと思っているわね? その通り! あたしはキール君のことが大好きでね、あなたがまだ五歳の時からストーカーしてるのよん♪ ぅふ」
ぅふ、じゃねぇよ! この人、本物だ。本物のストーカーだ。ヤバい……。
「コッタさん、そんなこと言っているから、未だに新人と仲良く出来ないんですよ」
「あ~ん、どうしてかしらねぇ。こんなにフレンドリーに接しているのに。少しでも仲良くなろうと、新人が来る日に伝統まで作ったのよ? あたしが大激突する伝統を」
「だから、それはズレてますって。逆に引かれますよ」
「手厳しいわねぇ、ルーシーちゃん」
溜め息を吐くルーシー。どこから持って来たのか、白いハンカチを噛んでいるコッタさん。まぁ、さっきのは冗談だよ……な。ってか、あの衝突は伝統なのかよ……。
「ほら、冗談はいいですから、キールに自己紹介してあげて下さいよ」
しょうがなさそうに重い腰を上げる様な感じで自己紹介を始めた。
「まぁ、さっき紹介があったと思うけど、あたしがここ――軍事省の省長、パン・N・コッタよ。見た目はこんなだけど、正真正銘の男よ。もし分からないことがあったら、あたしに聞いてちょうだい。手取り足取り教えて、あ、げ、る♪」
ぅふ、と悪寒のする笑みを浮かべるコッタさん。相変わらず怖い。
「それではお言葉に甘えて。コッタ省長、お聞きしたいことがあります」
知らないことが多すぎる俺にとって、質問タイムは嬉しいものだ。しかも相手は省長と来たもんだ。この世界のことを納得のいくように説明してくれるはず。
だけど、その前に気になることがあった、コッタ省長の発言に。
「俺の親父――サーフェス・アシャーをご存じなのですか?」
俺の問いにコッタ省長は少し笑顔が引き攣ったような気がした。
「ええ、知ってるわよ。私だけじゃないわ。ここ――アルカディアに住む人は皆、サーフェスのことを知っているわ」
笑顔の奥の目が、怪しく光っている。こんなに笑顔が怖いと感じたのは初めてだ。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
「な、なぜ……皆は親父のことを――――」
「あなたのお父さんはここで働いていたの」
俺が聞いてしまう前にコッタ省長は話を続けた。
「サーフェスは常に対悪魔機関の最前線として戦っていたわ。もちろん、あなたの生まれるずっと前からね。ずっと最前線だったこともあるけれど、サーフェスの内に秘める才能ははとてつもなく、他を寄せ付けない程に強くなったわ。今では歴代最強とまで呼ばれている。そんな強ければ皆嫌でも知るわ。皆、悪魔に勝つためにアルカディアに来たのだから」
コッタ省長は淡々と語っていた。さっきまでの話し方とは違っていた。
「アルカディアの人々は皆、あなたの知らないことを知っている」
いつの間にか笑顔は消え、真剣な面持ちだった。
そして俺は衝撃的な事実を知る。
「サーフェスは今も生きているわ」
時間が止まったような気がした。