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忘れえぬ絆  作者: rourou
第一章 逃亡
18/41

18話 遭遇

 リエラから逃げ出したケイスは、予定通りに地下道に向かった。

 とは言っても、予定では東か西にある場所から入る予定だった。

 リエラに出会ったことで北に向かったのだが、その分タイムロスがタイムロスだ。


 それを取り戻すべく、ケイスは急ぎ駆けていたが、布で覆い隠した顔が微かに歪んでいた。

 リエラと別れてすぐに、誰かが付かず離れずの距離を維持して付いてきているのだ。

 それでも足は止めない。

 すぐにも襲い掛かって来る様子は無いし、ここで戦えば周りの人に迷惑がかかる。

 最悪の場合は気にしていられないが、出来るだけそうしたくはない。


 このままついて来るなら途中で撒く。

 それが不可能ならば、眠ってもらうしかないだろう。


 ケイスは目的通りの地下道に入り込んだ。


 中は当然のごとく真っ暗だ。

 神聖魔法ならば明りの一つでも作れるが、ケイスの使える暗黒魔法では明りは作れない。

 そもそも、魔法はぎりぎりまで使うつもりはない。

 魔法の代わりに、ケイスは実に原始的な方法を取った。

 小さなカンテラに火を灯したのだ。


 火を灯してすぐに、背後に別の明りが灯った。

 後ろから付いて来た気配の主が現れたのだ。

 ケイスはさり気なくポケットに手を突っ込み、中から小さな鉄球を一つ取り出し、手の中に隠した。

 そうしながら、ゆっくりと振り向いた。


 明りが近づくと、すぐに相手の顔は見えた。

 見覚えのある顔に、ケイスは隠した顔を歪めた。


 レイリアと言う名の同級生だ。

 学園の生徒で、リエラの取り巻きの一人。

 取り巻きと言っても、何やら格付けがあるらしく、彼女はその上位に居るはずだ。

 恐らくその理由は同性であることだけではなく、その性格と実力からだろう。


「すまないが君、先ほどから何故顔を隠しているのかな?」


 何と、普通の不審者としての対応をされた。

 なるほど考えてみれば至極当然の対応であろう。

 しかしこの状況で逃げればレイリアは追って来るだろう。

 そう判断すると、ケイスは顔を晒した。


「……ケイス。一体どういう――」


 レイリアは目を丸くした。

 それもそうだろう。

 まさか同級生が不審者の真似事などしていると想像もしていなかったに違いない。

 同時に、その反応を見てケイスは安堵した。

 少なくともレイリアはまだ何も知らないのだ。


「ちと事情があってね」


 それならばとケイスは普通にやりすごそうとした。

 次の瞬間に、ケイスは全力で地面を蹴った。


 背後から、剣がケイスの胴体を叩き切るコースで振り抜かれた。

 それを回避したケイスは頭から地面に飛び込み、飛び出した衝撃のまま地面を一回転して立ち上がる。

 意識せず放り棄てていたカンテラが地面に墜落して音を鳴らすが、誰もそれを見ようともしない。


 ケイスは冷や汗を流しながら、奇襲を仕掛けてきた相手を見た。

 こちらも見覚えのある顔だ。

 だがその表情はレイリアと違い、緊張と微かな恐怖に引き締まっていた。

 ケイスが名前を思い出す前に、レイリアが叫んだ。


「ロック!何をしている!?」


 レイリアにとっては晴天の霹靂だろう。

 恐らくはレイリアと一緒に不審者を追いはじめたロックが、知り合いと判断した瞬間に斬りかかったのだから。

 それも殺す気で。


 ロックは、レイリアの疑問には答えなかった。

 その代わりにレイリアを庇う様に背に隠しながら叫ぶ。


「レイリア!こいつがここにいることを学園長に伝えろ!」


「な、何を」


 レイリアはロックの雰囲気に気押されながらも呻いた。


「良いから行け!」


 しかしロックは取り合わず、背後に向かって叫ぶ。

 その間も油断なくケイスを睨み付けている。

 ただ向かい合っているだけなのに、緊張からか汗まで流し始めているほどだ。

 まるで街中で猛獣を見つけたような反応だ。


「ええい!分かる様に説明をしろ!」


 しかし、レイリアとしても引くわけにはいかなかった。

 彼女にとっては、ロックが急にケイスに斬りかかったのだ。

 当然ケイスは悪くなく、ロックが悪い様に見えるのだが、ロックの雰囲気からかどう行動すべきか決めかねている。


「こいつは『魔王』なんだよ!捕えてあったはずなのに、どうやってか抜け出しやがった!」


「…………まおう?」


 レイリアはぽかんと口を開けた。

 その目が呆然としたままケイスを捕えるが、ケイスは皮肉げに口を元を歪めているだけだ。

 確かに戦闘態勢を取っているが、殺意を向けられているのだから当然のことだろう。

 それに魔王は二十年前に死んだのだ。

 突然同級生が、その魔王であると言われても理解が追い付かない。


「とっとと行け!急げ!」


 しかし、ロックが急かす。

 嘘を言っている雰囲気は微塵も無い。


「だ、だが……」


 レイリアは混乱の極致に居るのだろう。

 ロックの背中とケイスを何度も見比べて動こうとしない。


「いきなり人を魔王呼ばわりとは酷いんじゃないか、なあロックよぉ」


 ケイスはロックに皮肉をぶつけた。

 いつも浮かべているような顔で。


 するとレイリアは、ケイスはいつも通りではないか、と考えるのだが。


「黙れ!……聞くな!行けっ!!」


 ロックはケイスに叫ぶと、すぐにレイリアに向かっても叫ぶ。

 焦れて、焦った声だ。早く行ってくれと縋る様な声だ。


 ケイスはふん、っと鼻を鳴らした。

 何時も何時も、見下す様な嘲る様な視線を受けて来たが、恐怖の視線は初めてだ。

 「ざまあみろ」と思わないでもないが、同時に心の柔らかい部分が傷んだ。


「……落ちこぼれのケイス君を虐めて楽しいかい?」


 だからケイスは厭味ったらしく言ってやった。

 ロックにも何度か「落ちこぼれ」と言われた記憶がある。

 彼だけではない、多くの人に言われてきたことだ。


 そこでケイスは、はたと気づいた。

 ロックがケイスを恐怖を込めて見る理由。

 無論のこと、ケイスが魔王と知っての事だろう。見張りでもしていて、交代で帰宅したところなのかもしれない。

 しかし、ロックはそれよりも何より、きっと報復されてることを恐れているのだと。

 無論、こうしてケイスと対峙することでレイリアを逃がそうとしている正義感もあるのだろう。

 それはそれで立派なことかもしれない。


 しかし、怯える理由の、その根源を悟ったケイスは冷めた。

 心底憐れむような顔でロックを見た。

 力が無いからケイスを罵倒したのだ。確かに力が無いのは事実だ。言われても仕方がないのかもしれない。

 しかし、相手に力があると知った瞬間、こうして怯える。やり返されることを恐れている。


 セラの言う通りだと思った。

 何て汚いと、そう思った。

 ケイスは少なくとも、やり返されて困るようなことは、自分からはしたことは無い。筈だ。

 少なくとも弱者と知りながら攻撃を加えたことは無い。

 ……反撃だけは存分にさせてもらっているが。


 ケイスの視線を受けて、ロックはギクリと身を震わせた。


「レイリアァァァア!!騙されるな!学園長に聞いてみろ!」


 最早絶叫と呼んで差し支えがないそれを聞いて、迷っていたレイリアは駆け出した。

 判断が出来ぬなら、判断できる学園長に聞けばいい。そう考え着いたのだろう。

 少なくとも現時点でロックからケイスに斬りかかることは無さそうだし、仮にそうなっても、魔法が使えないケイスでも凌ぐことは可能だろうと考えたこともある。


「ちっ」


 ケイスは遠ざかるレイリアの背を見て、舌打ちを鳴らす。

 しかしその視線も、ロックが体で隠す様に動く。


「で、お前は足止めってか?」


 ジロリと、ケイスはロックを睨む。

 するとロックは形相を険しくし、微かに後ずさる。

 目に見えて、顔に汗が噴き出ている。

 身体も微かに震えているようにも見える程に怯えている。


「…………」


「話もする気は無いってか」


 返事が無いことに、ケイスは呟いた。

 もう追手が来てるのかと気になったのだが、何を言ってもロックは答えないだろう。

 ロックから視線を外し、溜め息を吐いてもロックは動かなかった。

 再び睨み付けてやると、目に見えて体を竦ませる。


「魔法の一発でも打たねぇのか?」


 目を離した瞬間に魔法でも撃って来るのかと想定していたケイスは、ロックから返事が無いとは思いながら問いかけた。


「……その手には乗らんぞ」


 意外なことにロックから返事が来た。

 『その手』とはどういうことか。

 隙を見せたら殺されるとでも思っているのだろうか?

 馬鹿らしい、とケイスは思い、一歩ロックに接近した。


 その瞬間、ロックは弾かれた様に跳んだ。

 背後に。ケイスから逃げる様に。

 着地すると、すぐに再び動き出せる様に腰を落とす。

 それを見て、ケイスも気付いた。


「……時間稼ぎって訳かい」


 ケイスは呟くと同時に、ロックとは逆方向に駆け出した。

 ロックは一瞬後ろに跳びかけたが、すぐ様ケイスの後を追って走る。

 ケイスが背を向けたのをいいことに、魔法で身体能力まで強化して。


 明りも無く、強化もしていないケイスはすぐに距離を詰められる。

 しかし、それも一定距離まで。

 まるで固定したかのように、つかず離れずの距離を維持してくる。


 ケイスは急ブレーキを行い、ロックに向かって跳んだ。

 するとロックも顔に焦燥を浮かべながらも俊敏に反応し、背後に跳ぶ。

 着地と同時に背を向け、ケイスから逃げ出す。

 なりふり構わぬ全力疾走だ。

 ケイスに追いつける訳は無い。


 ケイスはすぐ様止まり、再び逆方向に逃げるが、ロックはそれにすぐ様気付き、反転してくる。

 やはり、逃げ切れるわけはない。


「面倒くせぇ……!」


 攻撃もせず、ただ見張られているだけ。

 実に厄介な状況に、ケイスは忌々しく呻いた。


 もう魔法を使って吹っ飛ばしてやるか?

 そうすると、魔王の気配とやらが出るのかもしれない。

 少なくともダレクとシトラスは察知しかねない。


 バレるのは時間の問題だろうが、レイリアやリエラが学園に到着する前に察知されるのは勘弁してほしい。

 街中で大立ち回りを演じたら、確実に魔王だと断定されてしまう。


 ケイスは再びロックとの追いかけっこを行った。

 ロックは攻撃は考えず、全ての魔力を防御に割り振ろうと考えている様だ。

 それに加え、接近されることも嫌がっている。


 そう判断したケイスは、ロックに背を向け駆け出した。

 当然追って来るロックの速度が十分な程に加速されたことを察知すると、振り返る。

 慌てて飛び離れようとするロックに対して、ケイスは隠し持っていた鉄球を指で打ち出した。

 指弾だ。

 魔法が使えず、遠距離での攻撃が出来ないケイスがこっそりと身に着けていた特技である。

 こっそり、と言うだけあって威力は大したことは無い。

 しかし、ケイスがそんなことできると知らず、また明りがあるとはいっても辺りは暗いのだ。

 ロックは、ケイスの指弾を見ることは出来なかった。


 ただ飛び離れようと力を溜めこんでいた足が地を蹴る瞬間、その太ももに鉄球がめり込んだ。


「グゥッ?!」


 ロックは何をされたのかわからなかっただろう。

 指弾は痣が出来る程度の威力しかないが、効果は覿面だった。

 飛び離れようとしていたロックは跳躍に失敗し、ビクリと体を震わせた。魔法でも喰らったと錯覚したのだろうか。

 そのまま地面に投げ出されるかと思いきや、流石にそこまでの失態は晒さずに慌てて踏みとどまる。

 しかしできるのはそこまでだ。


「悪ぃな」


 もうケイスが肉薄していた。

 ロックの喉から「カヒュッ!」と言う音が鳴り、ケイスから逃げようとして――。

 ケイスの拳が突き刺さった。


 ロックは投げ捨てられたマネキンの様に不思議な体勢で地面に投げ出された。

 念のため気絶しているか確認したケイスは、ロックの顔を見て眉をしかめた。

 顔全体で恐怖を表現しつつも白目を剥いたその形相は、それはそれは恐ろしいものだったからだ。


 ケイスはロックが昏倒していることを確認すると、鉄球とカンテラを回収し、即座に走り出した。

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