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coD  作者: 井上彬
第一章 旅立ち
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第一話

この作品をお手に取っていただき、有難うございます。

人間vs悪魔という厨二的な設定ですが、気に入っていただけたら幸いです。

ストーリー構成には力を入れておりますが、初心者である故、

なにかとアドバイスをいただけると助かります。


――――遠い記憶。


 親父は言った。


「キール、何があっても愛する人を守るんだぞ!」


 ニカッと笑う顔には少し陰りがあった。


「ぱ、パパはどこかに行っちゃうの?」


 それを察したように俺が聞いた。

 身支度を整える親父を上目に涙が溢れそうだった。


「んー……そうだなぁ…………」


 そう言うと少し難しい顔をした。

 そしてしゃがみ込み、俺と目線を合わせた。


「父さんな、仕事でちょっと遠くに行かなきゃならないんだ。多分暫くは帰って来れねぇーだろうな」


 少し重い声音だった。

 いつもとは違う――――重かった。

 そして唐突に抱き締められた。


「キール。お前はもうすぐ五歳になる。どういう意味か、分かるよな?」


 少し痛かった。

 優しい抱擁――とは違った。

 ただ何かを惜しむような。


「う、うん」


 俺が頷くと親父は抱き締めるのを止めた。

 そして手を俺の肩の上に置いた。

 真剣な顔だった。


「母さんのこと、頼むぞ」


 その顔を見た俺は力強く頷いた。


「わかった。守る!」


 うん、と頷くと親父は立ち上がった。

 そして俺の頭を撫でた。


「それでこそ俺の息子だ」


 顔を上げると、親父は笑顔だった。

 さっきまで暗かった親父が笑顔になっていた。

 それだけでとても嬉しくなった。


「んじゃ、父さんそろそろ行かなくちゃな」


 そう言って顔を隠すように背を向けた。同時に、俺の頭の上に乗せられていた手も退けられた。


「ぱ、パパ!?」


 その瞬間、寂しくなった。

 頭を撫でられていた安心感は消えてしまった。

 だけど、親父はもう振り向くことはなかった。


「キール。我が家の家訓、憶えてるか?」

「う、うん」

「……ふっ。それ、忘れるなよ」


 そう言って親父は出て行ってしまった。

 これが俺と親父の最後のやり取りだった。

 この三日後、親父は死んだ――――。




---




 晴天。

 憎たらしいほどに青々とした空。

 こんな日に体育なんて教師はどうかしてる。

 いや、インドア派ってわけじゃないんだけど。ここ最近の気温の上昇が日に日に増しているせいか、今朝から体が気怠い。原因は暑いだけではないと思うけど。なんかやる気が起きないのさ。

 五月病ってやつかねぇ、五月とは思えないほど暑いけど。

 何度だっけ?

 今朝のニュースであったが……うろ覚えだ。確か三五度は越えてたのは憶えてる。ホント五月とは思えないね。夏だわ。

 そんなことを考えながらグラウンドの隅で縮こまっております。勿論日陰で。

 よく皆、こんな炎天下の中はしゃげるよなぁ…………と、切に思う。

 すると、はしゃいでる奴の内の一人が俺に気付いた。


「おーい、キール。そんな端っこで何してんだよ!」


 はしゃいでる奴らの中で取り分けはしゃいでる奴。そいつが近付いてくる。


「こっちに来いよ! 今から体育だろ!」


 背丈は高い方に入る。体格はがっちりとまではいかないが、筋肉質である。所謂細マッチョ。顔はイケメンではないが、カッコイイ部類に入ると思う。ただ、眼鏡を掛けているせいなのか顔立ちのせいなのか、陰キャラに見えるんだよな。性格は明るいのに。


「こっち来いって! 一緒に汗を流そうぜ!」


 腕を掴まれた。

 ……暑苦しい。

 普段は思わないけど、こういう時だけ暑苦しいんだよ、こいつ。

 俺は腕を振りほどいた。


「うるせーな。めっちゃ気怠いんだよ」

「…………気怠い?」


 一瞬奇妙な間の後、不気味に笑みをうかべだした。

 …………なんだ、こいつ。何考えてんだ。若干キモイ。

 逆光のせいか眼鏡だけが怪しく光って、ただの変態に見えるのは気のせいだろうか。


「おい、キール。お前、授業サボってええんか?」


 ニターっとしやがって。めんどくせぇな。

 今は機嫌悪いから、こいつのこのノリは本当に面倒臭い。


「……なんだよ」


 返答するのもダルかった。

 ただ、コイツのこの顔はよからぬことを企んでるに違いない。

 仕方なく返事をした。


「キールが授業をサボったっておばさんに言い付けてやろーっと」

「………………」


 おい。

 おばさんってダメじゃねぇか。

 俺のおかんじゃねぇーか。

 あぁ見えてまだ三八だぞ? 四十路前だぞ?

 お姉さんだろーが。

 …………いや、おばさんだ。

――――っと、問題はそこじゃなかった。

 あんなおっかない人にチクろうとするとは何事か!

――――――って、もうあいついねぇし。

 逃げ足だけは早ぇえ。。

 あいつのことだ、ホントに告げ口されかねない……。

 ……………………………………。




「あー、クソ!!」




 諦めた。

 俺は立ち上がった。

 そして走った。


「おい、このヤロ!」

「おわっ! 何すんだよキール!」


 そして、あいつに跳び蹴りをくらわせる。

 あいつもちょっと反抗してきたが、すぐ終わった。ただのノリだから。

 ただ。

 ホントにダルい……。

 こんな暑い中で体育とか、ホントどうかしてる。




---




 今日の体育はサッカーだった。

 こんなよく晴れた日にサッカー! 最高じゃないか!

 ……って普通なら言えるんだけど、言えないね。暑い。もう一度言います。今日とてつもなく暑いのです。

 あれだね、人間の適応能力には限界があるって言うけど、その通りだわ。俺の限界はここらしい。

 とは言え、実際に体動かすと動いてしまう。思った以上に体が動いた。

 いや、動き過ぎた。おかげで調子乗ってしまって、今気怠さが半端ない……。

 あぁー、オーバーヘッドキックとかしなけりゃよかった……と、廊下の隅でぼやいてる最中なのです。

 しかしまぁ次の授業もあるので、そろそろ動かなければなって焦ってもおります。

 焦るだけで、実際には動いてないけど。

 そしてやっと重い腰を上げようとしたちょうどその時、ニコラスに話し掛けられた。


「おぅキール……何してんの?」


 見上げると、少しキョトンとした顔でニコラスに見られていた。

 まぁ当たり前の反応だと思う。友達が廊下の隅でぼやいてたら気が狂ったのではないかって思うな。

 ……と言っても、こうやってぼやいてるのはこいつが無理矢理体育をさせたからなんだけどな。


「誰かさんのせいで体育サボれなくて、只でさえ体調悪いのに更に悪化したので休んでるんだけど?」


 嫌味たっぷり、加えてジト目でこのイライラをこいつにぶつける。


「お、おう。それは悪かったな。でもま、サボる方が悪いんだけどなっ」


 語尾に『笑』が付いてそうにニヤけてやがる……。

 つか、俺の攻撃スルーされたしっ!

 こいつとは一○年間の付き合いだけど、このポジティブさというか気にしなさには今でも驚く程だ。


「うっせ。冗談抜きになんだよ」

「お、おう」


 頷かれた。

 ニコラスもやっと理解してくれたみたいだ。


「それにしてもあれだな。毎年おんなじ――――――って、ルーシーちゃんだ!」


 急に大きい声を出されたのでビクッとなった。心臓に悪い。

 ニコラスを見ると、丁度俺の真後ろを指差して目を輝かせていた。


「おいおい、あっちにお前の大好きなルーシーちゃんがいるじゃんよ!」

「声がでかいわ、ボケ!」


 座ったままでの脛蹴り。大きくボゴッと音がした気がする。ニコラスも悶えてる。ふっ、決まった。

 っと、そんなことは置いといて、ルーシーがいるって言ってたよな。

 俺は慌てて立ち上がり、振り向いた。

 見つけるのにそんな時間は掛からなかった。

 教室の目の前で女友達と楽しそうに話しているルーシーを見つけた。

 反射的にルーシーを呼ぼうとした。


「おーい、ルー…………あ、あれ?」


 だけどその前にこっちに気付いて、そっぽを向かれてしまった。そしてそのまま教室に入って行った。


「あっれぇー? ルーシーちゃん、お怒りですねぇー? 喧嘩ですかぁー? まだ一週間なのに、お早いですねぇー」


 急にニコラスが後ろから俺の右肩のところに顔を置いて煽ってきた。

 さっき脛蹴りされてめちゃめちゃ悶えてたのに急に元気になったな、コイツ。


「ありゃー、あれは完全に怒ってますわぁー。何やらかしたんですかぁー? ダメじゃないですかぁー、もっと彼女を大切にし――びゃ!」


 とりあえずウザったいから左手で顔面平手打ちをして、と。

 やっとニコラスが静かになった。これで平和になったな、うん。

 それにしてもルーシー怒ってたね。なんでだろ。

 まぁ、ルーシーが怒ってる理由は心当たりあるんだけどねぇ……。

 とりあえず、教室入るか。

 小さく溜め息をして教室に向かった。勿論、ニコラスは放っておいた。

 その後の授業は……まぁ、全部寝たね。




---




「もー、だから言ったんだよ?」


 随分ご立腹のルーシーさん。結局あれから放課後まで一言も口を聞いてくれなかった。

 というより、体育後は俺がずっと寝てたから話す機会がなかったんだよな。だから帰り道の今になってる。


「今朝から調子悪そうだったから体育は休みなよってぇー」


 廊下で無視された時に不機嫌だったのはこれが理由。


「だからごめんって。俺も最初はするつもりじゃなかったんだけどさ」


 頭下げて、手を頭の前で合わせて謝罪のポーズ。何度もやってるんだけど、中々許してくれない……。


「何というか……うん……あれだよ! 今日は体育をしなさいっていう神様からの助言みたいなさ! きっとこれはあれだ、大天使ガブリエル様がお伝えくだ―――」

「私、言い訳する人嫌い」

「すいません、もう二度と言い訳なんてしません」


 深々と謝罪した、完全にルーシーのペースだよなと思いつつ。

 なんというか、俺は一生ルーシーには勝てない気がする。


「まぁ何となーく想像は出来るけどねぇー。どうせあれでしょ、またニコラス君が原因なんでしょ?」


 顔を覗き込むようにして俺にジト目を送ってくるルーシーさん。その通りでございます。

 ってか、今「また」って言ったな。ルーシーの中で大分ニコラスのイメージが定着してきたな。まぁ過去何度もあったからな、こういうこと。その度にルーシーに怒られてるから、印象最悪だろう。


「やっぱり……。キールが元気ならいいんだけどね、体調崩して欲しくないからさ。特に、私明日楽しみにしてるんだから、体調崩されたら困る!」

「本命の理由はそれかい!」


 でもまぁ、俺も楽しみにしてるから。なんたって自分の誕生日だし。

 それに俺とルーシーの初デートも兼ねているわけでして。勿論、学校ではクラス一緒だから毎日顔合わせているし、帰るのも一緒。だからなのかもしれないが、付き合い始めてから一週間経ったけど中々デートにまでは結び付かなかった。そして、俺の誕生日である明日がやっとの初デートになったってわけ。まぁルーシーとは幼馴染だから、デートじゃないただの遊びなら昔から多いけど。やっぱ『デート』ってなると今までの遊びとはなんか違うんだな。だから楽しみにしてるのは分かるし嬉しいんだけどさ。なんか複雑だ。


「ちち、違うし! 本命の理由はキールのことが心配なんだからだよ! 彼氏の体調よりもデートの心配する彼女なんてどこ探してもいないよ!」


 いや、うん。いてもおかしくはないと思うよ。

 てか、この反応は図星だわ。幼馴染ってことで付き合いが長いからだけど、ルーシーは嘘を吐くとき目線が斜め右上に行くからさ。本人が自覚してるかは分からないけど、ルーシーと付き合いの長い人は皆知ってる。そして、今も目線が斜め右上。

 俺は苦笑していた。


「と、とにかく、キールは明日のためにも今日は真っすぐ帰って休むこと! いいね? じゃあまた明日学校でね!」

 そう言ってルーシーは走って行ってしまった。

「あ、逃げた」


 俺はそのまま走って行くルーシーを見送った。

 なぜ追い掛けなかったのかって? まだ体が気怠いからさ。朝に比べると幾分かマシになったけど、走れるほどではないから。それに、追い掛けれない流れだったし。

 しかしまぁなんだろうな、この体の気怠さは。毎年同じ日に決まって気怠くなる。いつからこうなのか憶えてないから、物心付いた頃にはもうってやつ。病院行っても『異常なし』って結果に終わるんだよね。おかげで楽しい誕生日を過ごしたことがない! 毎年憂鬱になるよな。


「さて、帰るかな」


 そうして俺はゆっくりと帰路に就いた。

 しかしこの時はまだ思いもしなかった、まさか明日が俺の人生を狂わせるものになるということを。

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