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ハカリ  作者: 灯月公夜
1/4

興味を持ち、当作品を開いてくださり感謝いたします。


拙作は、『空想科学祭FINAL』の短編部門での参加となります。

本日より、毎日1話ずつ更新していく方針です。


拙作は、暴力的表現・非人道的表現・グロテスクな表現が含まれます。

上の3点が苦手な方は、閲覧してくださる場合、お気を付け下さい。


何らかの賞を受賞できるように精一杯書ききるので、何卒よろしくお願いいたします。


それでは、作品完結時のあとがきにて。

「い、痛い痛い!」

「さっさと装置に入りなさいよ」

 少年が髪を乱雑に引っ張られながら装置の中へ突き飛ばされる。

 少年はろくに受け身も取れず倒れ込む。

「あ、ガッ! い、い――」

 少年が頭部を抱え込むように丸くなる。どうやら倒れ込んだ際、頭部を強打したようだ。

 装置の扉が閉まり始める。しかし、少年はそれに構う余裕もなく痛みに耐えていた。

「まったく。一年に一度、それもたった五年ぽっちだなんて、ほんと不便」

 少年を装置に投げ入れた若い女性が、装置に付属されてるパネルを操作しながら忌々しげに呟く。

 装置がプログラムに従い起動する。少年が入った装置から重低音が響き始める。

 それを確認すると、女性も少年を入れた装置と接続されている、隣の装置を開き、中へ入っていった。

 ごおんごんという音が部屋に満ちる。それらは次第に速度を増し始め、やがて高音のモーターが回っているような音へ変化する。

 最高音に到達し、やがて装置は徐々にその可動を止め始める。

 止まる直前、空気の抜けるような音がし、二つの装置の扉が同時にゆっくりと開く。

 まず始めに出てきたのは、女性の方だった。

 見た目的特徴は何も変わっていない。精神的にも変化は何一つない。

 しかし、身体的に決定的な変化が生じている。

 身体的活動が五年戻っているのだ。

 女性はその現象を慣れた顔で平然と受け入れ、少年を閉じ込めた装置の前へ移動する。

「いつまでそこにいんのよ。さっさと出なさい」

 装置の中で小鹿のように身を震わせている少年の髪を無造作に掴み上げる。

「イタイ! イタイよ!」

 少年が髪を掴まれてる手にしがみつきながら悲鳴を上げる。そのまま立ち上げられ、装置の外へ投げ捨てられる。

 少年の、骨と皮しかないと形容して大差ない体が部屋の床へ倒れ込む。

「う、うぅ……」

 少年は、装置に入れられる前よりも、重くなり、鈍くなったであろう体をなんとか動かしている。

 しかし、急激な体の変化に、どう対処したらいいのかわからないようで、床を這っている。

「次がつかえてるのよ。さっさと立ってよ」

「ガッ!」

 女性がいつまでも立ち上がらない少年に業を煮やしたように、少年の腹部を蹴りつける。

「ご、ごめん、なさい……!」

 込み上げてくる涙と苦痛に耐えるようにしながら、衰えた声帯を少年は震わす。その声は、見た目から似ても似つかないほどを老いてるような気がした。

「口動かす暇あったらさっさと起き上がって」

 言いつつ女性が、ひょうのような蹴りを少年に浴びせる。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 落ちてくる暴力に耐えながら少年は謝り続ける。

「謝るんだったらさっさと――」

 女性が、さらに思いっきり少年を蹴りつけようとした時、二人のいる部屋の扉が開いた。

「もう終わったか、ミソラ」

「あら、アキラ」

 振り上げてた足をおろし、女性はしなを作りながら現れた男性の元へ駆け寄る。

「もうぉ。どぉしたの?」

「おせぇから、さすがにもう終わったろうと思ってな」

「もう、せっかちなんだからぁ。さっき終わったとこよ」

「なら、次は俺の番だな」

 男がにやりと笑うと、後ろで控えていた、少年よりも頭一つ低い少女へ視線を送る。

「おい」

「は、はい!」

 少女が体を極度に緊張させながら、男の後ろから、少年が呻く部屋へ入る。

 未熟で、そして老熟した体をなんとか動かし、前へ進んでいく。ふらつきながら歩くその姿は、まるで生まれた直後の馬のようだ。

「おっせえんだよ」

「きゃあ!」

 そんな少女の背中を男が蹴り飛ばす。少女は、顔面から床に落ちた。

「う、ひぐ――」

 痛みに少女が涙を流そうとする。しかし、泣くとさらに蹴られると経験で知っている少女は、嗚咽を必死に飲み込もうとしている。

 そんな少女を見て、少年は自分の体に鞭うち、四つん這いで少女の元へ這って行った。

「邪魔だ、退けよ」

「あぐっ!」

 しかし、そんな少年の腹部を男は蹴りあげ、部屋の壁の方へ蹴り飛ばした。

「あっ、はっ、うぇ――」

 女の蹴りよりも数段威力の上な男の蹴りに、少年は呼吸を忘れたように呻く。

「おら、さっさと行くぞ」

 男が、少女の、服と形容する事すらおこがましく思えるほどお粗末な布を掴んだ。

「やっ、は、はなして……!」

「ああ?」

 男が鬼の形相で、少女の顔を自身の顔面の目と鼻の先に移動させる。

「フィラアごときが、人間様に命令すんじゃねえよ」

「う、ひぐ、うぐ――」

 少女が、涙と鼻水を垂れ流しながら、男のなすがままとなっている。せめてもの抵抗か、幼く老いた口元を引き結び、目を固くつむっている。

「なんとか言ったらどうなんだええ!」

 男がドスのきいた声で少女に詰め寄る。しかし、少女は目を閉じ、口を引き結び、何も答えない。

 そんな様子の少女に、男は苛立たしげに舌打ちをすると、少女を思いっきり床に叩きつけた。

 少女の悲鳴が部屋中に木霊する。そして、次に少女の口から発せられたのは、言語をなくした動物のような呻き声だった。

「フィラアごときが! 調子こいてんじゃねえぞ!」

 今度は男の怒声が、部屋中に響いた。

 そして、男は怒鳴りながら、足元の少女を何度も何度も踏みつける。

 ブーツと骨が、男の怒声と少女の悲鳴が織りなす混声が、声高だかに部屋の中を支配し始める。

 その音楽を聴きながら、ようやく痛みから立ち直った少年が、よろよろと立ち上がり、旧時代の二足歩行ロボットような足どりで男の元へ歩いて向かい始めた。

「もう、やめてください!」

 向かいながら、少年は叫ぶ。しかし、その単声は、男と少女の奏でる混声に飲み込まれてしまった。

「アキラ、それ、コアがイカレ気味なんだからその辺にしときなよぅ」

 男と少女の旋律を止めたのは、先ほどまでニヤつきながらその音色を愉しんでいた女だった。

 女が、男の腕に自分の腕を絡ませ、男の耳元に囁いた。

「さっさと終わらせて……ね?」

 女の甘い囁きに、今度は男が口角を吊り上げ、女の顎を持ち上げる。

「それもそうだな」

 男はそのまま女の唇に、自身のを軽く合わせ、少女が纏う布きれを掴み上げる。

 少女は、あまりの痛みのあまり、泣くことすらできないような有様だった。

 男が装置を開き、少女を中に投げ入れる。ゴン、という音の直後、ドシャリという音が中から聞こえてきた。

 男はその音をまったく気にするそぶりを見せず、先ほど女がしたようにパネルを操作し始める。

「ねぇ~」

 女がそんな男の背に抱きつき、猫なで声を出す。

「そろそろこんな安物、そこら辺の貧乏人に高値で売りつけてさぁ。丸々イケるやつ買わない?」

「アホ。金持ちが使ってるようなやつ買えるかよ。所詮、俺らはスラムの奴らのガキ買い取って、裏で比較的安値で売る慈善事業しかできねえんだから」

「とかなんとか言って、結構アコギな仕事してるくせにぃ」

 女がほくそ笑みながら、男の胸元に指を這わせている。

「それで飯食わせてもらってんだから感謝しろよな」

「でも、他の女にも金ばら撒いてんでしょ?」

「他の女んとこ行って欲しくなきゃ、テク魅せろよ」

「その挑発、買ったわ。今夜は覚悟なさい」

「おお、怖いねぇ」

 言いつつプログラム指定を済ませた男が、女を引きはがし、もう一つの装置の扉を開く。

 引きはがされた直後、女は不平を唱えたが、男が装置へ入る直後に女の唇を奪うと、手のひらを返したように機嫌を回復させた。

 少年と女の時のように、装置が稼働を開始する。

 その光景を、少年はただ見つめていた。

 装置が唸る。その声が、次第に絶頂へと歩みを進めていく。

 やがて、装置が徐々に冷静を取り戻し始める。

 装置が再び沈黙すると同時に、両装置の扉が開く。

 そして、再び先ほどとまったく同じ光景が生まれた。

 五年取り戻した男。

 五年奪われた少女。

 装置から出てきた男と、その腕を熱帯に住まう大蛇のように自身の腕を素早く絡める女。

 少女の元へよろよろ這いよる少年と、装置からなんとかして這い出ようとしている少女。

「おら、さっさとその不良品と一緒に部屋を出やがれ」

 装置の近くまで覚束ない足どりで来た少年の背中を蹴り飛ばし、男が言う。

 声を上げる力すらすでに失っている少年は、床に顔面を強打した後、ゆっくりと起き上がろうとしていた。

 少女も、体中の痛みと激変した体で、教育された通り素早く装置から出ようと四肢を動かしている。

 先に起き上がった少年は、先に奪われ、慣れた分だけ動けるようになった体を駆使し、少女を助け起こす。

「だいじょうぶ?」

「うん……」

 少年が小声で尋ね、少女も小声で返す。

「ちんたらしないで早く行きなさいよ」

 女がもたもたしている二人を見て、イライラと言い捨てる。

「もぅ、これじゃいつまで経ってもセックスできないじゃない」

「それもそうだな」

 大蛇からとりあえず身を離し、男が二人の元へ行く。

 二人の顔が歪む。

 それに構わず男は二人を無造作に掴むと、二人を引きずりながら部屋の出入り口へ向かって行った。

 少年と少女はなされるがまま、されるがままに引きずられて行く。

 女もその後に続く。

「開けろ」

「はぁ~い」

 女がドアを開け、残りが部屋から外へ出る。

 出た直後、男は少年と少女を廊下に投げ捨てた。

 その間、女がドアのすぐ横の壁に設置されてるパネルを操作し、部屋のドアをロックしていた。

「行くぞ」

「ふふ、今日はどんなプレイしようかしら。ねぇ、何がいい?」

 再び大蛇が獲物を逃さないように巻きつく。

「そうだなぁ……」

 そして男と女は、少年と少女を初めからそこにいなかったかのようにふるまい、悠然とそこを後にした。

 少年と少女は、投げ捨てられたその場で、しばらく糸の切れた人形に身動ぎ一つしなかった。


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