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忘れえぬ絆  作者: rourou
三章 別れと再会
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04話 覚悟

 ダレクは戦ってすぐに思った。

 強く、上手い。

 フレイシアと同等の威力の魔法を放ちながらも、あの時戦った彼女の様な戦い方はしない。


 三人がかりで放った魔法を、グレキオスと名乗った青年は実に容易く受け流してみせた。

 お返しとばかりに飛んで来た魔法は、どういう原理か着弾の瞬間軌道を変えて、防御の薄い個所を狙って来る。


 一人では防ぎきれいない威力の攻撃だ。

 二人でも、反応が遅れれば防ぎきれぬだろう。

 三人いて、ようやく安心して受け切れる。

 よってダレクが離れる訳にはいかない。

 つまりは、接近が図れない。


 そればかりではない。

 苦し紛れに個人で魔法を放つと、容易く受け止めれるはずのそれを、あろうことかグレキオスは、ダレク達の後方に向かって受け流してみせた。

 そう、街に向かって。


「ははは!!自分たちで街を壊してどうするんですか!?あっはっはっは!!」


 迂闊に攻撃することすら出来なくなった。

 飛ばされた魔法は、リエラたちが必死に喰いとめている様だ。

 しかし、自分たちの魔法の威力が大きすぎる。

 全て防ぐことは叶わず、街が崩れていく。


 フレイシアと戦った時とは、違いすぎる。

 周りに気にするものがあるだけで、こうも違うのか。

 理性があるだけで、こうも苦戦するのか。


 ギリッと、ダレクの歯が食いしばられた。

 何とか向こうの攻撃のタイミングを、特徴を覚えて接近しなければ。

 遠距離では街に被害が出る一方だ。


「でも壊すならこうでしょう?」


グレキオスはそういって、あらぬ方向に手を向けた。


「くそっ!!」


 ダレクは全身をばねにして跳んだ。

 直後に、グレキオスの腕から極大の黒槍が飛ぶ。


 ダレク一人では防ぎきれない。

 だからダレクは、グレキオスの様に横から干渉して必死に逸らす。

 魔力がぶつかり、拮抗して、押しつぶされる。

 ダレクが全力を振り絞り、魔力を込めて込めて。


 ようやく逸れた。

 逸らしきることは出来ず、幾つかの建物の屋根をぶち抜いて、黒槍は彼方へ消える。


「ほほぅ。やるものですねぇ」


 グレキオスは感心した、と顔に書きながらも、今度はサテナとシトラスに向けて黒槍を打ち放つ。


「く――――っ!!」


「ぬうっ、あぁぁああ!!」


 二人は渾身の魔法でそれを防ぐ。

 グレキオスはそれを見て、またあらぬ方向に掌を向ける。

 接近しようとしていたダレクは、慌ててそちらに駆ける。


 それを幾度繰り返しただろうか。

 ダレクが、サテナが、シトラスがようやくタイミングを掴みかけてきたころ。


 グレキオスは言った。


「ところでお二人は娘さんは大事ですか?息子よりも」


 思い出した。息子が居たことを。

 突然のことに心が揺れ動く。

 ダレクとサテナは、必死に動揺する心を諌める。

 声を返すほどの余裕など生まれる訳も無かった。


「試してみればわかりますかね」


 グレキオスは笑顔で言った。

 そして気付いた。

 こちらがタイミングを体で覚えていると同様に、少しずつ、少しずつ移動させられていた。

 ――今、グレキオスの手の先には誰が居る?


 これまでで最大規模の黒槍が放たれた。

 グレキオスの全身全霊の魔法だろう。

 さしもの彼とて、この魔法の直後にすぐ動くことはできない。

 つまり、これをやり過ごせば。

 グレキオスを殺すことが出来るのだ。


 だが、


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ダレクとサテナは、黒槍の前に跳び出した。

 微かに遅れて、シトラスも。

 そして三人が三人、全身の力を振り絞って障壁を張る。


 防いだ。防ぎきった。

 安堵もそこそこにグレキオスを見ると、案の定、彼は先ほど体勢のままで硬直していた。

 ただ目だけが、微かな驚きに見開かれていた。


「ッガァァァア!!!」


 それをダレクは隙と見た。

 なるほど確かに、即座に魔法は使えまい。

 だが体は辛うじて動く。

 だからダレクは、思いっきり剣をぶん投げた。


 グレキオスはそれを見て慌てて避けようとして、

 それが叶わず直撃して、

 でろりと溶けた(・・・・・・・)


 三人が三人、呆気にとられた。

 何が起きたの理解できず、呆然とした。


 その三人に、横から小さな小さな黒い槍が襲い掛かっていた。

 真っ先に気付いたのは、案の定ダレクだった。

 ダレクは三人纏めて貫くコースで飛来する槍を目視すると同時、背後のサテナとシトラスを突き飛ばした。


「――――?!ガァッッッ!!」


そしてダレクの右肩を貫いた。


「なんと!あれで間に合うとは……。いやはやどちらが化け物か分かりませんね」


 槍の飛んで来た方向から、グレキオスの声があった。

 微かに肩で息をしている。

 さしもの彼も、先ほどの攻撃からは即座に復帰できない。


 だが成果は大いにあった。

 勇者の右肩を貫き、利き腕を使えなくした。

 治療をかければ即座に治るだろうが、そんな暇を易々と与えるつもりはない。

 そして時間を稼げば稼ぐほど、血は失われていく。


 シトラスが憤怒の形相でダレクの前に立ち、サテナがダレクに駆け寄った。

 そして、遠目にそれを見ていたリエラは、


「――父さん!?」


叫び、飛び出した。


「来るなぁ!!」


 ダレクは後ろも見ずに叫んだ。

 正面に、巨大な槍があるのだから。

 ダレクは気力を振り絞って、障壁を張った。


「下がっていなさい!!」


 サテナは治療を中断して、即座に障壁を張る。

 ダレクとシトラスの、それと重ね合わせる様に。


「くっ!!」


 怒鳴られたリエラは、ビクリと身を震わせて一瞬立ち止まった。

 しかし即座に歯を食いしばり、再び駆けだした。

 そしてサテナの背後に立ち、食い破られそうな障壁を、自らの障壁で補強する。


 それでどうにか防ぎきれた。


「母さんは治療!何とかするから!!」


 リエラはグレキオスを睨みながら叫ぶ。


「――ッ」


 そして、そうするしかないと即座に理解したダレクは、不甲斐なさに歯を食いしばり、サテナが動揺の顔で、ダレクの治療を再開する。

 ダレクの傷はすぐに治った。

 しかし、ダレクは血を失いすぎた。

 あっという間に防戦一方となっていく。


 嫌な嫌な拮抗が続いた。

 こちらから打てる手は無く、とは言っても向こうもこちらを崩せはしない。

 ただただ少しずつ街が壊れていき、精神をすり減らしていく状態が。


 そんな折に、


「そう言えば」


 グレキオスは攻撃の手を突然止めて、世間話でもするかのように言った。

 突然の出来事に、リエラたちは訝しむ。


「まだ覚えていますかね?君たちの息子が魔王の生まれ変わりで、私もそうです」


 また思い出した。

 心が騒めく。心臓を針で突かれた様に痛む。

 また動揺を誘うのかと、心を引き締めようとしたところで。


「……二人だけだと思いました?」


グレキオスが笑った。


 次の瞬間、リエラは背中から突き飛ばされて弾け飛んだ。


「なっ――――?!」


 背中に猛烈な衝撃があり、次に、顔に鉄板でも叩きつられた様な衝撃があった。

 何が起きたのか理解できていなくても、体が勝手に反応した。

 気付けば、リエラは立っていた。


「――――え」


 そして視線の先に、何もないことを理解した。


「と、父さん!!母さん!!シトラスさん!!」


 一瞬前まで居た人が居なかった。

 否、良く見れば、地面に抉れた跡がある。

 それを追うと、三人が倒れていた。

 ダレクが血を吐き、シトラスが血を流し、サテナが倒れ伏したまま動かない。


「あ、ああ……」


 重傷だ。いや、致命傷かもしれない。

 リエラは全てを忘れて駆け寄ろうとして、


「いやあ、騙し討ちみたいで申し訳ありませんね。すいませんね、ディール君」


 聞こえて来た声に、ギクリと身を竦ませた。


「…………」


 恐る恐る、声の方向を見る。

 グレキオスが居た。

 そしてその隣に、見覚えのない少年が立っていた。

 やる気の無さそうな、全てがどうでも良さそうな、見るからに陰気そうな少年が。

 そこに居た。

 そして、その無感動な瞳の奥の奥にある、感情を見て、リエラは身を竦ませた。


「くっ!!」


 グレキオスと、同じ目だった。

 恐らく同類なのだろう。

 同じ魔法すらも使えるのだろうか。


 リエラ一人でもグレキオスの相手をすることが不可能だと言うのに、まさかここに来て敵に増援があるとは。

 内心の諦めを噛み殺して、リエラは必死に心を振り立たせた。


「なんで、こんなことを!?」


 リエラには、グレキオスとダレク達の会話は聞こえなかった。

 ただわかるのは、彼等が狂気に身を任せているということだけだ。

 だから叫ぶ。


 グレキオスはきょとんと眼を瞬いた。

 ディールと呼ばれた少年は、ちらりとリエラを、

 ただ微かに、憐れむような目で見た。


「そうですねぇ。大切な人を殺された。裏切られた。色々とありますが……」


 グレキオスが独り言のように呟く。

 そして、名案を思い付いたとばかりに手を打ち鳴らす。


「ああそうだ。君以外の人を殺してみましょうか。半分くらいは私達の気持ちも分かりますよ?」


「――は?」


 リエラは何を言われたのか、一瞬わからなかった。

 グレキオスはそんなリエラに優しく笑いかける。


「ご安心を。貴女だけは殺しませんので。うん、それが良い」


 そして一人でうんうんと頷いて、楽しげに、不吉に口歪めた。


「次に会う時が楽しみになりますねぇ。……ではちょっと忙しいので、少し引っ込んでいてください」


 グレキオスの手が、リエラに向けられる。

 彼の言うことを信じるとするならば、殺すほどの一撃ではないだろう。

 それでも、リエラ一人で防ぎきれるとは思えない。

 しかも、回避すれば、後ろで動けない両親が――


「くぅっ!!」


 リエラは悲痛な顔で、歯を食いしばった。

 その覚悟を見て、グレキオスは笑みを深めて。

 そして――

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