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忘れえぬ絆  作者: rourou
第一章 逃亡
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04話 言葉

わしの予約投稿はまだあるぞ…!

 セラと別れて少し歩くと、正面に人影が立っていた。

 誰かを待っているのだろう。ケイスは、恐らくリエラの取り巻きやら何やらが絡みに来たのだろうと思ったのだが。

 近づくと、違うことが分かった。


「リエラ。お前、どうしてここに……」


 取り巻きではなく、妹本人が道の真ん中に立ちふさがっていたのだ。


「遅かったですね。兄さん」


 リエラはケイスの質問には答えず、責める様にかすかに唇を尖らせた。


「練習していてな」


 ある意味では嘘は言っていない。

 しかし、リエラの期待に沿えるものではないので、ケイスはさり気なく目を逸らした。


「……そうですか。それは、お疲れ様です」


 リエラは一瞬疑わしそうに様子を窺ってきたが、嘘は言っていないと判断してくれたようだ。

 そして、続けて何かを言い出そうとするリエラの機先を制するように、ケイスが言う。


「こっちは男子寮だぞ。女は立ち入り禁止だ」


 リエラは一度開きかけていた口を塞いだ後、一拍おいて頷いた。


「分かっています。だからここで待っていたんです」


 『待っていた』と言われてしまった。

 そのままリエラをやり過ごそうとしていたケイスの逃げ場を先に封じた形になった。


「……もう日も暮れているぞ。早く家に帰れ」


 どうせケイスにとっては痛い会話になることは間違いない。

 話題を逸らしつつも、適当にあしらおうとケイスは考えたのだが。


「兄さんは、いつ帰って来るんですか」


 リエラは直球で本題を投げつけた。

 すぐに煙に巻いて来る兄に対する手段は身に染みて覚えているのだろう。


「……今帰ってるところだろう。ほら、すぐそこだ」


 ケイスは、顎をうごかしてリエラの背後にある寮をさした。


「家に、です」


 リエラは軽口には付きあわない。

 ひたすら真っ直ぐ突っ込んで来る。


「……次の休みがあるだろう」


 ケイスは言い訳がましく呟いた。

 しかし、これ以上は言わない。

 彼には心休まらぬ実家に帰る気など無かった。


「実習に行くと、言っていませんでしたか?」


 聞いてたのかよ。

 ケイスは妹の地獄耳に内心舌打ちをした。

 それに、普段ならもっと素直で、すぐに諦めて帰ってくれるのだが、今回はやけに意固地になっている気がする。


 ケイスが何事か言い訳を考えている間に、リエラは続けて口を開いた。


「何故、兄さんは帰って来ないのですか?全然顔を見せないって、母さんが心配しています。父さんだって、帰って来てるんですよ」

 リエラが意固地になっている理由は分かった。

 親父が帰って来ているので、この機会に一家の団欒とやらを楽しみたいのだろう。

 ケイスにとっては針の筵の様に感じる、絶対に参加したくないものに。


「へぇ」


 絶対に帰らないと言う覚悟を決めたケイスは、軽くいなした。


 すると、その雰囲気をリエラは察したのだろうか、キッと睨んで来たが、


「落ちこぼれは遊んでいる時間は少なくてね。少しでも学園に残って練習していたのさ」


 ケイスは、先ほどリエラに言われた言葉を逆手にとった。

 すると、リエラの眉がキリキリと吊り上がる。


「……兄さんは、手を抜いているだけでしょう」


 リエラの喉から、激情を無理矢理飲み込んだ、震える声が漏れ出した。


「……はあ?」


 ケイスは眉をしかめた。

 すると、リエラは爆発した。


「やれば、出来るはずです!父さんも、母さんも、私も出来るんですよ!なら兄さんだって!」


 リエラが熱くなるのとは正反対に、ケイスの視線は冷えた。


「出来ねぇよ。俺には、お前達みたいには出来ねぇ」


 何度も何度も繰り返した問答だ。なのに、ケイスが思ったよりも、硬く冷たい声が出た。

 今更なことでも、存外にショックなことらしい。


「そんなはずは!」


 リエラの言葉を、ケイスの溜め息が押し止めた。


「お前が物心つく前に、親父とお袋には教わったよ。でも、出来なかった。お前はあっさり出来たのにな」


 ケイスにあるのは諦観だった。

 自分は違う。この家族達とは、全然違うのだ。

 昔から何度も何度も抉られた傷を、また掻き毟られた気分だ。


「……知ってます。でもきっと、どこかおかしいところがあるんです。私も一緒に――」


 しかし、リエラは信じない。

 昔から素直で無垢で、信じ込みやすい子だったが、歳をとってもそう変わらないらしい。


「無いよ。俺は全部理解できてた。それは親父もお袋も知ってる。でも、出来なかったよ。才能がないだけさ」


 暗黒魔法と同様に、神聖魔法も原理は理解はできる。

 理解は出来るだけで、決して発動しないのだ。


 暗黒魔法を習得し始めてからようやく、ケイスは未練たらしく行っていた神聖魔法の習得を、完全に諦めた。


「父さんたちだって間違ってることがあります!」


「他の人にも聞いたよ。何人もな。でも、間違ってないってよ」


 リエラはいくら言い募るだけで納得しない。

 『何で』『どうして』と非難に塗れた瞳で睨み付けて来る。


「……帰りましょう。家で私も一緒に見てみますから」


 ケイスは、リエラとの会話を諦めた。

 妹には、自分の言葉は通じないのだ。今更ながらにそれを理解した。


「時間の無駄だ。お前も、落ちこぼれの兄貴なんざ放っておけ」


 リエラの脇を抜け、通り過ぎる。


「兄さん!」


「親父とお袋には適当に言っておいてくれ」


 ケイスは振り返りもせずに言い残す。


「兄さん、話はまだ!」


 後ろでリエラが何事か叫んでいるが、もう寮の敷地内だ。

 優等生のリエラは規則を破ることもできず、しばらくケイスの背中を睨んでいたが、やがて諦め帰って行った。




 二日後の早朝。

 日が昇って、まだそう時間も経っていない学園には、人の気配は少ない。

 その学園の裏門で、馬を二頭連れたケイスが友人を待っていた。


 周りの人が好きではないケイスと、むしろ人が嫌いなセラが待ち合わせをする時は、大体この時間が主になる。

 その通りに、セラもすぐに現れた。

 表情など欠片も読めない鉄の無表情だ。


「よう」


 動きやすい服装に、多少の荷物。腰には剣を吊ったケイスが気安げに手をあげると、セラの無表情が融けた。


「おはよう。良い天気ね」


 セラもケイスと同様に動きやすい服装だ。

 腰にある剣は細く、細腕でも使える様な刺突剣だ。


「雨だったらかなわないぜ」


 ケイスは軽口を叩きながらセラの荷物を受け取り、馬の一頭に括りつけはじめる。


「そうね」


 セラも軽口を叩きながら、擦り寄って来る馬の顔を優しげに撫でまわした。

 馬と言うか、動物に良くモテるセラは、もう一頭の馬にも擦り寄られ、苦笑しながらも優しく撫でている。

 それを視界の端に捉えながらも、ケイスは荷物を括り終えた。


「よし、行くか」


 一頭の馬の背を叩き、身軽な動きで背に乗り込む。


「ええ」


 セラももう一頭に身軽に跳び乗って頷いた。




 先頭をゆったりと走るのはセラだった。

 そのセラに微かに遅れて並走するケイスは、セラに向かって声をかけた。


「で、どこ行くんだ?」


 風音にかき消されない様に、怒鳴る様に。

 するとセラは呆れた様な顔を浮かべて、ケイスを見つめた。


「やだ、調べてないの?」


 セラは怒鳴らなかった。

 代わりに魔法を使ったのだろう、彼女の呆れた声がケイスの耳元に届いた。


「セラさんが調べてくれていると思っててね」


 ケイスの丸投げ発言に、セラは苦笑を浮かべた。


「はいはい。ルフレンよ」


 ケイスは目を丸くした。


「ルフレンって……。泊まりか?」


 ルフレンと言う村は、のどかな農村だ。

 問題は、学園との距離である。

 一応簡易テント一式も持って来ているが、正直日帰りで行けるような場所だと考えていた。

 と言うより、普通の学生は近場を選ぶものだ。


「あら。日帰りにする?」


 セラは悪戯っぽく笑った。

 馬上で揺れる視界の中でも、その笑顔の輝きはケイスの目に眩しく映る。

 ケイスは無理矢理その視線を剥がして渋面を浮かべた。


「それは勘弁してくれ」


 日帰りとなると強行軍だ。

 最速でも深夜にルフレンに到着し、夜の森を探索して戦い、その足で戻る。

 どう考えても、明日の朝日は馬上で拝むことになるだろう。


「はいはい。適当なところで野営ね。明日の昼には着くようにしましょう」


 セラは清楚に微笑みながら言う。

 その見た目の割に、彼女は活動的なのだ。


「ああ、分かった。でも、なんでわざわざルフレンなんだ?もっと近くでもいいだろう」


 野営することは納得したが、そもそも何故ルフレン等と言う場所を選んだのか。

 ケイスが問いかけると、セラはあっさりと言った。


「何だか困ってるみたいだからよ。強い人に来てほしいって書いてあったしね」


 人間嫌いの癖して、彼女は良く気を利かせる。

 表立って堂々と手助けなどしないが、気付かれない範囲で、裏でこっそりと手助けなどはしたりする。

 態度には出さないくせにそういうことを自然に行う彼女は、恐らく育ちが良いのだろうなと思いながらも、ケイスが口に出したのは別の事だ。


「……面倒なのが出たのか」


 そこらの獣くらいならば、その村の男衆が何とかするだろう。

 それをせずに救助を求めているということは、一般人では手に負えない何かが出たと考えるのが妥当だろう。

 表立って魔法の使えないケイスは、どんな獣が出て来ても接近戦を強いられることになる。

 表情を引き締めて呟いたのだが。


「さあ?行ってみたら分かるわよ。私達なら大丈夫よ」


 セラは気楽な様子で肩をすくめた。

 ケイスも、そう言えば一人ではないのだと考え、表情を緩めた。


「セラだけでも大丈夫だがな」


 実際、何が出て来てもセラ一人でどうにかなるだろう。

 接近される間も無い筈だ。


「ふふ。なんなら貴方もやってみる?」


 セラはちらりと流し目を送って来る。

 『暗黒魔法で』と言う主語を読み取ったケイスは苦笑を浮かべて首を振った。


「目立つだろうが」


 セラもそれは分かっているのだろう、一度頷いた。


「そうよね。でも、こっそりやってみるくらいならいいんじゃない?一度は実戦でも使っておかないと、いざと言う時困るわよ」


 ケイスは少し考えた後に頷き返した。


「そうだな。考えとくよ」


 余裕があれば、そうすることも視野に入れようと考えた。

泊まりでデートだいやっふぅ!!

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