表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

信の在り処(しんのありか)

――レミア・シャルアズ視点


アルス様の研究と発明は、日に日に人間たちの間で話題になっていた。

蒸気を動力源とした魔動機械、自己修復する魔力布、そして負傷兵用の義肢――どれもが、今の貴族や王族の目を惹くには充分すぎる発明だった。


けれど、その裏で、私という存在はやはり「魔族」というだけで、白い目を向けられていた。


「……あれが助手? 汚らわしい」


「レミア様、あまり表に出ない方が……領民が怖がります」


城下の役人も、貴族も、時には使用人さえも私を異物として扱った。

それでも、私は笑った。耐えられた。なぜなら、アルス様だけが、常に私を“レミア”として扱ってくれたから。


でも、事件は起きた。



王都の近くで、試験運用中だった魔導甲冑(アルス様が設計した強化装備)が、暴走した。

原因は王都騎士団が勝手に魔力炉の出力を上げ、制御に失敗したためだったが、その責任はなぜか“魔族の手が加わったから”という理屈で、私に向けられた。


「奴が機体に細工をしたのだ!」


「このような技術、魔族の呪いに違いない!」


兵士たちは剣を抜き、私を拘束しようとした。


だが――その場にいたアルス様は、迷わず私の前に立った。


「レミアは僕の設計通りに作業した。責任があるとすれば、出力限界を守らなかった君たちのほうだ」


「お、お前……貴族だろう! 魔族の肩を持つのか!」


「身分は関係ない。技術と責任の話をしている。分からないのなら、今すぐこの場から出て行け」


誰もが黙った。


そしてアルス様は、私に向き直ってこう言ったのだ。


「君の名誉は、僕が守る。それは、君が誰よりも真面目に、誰よりも誇り高く働いているからだ」


――ああ。この人は、絶対に裏切らない。


その瞬間、私は心の奥底から、アルス様に“仕える”と決めた。




ある日の午後。アルス様が試作魔導炉の調整中に、“精霊核”の崩壊に巻き込まれた。


私が駆けつけた時には、彼は血を流し、意識を失いかけていた。


「……レミア……安全装置が、作動……しなかった……か」


「喋らないでください! 魔力流失が止まっていません!」


私は涙を拭いながら、魔族秘術「魔力織糸まりょくしし」を用いた。

これは魔族の間でも禁術とされる、生体魔力を自身から他者へと“直結”する危険な技。


使えば、自分の魔力はしばらく消耗しきり、命にも関わる。


それでも私は、ためらわなかった。


(あなたは、生きなければならない人だから)


私の角から発せられた光が、彼の傷口に染み渡り、魔力の乱れを再構成していく。


気が遠くなっていくなかで、アルス様の目が少しだけ、こちらを見た気がした。


「レミア……君は……」


「黙って、ください。全部、終わったら……怒ってください。それでも、私は――」


言葉はそこで途切れた。気を失ったのは私の方だった。


目を覚ましたとき、アルス様が私の髪をそっと撫でていた。


「ありがとう、レミア。君がいてくれて、よかった」


それが、報酬だった。


他に何もいらなかった。ただその言葉があれば、私はこの身を何度でも差し出せる。


架け橋として

事件のあと、王都の医師や騎士団までもが、私に謝罪に来た。

あの夜、私が施した術の痕跡を魔導解析師が調査し、命を賭けた行為であったことが明らかになったからだ。


「魔族にも、信義というものがあるのだな」


「……いえ、違います。ただ、私には“守るべき人”がいるだけです」


私はその日から、ただの助手ではなく、“アルス様の右腕”として王都にも名が知られるようになった。


魔族という肩書きではなく、“レミア”という名で呼ばれる日が増えた。


そして、物語は続く

私は、これからもこの人の隣で生きていく。


ことわりまほう――その両輪を支える、片角の魔族として。


そして、この世界が変わっていくその瞬間を、一番近くで見届ける者として。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ