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忘れえぬ絆  作者: rourou
第一章 逃亡
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05話 道中

話が動くところまで巻いて行こうと思いました

 日が暮れはじめる前に、ケイスとセラは野営の準備を始めた。

 小川のほとりに馬を止め、水を飲ませて休ませると、二人してテントを張り始める。

 寝るだけの、小さな小さなテントだ。

 二人とも何の問題も無く、迅速に張り終える。

 変わったことと言えば、張り始める前に、セラが「一緒に寝る?」と悪戯っぽく聞いて来たので肩をすくめてやり過ごしたくらいだ。

 とても魅力的ではあるが、鮨詰め状態になることは間違いが無い。

 からかわれていることも分かっているケイスとしては、何も言わずにやり過ごすことが正解だろう。


 テントを張り終えると、それぞれ野営の準備に動く。

 ケイスは馬の世話をしてやり、セラは焚き火の薪を集め始めた。


 集めるとはいっても、魔法で風を操り、そこかしこから枯れ木を集めて来るだけだ。

 セラは一歩も動かず、見る見る木が集まって来ると言う異様な光景である。


「お疲れさん」


 働いていると思われる精霊に思わず呟き、ケイスも肉体労働に励んだ。

 その為、背後で枯れ木の運ばれる速度が上がったことには気づかなかった。それを楽しげに見るセラの顔にも。


 ケイスが、セラの集めた枯れ木に火をつけた頃に、日は落ちた。

 そしてテキパキと食事の準備をするセラに追いつくために、自分の荷物から食事を取り出し、火にくべた。

 食事が出来上がるまでの暇つぶしに、ケイスはセラに話しかけた。


「まだ他の男共に話しかけられるのか?」


 セラはまず、エルフと言うことで目立つ。

 加えて、その美貌によって、リエラと学園の人気を二分しているのだ。

 更に、エルフは貧乳だと言うのが一般的だが、セラは普通に胸がある。

 巨乳ではないが、一般女性程度のサイズがあるのだ。


 しかし、社交的なリエラと違って、セラは他人には冷たい。

 話しかけても無視することが大半であるし、しつこい相手は実力で追い払う。

 入学当初は男達を群がらせては、医務室送りにしていた。

 最近では周りも学習して、セラは遠くから眺められるだけになった。


 が、時々無謀な勇者は現れる物だ。

 何時もからかわれている意趣返しも、多分に含んでいる。


 セラはジロリとケイスを睨む。

 普通の男であれば竦んだり喜んだりする冷たい視線も、ケイスにはどこ吹く風。


「減ったわ。……でも、最近また増えた」


 セラは、実に鬱陶しそうに呟いた。

 ケイスは少し目を開いた。

 また増えたとはどういうことだろうか。しつこく声をかけた結果の末路は、学園中に響き渡っているというのに、そんな命知らずなことをする奴が居るのか。

 一瞬そう考えたが、ケイスはすぐに気付いた。

 そんな噂を知らなければ、声をかける者も居るだろう。


「新入生か」


 接点が殆どないケイスには関係のないことだが、最近新入生が入って来たはずだ。

 何も知らない無垢な少年がセラを見ればどうなるか。

 たぶん、キラキラと輝いて見えたことだろう。

 そして砕け散ったと。


「たぶんね」


 セラも新入生に興味など欠片も無い様だ。

 ケイスやディールの様に、馬が合う者も居るかもしれないのに。

 しかし、ただただ鬱陶しいと思っていることは、表情から読み取れる。


「あれは?熱心に声かけて来る奴も居たよな、何だっけ、ズランド、だったか」


 ケイスは記憶をほじくり返し、何度も何度もセラに医務室送りにされている同級生の顔を思い出した。

 名前は自信は無いが、顔は良く覚えている。

 かなりの美形で、それを自覚している勘違い系の馬鹿だったはずだ。


 「私に釣り合うのは君しか居ない!」とか言ってセラに詰め寄っていたこと覚えている。

 それを見たケイスは気にせずに通り過ぎたが、しばし後に後ろから爆発音が響いて来たはずだ。

 それからしばらく後、セラと親しいケイスにも何やら因縁をつけて来るようになった。

 「お前の様な出来損な」と言った辺りでセラの魔法に叩き潰され、物理的に地面にめり込んでいた。

 その後顔面を踏み砕かれて鼻と前歯を砕かれ、股間を精霊に殴打されて居た様な。


 あれからも諦めずに声をかけているのだろうか。


「知らないわ」


 セラは実にそっけない返事を返してきた。

 ケイスはその顔をよくよく観察してみたが、ただ淡々と言っているだけの様に感じた。

 思い出そうとするそぶりも見せない。

 セラにとっては、人間と言う種族は、完全に『友人』と『それ以外』の二種類に分かれている様だ。


「不憫なことだぜ」


 数多の玉砕していった男達を想い、ケイスは嘆いてやった。

 自分はそのセラと友人である、と言う優越感も、恥ずかしながら浮き上がって来る。

 セラは、それを見透かす様に薄く微笑んだ。


「興味無いもの。普通の人間はね、私達にとって、とても汚く感じるの」


 セラは、慌てて顔を背けるケイスの横顔に、楽しそうに言葉を投げかける。


「俺は平気なのにな」


 内心を見透かされたと感じるケイスは、頬を僅かに染めながら相槌を打つ。


「言ったじゃない。貴方は違うわ。とても、面白いもの」


 ケイスがセラの顔を見ると、実に楽しそうに、にんまりと笑っていた。

 ケイスは、先ほど己の抱いた醜い優越感を読み取られたのだろうと判断した。

 しかし、セラはそれを嫌うでも、見下す訳でも、無視するわけでもなく、楽しそうに笑っている。


「違いが分かんねぇ」


 ケイスは再びセラから目を逸らした。

 すると、横顔に感じる視線に、更に楽しげな雰囲気が加えられたように感じる。

 いつの間にか、逆にからかわれている。


「そうね。私も分からないわ。初めは普通の人間と同じだと思っていたんだけどね」


 セラはそう言って、ようやくケイスから目を逸らして、炎の踊る焚き火を見つめた。

 魔法で薪を足しながらも何事か思い出しているのだろう、クスクスと笑い始める。


「普通の奴らより、性格が悪いからか?」


 確実に、ケイスにとってはろくでもないことを考えているのだろう。

 意趣返しに、自虐ネタで突っかかった。

 するとセラはあっさりと頷いた。


「うん。でも不快じゃないのよ。そうね、悪意が無いからかしら?」


「結構あると思うぜ?」


 むしろ悪意を持たなかった日など、自分が役立たずだと知ったあの日から思い返しても、一度も無い程だ。


「私には無いじゃないの」


 しかし、セラはあっさりと言ってのけた。

 ケイスは目を丸くしてセラを見ると、セラは「何当たり前のこと言わせてるのよ」と言う目をして、こっちを見つめていた。

 それから目を逸らし、ケイスは夜空を見上げて記憶をほじくり返した。

 確かに、セラに対してそう大きな悪意を持ったことは無い。

 お近づきになりたい、とかも考えたことは無い。気付いたらこんな関係になっていただけで、特別仲よくしようなどとは考えたことは無かった。


 からかわれてイライラすることはあるが、それも翌日まで持ち込むほどのものでも無い。寝れば忘れるレベルだ。

 しかしそれは、セラが他の奴らみたいにケイスを見ないからである。

 『不出来な勇者の息子』としてではなく、『ケイス』として見てくれている。

 ディールについても同様だ。

 彼がケイスを何と思っているかは怪しいものだが、それでも彼からも、いつも周りの奴らがする、あの嫌な目で見られることは無い。

 だからこそ、ケイスはこの二人を友人だと思っている。


「そりゃま、そうだが。普通だろ」


 ケイスがセラに視線を戻してあっさり言うと、セラはくすぐったそうに笑った。


「普通じゃないわ。周りのは下心ばっかりだもの。それに、それだけじゃないわ」


 言葉の中ほどで多少目と声が冷えたが、すぐに笑みを取り戻す。


「なんだよそりゃ」


 首を傾げるケイスに、セラは首を振った。


「色々よ、色々。……あと、ディールも平気ね。貴方とはまた違った感じだけど……。貴方達って本当に人間なのかしら?」


 ケイスはその『色々』とやらを追求したいところであったが、視線で訴えても微笑みに軽くいなされた。

 セラは答えるつもりはない、と理解したケイスは、追及は諦めて肩をすくめた。


「間違いなく人間だぞ。ディールもそうだろ」


「そうよねぇ。不思議ねぇ」


 セラがそう呟いたところで食事が完成した。


 二人してもそもそと食事を取った後。

 ケイスは腹ごなしに軽く体を動かし、セラはそれを眺めながら精霊と何やら会話をしていた。

 交互に水浴びをし、勿論ケイスは覗きと言う命知らずな行動を取ることは無く、どこか残念そうに帰って来るセラを確認した後、睡眠を取ることにする。

 周囲の警戒は、セラが精霊にお願いしてくれる。

 神聖魔法でも暗黒魔法でも出来ない、精霊魔法使いだけに出来る便利な便利な技だ。

 有難く精霊に任せ、ケイスはついでに精霊が居る、とセラが言う虚空に向かって頭を下げた。

 セラは何がおかしいのか、ケラケラと笑って、「だから貴方って素敵」と言っていた。


 そして、ケイスが自分のテントに入ろうとしたところで、セラが声をかけて来た。


「ケーイース。一緒に寝る?」


 セラを見ると、昼間以上に薄着だった。

 薄いインナーの様な服だけを着ていて、細い肩口から剥き出しになっている細い腕は、闇の中でも白さを見て取れた。

 全体的にすらりと細いのに、胸だけはしっかりと自己主張を行っている。

 その胸の膨らみに押される生地は、目を凝らせば透けて見えそうな程の薄さに感じる。

 実際には、如何に目を凝らしても透けて見えはしないが。


 しかし、そんな魅力的な格好をしている美女にパチンとウインクまで決められたケイスは、セラから目を引き剥がした。


「死にたくないんでな」


 するとセラは、『心外だ』と言わんばかりに目を見開いた。


「あら、失礼ね。ケイスなら半殺しくらいで済ませてあげるわよ」


 ケイスは微かに頬を引き攣らせた。



 以前、学園でセラの入浴を覗こうとした不届きものが居た。

 セラは精霊で常に周囲を警戒しているので、一瞬でバレた。

 不届きものは、セラの指先すら見ることもできなかったそうだ。

 両手両足と顎と肋骨を砕かれ、全裸にされて、医務室にぶち込まれたそうだ。壁をぶち破るほどの勢いで。


 また、以前に二人で演習に来た時、セラが水浴びをしている時に獣に襲われたことがある。

 迅速にそれを察知したセラから、魔法で獣の来る方角を教わり、問題なく対処しようとしたら。

 ケイスの足元に穴が開き、そこからもう一匹獣が飛び出してきたことがある。

 セラも地面の中までは警戒していなかったのだ。


 ケイスは慌てて回避した。

 回避した先は、水浴びを切り上げたセラが、全身を濡らしながら下着を穿いているところだった。

 その時に、セラの胸はエルフとしては信じられないくらい大きいことを知った。

 セラはひくりと口を引き攣らせたが、迅速に下着を穿き、腕で胸を隠しながら怒りの魔法を行使した。

 獣二匹は、一瞬で潰れたカエルになった。


 その後平謝りするケイスに、服を着たセラはビンタ一発で許してくれた。

 紅葉が頬にしっかり残るほどの威力だった。

 あの時は不可抗力だった。それ以降、セラは地中の警戒もするようになったのだが。

 ……あれは痛かった。


「一発で許してあげる」


 と、こちらに笑いかけた直後の電光石火の一撃。

 暫く耳鳴りが止まなかった程だ。



 もし何かすれば、ビンタ程度で済むわけがない。下手すると再起不能レベルだ。

 ケイスはぶるりと体を震わせながら、命惜しさに逃げの一手を打った。


「それはありがたいことで。ま、折角テントを張ったんだ、俺はこっちで寝ることにするぜ」


「じゃあ、私がそっちに行っちゃう?」


 実に楽しそうにセラが追撃して来た。

 今にもこちらに向けて歩いてきそうな気配まである。

 ケイスは迅速にテント内に逃げ込んだ。

 意気地なしと呼ぶなら呼べ。


「女の子に寂しい夜を一人で過ごさせるのね。酷い男だわ」


 これみよがしな溜め息と共に、からかう声が聞こえて来た。


「はいはい、俺は酷い男ですよ。おやすみ」


 ケイスは体を横たえ、寝る体勢を整えて目を閉じた。


「おやすみなさい。――責任とってくれるなら、手を出しても良いわよ?」


 ここ最近、セラはこちらの理性を試すような言動を繰り返す様になった。

 乗ったら即友情崩壊だろうに。ついでにケイスの人生も崩壊しそうだ。


「俺に甲斐性が身につくまで待ってくれ」


 ケイスはそう言うと、あっさりと意識を手放した。

 夢の中に逃げ込むのが一番だ。


「ふふっ。期待して待ってるわ」


 薄い意識で、どことなく熱が込められた声が聞こえて来た気がした。

フラグ!フラグ!

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