無能聖女と追放された私ですが、私の能力であの女に鼻からピーナッツを食べさせてあげますわ
「貴様のような無能な聖女は追放だ」
と、アントニ王子が、私に婚約破棄宣言をした後に追放を告げたのでした。
その十分後、あの女の突き出した刃物が、私の妹ルイーザの心臓を貫いたのです。
戦争を終結させた功績で聖女になった私は、王国民みんなに讃えられ王子との婚約が決まり、王妃としての未来が待っていました。
その未来を破壊したのが、あの女なのです。
きらめきの乙女。
そう称する平民の女が王宮に現れるようになってから、少しずつ私の平穏な日常が崩れていったのです。
はじめに変だなと思ったのは、あれだけしつこいぐらいいい寄って来て、権力をかさに私との婚約を成立させたアントニ王子の、私に会いに来る頻度が減っていったことでした。
静かにすごせるようになってよかったなとのんきに思ってしまったのです。
ですが、その時にはすでにあの女は女性の身体を武器にしてアントニ王子を篭絡したのでした。
あの女の目的は、王子の妻となり、贅沢な生活をすることだったのです。
そのために邪魔である私を陥れるために、私の悪評を流し続けていたのでした。
たとえ、事実無根の話でも、何度でも同じ話を聞かされると信じてしまう人がでてきます。一人がそのねつ造された噂を信じると二人目がでてきて、三人、十人、百人と、私が気がついたときには、悪意ある評判は修正できなくなってしまったのでした。
きらめきの乙女を貴族の傲慢さで悪質ないじめをしている悪役令嬢。
その評判を世間に浸透させた上で、私はアントニ王子に婚約破棄宣言をされたのでした。
私を悪役令嬢と信じきっている城の兵が私を乱暴に取り押さえました。
私は気がつかなかったのです。
背後から刃物を持ったあの女が、私に忍び寄ってくることを。
「マリアお姉さま。危ない!」
妹のルイーザが私の前に飛び出しました。
鈍く嫌な音がしました。
私は自分の目の前で起こったことを認めたくありませんでした。
妹のルイーザの左胸に突き刺された刃物。大量に流れ続けるルイーザの血。
「医者を早く呼んでください。それと、その暴漢を捕まえて」
私の叫びは無視され、兵士たちが敵意をもって私の方ににじり寄ってきました。私はようやくこの城に私達姉妹の味方はいないことに気がついたのでした。
「暴漢って私のことかしら。仮にそうだとしても、あなたが城で乱心して自分の妹を刺し殺したことになるのよ」
血がべっとりついた刃物をみせつけながら笑うあの女。
その隣でアントニ王子も笑っていました。
「逃げてください」
ルイーザが口から血を吐きながら、魔法詠唱をします。
城の窓が砕け、風が巻き上がります。
「私はマリアお姉さまの妹で幸せでした」
そう言い残し床に倒れたルイーザは、もうピクリとも動きませんでした。
私はにやにや笑っているあの女とアントニ王子を睨み、叫びます。
「必ず、戻ってくるわ!そして、おまえらに復讐をしてやる!」
私はルイーザが最後の力で砕いてくれた窓ガラスから、外に飛び降ります。
城の塔から落ちた私は、そのまま川の激流に飲まれます。
流されもがきながら、私は誓いました。
必ず、妹の仇をとる。
これは復讐の物語。
「この小説は、実際に体験したことを書いたノンフィクションとの解釈でいいのですか?」
「そうよ。多少の誇張はあるけど、この私が追放された時の記録です」
「それでは、お聞きしたいんですけど」
「何かしら?」
「これ、私、死んでますよね」
と、私の妹のルイーザは言った。
「いえいえ、死んでませんよ」
「でも、仇とか復讐とか書いてあるじゃないですか」
「そこは登場人物が勘違いしているだけで」
「この小説の中で、私の後の出番はあるんですか?」
「それはないんだけど」
「やっぱり、私、死んでいるじゃないですか」
「大丈夫、生きてます」
「第一、なんで私、刺されているんですか?確かに、婚約破棄騒動の時、きらめきの乙女のレベッカさんに殴られましたけど、刃物で刺されてはないですよ」
「それは、ほら、ちょっと話を盛ってみたってやつで」
「あと、城から落ちたら川って、なんですか。城の周りに川なんて流れてないでしょう。マリアお姉さまは、走って正門から逃げていったじゃないですか」
「それもドラマチックさの演出ってやつで」
「大丈夫ですか。大嘘を書いてませんよね。ノンフィクションと宣伝するなら、最低限の事実は書かないと」
「大丈夫ですって。私が戦争を終わらせた聖女だったことも事実。王子に婚約破棄されたのも事実。それがあの女の策略だったことも事実。無能聖女として追放宣言されたのも事実。そうでしょう?」
「まあ、そうですね。じゃあ、続きも基本は本当にあったことなんですね?」
「ええ。その続きは本当にあった通りに辺境地に行ったところからです」
川に流されて気を失った私が、次に目覚めたのは豪華なベットの上でした。
「気がついたようだな、聖女さん。いや、元聖女さんと言った方がいいかな?」
にやにやと笑いながら、私を見下ろしていた中年男がいました。
顔に見覚えがありました。
「あなたは辺境領主のニコラス様。すると、ここは辺境領なのですか?」
「川はここの辺境領につながっているからな。王子から通達が届いているぞ」
「私を罪人として引き渡す気ですか?」
「いいや、そんな面倒なことはしなくていいそうだ。聖女の人権は無くなったんで、何をしてもいいって通達だ。つまり、好きなだけ凌辱をしていいから、こっそり殺してくれってわけだ」
私は自分が裸であることに気がつきます。
身を隠すための毛布もなく、私は自分の手だけで大事な部分を隠そうとします。
「私に何をしたんですか?」
「怖い顔をするなって。服が濡れていたから、脱がせてやっただけだ。まあ、目覚めるまで、美人と名高い聖女様の裸体を拝ませてもらったけどな。それに、何かするのはこれからだ」
辺境領主ニコラスが、胸を隠している私の腕をつかみます。
中年男の脂ぎった手の感覚に軽い嫌悪感を感じました。
私は護身術でその中年男の手を振りほどこうとして、それを止めます。
代わりに、私に欲情している中年男に問います。
「ニコラス様。私の身体をいくらで買いますか?」
「そんな交渉ができる立場だと思っているのか?」
「思ってますよ。たとえ、無能と罵られようと、私が戦争を終わらせるだけの力を保持していることを知ってますよね。あなた一人ぐらいなら、簡単に葬れると言うことです。その上で聞きます、もし、あなたに私のこの身体を売ると言ったらどこまで出費してくれますか?」
「箱入りお嬢様は知らんだろうが、女の身体など一食分の金で買える」
「男社会のゲスさは吐き気がしますが、この王国一の美女であり聖女であり未婚の伯爵令嬢の私を、初めて抱いた男になる。その称号はとてつもないものになると思いますけど」
「いくらほしい?」
「きらめきの乙女に復讐できるだけの額を」
たとえこの身を汚されようと私は妹の仇を討つ。
「やっぱり、私、死んでますよね。マリアお姉さま。私、死んでますよね」
「大丈夫。生きてますって」
私の小説を読むのを途中でやめて愚痴るルイーザを、私はなだめる。
そこに、従弟のニコラス君が騒がしく飛び込んでくる。
「マリアお姉ちゃん!マリアお姉ちゃんはどこ?」
「ここにいますよ。ニコラス君、あなたはもう十二才で辺境領の領主になったのですから、そんな子供みたいに騒いではいけませんよ」
「マリアお姉ちゃん、これ、何?なんなの、これ?」
「それは私が書いたなりましょう小説ですよ。今、ルイーザにも読んでもらっているところです」
「なりましょう小説?」
「今、職業小説家でない個人が、小説を書くのが大ブームなんですよ。その発表の場として、小説家になりましょうと言うサイトができて、私もいろいろ書いているんです」
「サイト?」
「魔法で仮想巨大空間のネットが作られていて、その中に小説発表会場が作られているんですよ」
「ネット?」
「網のことですね」
「網?」
「この前の戦争で、通信形体が変わって、一部が損傷しても伝達が届くように網状になっているらしくて、それを応用したらしくて。私もよくは理解していないんですけど、まあ、便利になったってことですよ」
「よくわからないけど、マリアお姉ちゃんがこの小説を書いてばらまいたってことだよね」
「そうなりますね」
「辺境領の人達、この大嘘小説読んで、本当のことだって信じちゃって困っているんだよ」
「その小説に書かれたことは本当に起こったことですよ」
「僕、スケベ中年男じゃないもん!」
「そこはアレンジってやつで」
「あと、ところどころマリアお姉ちゃんが王国一の美人って設定入っているけど、無理あるよ」
「失礼ですね」
「僕が女性にひどいことする奴だって信じられて、みんなから白い目で見られているんだよ!」
「いい女をものにする。男のステータスじゃないですか」
「そんな中央貴族のそのまた一部でしか通じない価値観を、さも一般的みたいに言わないでよ。この王国じゃあ、特に辺境地は、女性が強すぎるんだから」
「細かいことを気にしたら駄目ですよ」
「細かくないよ!あと、僕、マリアお姉ちゃんにいろいろ支援したよね。アントニ王子の追手が来た時に誤魔化したり、資金援助したり。その僕の支援が、この小説じゃあ、存在もしていないイケメン男がしたことになっているし。僕が手助けしたじゃん!何なの、この男?」
「そのお方は異世界転生者のタナカイチロウ様です」
「いせかいてんせいしゃ?」
「なりましょう小説で流行っているんですよ。異世界転生者物が。主人公の女の子が、困難な状況になったときに、イケメンの異世界転生者がさっそうと現れて、守ってくれる。タナカイチロウ様は、私が考えた最強の異世界転生者です」
「いせかいてんせいしゃ、って何?」
「異世界からの転生者ですよ」
「わからないよ!ともかく、嘘はやめてよ」
「ちょっと盛っただけですよ。その後は、ちゃんと王子にざまぁするところで、ちゃんと現実どおりですよ」
アントニ王子はみっともなく喚いていました。
「どういうことだ?聖女の兵がこの王宮に進軍してきて止められないってなんだ。金で雇われた数十人ぽっちの兵なんか、簡単に踏みつぶせるはずだ。こっちはその百倍の兵がいるんだぞ」
「そ、それが聖女様の力による強制力によって、我々は聖女様に手出しできなくなってます。聖女様に手を出そうと考えただけで身体が動かなくなるのです」
「あいつの能力はすでにみなに知られているはずだ。何もしゃべらなければ、能力を活用できなくなる。だから、無能聖女として追放したんだぞ。何故だ?あいつは真の能力でも隠していたのか?」
「真の能力なんてありませんよ」
と、私はアントニ王子の前に現れてみせます。
「ひっ」
私の姿を見ただけで、アントニ王子は腰を抜かして床を這いつくばりました。
「私の能力『虚言概念非存在世界』は、その人が言った言葉を強制的に守らせる能力です。確かに、何もしゃべらなければ、私のこの能力は発動もできません。ですが、この能力は過去の発言でも適応できるのです。私は戦争終停戦時に両国の兵に他国に先制攻撃をしないことを誓わせましたね。それは今も有効になっているのです。隣のガネス帝国にお願いしたら、快く私を軍事顧問として登録してくれましたよ。私に手を出すことは他国に先制攻撃することと認識され、実行できなくなります」
私はアントニ王子の喉元に剣先を突きつける。
「ゆ、許してくれ。し、謝罪する。おまえにしたことを謝るから、命だけは助けてくれ」
「私に謝る必要などありません。そんなことより、あなたは王子なのです。この国の王子として、よき王子になってください」
「わかった、なる、よい王子になるから」
「その言葉を自分で守るか私の能力で強制されるか、それはあなた次第です」
がっくりと肩を落とす王子に、私は言いました。
「あなたなら良い王子になれます。私はそう信じてます」
「ぎょ、ぎょ、ぎょ、ぎょ、ぎょ」
人とは思えない笑い声がしました。
それは、本性を現したきらめきの乙女の笑い声。
王子を篭絡し実権を握ったきらめきの乙女は、王国のお金で高価なドレスや宝石を着飾っていました。だけれども、下品さを強調するだけでした。
「なんて、哀れな姿なのですか」
「使えない王子ぎょ。この王国の奴はどいつもこいつも使えないぎょ。金だけ貢いで黙っていればいいぎょ。おまえも邪魔だぎょ」
「あなたは私が成敗します」
私は剣をきらめきの乙女に向けます。
きらめきの乙女も剣を抜きます。
「ぎょ、ぎょ、ぎょ。お前の死んだ妹の死体がどうなったか知っているぎょ?」
「どういう意味ですか?」
「あの後、私が川に蹴り落としてやったぎょ。おまえの妹は、墓にも入れられず魚のエサになっているぎょ」
「貴様!」
私は、きらめきの乙女に斬りかかりました。
「やっぱり、私、死んでますよね。マリアお姉さま。絶対に、私、死んでますよね」
「死んでませんって」
「マリアお姉ちゃんさ、王子を快く許したみたいに書いてるけど、実際には鼻でピーナッツを食べさせていたよね。あれ、何か意味あるの?」
「この王国で、鼻からピーナッツを食べる恥をさらしたら、二度とでかい面はできなくなるのです。あと、私がすかっとするからです」
「この小説はマリアお姉ちゃんときらめきの乙女のレベッカさんが、剣で戦うところで続くになっているけど、マリアお姉ちゃん負けたよね。僕、びっくりしたよ、あれだけかっこいい感じで剣をかまえて、負けるんだね」
「私もびっくりしましたよ。あの女、あんなに強いとか思わないじゃないですか。あれなら王子たぶらかすよりも、剣の腕で成り上がったほうがいいですよ」
私達が優雅にお茶会で会話しているところに、下品なあの女の声が聞こえてきました。
「聖女はいるか?負け犬聖女は!」
「ここです」
「あなたさ、この小説はなによ?なんで私が魚みたいな鳴き声をあげてるのよ!」
魚は鳴かないだろうと心の中で思いながら、私は答えます。
「それはなりましょう小説です。知ってますか、なりましょう小説を?」
「知ってるわよ。個人で小説書いてるキモい連中でしょう」
「……あなたもなりましょう小説を馬鹿にするタイプですか?」
「小説自体が、読んでる連中も書いてる連中もキモいって言っているのよ」
「ほおっ」
きらめきの乙女は、テーブルの上の水を手に取り、私の頭にかけます。
「何か文句でもあるの?」
今の力関係では、私はお願いすることしかできません。
「文句はありません。ですが、お願いがあります。この王国にいる獣人族を強制追放する法律を作るのはやめていただけませんか。そんなことをすれば、大きな遺恨を残します」
「嫌よ。あんな獣くさい連中、私のものになったこの国からまとめてたたき出してやるわ。そんなくだらないことを言うために、こんな小説を私に送り付けてきたの?」
「いいえ。別のお願いがあるのです。その小説を読んだら、ポイントくれませんか。あとブックマークもお願いします」
「はい?」
妹のルイーザが口を挟む。
「あれ?マリアお姉さま。前に、自分はポイントなんか関係ない、読んでくれている読者がいるだけで私は満足なのよとか言ってませんでした?」
「そんなの建前に決まっているでしょう。私は承認欲求の塊なのよ。いっぱいポイントもらって褒められたい。自分よりポイントが低い奴にマウントを取りたい。ポイントいっぱいもらった上で、創作論とか語りたい。エッセイジャンルでショートショートの書き方とか投稿したい。ランキングに載りたい」
きらめきの乙女が鼻で笑う。
「ふん。こんなクソ小説がランキングに載るわけないでしょう。もし、ランキングに載ったら、鼻でピーナッツを食べてあげるわよ」
妹のルイーザがにやっと笑う。
私もおそらく同じ表情になったはずだ。
きらめきの乙女が失言に気づき、あわてて口を閉じるが、もう遅い。
私は、自分の言ったことを強制的に守らせる能力『虚言概念非存在世界』を発動させる。
みなさま。
このなりましょう小説を、最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、この作品の評価をお願いします。
ランキングに載れたらうれしいですわ。
おわり
あとがきですわ。
みなさまのおかげで、この物語がなりましょう小説の短編部門で日間ランキングの下に載りましたわ。
感謝感激雨あられですわ。
ありがとうございますですわ。
これで、あの女の鼻からピーナッツを食べさせまくりですわ。




