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忘れえぬ絆  作者: rourou
第一章 逃亡
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08話 告白

次は18時に来たり来なかったり

 森から帰った二人は、グラホーンの角二本を村長に見せ、予定通り「番が居た」と報告した。

 それ以外にも周囲を探したが、何も問題は無かったということを告げると、安堵した顔で感謝された。


 是非に、と勧められるまま、村で一泊することにする。

 当初の予定通りだ。

 ケイスはもとより、セラもベッドが恋しいようで、反対されることは無かった。


 食事も中々に豪勢な物を揃えてもらえたが、人間嫌いのセラのことを配慮して、早々に部屋に逃げ込むことになった。

 と言うのも、食事中に、セラは暇を持て余した村人に話しかけられたのだ。鉄壁の無表情で無視し、ひたすらにアルコールを摂取していたが。

 見た目の割にセラは酒に強いのだ。

 しかもいくら飲んでも酔った様子も見せない。

 男も女もセラの無言の防壁に追い返され、仕方なしにもう一人残ったケイスに話しかけて来る。

 主に学園や街の話だ。

 とてもではないが模範生とは呼べないケイスも対応に苦慮し、さっさと食事を切り上げて逃げ出すことにした。

 残念そうにされたが、知ったことではない。

 せいぜい丁寧な対応をして、さっさと部屋に逃げ込んだ。


 しかし問題は残っていた。

 大きな大きな問題だ。


「マジで……?」


 部屋に入ったケイスは、現実を思い出して呟いた。

 逃げることに夢中になって、忘れていた。


「何が?」


 背後からの声に、ケイスは呻いた。


「いや、見りゃ分かるだろ……?」


「分からないわ。何?」


 しかし背後からはつれない返事だ。

 いや、良く聞くと、声が笑っている。


「一つしかないんだが」


 ベッドの問題だ。

 気を利かせた村人がベッドを二つ準備してくれているという、微かな期待を抱いていたケイスは打ち砕かれた。

 二つあれば、まだ我慢できた。

 散々からかわれるだろうが、早々に眠りの世界に逃げれば良いだけだ。


「良いじゃない別に」


 さらりとセラが答えるのを見て、ケイスは振り向いて全身で訴えた。


「何が良いんだよ!?」


 セラは真面目な顔をしていた。


「ケイスはベッドで寝たいんでしょう?私もよ。じゃあ一緒に寝ればいいわ」


 しかし声は笑っていた。

 セラ、絶好調である。


「一緒にって、お前な」


 ケイスが頭を抱えて俯き、ちらりとベッドを見た。

 どう見ても一人用だ。ご丁寧に、枕は二つ置かれている。

 大人二人が入ったら、確実に密着状態だ。

 ケイスは、その状態で寝れるほど図太くは無い。


「洒落になんねーぞ……」


 力無くぼやくケイス。


「だから何がよ?」


 ケイスは、どこ吹く風のセラをじろりと睨んだ。


「俺は男で、お前は女だ」


 これは洒落にならない場面である。

 普段の会話では笑って済ませられるが、これはその域を逸脱している。


「そうね。同衾って奴かしら」


 しかし、セラはびくともしなかった。

 ケイスは絶句した。


「…………」


 パクパクと口を動かすケイスを見て、セラは微笑んだ。


「私、襲われちゃうのかしらね?」


 ケイスは自分の顔が熱を持つことを自覚して、目を逸らした。


「んな命知らずなこと、出来るか」


 吐き捨てる様に呻いたが、


「失礼ね。ケイスなら、殺しはしないわよ」


 セラは優しげに微笑んでいる。


「お前な!」


 半殺しと言う未来が待ち受けていることは間違いないだろう。

 そう考えたケイスは渋面を浮かべて部屋を出ようと試みた。

 やはり、もう一つ部屋を借りるのだ。


 しかし、セラがケイスの手を掴んで止めた。


「手を出しても良いわよ?……責任、とってくれるならね」


 ニコッ、と笑ったセラがケイスに顔を近づけて囁いた。


「………………」


 セラの甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

 ケイスの喉が、意図せずぐびりと鳴った。


「で、どうする?手、出しちゃう?」


 ケイスは慌てて顔を背け、セラの手から逃げ出した。

 するとセラは、不満げに唇を尖らせた。


「ヘタレ」


「五月蠅ぇ」


 ケイスは呻き、今度こそ部屋を出ようとした。

 何とでも言うが良い。

 ケイスは己の身が大事であるが、己の理性に勝つ自信は無かった。


 しかし、またしてもセラはケイスの腕を掴んで止めた。

 眉をしかめてセラを睨もうとしたケイスは、その顔を見て絶句した。


 セラの瞳は、真摯な光を灯していた。


「あのね、ケイス」


「……何だよ」


 雰囲気の違いに、ケイスは後ずさった。

 しかし、その分の距離を、セラは詰め寄って来る。


「私、本気よ」


「は?」


 ケイスはぽかんと口を開いた。


「ケイスになら、私をあげてもいいわ。その代わり、ケイスも頂戴ね?」


 セラは微かに頬を染めながら言った。

 嘘を言っている様子は、無かった。

 ケイスの頭は真っ白になった。


 その間にも、セラは距離を詰めようと、ケイスは距離を取ろうと、僅かずつ動く。


「……こんなとこで、告白か?」


 いつも通りにからかわれているのだろうか。

 そう願ったケイスの口からは、硬く、しかし茶化すような声が漏れた。


「ええ。私はケイスが好きよ。異性としてね。ケイスは私のことどう思ってるの?」


 目を見て、堂々と宣言された。

 セラの顔が、耳まで紅色に染まっている。


 ケイスの顔も、見る見る赤に侵食されていく。

 不意打ちにもほどがある。


「み、魅力的だとは思うけどよ」


 気付けば、背後に壁があった。

 追い詰められている。


「そういうことを聞きたいんじゃないの。私のこと、好き?勿論異性としてよ」


 逃げ場のなくなったケイスに、セラが詰め寄って来る。

 その顔には、今まで見たことも無い必死さと、確かな執着心と、微かな不安があった。


 ケイスは必死に考えた。

 容姿とか能力とかを排除して、必死にセラ本人のことについて考えた。

 友人としては間違いなく好きだ。

 では、異性としてはどうだろうか?

 目を逸らして考え込みたいが、セラの瞳は、それを許さぬ輝きを灯していた。

 結果。


「そりゃ、……好きだが」


 ケイスの口からは、素直な言葉しか出てこなかった。

 セラの顔が太陽の様に輝いた。


「そう。じゃあ良いじゃないの」


 セラはケイスの両手を掴んで、ぐいぐいと引っ張りはじめた。

 ベッドへ向かって。

 清楚な見た目だと言うのに、その内実は情熱的だった。

 既に覚悟を決めているのだろう、セラの燃える瞳を見て、ケイスは叫んだ。


「待て!その、そういうのは、まだ、早い!」


 事ここに来て、覚悟が無いのはケイスの方だった。

 情けない顔で、情けない声で、情けないことを叫ぶ。

 するとセラはじっとりとした目をケイスに向けて来た。


「……」


 しかし、ケイスも必死に抵抗する。


「……」


 感情の整理が落ち着いていないうちに、そんなことするのは誠実ではない。

 何気に育ちの良いケイスは、そんなことを思って必死な眼差しをセラに返す。


 やがて、根負けしたのはセラだった。


「ま、今は良いわ。期待して待ってるわね。……でも、あまり待たせないでね?」


 ケイスが真摯な気持ちであることを察したのだろう。

 溜め息と共に、名残惜しそうにケイスから手を離した。

 ケイスは今更ながらに失望が宿った目を向けられるのが怖くなったが、そんなことも無く優しい目を向けられる。


「……善処する」


 ケイスは大きく深呼吸をして、しっかりとセラの目を見て頷いた。


「ええ」


 セラはそれで満足そうに微笑んだ。

 そして話は終わりとばかりに、ケイスから背を向ける。


 ケイスは無意識に心臓を押さえ、俯いて安堵の息を吐いた。

 目を閉じて、バクンバクンと脈打つ心臓を押さえつけ、荒い呼吸を整え始める。


「ケイス」


 その声を聞いた後で、やけに近いなと思った。


「?」


 ケイスが顔を目を開いて顔をあげた瞬間、目の前にセラの顔があった。

 目と鼻の先で見るセラの顔は、最早感想など出しようも無いものだった。

 その距離が何を意味するのか、理解する間もなく、ケイスの唇とセラの唇が重なった。


 柔らかい、と思った。

 さらりとした髪がケイスの頬を撫でると同時に、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

 ケイスの目がいっぱいに見開かれ、目の前にいるセラが、目を閉じているのに気付いた。


「―――――――ッ?!」


 数瞬遅れて、ケイスが身を竦ませた。

 セラはそれを読んでいたかのように、ケイスが身を竦ませる一瞬前にケイスから離れて行った。


「今はこれだけで許してあげる」


 セラは真っ赤な顔で嬉しそうに笑って告げた後、振り返りもせずにベッドに横になり、シーツにくるまった。


「………………………………」


 顔を見られるのが恥ずかしいのだと言うことを理解する余裕もなく、ケイスは彫像の様に立ち竦んだ。

 その後、辛うじて再起動したケイスは、もう一部屋を準備してもらい、逃げ込んだ。

 そして眠れない夜を過ごした。

 ちなみにセラは幸せな幸せな夢を見た。




 その日の朝、珍しいことにセラに起こされた。初めての出来事である。

 眠れなかった者と、熟睡した者の差が如実に表れた。


「おはよう、ケイス」


 寝起きに見るセラの顔は刺激が強すぎて、ケイスの顔は途端に真っ赤になった。

 しかし、セラの顔はいつも通りの様子だ。いつも通りに美しい。

 ケイスは思わずセラの唇を見つめた。

 薄紅色の小さく可憐な唇だ。

 ケイスは見惚れそうになり、慌てて目を逸らした。

 セラはそれを見て、何も言わずに微笑んだだけだった。

 女は強いと、ケイスは内心で呻いた。


「……おはよう」


 ケイスは辛うじて挨拶を返した。

 セラがとても幸せそうに、ケイスの赤くなった顔を見つめて来るせいで、ケイスの顔の熱が取れることは無かった。

 着替えるからとセラを追い出し、何とか気持ちを切り替えるべく努力をしたことで、ようやく我を取り戻す。


「行きましょう」


 扉を開けた瞬間、切り替えられていなかったと理解することになった。


「……ああ」


 それでも先ほどよりはマシだ。

 ケイスは何とか頷き、セラから視線を剥がした。

 セラはとても楽しそうに笑って、通りすがりに村人たちを魅了していた。

自分で書いといて何ですが。

あーあ。早く世界爆発しないかなぁ

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