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忘れえぬ絆  作者: rourou
三章 別れと再会
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03話 魔王

「――――――?!」


 全員の眼が向けられた。

 その先には、門があった。その筈だった。

 一度跡形も無く消し飛ばされ、最近ようやく、急増の形だけの門が造られ始めた。

 それが無くなっていた。


 そして同時に見た。

 夜の中でも、なお真っ黒な巨大な何か(・・)が、空の彼方へと消えて行くのを。


「皆は避難指示!テットさんは父さんと母さんを!私は行きます!」


 即座に反応したのは、リエラだった。

 胸の奥が騒めいた。

 あそこに行けばきっと居る(・・)

 そう思ったら、体は勝手に駆けだしていた。


「一人では――!」


 テットが何事か叫んだが、構いはしなかった。

 その代わりに、多少遅れて付いて来る人が居た。


「私も行くぞ」


 レイリアだった。

 リエラは振り向かぬままに一つ頷き、加速した。




 リエラはいつしか、並走していたレイリアを置き去りにしていた。

 避難してくる人混みを縫って走り抜ける。


 そして辿り着いた南門跡。


(違う!!)


 真っ先にそう思った。

 そこには既に、ダレクが居た。シトラスが居た。サテナはまだいないが、時間の問題だろう。


 そして向かい合う様にして、青年が立っていた。

 一目で学者であろうと思える服装だ。


 ダレク達が緊張しているのと対照的に、青年は微笑んでいた。

 リエラは、ダレク達とほぼ同時に辿り着いたのだろう。


「……コレは、君がやったのか?」


 ダレクは油断なく青年を睨みながら言った。

 まだ剣は抜いてはいないが、何時でも抜けることはリエラにはすぐに分かった。


「ええ、そうですよ」


 それを知ってか知らずか、青年は頷いた。


「何故だ?どうやってだ?」


 ダレクが顔を引き締めて、問うた。

 気になることは気になるのだが、時間稼ぎが主な目的だ。

 こうして話している間にも避難は進み、そして増援は続々と集まっていく。


「ええ、ここから始めようと思いましてね。方法は、魔法ですよ?それ以外では難しいでしょう?」


 青年は気楽な様子で自ら再現した大穴を見た。


「その魔法ってのは……」


 ごくりと、誰かの喉が鳴った。

 神聖魔法でこの規模のことを行えば、猛烈な光源となっただろう。

 だがそれを見た者はいない。逆に、暗闇を見た者しか居ない。


「暗黒魔法と呼ばれていますねぇ」


 青年はあっさりと言った。

 ダレクが、シトラスが眉を歪めた。

 全員が青年を見る目に、はっきりとした驚愕が灯った。


「……何をする気だ?」


 ダレクが問う。

 すると、青年は笑みを深めた。

 それを見て、リエラはゾッとした。

 顔は笑みだ。だが目の奥が笑っていない。ぐつぐつとした重い感情が煮えたぎっている。

 それが分かった。


 リエラだけではない。

 その顔を見た者は、気圧される様に後ずさった。

 ダレクとシトラス以外は。


「貴方は『勇者様』ですよね?」


 青年はダレクに向かって言った。


「…………そう、呼ばれているだけだ」


 ダレクは全ての意識を青年に向けながら、答える。


「ええ、聞いたことがあります。二十年前に魔王を討ち果たした英雄と」


 青年は鷹揚に頷く。

 その動作だけでも、ビクリと身を震わせる者が居た。

 それ程の重圧が、青年から漏れ出していた。


「魔王と呼ばれたものが彼女だけだと思いますか?」


 青年は周囲を見回し、狂った笑みを浮かべたまま言った。


「……何?」


 ダレクが目を剥いた。


「私はそうですね。亡霊ですよ。千年前に魔王と呼ばれていた男の、亡霊です」


 青年は自らを『魔王』と呼んだ。

 忌むべき対象として、その亡霊として自らを宣言した。


「馬鹿な」


 冗談でもそんなこと言えるものではない。

 こんな状況で、そんなことを言い出せばどうなるか。

 そんなことは考えるまでも無い。


「ええ、少しばかり不幸自慢をさせていただきますとですね?ちょっと王となって国の為に頑張ったのですがねぇ。どうも私は邪魔だったらしいのですよ。国民の皆さんに捕まって、ああ、それはまあどうでもいいのですけどね。まあ、妻を殺されましてね?ええ、子供もね、もう少しで生まれる所だったんですよ」


 青年の顔は、笑みではなかった。

 表情は先ほどから変わってはいないのに、まるで口元が裂けたかのように見えた。

 隠しようのない憎悪が、振りまかれ始めた。


「それでですねぇ。彼等私のことを魔王と呼ぶ物ですから。望み通りにしてあげたのですよ」


 青年から放たれる重苦しい空気に、ピリピリとした痛みを感じ始めた。

 気圧された数人は、更に後ずさる。


「でも、全然気分が良くならなくて。――これでも一度死んだんですよ?でも駄目でした。そこで考えたのですよ。何でなのかを。ええ、答えは簡単でした。人間が憎くなっていただけなんですねぇ」


 狂った顔で、晴れやかに青年は言い切った。

 ほぼ同時に、この場にサテナが現れる。

 彼女は雰囲気に気押されることなくダレクの後ろに、シトラスの隣に並び立つ。


 青年はそれを見て、楽しそうに言う。


「ところで、ここで始めた理由ですけどね」


 ダレクを見て、サテナを見て、リエラを見た。

 懐かしいものを見るような目で。


「違和感を覚えませんでしたか?ここ最近、何かおかしいと、足りないと思いませんでしたか?あなた達は」


 そして言われた言葉に、家族は一様に息を呑んだ。


「……どういうことだ?」


 既に何か攻撃を受けていたということだろうか。

 ダレクが唸り声をあげる。


 青年は、それはそれは楽しそうに笑った。


「あなた達に息子が居たことを、覚えていますか?ああ、貴方にとっては、兄でしょうか?」


「ッ?!」


 そして言われた言葉に、愕然とした。

 言われて初めて思い出した。

 居た。息子が居た。兄が居た。

 でも思い出せない。存在していたことが理解できるのに、顔も名前も思い出せない。

 それでも居たことはだけは分かるのだ。


「どうせすぐ忘れますが、教えて差し上げましょう」


 それを見て、青年は一つ頷く。

 家族の目が、まるで縋る様に青年に向けられる。


「彼は、フレイシアの生まれ変わりでした」


 落とされた爆弾に、家族は絶句した。

 言われて、また思い出した。

 そうだ、あいつは魔王だったのだ。

 だから――


だから(・・・)あなた達は彼を殺そうとした。よってたかって、一人の人間を。彼は何も悪いことはしていなかったのに。知っていますよね?フレイシアも元々は、ただの少女だったとも」


 青年は嘲る様に言った。


「家族に命を狙われた気分は、どんなものだったのでしょうね。私には経験はないものですが、さぞや良い気分(・・・・)になったものでしょう」


 ニヤニヤと、悪意を隠しもせずに。

 そしてダレクは思い出した。サテナも、リエラも。

 その時の感情だけを思い出した。


 ダレクが歯を食いしばって、サテナの頬を涙が伝って、リエラが呆然と立ち竦んだ。

 その顔をじっくりと眺めて、青年は続ける。


「おや?何おかしな顔をしているのですか?あなた達が加害者で、彼は被害者ですよ?加害者らしく笑っていればいい」


 ダレクとサテナは咄嗟に何か叫び返そうとして、出来なかった。

 本意ではなかった。やりたくは無かった。でもやらなければならなかった。

 魔王は危険すぎるから。

 だからと、言い訳の様に傷ついた様な顔で、青年を見る。


「よってたかって人を殺して、笑っていればいい。それがあなた達にはお似合いだ。そうでしょう?いつも通り(・・・・・)にそうすればいい」


 青年はそう言って、ハハっと笑った。

 そして少しばかり安堵した顔をした。


「いや、でも良かった。彼のご家族だからと少し不安だったのですが。――気にせず出来そうだ」


 その顔だけには、狂気が無かった。

 だが次の瞬間、青年の体から危険な雰囲気が溢れ出し。


「守れぇ!!」


 ダレクが叫び、反射的に防御の魔法を張って。

 青年を中心に、黒い爆発が広がった。




「ああ、申し遅れました。私は千年前はグレキオスと呼ばれておりました」


 グレキオスを中心とした爆心地。

 そこで彼は、目の前に立つ三人を見る。

 グレキオスの魔法を防ぎきった勇者と呼ばれた障害達を。

 あるいは、自らを殺してくれるかもしれない者達を。


 防ぎきったダレクが何かを言おうとして、


「ああ、説得は要りませんよ?私は死ぬまで殺すだけですので」


 口を噤んだ。


 闇が迫る。光が迎え撃つ。

 街の外れで、人外の戦いが始まった。




「無事ですか!?」


 リエラは背後に向かって叫んだ。

 あの恐ろしい威力の魔法を、数人、数十人がかりの魔法で防いだ。

 正確に言えば、そのほとんどは容易く砕かれた。

 結果としてほとんどの部分を、リエラが防いだ。

 全方位だったのが幸いした。ピンポイントであれば、リエラとて防ぎきれた自信は無い。


「あ、ああ」


「ぐぅっ、うっ」


「…………」


 防いだと言っても、戦場ははるか前方。

 既に闇と光が激しく喰い合っている。

 勢いに押されてここまで押し切られてしまった。しかも、自分一人では防ぎきれなかっただろう。

 でもあそこには両親が居る。

 正直に言えば魔王とか何とか言われても、ピンとはこない。どうすればよいのかは分からない。


 あの青年は壊れていた。狂っていた。

 そしてきっと死ぬことを望んでいた。でも、ただ死ぬのは我慢ならない。

 だからああしているのだ。死ぬまで暴れ続けようと言うのだ。

 悲しい感情だ。でもきっと、彼にはそうするしか残っていないのだ。


「ここで防ぎますよ!全員立って!」


 とにかくリエラは、これ以上の余波を防ぐために構えた。

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