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忘れえぬ絆  作者: rourou
第一章 逃亡
17/41

17話 覚悟

うん、全然話進んでないことに気づいたから、予約時間ずらしちゃったんだ。

 懲罰房の前では、少なくない人間が集まっていた。

 そしてその全員が厳しい顔を浮かべていた。

 そこにリエラが現れた。


 リエラは初め、この時間にも関わらず何人もの人が居ること、またその重苦しい空気に眉をひそめた。

 しかし、その中に探し人が居ることに気付くと、やや気後れしながら歩み寄った。

 数人がリエラの接近に気付き、目を丸くした後、目を逸らした。

 とても、気の毒そうな顔を浮かべていた。

 リエラはそれに嫌な予感を覚えながらも声をかけた。


「学園長、父さん!……母さんも!?」


 シトラスとダレク、この二人が居ることは何となく想像していたが、サテナが居ることまでは想像もしなかった。

 リエラが声をかけると、三人が目を見張り、続けて苦悶の表情を浮かべた。

 ダレクとサテナが視線を絡ませ、サテナが俯いた。

 代わりに、険しい顔をしたダレクが呻くように呟いた。


「……リエラ」


「一体何があったんですか?……兄さんと何か関係が?」


 リエラは硬い顔を浮かべてズバリと切り込んだ。


「ッ!!」


 ダレクが目を見張り、サテナが更に顔を沈めた。

 シトラスはリエラから顔を逸らし、その表情は読めなかったが、悲壮な空気を感じる。


「やっぱり関係あるんですね?どうなってるんですか?!」


 リエラはダレクに詰め寄った。


「……『やっぱり』?どういうことだ?」


 しかし、顔を背けていたはずのシトラスが、今度は逆にリエラに詰め寄った。

 その勢いに若干気圧されたリエラが立ち止まる。


「……兄さんが言ってました。面倒事に巻き込まれた、懲罰房に居る父さんに話を聞け、って」


 シトラス、ダレク、サテナの三人が一斉にリエラを見た。

 それだけではない。

 周囲の全員が一斉に反応した。

 中でも、ダレクの反応が一番早かった。

 一瞬でリエラの両肩を捕えると、怒鳴る様に捲し立てる。


「会ったのか?!どこで!?」


「わっ!?さっき、学園の、外で、ですけど」


 ダレクの余りの形相に、リエラは呆然と漏らす。


「どこだ!?どちらに向かった!?」


 すると、間髪入れずにシトラスが問う。


「えっと、真っ直ぐだから、……北に」


 リエラは気圧されるまま正直に答えた。

 するとシトラスは眉をしかめ、深く考え込む。


「北。……どういうことだ?」


 そうしながらもぶつぶつと呟くが、すぐに思考の海から脱すると、周りの人に向かって叫ぶ。


「君たちは北に!見つけても手を出すなよ!」


 言われるや否や、数人が頷いて駆け出した。

 既にチームは組まれていたのだろう。


 リエラは駆けだす人達を呆然と見つめた後、はっと我に返った。


「あの!どういうことですか!?手を出すなって。兄さんのことですよね!?」


 未だ自分を掴む父に向かって叫ぶ。

 すると、ダレクは再び顔に皺を寄せて、リエラから目を逸らして押し黙った。

 リエラはそれを、じっとりと睨む。

 何がどうなっているか意味は分からないが、引くつもりは無かった。

 恐らくきっと、彼等は兄を追ったのだから。


「……リエラ。リエラ、落ち着いて、良く聞いて」


 押し黙り何かを悩んでいるダレクの代わりを務めようと考えたのだろう、サテナがリエラの背を撫でた。

 リエラは、母が発するその言葉は、自分自身に言い聞かせているように聞こえた。


「母さん?」


 リエラは何も言わない父から目を逸らし、母の目をしかと見た。

 苦悩と苦痛に塗れた瞳だった。

 リエラは、母のそんな目を初めて見た。


「あの子はね、暗黒魔法を使ったの」


 囁きの様な小さな声。

 それを聞いても、リエラの脳はしばらく情報を纏める事が出来なかった。


「……は?」


 ぽかんと、口を開けて母を見つめる。

 人間が暗黒魔法を使えると言う話など、聞いたことが無い。

 それを兄が使ったと?

 信じられない、と視線で訴えたが、母の目から真実であると理解できた。

 じわじわと、胸の奥に意味の分からぬ焦燥が広がって行く。


 兄はやはり、懲罰房に捕えられていたのだろう。

 では何故か。

 まさか暗黒魔法が使えると言うだけで、その様な事態にはなるまい。

 では、


「…………それで、暴れた、とでも……?」


 リエラはそんなまさか、あり得ない、と思いながらも問いかけた。


「いいえ」


 サテナは即座に首を振った。

 リエラはほっと胸を撫で下ろした。

 そうだ。兄さんがそんなことをする訳がない。と考えたところで、サテナは続ける。


「でも、もっと不味いことになってるの。良い、決して他の方には言ってはいけないわよ」


 リエラは目を丸くしたが、すぐに頷いた。

 それだけの雰囲気を感じたのだ。

 しかし、兄が悪いことをしていないのなら別の何かがあったのだろう、と考えながら。


「あの子が暗黒魔法を使った時に、私達は気配を感じたの。……魔王の」


「…………」


 リエラは絶句した。

 頭の中が真っ白になって、何も考えられなかった。


「あの子に、憑りついているのかもしれないの。だから調べようとしたのだけど……」


 真っ白になった頭に、その言葉はすんなりと入って来た。

 ただ言葉の続きは何だろうか、と考えた。

 理性では何も考えられないが、ただ本能とでもいうべき直感が、リエラの口を動かした。


「……逃げた?」


 サテナが悲痛な顔で頷いた。


「……魔王でなければ、逃げる必要は、ないんだ……」


 今まで黙っていたダレクが呻くように呟いた。


 リエラの喉から、掠れた呼吸音が漏れた。

 我に返ったリエラは、一瞬で蒼白になって叫んだ。


「……でも、さっき話した時は!何時もの兄さんでしたよ!?そ、それに、拘束されてたんでしょう!?気が動転していたのかも―――」


 ただただ、兄の無実を訴えた。

 そうだ、さっき出会った兄は、急いでいたがいつも通りだった。

 いつも通り、するりとリエラを躱して逃げて行った。

 気付いた時から変わらぬ、兄の行動パターンだったではないか。


「お前も知ってるだろう、リエラ。あいつは我慢強い奴だ。動転などしない。冷静に、考えたんだろう。それにどうやって抜け出たのかも分からんのだ」


 ダレクの言葉を、リエラは必死になって否定しようと考えた。

 確かに兄は我慢強い。

 いつか自分が魔法を使って兄を切った時も、痛かっただろうに涙一つ見せなかった。

 剣術の授業を見ている時もそうだ。教師が相手でも、慌てず騒がず冷静に隙を窺い続けて、勝利をもぎ取っていた程だ。

 それに、抜け出すのなら魔法を使えばいい。暗黒魔法が使えると言うのならば可能なはずだ。


「ま、魔法を使って――」


「魔法自体を封印したんだ。例え暗黒魔法でも使えないはずだ。それでも、どうやってか抜け出した。何か俺達の知らない力があるのかもしれない」


 リエラの言葉はすぐに押しつぶされた。

 それでも何かないかと、リエラは必死に思考を巡らせた。


「あいつは操られているのかもしれない。……もしかすると、初めからそうだったのかもしれない」


 続くダレクの言葉に、リエラは悲痛な光を瞳に灯した。


「……そんな」


 リエラはもう一度「そんな」と呻き、首を振った。

 必死に考えているが、結局のところリエラには良い策は浮かばなかった。


「それで、どうするつもりなんですか?」


 代わりに、リエラは問いかけた。

 もしそうなら、どうするのかと。


 ダレクは歯を食いしばり、目を閉じた。

 サテナは瞳に涙を浮かべながらも、決意の光を灯していた。

 シトラスは何も言わなかったが、その雰囲気が全てを物語っていた。


「……冗談ですよね?兄さん、ですよ」


 リエラは、泣き笑いの顔で呻いた。

 何故、彼等は殺意を持っているのだろうかと。

 きっと冗談なのだと。

 そう願ったリエラに対して、帰ってきた言葉は固い決意だった。


「魔王かもしれない」


 言葉では疑っているように見える。

 しかし口調からは、確信がある様にしか聞こえなかった。


「でも!何もしていないじゃないですか!」


 リエラは悲鳴の様に叫んだ。

 父の肩を掴み返して、力いっぱい揺すりながら必死に。


 ダレクは抵抗もせずそれを受けた。

 そして瞳を開くと、ダレクの目はここではないどこかを見ていた。

 どこか遠い場所を見ているようであり、実際には過去を見ていた。

 そして、泣いているような声で呻いた。


「リエラ。お前が二十年早く生まれていたら。あの景色を見ていたら。……そんな言葉は言えないんだ」


 様々な感情が込められた言葉に、リエラは何も言えなくなった。


「――――」


 歯を食いしばるリエラに、ダレクは続けた。


「危険すぎる。それに、魔王なら二十年前にもう暴れたんだ。もしかすると、今からでもそうするかもしれない。お前がケイスを好きなのは分かる。俺達もそうだ。……でも」


 リエラには分からなかった。

 何故ダレク達は、ケイスを魔王だと考えているのか。何故、確信しているように振る舞うのか。


 それに加えてリエラは思い出す。

 先ほどケイスと出会った時、ケイスはリエラの手を躱した。

 そんなことは今まで一度も無かった。何故よりにもよってあのタイミングの時だけ躱したのか。

 何故リエラから、距離を取ろうとしていたのか。

 考え無い様にしていたことだった。

 あれは、そういうこと(・・・・・・)だというのだろうか。


 もしそうなら。本当に魔王だと言うのなら。

 ケイスはいずれ、誰かに殺されることになるのだろうか。

 授業で習った内容の様に、散々に暴れまわって。

 兄の顔で。兄の体で。

 それは許せないと思った。


 リエラは据わった目で父を見た。


「……私も行きます」


 確かめるのだ。

 今度は注意深く。本当に兄かどうかを。

 兄ならどうしようか。

 兄でなかったらどうしようか。

 そんなことは二の次だった。


「お前は、駄目だ」


 ダレクが硬い顔で首を振った。

 当然だろう。ダレク達にとっては、ケイスは既に魔王だと考えている。殺すつもりで動いているのだ。

 そんな場面を、見せられるわけがない。


「行きますっ!!」


 しかし、リエラは叫んだ。

 ダレクの肩を握りしめ、爛々と輝く瞳で。

 もし断られたら、一人でも向かう。

 そう決意して。


 ダレクもそれを読み取ったのだろう。

 更に苦悩の表情を浮かべ、深く目を閉じた。


「……見ることになるぞ」


 『来ないでくれ』。

 言外に精一杯そう告げたが、リエラは頑として頷かなかった。


「構いません。私も行きます」


 シトラスの、サテナの視線も全て跳ね返し、ダレクを睨む様に言う。


「いざと言う時の覚悟は出来ているか?」


「はい」


 リエラにその覚悟は出来ていなかった。

 でも、今決めた。

 もしも、兄でなかったら。

 兄の顔をした別人なのだとしたら。

 兄の体を取り戻すのだと。

 そして兄が兄ならば、その時考えると。

 同時に、これ以上問答が続くようならば、一人で追おうとも。


「……分かった。決して、油断はするな。お前はまず身を守ることを一番に考えろ」


 ダレクは沈痛な顔で呻いた。

 きっとリエラは見ることになるだろう。それはリエラの心ををどれほど傷つけるか。

 想像もできない。

 しかし、そうしなければ、娘まで失いかねない。


 でも、手は汚させない。兄の血で、妹の手を汚してはならない。それだけは、親である自分の仕事だ。それだけは強く心に刻みつけた。


「分かりました」


 リエラが頷いたと同時に、生徒が一人駈け込んで来た。

 ケイスの場所を知っていると言う。

 捜索という名の追撃が始まった。

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