悪夢再び。
いつもの時間。
いつも通る廊下。
窓から入る風のにおい。
綺麗な雲一つない真っ青な空。
「あれから一年なんだ。」
私は誰かに言うわけでは無く、ただ一人呟いていた。
私にとって、この夏という季節は好きな季節だったのに。
あの事が起きるまでは。
その日、私は美術の授業で移動教室だった。
「藍奈!美術行こー!」
「ちょっと待ってよー!智ちゃーん!」
「仕方ないなー。ほら、はやく支度しなさいよ?」
私は、親友の智実に急かされながらも、私は急いで準備をした。
「よしーお待たせ!行こっか」
「うん!」
私達はそう言って教室を出た。
その時はまだ、教室に女子が数人、残っていた。
その時、私達はそんな事を気にも止めず教室を出た。
まさか、あんな事件に巻き込まれるとは思わないで。
その日の美術は、絵の具を使って、絵に色を塗るという授業だった。
私は自分の作品に集中し、作品を仕上げるべく奮闘していた。
私は、一度集中すると周りが見えなくなるタイプで、他の人が声をかけても気づかない。
だから、美術の時間は黙々と色を塗り続けていた。
きーんこーんかーこーん。
チャイムが鳴り響いて私は、授業が終わった事を知る。
また、1時間自分の世界に潜り込んでいたんだ
「私ったらまた自分の世界にのめり込んでたよ!智ちゃんは出来た?」
「全くだよー。というか、よくそんなに集中出来るよねー。私途中から飽きてきたよ」
「だっていろんな色て世界を表現できるんだよ?凄いことじゃない!私はそういうの大好きだから。」
「まーた始まった。このよくわからない藍奈の発言!」
そう言って智ちゃんは、苦笑いした。
私は色で世界を表現するのが好きだ。
私は色で自分を表現するということが、何よりも自分らしく自分自身を表現出来る、そう思っている。
そうすることで、今自分がここに居るということを、周りに示す事が出来る。
私はそう思うから。
「ごめんごめん!意味不明な事言ってたね!」
私は、この考えは自分にしか分からないと思っている。
だから、誰かに話す気も無ければ、理解されようとも思わない。
私は結局の所、心のどこかでは他人を信用することが出来ないのだと思う。
それはきっと小学校の時から…
あれは、私が小学五年だった時の事。
ある日下駄箱を開けると、靴が無かった。
それだけではない。
教室に入ると、殴る蹴るの暴行。
自分の机とロッカーにはゴミが溢れていた。
そして、何よりも辛かったのは、親友の裏切りだった。
その日を境に、親友だった…いや、私が勝手に親友だと思い込んでいただけなのかもしれない友人が、私と口を聞いてくれなくなった。
それどころか、いじめにも関わっているのだ。
私は、その友人から沢山殴ったり、給食を床にぶちまけられたり、筆箱を窓から投げ捨てられたりさえした。
それから私は、学校に足が向かなくなっていた。
担任の先生は、いじめであるという事実から目を逸らし、気づかないふりさえした。
結局、先生は私を助けてくれなかった。
私は、両親に全てを話し、学校を変わった。
私はそれ以来、どこか他人と距離を保って過ごしてきた。
それが、私にとって良いことではないのはわかっている。
けれど、他人と深く関わることで、自分が傷つくのが嫌なのだ。
だから、私はその日から、自分の思いは告げないで生きてきた。
周りに合わせて、周りに流されてきた。
それが正しいなんて思えない。
どうして、他人を褒めて、相手の癪にならないことを言わず、無理やにでも仲良くするしかない・・・
私はどうして、ここまでして他人と関わらないといけないのか、今でもわからない。
いじめられていたことが、トラウマになっているのだ。
”いじめられた”という事実が今も私を苦しめていることには変わりはない。
そんな私にも。高校に入ってからようやく、智ちゃんという友達ができた。
それも、ほんとうにようやくだった。
最初、私は智ちゃんが「よろしく!私、藍奈ちゃんと仲良くなりたいんだ!」そう言ってくれた時も、私は嫌だと思った。
この人と仲良くなっても、きっとまたいじめられるんじゃないか?そう思ったから。
でも、私は、智ちゃんがそうじゃないとしった。
彼女もまた、私のような経験がある。
そう聞いたから。
それでも、まだ私は智ちゃんを信じることは出来なかった。
そんな私をみて、智ちゃんは言ってくれた。
「私も、あんまりまだ人のことは信じられないよ。だから、お互いさまでいいじゃない。私も完璧には藍奈のこと信じられない。でも、仲良くなりたいの。だから・・・まあ、その。兎にも角にも。同じ境遇の人間なんだから。ほかの人間よりは、分かり合えるとは思うんだ。ね?」
不器用ながらも、彼女は精一杯気持ちを伝えてくれた。
私は、その言葉に涙がでた。
こんなにも、真剣に言ってくれる人。
今はまだ信用は出来なくても、少しずつでいい。
仲良くなりたいんだ。
それが、私と智ちゃんの出会い。
いまでは、私の人間不信も改善されつつある。
「あーい。教室もどろ!」智ちゃんは私にそういった。
「そうだね。戻ろうか。」私たちは片付けを済ませ、教室に戻った。
それから。
数学の授業と、国語の授業を受けた。
いつも通りの眠たい退屈な授業だった。
お昼休み。
私たちはご飯を食べるため、机を引っ付けてご飯をカバンから出していた。
「お腹すいたー」智ちゃんはそういいながら、お弁当のふたを開けた。
「智ちゃんのお弁当おいしそう!」
「ありがと!」
「私は、今日はコンビニのパンなの!」
そういって、私はコンビニの袋からパンを取り出した。
そこで、私は自分の身に起きた異変に気がついた。
私が買ったパンの袋の封が開けられているのだ。
「あれ?パンが空いてる・・」
「何、あい食べたの?」
智ちゃんが私の異変に気がついて、心配して覗き込んでくる。
「食べてないよ!」
「じゃあ、どうして?」
「わからないの・・・怖い」
私の頭の中はひどく混乱している。
私の頭の中に浮かぶのは、いじめられた過去。
「やだ・・こわい。」
私は涙目になってきた。
「落ち着いて、あい。大丈夫。私がいる。とりあえず先生に・・・・・」
「やだ!やめて!誰も信頼なんてできない!」
「あい!!!!」
智ちゃんはそういって、私を抱きしめた。
私は、抱きしめている智ちゃんを突き飛ばそうと暴れている。
「大丈夫だから、落ち着いて!」
教室中が、私を見ている。
私はその視線でようやく落ち着いた。
「ね。大丈夫。とりあえず職員室いこっ?」
「うん。ごめんね、智ちゃん。ありがと。」
それから私は智ちゃんに付き添われて職員室に向かった。
職員室に向かう足はひどく震えていた。