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忘れえぬ絆  作者: rourou
第一章 逃亡
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07話 才能

次は14時!

 大いに笑ったおかげで満足できたのだろう、セラは引いてくれた。

 セラの魔法の支援を受け、正に風の様に森の中を進みながらも、取り止めのないことを話していると。


「ケイス」


 セラが囁くと同時に、ピタリと立ち止まった。

 索敵に引っかかるものがあったのだろう。

 僅かに遅れてケイスも立ち止まり、表情を引き締めた。


「何が居る?」


「グラホーン」


「なるほどな」


 ケイスは頷いた。

 そんじょそこらの獣では相手にならない相手だ。

 村長の心配は正しかった。


「どうする?」


 セラはケイスに問いかけた。


「頼む」


 何時もの如く、セラに相手をしてもらうことにした。


 グラホーンはとにかく硬いのだ。

 ケイスも戦えば勝てるが、中々剣が通じないので非常に厄介な相手だ。

 なにせ、生半可な魔法すらも弾いて見せる程である。勝つには勝てるが、どれ程時間がかかるか。

 その点、セラなら問題は無い。


「はいはい。…………終わったわ」


 セラは頷くとグラホーンが居るであろう方向を見つめ、少しの間黙った。

 そしてすぐに戦闘終了を告げて来た。


「相変わらずだな」


 気付かれる前に遠距離からの一撃。

 それだけで戦闘が終了してしまうのだから途轍もない。


 なにせ、神聖魔法は人の体から放たれることに対して、精霊魔法は、術者の意思を反映した精霊が行使するのだ。

 目に見えない精霊が敵の側まで行き、目の前で魔法を放つだけで良い。

 今回もそうしたのだろう。

 初めから来ると分かっていれば防御の魔法でも張っていればいいが、森の様な視界の悪い中での精霊魔法の奇襲など、防ぎようがない。

 恐ろしい限りである。


「ほら、こっちよ」


 セラは当然といった顔で歩き始めた。




 グラホーンはかなり遠方に居るらしい。

 セラの索敵範囲は、驚異の一言である。


 そしてセラの案内通りに進んだ先には、グラホーンの死体があった。

 巨大な甲虫で、頭には先端が尖った、鋭利で巨大な角が生えている。

 その足元には血が溢れている。

 柔らかい腹を貫いて、内臓を潰したのだろう。


 それ以外にも、顔に大きな傷跡があった。


「元々?」


 セラがこのような傷をつける訳がない。そんな必要はないし、弄ぶ様な事をする性格ではない。

 ケイスはグラホーンに近づき、まじまじと体を調べる。

 よく見ると、全身に細かな傷もあった。

 どれも比較的新しいように見える。


「ええ」


 セラもケイスに続いて、グラホーンの体を確認する。


「そうか……」


 グラホーンがこれだけ傷ついているということは、恐らく逃げて来たのだろう。

 それをできるものが、まだ森の中に居ると言うことだ。

 更に探索を進める必要はあるだろう。


 そう考えながらも、ケイス達はグラホーンの角を回収することにした。

 これほどわかりやすい証拠は他にはない。

 問題は、硬いと言うことだけだ。


「回収、やってみたら?」


 てっきりセラが力技でやると思っていたのだが、そう提案された。

 一瞬、普通の剣では無理だ、と言いかけたケイスだが、すぐに魔法の存在を思い出した。


「……ああ。そうだな……」


 腰の剣を抜き、魔法を発動させる。

 詠唱が無いことに、セラはどことなく残念そうな様子だが、すぐに違う意味で目を輝かせた。

 セラの視線の先では、刀身が真っ黒になった剣がある。

 武器強化の魔法だ。神聖魔法なら白くなるのだが、暗黒魔法ではこうなる様だ。


「へぇ」


 部屋の中で見るのと、大空の下で見るのとでは印象が違った。

 木漏れ日を弾いていた剣が、一切の輝きを無くしているのを見ると、不思議な感覚がある。

 まるで光を吸い取っているようにも見える。


 ケイスはグラホーンの角目がけて、剣を軽く振った。


「……なるほどな」


 一切の抵抗なく、強固なはずの角が切断された。


「どうだった?初めての魔法は」


 セラはそれを見て軽く感嘆した。

 精霊魔法は、こういう硬いものを切断するのにはあまり向いていない。

 同じ個所に何度も何度も魔法を撃ちこんで少しずつ切って行く必要があるのだ。

 それを、あっさり上回った。

 神聖魔法でも同様の事が出来るし、向き不向きの問題ではあるが、セラは少し羨ましいと感じる。

 セラも神聖魔法は使えるが、その実力は、勉強中としか言いようがない。


「反則だぜ」


 ケイスは正直な意見を述べた。

 いくら努力しても無理なことを、こうもあっさりと成し遂げることが出来るようになる。

 自分以外は、この感覚を当然として捉えていたと考えると、もの悲しいものがある。

 とは言っても、今なら自分でも出来るようになったのだ。

 冗談めかして肩をすくめると、セラも微笑みを浮かべた。


「ふふ。……で、どうする?」


 ケイスは太陽の位置を確認し、まだまだ余裕があることを確認した。


「もう少し見てみるか。こいつが出て来たのも、何か原因があるだろ」


「了解」


 セラも異存はないようで、頷いた。




 そこからはまたセラ頼りの探索を始めた。

 相変わらずの索敵範囲と、移動速度に頼りながら森を進むと、そう時間も経たずにセラが立ち止まった。


「見つけたわ」


「ん?」


 ケイスも立ち止まり、セラに視線を送る。


「グラホーン。番ね」


「そういうことかい」


 ケイスはなるほど、と頷いた。

 先ほど戦ったグラホーンは、雄同士の争いに負けたのだろう。

 追い払われて、村の方面に逃げ出したのだ。


「どうする?」


「まあ、やっておくしかないだろ」


 セラの問いかけに、ケイスは答えた。

 ここも、距離はあるとはいえ、まだ村の近くと言っても良いだろう。

 見つけたからには、グラホーンには悪いが駆除しておかねばならない。


 しかし、セラの問いかけの意味は違ったらしい。


「そうじゃなくて、貴方がやる?」


「…………」


 ケイスは目を瞬かせて、セラを見た。

 普通に戦うことの無意味さはセラも理解しているだろうから、魔法を使って、という意味だろうか。

 セラはその視線を受け止めた後、安心させるように微笑んだ。


「周りに誰も居ないわよ」


「やって、みるか。だが一匹だけにする。初めてなんでな」


 ケイスは剣を抜いた。


「分かったわ。じゃ、後ろのは私がやっておくわ」


 セラはそう言うと、ゆっくりと先導し始めた。


「頼むぜ」


「ええ、任せなさい」


 その背中を追いながら声をかけると、セラは振り返り、絵になるウインクを送り返してきた。




 グラホーン二体を視認したケイスとセラは、木陰に隠れて迅速に打ち合わせをした。

 打ち合わせとは言っても、一言で済む。


「ケイスの好きなタイミングでね」


 何をしようが、セラが合わせてくれる。

 セラがそう言うなら、しっかりと合わせてくれることだろう。

 ケイスは頷き、数回呼吸を整えた。

 片手に剣をぶら下げ、もう片方の手をポケットに突っ込み、小さな鉄球を取り出す。


「分かった。……行くぜ」


 ケイスは飛び出した。

 セラの魔法で音も気配も隠してはいるはずが、何かを感じとったのか、グラホーンが迅速にケイスを発見した。

 二体、ほぼ同時だ。


 ケイスは鉄球を、指で弾き飛ばした。

 魔法が使えなかったケイスが、どうにかして遠距離での攻撃方法を考えた結果の、指弾だ。

 飛ばされた鉄球は黒く染まっている。

 魔法で強化されているのだ。


 黒い鉄球はそのままグラホーンに直撃し、外殻を物ともせずに貫通した。


 ケイスはその結果に目を剥きながらも、痛撃を受けて震えるグラホーンに向かって走る。

 そうしながら、もう一体を見ると、大きく震えていた。

 それを最後に、そいつは動かなくなる。

 セラがどうにかしたのだろう。


 迅速な仕事ぶりに内心舌を巻きながら、ケイスは自分の分の相手に向かう。

 痛撃を受けたグラホーンは、外殻を羽の様に広げた。

 形勢不利と見たか、空中から仕掛けてようとしたのか。

 いずれにせよ、飛行されると剣は届かない。


 ケイスは舌打ち一つ鳴らして、再び指弾を飛ばそうかと考えたがすぐに思い返した。

 何時もの癖で指弾を使おうとしていたが、普通に魔法を使えばいいのだ。

 指弾を放って開いた片手を、痛撃を受けたおかげか動作の鈍いグラホーンに向ける。


 ぶわっ!とケイスの手から、黒い煙のような物が溢れ出した。

 室内で使った時の様に、手加減はしていない。

 恐ろしい量の黒い煙が、生き物の様にのたうちながらグラホーンに襲い掛かった。


 一瞬で、グラホーンは呑み込まれた。

 黒い煙は、ケイスが解除するとすぐに霧散した。

 するとグラホーンは跡形も無く消えていた。


 目を剥いて自分の魔法が飛び出した手を見るケイスに、セラが非難した。


「ちょっと、やり過ぎよ!ああ、角もないじゃないの」


 倒した証拠が、無くなってしまった。


「いや、すまん。ここまでとは」


 ケイスはしどろもどろに言い訳した。


「使う魔法がおかしいのよ。で、どうするのよ?」


「言っときますけど弁明なんて聞きませんからね」と言う目で見られたケイスは、苦しげに眉を寄せ、必死に脳を働かせた。


「……最初から、二体だった、ってことで」


 セラは、じとっとした目でケイスを見つめた後、溜め息を吐いた。

 どうせ報酬を得るような仕事ではないのだ。

 初めから、『グラホーンの番が近くに出た』と言っておけば良いだろう。


「そうするしかないわよね。でも制御は出来てるじゃない」


 セラはケイスを責めた後には、すぐに褒めてくれた。

 セラの切り替えの早さに感謝して、ケイスも胸をなでおろした。


「才能って奴かもな。もっと日の目を浴びる才能が欲しかったけどな」


 自虐的に笑うケイスに、セラは軽く肩をすくめて言い返した。


「良いじゃない。あるだけマシよ」


 ケイスは軽く目を見張り、少し頭を掻いた。


「ま、そうなんだがな」


 無いよりは、断然マシだ。

 他の人間には何を言われるかは分かった物ではないが、セラもディールも気にもしないで居てくれる。

 ケイスも、この二人の前でしか使う気はない。


「とにかく、そろそろ時間だし野営しましょう。明日も少し探してなにも無かったら終わりで良いでしょ」


 話しはそれまでと、セラはグラホーンの死体から角を回収してつつ、太陽の位置を見あげた。


「ああ、そうだな」


 ケイスとセラはグラホーンの角を回収し終えると、程よい空き地を探して野営の準備を始めた。

セラさん、ゲロ強です

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