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赤磯三月の性格

赤磯さんが障がい者だという事実を伝えられたクラス全員は、特に何か反応を見せることもなく、先生が次に話すのを待っていた。


3分前に可愛い女の子が来て、盛り上がっていた状況とは全くの対となる教室の空気。

そんな空気を誰かが断ち切ることもなく、先生が再び話し出した。


「では、今から朝礼を始めます。

赤磯さんは、一番後ろの山本莉緒さんの席の隣に座ってください。

山本さん、これから色々と赤磯さんのことをお願いしますね。」


「えっ!あっ、はい。わかり、、まし、、、た。」


突然の先生からの無茶ぶりだった。

私は人の面倒を看ることなんて一切したくはない。

よりによって、あんな、、、、、人。

最低なことを思っているということは分かっているが、実際みんなもそんなもんだろう。

私だけじゃない。

きっと、、、いや、絶対そうだよ。


「赤磯さん、もう自分の席に座っていいですよ。」


そう先生が、赤磯さんをせかすように言う。

しかし、赤磯さんは先生の言うことを無視し、先生の隣でただ立ち尽くすばかりであった。


「赤磯さん、座ってください。」


「先生、もしかして赤磯さんは自分の席を忘れたんじゃないですか?莉緒ちゃんと話している間にすでに10秒程は経っていたと思いますし。」


若干いらだっていたであろう先生を落ち着かすように、積極的に真紀が言葉を言い放った。


「そうですね。じゃあ、山本さん、赤磯さんの席を案内してあげてください。」


「、、、、はい。」


不可抗力だ。

私は重い腰を椅子から離すと、赤磯さんのもとへ近づいていった。


「さあ、私についてきて。赤磯さんは今から席に座るのよ。」


「、、、、、、」

何も言わない赤磯さん。


私はそんな赤磯さんの手をいきなり引っ張ると赤磯さんは一瞬驚いたような顔を見せたが、おとなしく席の案内を受け入れてくれた。


「はい、ここに座って。」

赤磯さんが座る椅子を引いてあげ、ここに座るよう指示を出すと、赤磯さんはすんなりと座った。


こんな当たり前のことまで毎日言わないといけないのか。

退屈が少しでもなくなると思った私がバカだった。

こんな日々が続くのだとしたら、退屈はなくなってもめんどくさいだけが生まれて、更につまらない日々を過ごす破目だ。


ほんと、なんで私がこんな目に。



ていうか、記憶はできないのに日本語が分かるのはほんとなんでなんだ。

記憶ができることとできないことの線引きが検討もつかない。


ほんとに10秒で記憶がなくなるのか、赤磯さんは。

私はそんな疑いを胸に椅子に腰を下ろした。

_____________________________________________

「キーンコーンカーンコーン」

チャイムを合図に長かった朝礼が終わりを迎えた。


私は一気に疲れがたまったせいか、机の上をうつぶせで空寝をしていた。

ただの朝礼で一気に力が抜けたというのに、このあとすぐに始業式や新任式という意味のないバチクソに疲れる鬼行事があってしまう。

もう、嫌だ。


「ねえ、赤磯さん、俺柏木っていうんだけど。なんで転校してきたの。」

「ちょい、記憶がなくなるんだからそんなこと知るはずないだろ。」

「あ、そうか。ははっ」


横からそんないじめとなんも変わりはない話し声が聞こえてきた。

まあ、私にはあの子を守ってあげる理由はない。

ただの赤磯さんのお世話係ですからね。


嫌なら自分から嫌と言えばいい。

私がすることは、赤磯さんができないことを代わりにやってあげるだけ。

ただ、それだけの関係なんだ。


「ねえ、やめなよ。赤磯さんが困ってるじゃない。」


聞き覚えのある声だった。

私はうつぶせになっていた状態から顔を上げて、赤磯さんの席の方に目線をやった。


「そうだよ。赤磯さんをいじめないで。」

「男子たちは離れてよ。」


真紀の声はクラスの女子たちに広く浸透していたようだ。

真紀を筆頭に赤磯さんを擁護する声は大きな力を見せ、いつの間にか赤磯さんのそばには男たちはいなくなっていた。


「赤磯さん、大丈夫?」

「話すのが難しいのなら、うなづいてみても私たちはわかるよ。」

「そうだね。いろいろとジェスチャーとかしてみるのも一つだよ。」


「、、、、、、、」


優しく話しかけてあげる女子たち。

それに対し、赤磯さんはそんな優しさに応えてあげようとする素振りは決してなく、ただ、黙り込んで机の木目を見るような態度をひたすら続けるだけであった。


「まあ、まだ難しいよね。」

「もう時間だ。廊下に並ばないと。」

「行こっ」



廊下に並ぶのを理由に徐々に赤磯さんのそばから、減っていく女子たち。


一緒に赤磯さんも連れて行けばいいのに。

なんて思ったのだが、連れて行かないのはもう赤磯さんに愛想を尽かしたからなのであろう。


そんな態度をすれば、当たり前。

もう誰一人、あなたに味方をする人はいないよ。


「赤磯さん、一緒に行こう。私は寺門真紀っていうの。すぐに忘れるかもしれないけど、10秒だけでも覚えてくれたら私はうれしいから。」


1人で廊下に並ぼうと、席を立った時だった。


こういうのを底抜けに優しいというのだろうか。

腰を下げて、座っている赤磯さんと同じ目線で話しかけては、真剣な眼差しで返事を待つ。


「莉緒も一緒に行こうね。私も手伝うから。」


そう言って、私には眩しすぎる笑顔を向ける。


綺麗だった。


何回もあの笑顔を見たことあるけど、今まではあんなにも眩しすぎるものではなく。むしろ、今まではただの演技としか思えないもので薄汚く見たくないはないもの。

そんな風に感じていた。


なのに、なんで今はもう一度見たいとまで感じるのか。


私の心にある、鎖で守られているものが一段階緩まった気がした。



「教室にいる人らは早く廊下に出るんだぞ。」


「先生が来ちゃった。早く行こう。二人とも。」

「うん。」


「、、、あ、、、あの、、、」


私が話した後を追いかけるように聞こえてきた聞き覚えのない声。

その声はたとえ、知らなかったとしてもすぐに誰なのかは見当がついた。


今の声が赤磯さんの声なんだ。


女子らしい声ではあるのだが、少し低めで耳に残りやすそうな声の高さ。

真紀もそんな声に気づいたのか、私と同じように赤磯さんの顔を見つめていた。


「赤磯さんどうしたの?」


隠し切れないくらいの嬉しそうな顔をしながら話しかける真紀。

私も何を話しだすのかが気になり体のうずきが止まらなかった。


まるで赤ちゃんが初めて寝返りをするのを見届けるような雰囲気の中、


赤磯さんは話し出す。



「もう、私と関わらないで。」

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