浜名湖情景
「こら!! 麗華!! 何処だ!?」
航の声がした。心配そうである。
「あっ!! ここだよ。航」
「動くなと言っただろ!!」
航は、麗華の頭を軽くゴツンと叩いた。
「痛いよ~~ それより大通りにね、戦車みたいな大きな車が通って言ったの!! 日本だよね? ここ」
「この市には、陸軍の駐屯地があるんだ。だから、珍しくもないことだ。翼も帰るから、翼のA180に乗ってこいよ」
「おベンツじゃん!!」
「ベンツに『お』をつけるなよ」
「だって~~」
「ワーゲンで、うちの店に来た奴が言う台詞じゃないな」
そこに、セダンの白い車があたしの前に止まった。
「親父の車だよ。二台あるから、借りてるだけ。あそこまで通うのは、車でないと不便でしょ?」
優しい笑顔の翼が、あたしに話しかけてきた。
翼さんは、サングラスをかけていたが、目が腫れていた。きっと泣いてたんだろうな。
彼女を失って四年。翼はまだ彼女のことを引きずっているのかな……?
「乗って!!」
「は~~い」
あたしは、当たり前のように助手席に乗った。
それを見て、クスリと笑う翼。
「何?」
「いや、そこは彼女のための特等席だったんだ。誰も乗せたことはなかった」
「え~!? なら、後ろの座席に行くよ」
「良いよ。良い機会なのかもしれないみひろの両親からも、『もう、自分の人生を生きてくれ』と、言われてきたんだ」
みひろが突然死んだ時から、時が止まってしまった翼さんにとって、あたしのような子は必要だったのかもしれないと、後々、航に言われた。複雑な気分になったになったのを覚えている。
やがて、一台の車とバイクが、奥浜名湖のほとりの『ボトルシップ』へと帰ってきた。駐車場に一台の白い車が置いてあった。
「あれ? エリーの「up !」だ」
「え!? 絵里香さんは、今日は、体調が悪いんじゃないの?」
「……確かに朝は、少し具合が悪かったけど……」
「どういうことだ? 麗華」
バイクを、店の前に停めると航があたしに近付いて来て、A180のドアを開けた。
あたしは、渋々、車から出ると航の顔を見て言った。
「エリーも航のことが気に入ったんだよ」
奥浜名湖の波は静かだ。だが。一瞬風が吹いて、白波が立ったようにあたしは思えた。




