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ハカリ  作者: 灯月公夜
4/4

講義

 ピーの蓄積データを元に、一時間五十七分二十三秒に編集されたデータが、無線LANを通じて、全国の大学生の手元のコンピューターに、この事件の解決へ至る映像と音声が届けきる。

 彼らの画面が切り替わり、一人の若々しい男性教授が映し出される。

「さて、これが先日解決した事件の全貌です」

 肉体年齢が二十三歳前後である男性教授が、カメラの前で全国の大学生へ、おくする様子を微塵も見せず、これまで何千回と繰り返してきた言葉を滑らかに紡いでいく。

「このような事件は、毎年毎年何百件も実際に起こっています。貧困層の子供を安値で買い取って裏で高額な値段で売りつけたり、無許可でフィラアを製造し、無造作に取り込み続ける輩が後を絶ちません」

 男性が大きく咳払いをする。

「では、ここで初心に帰って、『フィラア』という存在を確認しましょう。

 フィラアとは、英語のfuelからそのまま取られ、皆さんのご存知の通り、その意味はまさに『燃料』です。

 皆さんの中には、すでにこの『燃料』を摂取した人もいるのではないでしょうか。

 我々人類は今や、この燃料――フィラアから、細胞の活性活動の源を摂取して生活しています。

 二十一世紀まで、老化の原因はいくつか考えられておりました。

 プログラム説。

 エラー説。

 活性酸素説。

 摂取カロリー説。

 この四つが代表格です。それぞれの詳細につきましては、この講義では省略させて頂きます。

 さて、それらの学説には共通する一つのキーワードがあります。

 それは、『新陳代謝』というものです。

 新陳代謝とは、古いものが新しいものに次々なることを指します。

 それには当然エネルギーが必要であり、またこの世界に無限に存在し続けているエネルギーは存在しません。

 そこに行き着くまでに膨大な時間を消費しようとも、やがてこの世のすべてのエネルギーは、そして物質は風化し、消滅します。

 我々人類の肉体も例外ではありません。

 現代の我々の、宇宙へ行くことが日常となるほどまで発達した科学技術を用いようとも、物質を永続的に使用する事は不可能です。

 では、それでもなお、それを永続的に使用するにはどうしたらいいのか。

 それは、他のエネルギー、もっと広義的に捉えるのならば、『時間』を取り込めばいいのです。

 この場合の時間という言葉の定義は、ひとまず『その物質が、今後存在し続けるであろう期間』とします。

 そして、そこから二十四世紀初頭に編み出されたのが、皆さんもご存知の通り、通称『不老理論』です。

 この理論から創りだされた装置を用いる事により、人類は『老化』という概念から解き放たれ、いわゆる『永遠の命』を実質手に入れることに成功しました。

 ですが、この理論では、ゼロから『時間』を得ることができません。

 そこで必要とされたのが『フィラア』という存在です。

 彼らの原型は、『クローン』と呼ばれていました。今から、およそ五〇〇年前の、この理論が発表されて人類に受け入れられるまでそのような名称で呼ばれてました。

 学生の皆さん、よろしいですか?

 フィラアは本質的に、我々人類と同じモノです。

 不老理論により、『時間』を取り込むには、同じ遺伝子から摂取した方が、変換効率が良いことが証明されています。それに続いて似た遺伝子、最後に人類以外の遺伝子となります。最後のは変換効率があまりにも低いため、現在ではほとんど行われません。

 つまり、取り込む『時間』は自分の遺伝子に近ければ近いほど良いのです。

 そこで、自分とまったく同一の遺伝子を持つ存在が必要不可欠となったのです。

 フィラアが『クローン』と呼ばれていた時代は、この理論の是非が激しく論議されましたが、とある大国が認めたことにより、雪崩形式で採用する国が増え、瞬く間に世界へ広がりました。

 やがて、クローンという名称からフィラアと名を改め、『物質』として認知されるようになりました。

 しかし、昔の装置では一度に変換できる時間が限られており、また急激な老化に身体が耐えきれず、フィラアの細胞が崩壊を起こしてしまった例も、数えきれないほど起こりました。

 そして何より、人類はフィラアたちを、同じ人類とみなすのを止め、彼らを言わば『家畜』として扱うようになりました。

 結果として何が起こったのかと言いますと、フィラアたちによる人類への報復、俗にいう『復讐抗争』です。

 何故そのような事ができたのかと言いますと、家畜同様の扱いを受けようとも、彼らの本質は我々人類と同等だったからです。それを起こすだけの能力があったのです。

 およそ一年半かかり、多大な被害を出しつつも、人類はこの抗争の鎮圧に成功しました。

 そして、その反省を踏まえ、現在我々はフィラアたちを『物』と認識すると同時に『者』と認識するようになったのです。

 彼らにも人格があり、個人があり、生きている。

 彼らは家畜よりもはるかに上位の存在であり、我々が生きていく上で、ある意味食事よりも必要不可欠な存在であると考えを改めたのです。

 さて、ここで話は今回の事件に戻ります。

 主犯の男が犯した最大の失点について述べましょう。

 彼の最大の愚策は、今回補充に成功したフィラアたちの人権・・を無視して、彼らに家畜以下の扱いを行った事です。

 人は、憎悪と殺意を持つ生き物です。

 今回のデータを収集してきた、私が発明したこのロボットは、たとえその意識が深層心理下であろうとも、分泌される僅かな汗や鼓動速度から強い殺意を見つけ出し、高密度のレーザーを自動修正して目標物へ放出する機能が備えられています。

 それよりも私がこのロボット最大の特徴と主張したい点は二点あり、一つは完全に姿形をあらゆるものに変化させることができるという点と、もう一つが完全に姿を消せるという二点です。

 時々映像が宙を飛んでいたり、補充されたフィラアたちがこれを『ピー』と呼んでい時、これは『セキセイインコ』の形をしていました。

 そして、それ以外の時は、これは完全にあたりの光を屈折させ、生物には決して認識できないようにステルス状態になっていました。だから映像の通り、犯人らにばれることなく観察する事が可能だったのです!

 ……。

 えー、こほん。失礼。つい興奮してしまい、余計な情報を付け加えてしまいました。

 また話が脱線する前に、今回の講義のレポート課題について、最後に話しておきましょう。

 この映像を観て、そこから最低五点、あなたが気づいた事を記し、それについて、『何故そうなったのか』を考察して、三万字以上書いて提出してください。

 提出期限は、本日より二週間後の二十三時五十九分五十九秒までです。

 映像を何度も何度も繰り返し観て、聴いて、最低五点気づいた事を書いてください。

 たとえば、映像内のフィラアたちには、『名前を付ける』という概念を学習した経歴がないのに、何故このロボットに『ピー』という名称を与えたのか、など。

 この講義の単位は、すべての大学の必須単位に指定されていると聞いておりますので、是非とも落とされないよう、精一杯頑張って下さい。

 それでは、皆さんのレポートをお待ちしております」

 そこで、全国放送は終了した。

 映像終了の表示を確認すると、ピーを開発した、野田のだ博士は大きく息を吐き出した。

 口々にスタッフが野田博士に労いの声をかけ、博士はピーを回収してその場をあとにする。

 控室に入り、ピーを机の上に置くと、博士は程よく冷凍されていた飲料水を取り出した。

 それを開け、一気にあおる。ごくごくと喉仏が上下する。

「やれやれ」

 それから口を外し、首を大きく回し始める博士。

「おっと、忘れるところだった」

 思い出したように、博士がピーを持ち上げる。

「消去コード、WJ8Y764HO2Z」

『音声認証完了。発言コードを受理いたしました』

 ピーの内部に元から内蔵されていた音声が言う。

 ピーの容量は、連続で一か月ほどデータを休む間もなく記録し続けており、さらには犯人格の音声パターンも記録していたために、もう容量限界間際だったのだ。

 博士の音声とコードを認識し、プログラム通りにデータを削除し始める。

 今回のデータのバックアップは、すでに何重にも取られている。だから、ピーにずっと保管しておく必要性は皆無であり、そもそもこのままでは次に使用ができない。

 あらゆるデータが消えていく。

 あの時の映像。

 あの時の音声。

 あらゆるデータが順々に消去されていく。


《ピー!》


 少女か少年か、はたまた両方同時に発したのであろう、いつかの音声が再生される。

 そして、すべてのデータの消去アンインストールが完了し――――プログラム通りわたしは休眠状態に移行した。

最後まで目を通して頂き、誠にありがとうございました。

こんな胸糞悪い話を最後まで読んでくださり、ほんとに感謝です。


多くの方が、この作品の地の文の不自然さに気づいたと思います。

これを最後まで目を通してくださった皆様は、単純に作者がヘタクソだから、というわけだけじゃないと思って頂けたかもしれません。

――まあ、ヘタクソなので、それでも違和感しかないと思っていますが。


※追記

一度削除しましたが、自分への戒めのために書きます。

この作品は、叙述トリックを使用しており、全編を通して一貫して「ピー」視点から物語っております。


字数制限によるところだけでなく、この作品にはあえて記されていない設定がいくつか存在しております。

例えば、アキラが少女にどんな効果がある注射を打とうとしていたのか、とか。

そもそもタイトルが何故『ハカリ』なのか、とか。

一応、推測ができるようには書いたつもりなのですが……。


拙作を読んでくださり、何かを考えてみたり、何かが残ったりしていれば、僕としてはもう言う事何もないです。

それでも強いて言えば、空想科学祭内の何かの賞を受賞できたら最高なので、是非読者投票をおねg(ry


ともかく、最後まで目を通してくださり、本当にありがとうございました!

重ね重ねお礼申し上げます。


僕はこれから少し寝て(徹夜で仕上げました)、最後のチャットに参加したいと思います!


自分の作品に手いっぱいで、まだ一作しか参加作品読めてないよ!(こら


ではでは、これにて失礼します。

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