興梠の土地
私は掃除夫である。
朝、団地の広場の掃除をしていた。
そこに小さな「立て看板」が有った。
『芝生の中には入らないで下さい』
私はその地区を管理している興梠に聞いてみた。
すると昨夜また、三匹の興梠達が肩から籠を下げて網を持ったロシア兵の捕虜になったそうだ。
コレで五十匹の興梠達が、夜な夜なやって来る懐中電灯を持ったロシア兵の捕虜になってしまったそうだ。
ここは私達の土地であると怒っていた。
お祭りの夜の事である。
小さなロシア兵達が数発の花火を私達の土地に投げ込んで行った。
みんな息を殺してロシア兵の去って行くのを草葉の陰から覗いていた。
三匹居る螽斯だけは大声で喋っていた。
螽斯の一匹は片脚が無い。
アイツは残虐なロシアの捕虜収容施設から解放されたヤツだと、螽斯の友達が話してくれた。
その日から片脚の螽斯は精神に異常をきたし、昼夜大声で喋っているらしい。
興梠達はこの螽斯の周りには近付かない。
喋り声を聞いてロシアの狙撃兵が殺虫剤攻撃をするそうだ。
だから昨日、仲間と看板を立てたと言った。
『芝生の中には入らないで下さい』
翌日、八匹の興梠達の遺体が看板の周りに放置されていた。
やったのは肩から籠を下げた、『ロシアの憲兵』達だと言っていた。