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coD  作者: 井上彬
第一章 旅立ち
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第四話

 小さい頃からいつも一緒にいた。

 家が近所だったからでもあるが、俺、ルーシー、ニコラスの三人は単に仲が良かった。早くにして親父を亡くした俺にとって、二人は家族のようなものだったのかもしれない。

 小学生のときはよくそれぞれの家に遊びに行きお菓子をあるだけ全部食べ尽くしたり、お泊りのときはよく枕を投げたりして遊んでいた。公園で遊ぶことも多く、他の奴も交えて鬼ごっこや缶蹴りなどをしていた。確かそのときニコラスが『一〇連続缶蹴り王』に輝いたんだった。サッカー好きだからな、あいつ。

 中学生になると遊ぶ回数は減ったが話す機会が増えた。今までしなかったような、親がどうとか友達がどうとか最近恋しているかなど、腹割って話せる仲間だった。俺はそのときぐらいからルーシーのことを好きになっていった。勿論、他愛もない話もたくさんした。ニコラスが水泳の授業中に女子のスク水姿見て鼻の下伸ばしていたこととか、最近ルーシーが髪の毛伸ばし始めたこととか、ルーシーが作るカレーはとてつもなく不味いこととか。今思えばたくさん思い出があるんだよな。

 だからなのかもしれない。ずっと一緒にいてずっと見てきたからニコラスは勿論、ルーシーのことは何でも知っているかのような、そんな気がしていた。知らないことがあったとしても、それは多分今更驚くようなことではないという変な自信まであった。

 だから今目の前で起こった出来事が――俺の知らないルーシーが出てきて戸惑っている。俺の問いに笑顔で返してくるこの顔が、俺の知らない全くの別人のように思えてしまう。

 するとルーシーはベリーの方を向いた。


「ねぇー! ベリーちゃん、今の聞いたー? キールったら私の顔忘れちゃったんだって! 大事な彼女の顔をだよ、酷くない?」


 そしてそのままベリーの腰辺りに泣き付いた。チラチラと俺の方を横目で見てくるのがわざとらしいが。

 するとベリーがそんなルーシーを見て、俺を睨みつけた。


「こら、そこの泣き虫ヘタレ! 先輩泣かすたぁどういうことだよ、あぁ?」


 声に怒気が感じられた。初めて聞くぐらいグロテスクな指の関節を鳴らす音を聞いた。顔はまるで鬼の様な形相で目からは殺気を感じられた、不審者に向けられていたものと同じレベルのものが。


「……す、すいません……」


 思わず謝ってしまった。殺されそうな気迫につい怖気づいてしまった。

 俺が謝ると、ベリーはもう一度俺を睨みつけ視線をルーシーに戻して頭を撫で始めた。その顔は…………なんか気持ち悪い。ニヤけすぎだろ。

 そんなベリーを見てか、ルーシーはその手を払いのけた。

 そして立ち上がり俺の前へ来た。ベリーは惜しむようにルーシーに手を伸ばしていた。その顔は…………目に涙浮かべ情けない面だった。


「さて、と。冗談は置いといて、色々と説明しないとだね。いつまでもそんな、魚みたいな顔されても困るし」


 ルーシーは俺を指差し笑った。いや、この場合馬鹿にされたのか。確かに分からないことだらけで困ってるけど、魚みたいな顔はしていない……と思いたい。

 ただ、ルーシーの笑った顔を見ると、目の前にいるのがいつものルーシーのようで心が安らいだ。


「その前に確認しないとダメなんだけど」


 ゴホンと咳払いを一つした。大事な話をする雰囲気だ。

 脇でベリーはまだ情けない顔をしてルーシーに手を伸ばしていた。


「今からする説明を――私たちのことを知っちゃったら、キール――あなたはもうここには戻れなくなる」


 静かに言ったルーシーの顔は真剣だった。


「……え、戻れなくなるって……学校を辞めるってことか?」

「それだけじゃないよ。友達とも全員縁を切って、私たちに付いてきてもらう。キールのお母さんとも二度と会えなくなるかもしれない。要するに今の『キール・アシャー』としての人生を全て捨てて、新しく人生を始めるってこと」


 ルーシーは最後の言葉の前に一呼吸入れた。


「それでも知りたい?」


 その問いに俺は固まってしまっていた。

 いきなり「人生捨てる?」と聞かれても漠然としすぎていてよく分からない。友達と会えなくなるのは少し寂しいのかもしれない。まぁニコラス辺りなら鬱陶しい奴が消えて逆に嬉しくなるのかもな。ただ母さんは心配になってしまう。早くに親父が亡くなって、俺までいなくなったら母さん一人だけになってしまう。メンタルは強い人だから杞憂に終わるかもしれないが、肉親だからかね、余計に心配になる。

 しかし、知りたい気持ちもある。

 実際に目の前で起きた非現実的な――まるでテレビの中のようなことが頭から離れない。あの不審者のことやベリーのこと、会話の内容が謎すぎるし人間離れし過ぎている。

 それにルーシーのこと。全部知っているようなつもりでいたのに知らなかった。俺は知らないことが多過ぎる。

 だから葛藤していた。結論を出すには時間が短い……。


「んー……まぁ悩むよね。いきなりそんなこと言われてもすぐには答えられないよね」


 ルーシーは苦笑いをして頬を掻いた。


「それじゃ先にすることしよっか」


 そして視線を左に向けた。

 それを見て俺も視線をそっちに向けた。

 爆風が起きる前までたくさんの生徒たちがいた場所。不審者が落ちてきた衝撃で床にまで空いた大きな穴のせいで今にも崩れそうな場所。そんな場所に影が一つ。


「彼と話してきて」


 ルーシーは笑顔で言った。


「……キール……? ルーシー……ちゃん……?」


 そこにはニコラスが立っていた。




---




 瓦礫の周りには煙が立ち込めていた。その周りに生徒たちが列を成して順番に手を合わせている。

 あの後、暫くして校舎は完全に崩れてしまった。あの戦いの衝撃でだいぶ崩れてはいたが、恐らくは老朽化が進んでいたことも関係しているのだろう。運が良かったのは俺たちや他の生徒たちの避難が完了してから校舎が崩れたことだ。少しでも崩壊が早かったら俺たちや他の生徒たちは瓦礫に埋もれてしまっていた。新たに犠牲者が出ずに良かった。

 しかし、今回のことで死んでしまった人は多くいた。数にすると五〇名以上――全校生徒の四分の一がたった数分の間に命を落としてしまった。その大半は俺たちの学年の奴だった。 校舎が崩壊した後、先生たちが指揮して点呼をとり、今日登校している人の中でその場にいない人、また死んだことが判明している人をリストアップされた。俺とニコラスはギリギリ間に合ってリストアップされずに済んだ。ただ『鬼の四天王』が亡くなった今、頼りない先生たちだけでの指揮には少し不安はあったが、いつもふざける奴らが大人しかったため思った以上にまとまりがあった。

 その後、事態が収拾されたことを悟った先生たちはやることが多いみたいで、これ以上の混乱が起きないように生徒たちに仕事を与えた。それが瓦礫周りに列を成して順番に手を合わせている今のこの状況である。丁度その場所は、大勢の生徒が一瞬で消えてしまった――殺された場所だから。

 俺とニコラスも流れに任せるように『死亡者リスト』を確認した。名簿のように名前がずらーっと書かれており、見知った名前が数多くあったせいで一気に悲しくなった。どんなに悲しくても笑顔しか見せないニコラスも悲しそうな顔をしていた。長い付き合いでニコラスのこんな顔を見たのは初めてかもしれない。

 そして今、長い列の後ろで順番待ちをしている。


「なんかあっという間だったな。気が付いたら始まって、気が付いたら終わっていたって感じだ」


 あれからニコラスはずっと落ち込んでいた。何度も、溜め息を吐いたり空を見上げたりした。そんな様子を見るとどう接していいか分からなくなってしまい、心が痛かった。そんな中、やっと話せた言葉がこれだ。


「……だな。そんな一瞬の内に大勢が死んだんだよな」


 そう言って尚もニコラスは落ち込んでいる。ずっと空を見上げたままだった。


「……キール、お前も見たよな? あの死亡者の数……。俺たちの友達がほとんど死んだんだぜ…………」


 ニコラスの声が段々弱弱しくなっていった。目には涙が溜まっていた。


「……あ、あぁ、そうだな……」


 俺は相槌を打つしかなかった。言葉が見つからなかった。ニコラスがこんなにも悲しみに呑まれそうになっている理由を知っているから――その気持ちが痛いほど理解できるから――なんて言ってあげればいいのか分からない。そんな自分が許せなくて、俺はニコラスを直視できず瓦礫の方を見ていた。


「仲の良かった人……クラスが一緒だった人…………担任や四天王も………………カルも……みんな死んでしまった……」


 また一段とニコラスの声が弱弱しく、最後の方では震えてしまっていた。

 ん? 待てよ、カルって…………あ、あいつか。一般生徒Cか。そんな名前だったんだな、今思い出せた。

 『死亡者リスト』には俺の見知った名前がたくさんあった。だがニコラスはこの学校で友達じゃない人はいない程の顔の広さを持つ。だから『死亡者リスト』のほぼ全部が友達なんだろうなって思う。それだけでもニコラスの悲しみは俺以上だろう。

 それに加え、『死亡者リスト』にはある二人の名前が書かれていたから。


「……レイダも…………」


 そしてその片方が――――――


「……そして………………っ」




――――――ニコラスの好きな人だから。




 ニコラスは膝から崩れ落ちた。

 慌ててニコラスの肩に手を掛けると、ニコラスの頬が濡れていた。見るだけで分かるほどに。

 すると急に地面を殴り始めた。


「何で……何で委員長が死ななきゃならないんだああああああ! クソー! クソー!! お、俺は……好きな人一人でさえも守れないのかよおおおおおおおおおお」


 力一杯、自分の拳のことを気にせずに殴り続けていた。ニコラスの取り乱し様は異常だった。

 そんなあいつを俺は無我夢中で止めた。いつの間にか俺も泣いていた。

 それから先のことはあまり憶えていない。

 気付いたら俺とニコラスは周りの奴らに止められていた。

 俺たちに触発されて取り乱した奴はいたらしいが、その場にいる全員が協力したために迅速に解決できたみたいだ。みんなに面目が立たないな。




---




 それから俺とニコラスは瓦礫にお参りをした。

 俺たちが取り乱したために一時的に列は崩れたが、すぐに通常営業されたおかげで二〇分足らずで順番が回って来たのだ。

 その間、俺とニコラスはただ黙っていた。お互いを見ることはなく、視線はただ真っ直ぐに。

 俺は色々と考えていた。今日起きたこと、不審者やベリーの存在、そしてルーシーの言ったこと。ただ、まだ答えは見つからなかった。

 お参りを済ませ、俺とニコラスは近くの石階段に座った。


「なぁ」


 先に口を開いたのはニコラスだった。


「さっきはごめんな。取り乱しちゃったよ」


 その声は思った以上に軽く、いつものニコラスだ。


「いや、俺の方こそごめん。止めるつもりがいつの間にか一緒になってた」

「俺たち、似たもん同士だな」


 そう言って元気に笑っている。一見、いつも通りだが少し陰りが見えるのは否めない。


「俺さ、あの変な奴が四天王を殺したとき咄嗟にレイダと委員長を連れて避難したんだ。ルーシーちゃんも連れて行こうと探したけど、騒ぎになったらどこかに消えててさ。キールはトイレに行ってたし。その後大きな音がしたと同時に校舎が崩れたんだ。あれでさ、危険察知して二人だけでもまず助けようとして体育館に連れて行こうとした。そしたらさ、レイダも委員長も人が悪いんだよ。『自分らは自分らでちゃんとできるから、あんたは早よあの二人探してこい』って笑顔で言うんだぜ。二人から離れるしかないじゃんか」


「急いでキールとルーシーちゃん探しに行ったけどさ、ごめん正直俺もパニックになってて。戻ってきたときにボロボロの校舎に大勢の生徒の死体を目の当たりにして、キールとルーシーちゃんよりも委員長とレイダを先に避難させようって思ったんだ」


「それから体育館まで二人を探しに行ったんだ。道中、二人の姿を見なかったからもう避難済んだのかと思って、またキールとルーシーちゃんを探しに行ったんだ」


「今思えば、もっとあぁしていればなって悔いが残るんだよな」


 ニコラスの顔。何度か歪んだが、その度にぐっと堪えるような仕草をしていた。

 客観的に見ると、ニコラスの行動はパニックになった人そのものだった。行動に一貫性がない。

 俺も、どう動いたら正しいとか分からないけど、迷ったらアウトだ。

 うん、アウトだ。


「よっこらしょっと」


 そしてニコラスは立ち上がった。


「俺さ、二人の遺体を見つけるよ。あの瓦礫の中にないのかもしれないけど。ちゃんと見つけて供養するんだ」


「それが、二人を助けられなかった俺の、せめてもの罪滅ぼしさ」


 拳に力が入った。

 何だかんだ言って、ニコラスは自分がやることをしっかりと決めていた。

 『好きな人のために』というフレーズが自然と出てくるような顔で、覚悟している。

 けれど。



 俺はなんだ?



 俺はと言えば、逃げ遅れ、腰抜かし、誰も守れず、見ず知らずの年下の女の子に守られた。挙句の果てに、惚れた女に『人生全て捨てて付いてきて』と言われたのにまだ答えを出せないでいる。

 情けなかった。

 初めて、ニコラスを凄いと思った。


「なぁ」


 俺の方を振りぬかずにニコラスが言った。


「キールとルーシーちゃん。二人だけは俺の前からいなくならないでくれよ」


 そう言うとそのまま走り去ってしまった。

 どこへ走って行ったのかは分からない。

 ニコラスの頬に涙が流れていたように見えた。

 このとき俺は『おう』と言えなかった。

 答えは決まった。




---




 瓦礫のすぐ横、生徒たちが参拝している近くにルーシーとベリーはいた。

 すぐ横と言っても、話し声は聞こえないぐらいの距離。

 ニコラスが走り去った後、俺はすぐにここへ来た。


「やっと来たね」


 ルーシーが笑顔で出迎えてくれた。

 何度見てもルーシーの笑顔は癒される。

 ただ、この笑顔は作っている感じがある。


「大丈夫? さっきは……その……」


 何か言いにくそうに頬を掻いている。

 何となく、何が言いたいのか察した。


「さっきヤバかったね、あの取り乱し様。結構面白かったよ!」


 反対にベリーはゲラゲラ笑いながら、特に俺のこと気にすることなくストレートな発言。

 ストレートなのは好きだけどさ、今あまり触れて欲しくなかったかな、うん。


「大丈夫、今は落ち着いてるから」


 俺はルーシーだけに答えた。

 ベリーは、知らん。


「あー! 今ウチのこと無視したでしょ! ウチ、超ショック……」


 すると急に大きな声を出して地面に倒れこんだ。いや、へこたれている。

 そんなベリーを横目に俺はあることに気が付いた。


「え、あれ? そこの人……誰だ?」


 今日は暑いというのに黒のローブで全身隠れている、いかにも怪しい人が一人いた。

 明らかに学校関係の人ではない。ルーシーとベリーの数歩後ろにただ突っ立っている。


「あ、この人は気にしなくていいよ。私たちの仲間だから。この後の任務のためにちょっと寄ってもらったんだ」


 ルーシーが説明してくれた。

 そっか。ルーシーたちの仲間か。

 俺が今聞いたって分からない話だな。

 それに今する話は違う。

 自然と顔に力が入る。

 そんな俺の顔を見て察したのか、さっきまでへこたれていたベリーが真面目な顔をしていた。こういうところ、ニコラスに似てるな。


「キール」


 ルーシーも同じだった。


「答え、決まったんだね?」


 その問いに、俺は静かに頷いた。

 そしてゆっくり口を開いた。


「俺、ルーシーたちに付いて行く」


 ほんの数秒、時間が長く流れているような錯覚をした。


「俺は知らないことばかりで、いつも一緒にいたルーシーのことも知ってるつもりだったけど、今日全く知っていなかったことに気付いた」

「今まで俺の知らないところであんな化け物みたいな奴らと戦ってきたんだよな? たくさん危ない目にも遭ってきたんだよな?」

「それを知ったら、見て見ぬフリなんかできねぇよ」

「これからは俺が守る。今は頼りないけど、いつかルーシーをこの手で守ってあげられるようになるから。だから付いて行く」

「愛する人のために」


 言い切った。

 全部言った。

 途中から自分が何を言ってるのか分からなくなるほどすらすらと言葉が出てきた。

 気付かぬ内に少し息切れしていた。


「……………………」


 少しの間、静寂が続いた。

 その静寂を切り裂いたのはベリーの溜息だった。


「はぁ…………よくそんな恥ずかしい台詞を堂々と言えるよね」


 頭を抱えるようにして『やれやれ』と小言のようにと言う。

 何が『やれやれ』だよ。俺は自分の覚悟を述べただけなのに。

 そう思いつつルーシーの方に目をやると、プルプル震えていた。

 下を向いているため表情は見えないが、プルプル震えている。


「ルー……シ……?」


 呼んだが返事はなかった。

 ただ、プルプルと震えているだけ。

 このとき俺はルーシーが怒っているように勘違いした。


「……ば………………」


 微かに聞こえた。


「ば?」




「ばかぁーーーーーーーーーーーーーー!!」




 ルーシーが顔を上げて初めて気付いた。

 顔が真っ赤だった。


「もう、ばかばかばかぁ!」


 泣きそうな目をして俺の肩を叩いてくる。

 いや、これは『殴る』だ。


「ちょ、痛い! 痛いってルーシー! 力込めすぎだって!」

「だって……あんな恥ずかしいこと真面目な顔して言うんだもん。キールが悪い」


 はぶてたようにプクーと膨れている。

 だけど顔が真っ赤だから、なんか可愛い。


「でも、嬉しかったよ!」


 そのままプイっと顔を背けた。けどなんか笑えてくる。

 なんだか辺りが和やかな雰囲気に包まれたような気がした。

 しかし、ここでベリーが咳払いを一つ。


「イチャつくのはいいけど、そーゆーのは後にしてくれるかな、お二人さん?」


 おっと、いかんいかん。

 外野がいることを忘れるところだった。

 ルーシーも今の一言で切り替えたようだ。深呼吸している。


「それで」


 さっきまでとは違い、ルーシーの声はまた真剣なものになった。


「本当に私たちに付いてくるのでいいの?」


 再確認。

 本当に俺が全てを捨ててもいいのかどうかの確認。

 そんなの決まっている。


「おう」


 短く答えた。

 その答えに『そっかぁ』とルーシーは小さく頷いていた。


「うん、それじゃジュンさん。後処理お願いします」


 ルーシーが頼むと、ジュンと呼ばれた黒ローブは静かに頷いた。

 そのときの声でわかったけど、黒ローブは男だった。

 ルーシーとベリーが女だから、てっきり女なのかと思ってた。


「キールはこっちだよ」


 そう言って手を引っ張られた。

 気付けば走っている。


「え、こっちってどこだよ?」


 俺の問いにルーシーはにこやかに答えた。


「私たちの基地のようなところだよ。迎えも呼んであるんだ。馬車だけどね」


 ルーシーは面白そうに笑っている。

 車が普及した現代で馬車を使うのは確かに面白いけど。

 なぜ車じゃなく馬車なのか俺には分からない。


「でもね、馬車の方が着くのが早いんだよ。色々融通が効くし。ほら、あそこにあるでしょ!」


 学校の校門を出てすぐのところに、それはそれは立派な馬と車が。

 ただ、こんなのがよく道路を走ってこれたなと、そっちの方に驚いた。

 馬車の横にはいつの間にかベリーが立っていた。


「うし、行こう! アルカディアへ!!」


 ルーシーは元気に叫んだ。なんかキャラが急に変わった気がするけど、まぁいっか。

 こんな俺たちとは反対に、校舎の瓦礫付近ではまだ行列が続いていた。

 その行列にさっきの黒ローブが近付いていくのを横目に、俺は馬車に乗った。

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