航の就活
「絵里香さん、いつからそこに?」
「ほんの二時間ほどです。家の野生児がお邪魔してると思いまして。何処かにお出掛けでしたの?」
あたしは、翼さんの車を降りるとエリーに黙ってここへ来たことを謝った。
そんなことでエリーは怒らないことを知っているからだ。
「で? 何処に行ってたのかしら?」
これは、部が悪い、三人で帰ってきたところを見られてしまったのだ。
「あのね、翼さんの家の近所に桜の名所があるんだって。名前が桜トンネル、かっこいいでしょ?そこに連れていってもらってたの」
「今は、夏よ。麗華」
うっ、桜の話題は無理か……でも、私の口から翼さんの彼女のことを言うのは違うと思うし。
「僕の彼女の命日だったんです。だから、豊川に帰ってました。航も同級生のよしみで面識があるもので。線香をあげに来たんです。麗華ちゃんは、おまけですよ」
にこやかに、答える翼さん。
「だからって、私を置いて行くの? 麗華」
「うぅ……」
あたしは、言葉に詰まる。
「慕われてるねぇ? 航」
翼さんが、あたしたちに声をかけて、ボトルシップの店の鍵を開けてが、航に言った。
「勘弁してくれよ~~ 俺は、就活のことでいっぱいなんだ~」
「それですわ。航さん、時期がズレてません? どこにも内定をもらえなかったのですか?」
エリーの強い口調に、航の中のか弱いお嬢様の第一印象が崩れていったらしい。航は、開いた口が塞がらなかった。やがて諦めた口調で告白した。
「三つもらったんだが……どうも、ブラックだと噂があるところと……社長の横領が発覚して経営困難になって、取り消しになったのと、これは、滑り止めに受けたんで、行く気が無いと言うか……」
「経済学科を出てるそうね。リゾート開発に興味はあるかしら? 私でしたら、兄にあなたのことを話して、人事に話をつけてくれますわ」
「三条グループに、入りたいなんて言ってないぞ!!」
航は、エリーとあたしを睨む。
エリーは、クスクスと笑って言った。
「社長の妹の私がいうのもなんですが、わが社は、福利厚生には定評がありますわ。それに私がするのは、兄に話をすることだけ。来月の一日までに、エントリーシートを出して下さい。特別に試験をするそうよ。問題が無かったら、面接をするそうよ。あとはあなた次第だわ」
今日は、七月二十五日。あと、一週間も無かった。
航は、あたしたち、お嬢様たちの遊びに乗せられたと思いながらも、その日から就活の勉強を始めた。
カウンターでエントリーシートを書いていると、エリーはいつの間にか、カウンターの中に入って、家からリンゴを多量に持ち込み、器用に皮を剝き、アップルティーを作っていた。残った実で、アップルパイを焼くという。
その手際の良さに航も翼なんも驚いていた。
「エリーは、器用なんだ」
エリーのことを褒められて、あたしもとても嬉しくなった。




