表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

外れ角と、天の声

――レミア・シャルアズ視点


私の名前はレミア。魔族の一種、シャル=アズ族の末裔。

人の目には悪魔のように見える角を持ち、生まれながらにして魔法操作に長ける種族。でも――私の角は、片方しか残っていない。


あれはまだ五歳の頃だった。村の大人たちは言った。

「こいつの角は折れている、呪いの子だ」と。


確かに、シャル=アズ族にとって角は“魔力の通路”。両角から等しく魔力を循環させることで、正確な魔法制御が可能になる。だが、私は左の角を生まれつき欠いていた。結果、魔力量は極端に低く、些細な魔法を使うだけで息が切れた。


村人たちは私を怖れ、疎み、時には罵り、そして――捨てた。


そうして、私は人間の手に渡った。奴隷として、道具として、ただの“異端”として。売られ、試され、飢え、冷たい床の上で空を見上げたあの夜、私は思った。


(ああ、私は、いらない子なんだ)


そう思った。何も疑わずに。


けれど、あのとき――“彼”が現れた。


「名前は?」


無表情なその少年は、私に名前を尋ねた。それだけで、私はひどく驚いたのを覚えている。


誰も聞いてくれなかった。私を見て、笑い、罵倒し、値札を付ける者ばかりだったのに。彼は、まず私を“人”として見た。


「レミア。レミア=シャルアズ」


「僕はアルス。今日から、君は僕の助手だ」


助手。従者でも奴隷でもなく、助手。


それがどれほどの意味を持つ言葉だったか、当時の私はまだ分かっていなかった。ただ、泣きたくなるくらいに心が熱かった。それだけだった。


【エピソード①:初めての役割】

アルス様の屋敷での暮らしは、すべてが異世界のようだった。

食事は暖かく、寝床は柔らかく、何より、彼はいつも私に「意見」を求めてくれた。


「この構造、どう思う? 回路の線をもう少し密にできると思うんだけど」


「……回路の枝がぶつかって、魔力の流れが逆流する可能性があります」


「なるほど。さすがだ、ありがとう」


ありがとう。

その一言に、私はどれほど救われただろう。


最初は戸惑った。褒められることも、頼られることも、嬉しくて仕方ないくせに、心の奥がチクチクと痛んだ。


(どうせ、捨てられるんだ。今だけ優しくして、私が失敗したら、また――)


でも、違った。


ある日のこと。アルス様が開発していた魔力抽出装置の試作機が、反応暴走を起こした。魔力が空間に漏れ、屋敷の壁を歪ませるほどの力になった。


私は本能的に、回路に魔力を流し、干渉を試みた。角が震え、意識が霞み、膝をついた。それでも止めた。止めなきゃいけないと思った。


「レミア! 大丈夫か!」


そのとき、アルス様が私を抱きとめた。初めて人の腕の中にいた。


「すごい……回路の干渉計算を、咄嗟に……。君がいなければ爆発していた」


「……失敗して……すみません……」


「何を言ってるんだ。僕の失敗だよ。君は救ってくれた」


彼のその一言で、私の中の何かが音を立てて崩れた。


(――この人は、違う)


それが、最初の心酔のきっかけだった。


【エピソード②:呪われし角の価値】

ある日、アルス様が私にこう言った。


「レミア、君の角、触ってもいい?」


思わず身を引いた。角はシャル=アズ族にとって、最も大切な“器官”だ。それを知らずに言ったのではないと、私は分かっていた。だからこそ怖かった。


「……触って、どうするのですか」


「確認したいんだ。君の角が、呪いなんかじゃなくて、“特殊な構造”をしているってことを」


私は震えながらうなずいた。アルス様は優しく右の角に触れ、掌を添えて、魔力を微かに流した。


「やっぱり……すごい。君の角は、通常の魔族のものより繊細な構造をしている。複雑な回路のような分岐があって、魔力を“収束”させる能力が高い。欠けたのではなく、先天的に“最小構成”で造られたとしか思えない」


「……呪いじゃ、ない?」


「むしろ、“進化”しているんだと思うよ。魔力量は少ないかもしれない。でも君の角は、“最も効率的に”魔力を操るための器官だ」


目の前がにじんだ。涙が溢れた。


ずっと、傷だと思っていた。欠けていると責められ、呪われた証だと笑われ、価値のない存在だと信じ込んでいた。


でもこの人は、それを「進化」だと言った。私の存在そのものを肯定した。


「私は……あなたに、会えてよかった」


そう、心から思った瞬間だった。


その夜、私は自分に誓った。


この人のそばで生きる。

この人の夢を、一緒に叶える。

そして、この人の信じた世界を――私も信じる。


アルス様。

私の角は、あなたに出会うために生まれたのだと、今なら思えるのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ