第三一話
「ハァ……ハァ……」
息も切れ切れ、立つこともままならない状態だ。肩で息をしてしまっている。
相手の一撃一撃が重い。
舐めてはいなかった。いや、舐めるはずなんてない。相手はあのブレイズさんだからだ。
こっちの攻撃なんて当たりはしない。攻撃をすれば躱され、その隙をついてどぎつい一発をくらう。その繰り返しだ。
力の差が歴然なんて分かってる。『伝説』とまで言われている男だ、互角になんて夢のまた夢の話だ。
それでも、あの時のような力が出せれば……。
「キール殿、なぜ発動しない!! これはそのための試験なのですぞ! それともこれで終いですかな?」
ブレイズさんの声に怒気が含まれていると感じた。いや、ただそう思い込んだだけなのかもしれない。
俺がやろうとしてもできないことを言われたからだ。冷静に考えれば発破をかけたのだと分かるものなのに。
「くっそぉぉぉぉぉおおおおおお!!! なんで発動しないんだ!!」
俺は激昂した。
---七日前---
目が覚めたら病室だった。今度はちゃんとした天井だ。
しかしいつの間に入院したんだ?
ゆっくりと起き上がると体の至る所が傷んだ。思えば当たり前か。あんなことがあったのだから。
しかし重症というわけではない。せいぜい打撲程度か。これも訓練のお陰と思えば少し気持が楽になる。
病室は一人部屋で、広くはないが狭くもない。洗面台とトイレ、ベッドがあるだけでその他には何もない。
いや、大きな窓もある。カーテンはされていないため、外からの光が病室の中に入ってきている。時間は分からないが、少なくとも夜ではない。
良かった。まだ明るいから気持が変に沈むこともないだろう。もしこれが夜なら、色んなことを考えてしまう。
そう。寝起きだが、記憶ははっきりとしている。あの時のことが今でも鮮明に、嫌なほど脳裏に染みついてやがる。
仲間の死と、無力な自分……。
クラッグ、ヴィクター、そしてエイベルさん。
三人の顔が、頭から離れない。
「なぜ……俺はこんなにも弱いんだ……っ!!」
気が付けば頭を抱え、声にならない声で叫んでいた。
こんなに泣いたのは久しぶりかもしれない。それほど悲しく、悔しいんだ。
仲間を助けられなかった自分が憎い。これじゃ何のために隊士になったのか分からない。
みんなを救いたいのにさ……。なのにいつもみんなに守ってもらってばっかじゃねぇか。
「どうやったらさ……みんなを守れるぐらい強くなれるんだよ……。強くなりてぇ……」
悔しかった。本当に、ただ悔しかった。
生まれて初めてこんなに強く『悔しい』と感じた。だからこんな言葉を、零すのも初めてだ。
すると病室の扉が勢い良く開いた。
「なれるよ!! キール君なら絶対っ!!」
テンダーが拳を握りしめ、そこに立っていた。
「ちょ……なんで聞いて――――って、なんで泣いてるんだよ」
「……うぅっ……だって……」
テンダーは俺以上に泣いている。しかも俺にしがみ付いてわんわん泣いている。
本当に年上かよって時々思うけど、こういう所がテンダーの良い所なんだろうな。なんだか少し救われたよ。
扉の向こうにはもう一人いた。老人だ。しかし腰は全く曲がっていない、とても姿勢の良い老人だ。
ただしゃんと立っているだけ、ただそれだけで百戦錬磨の宿将であると分かる。
何しろ『伝説』とまで言われている男――ブレイズさんだ。
ブレイズさんが病室に入るや否やこう尋ねた。
「キール殿。先程の発言、本気ですかな?」
鋭い眼光で睨むように俺は見られている。
これは試されている。俺の本気がどれ程なのかを量られている。
「本気です……俺は、強くなりたいんです!!」
俺は自分の思いを、俺の本気さを言葉と目で伝えた。
多分伝わったんだと思う。ブレイズさんは納得したように何度も頷いている。
「分かりましたぞ。では一週間後、『蜥蜴』に昇格するための試験をしまする」
「し、試験!?」
「そうですぞ。試験は『試験対象者の戦闘能力の高さ』を見まする。準備をしておくように」
「え、いや、準備って言ったって、何をどうすれば……」
俺の問いには何も答えず、老人は満足気に病室から出て行ってしまった。
いや、無視って一番タチが悪いですよ……。
「キール君、すごいよ!入団してからまだ三ヵ月しか経ってないのに、もう試験対象者に選ばれるなんて!」
テンダーは目を輝かせている。
因みに、テンダー殿も試験対象者ですぞ」
「――――えっ? ええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
そうしてブレイズさんは立ち去った。テンダーは驚きの余り叫んでいた。
お久しぶりです。
三〇話投稿からかなり間があいてしまいました。
第三章の『アレ』無し男編で色々伏線を張ったり、新キャラ登場させたり個人的にはワクワクドキドキの展開にしたんですが、社会人となって三年経った今でも思うようにゆとりを作れずここまできてしまいました…(言い訳です)。
このままでは絶対に完結は不可能ですので、また一から始めたいと思います。
ということで一旦、三一話で完結とさせていただきます。
これまでありがとうございました。
時間はかかると思いますが本作はリメイクして完結までは書き上げますので、もしこれからも読んでいただけるのであれば連絡を貰えると嬉しい限りです。