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異世界魔王おじさん〜それでも貴方は働けますか?って元人間界で幽霊だったオジサンが魔王になったお話〜  作者: 破魔 七歌 


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3.魔王降臨す。新たなる第二の人生の幕開け






「──千円……ですか」


 明け方──。空はまだ曇ってはいたが、早朝のビルの窓辺に差し込む太陽の光が眩しい。

 酔い潰れた田中さんは、私と〝魔王誓約書〟を確認した後、ソファに身体を折り畳む様にしていびきをかいて横たわって居る。

 しばらく、田中さんの寝姿を見守って居たものの、私は引き続きデスクのパソコンに齧り付き、契約金となる口座に振り込まれた残高を確認していた。


「ま、まぁ、まだ何もしていない訳ですし。少々、期待を膨らませ過ぎてしまいましたかね……」


 傍目には、ひとりでに立ち上がったパソコンが画面から光を放ち、無人のデスクに置かれたキーボードが、カタカタと音を立てている訳だが。一つ気が付いたのは、電子機器と我々の様な霊的な存在は波長が合うと言うか、どうも私の体質と相性が良い。まぁ、それっぽく指を動かして、なんとなしにキーボードに触れているだけなのに、画面上の操作がはかどってしまう。

 私は自分の契約金が千円であることに一瞬、落胆しかけたが……気を取り直したのと、興味本位もあって、再びパソコンの画面に向かった。


「んー。我々の様な存在に対するセキュリティが甘くないですかね? これは良心の呵責に問われますね……」


 デスクを前に椅子に座って、パソコンの画面を見つめながらキーボードに触れていると、頭の中が冷静クールに冴え渡る。

 ついさっきまで田中さんと呑んで騒いで居たのに。田中さんが泥酔して眠ってしまった途端に、私の酔いが醒めてしまったのだ。

 そんなことを考えて居る内に、私はパソコン内にある……とある不思議な場所に辿り着いた。ポカンと呆気に取られていると、私の指が不意にキーに触れた。その瞬間、壮大なオーケストラの演奏がパソコンの画面から鳴り響き、若手女性歌手の儚げな美声とともにオープニング映像ともとれる実写映画の様なシーンが展開されて行った。


「な、なんですか、これは?! り、リアル過ぎ……。最近のゲームでは此処まで美麗な映像が。あ、そうか。田中さんが手掛けていらっしゃる〝仮想空間プロジェクト〟の試作映像ですかね、これは?」


 私は掛けている眼鏡の中央をクイッと押し上げ、画面を食い入る様に見つめた。……約五分間と言ったところだろうか。ひと仕切り、オープニング映像ムービーが画面から流れ終えると、タイトル画面へと切り替わった。


「〝蒼天の無限郷パラパトリア〟? 〜魂の帰るもう一つの場所〜? このゲームと、私が田中さんから仰せつかった〝魔王〟役と、どういった関係が?」


 私は、もう一度自身の眼鏡の中央をクィッと押し上げてから、首を傾げた。しばらくすると、タイトルの文字が朝の太陽の光に掻き消される様にして消え去り──新たな背景が画面ゲーム内に現れようとしていた。

 その瞬間──。

 画面に溢れ出した光が、パソコンの前に座る私の全身を包み込み……その身体ごと吸い込まれてしまいそうな感覚が、私を襲った。


「う、うわぁぁぁっ!! ……か、身体が。き、気持ち……良い」


 







「トシキ、トシキ! ……大丈夫っ?! しっかりして!!」

「え? ……はい?」


 ……眠って居たのだろうか、私は。

 ふと瞼を開け、目覚めた視界に広がるのは──。ログハウスと思しき木組みの天井と、私を心配そうに見つめる可憐な少女の顔。肌は白く、碧い瞳に金色の髪が肩に掛かる。私は掛けていた眼鏡の縁に手をやったまま、驚いて言葉が出なかった。


「……トシキ。ようやく、〝魔王〟の呪いから目覚めたのね?」

「はい?」

「話さなくても良いわ。三日三晩、眠って居たんですもの。こんな姿に変えられてしまって……」

「いや、あの……」


 ギュッと目覚めたばかりの私の手を握る少女。少女の温かい手の温もりが伝わる。ここは、一体、何処なのだろうか。

 私はベッドから身体を起こして更に驚いた。夢でも見ているのだろうか──。心配そうに私を見つめる少女の背後には、カントリー調の木製の家具が置かれ、古き良き異国の情緒が漂っていた。それに、夜……なのだろうか? 天井にぶら下がるオレンジ色の明かりを灯したランタンからは、アロマキャンドルの様な甘い香りが立ち込めて居た。

 私は、しばらくボーッと少女の顔に見惚れて、少女の可愛らしい手から伝わる温もりを感じ取って居た。もしかしなくとも、死後、初体験の出来事であった。


(──ドンドン! ドンドンドン!!)


 その時──。部屋の奥にある扉の向こうから、激しく叩く音とともに何やら外の騒がしい音が耳に聴こえた。ハッとした少女の表情が一瞬にして強張る。「どうして……」と呟いた少女が、木の床に四つん這いになって顔を俯かせ、涙を零して居た。しかし、見た目は中世ヨーロッパにおける田舎暮らしの少女と言った恰好で──。何故、私が今ここに居るのかは全く分からず、私も「どうして?」と、首を傾げて心の中で呟いた。


「……何もかも。もう、お終いよ……」

「え、な、何かあったのですか?」

「可哀想なトシキ……。記憶まで消されてしまったのね……」

「え? い、いや、何がなんだか、さっぱりなのですが。……せめて、事情を」

「逃げてっ!!」


 強張ったままの少女の小声が、悲痛な叫び声に変わり──、私はビクッとした。それも束の間、私と少女の居る部屋の扉は蹴破られ、外から中世の様な鎧を纏った人たちがワラワラと大勢……中に押し入って来た。その中でも、赤いマントを身に付けた最も強そうな兵士が、兜を脱ぎ去ると溜め息混じりに話し始めた。屈強な身体に長身な偉丈夫。凛々しい顔つきは、まさに美男子と言った様に見えた。


「……魔族の末裔の者たちだな? 魔力探知に長ける者から報告を受けてな」

「違うわ! 私とトシキは、ただの人間……」

「ならば、何故この様な人里離れた森の奥深くに棲まわねばならぬ? 魔王亡き今となっても、人外の種が蔓延り、跋扈して居ると言うのに?」

「こ、この土地と家は先祖代々より譲り受け、わ、私たちは細々と暮らして来たわ! それに、人間だって多少は魔力が扱えるわ。この森は私たちには無くてはならないものなのよ……」

「フッ。半分本当で半分は嘘……と言ったところか? では、何故、その様な異形の者を匿う? それは、〝魔王の呪い〟による姿替えの魔法の成れの果てではないのか?」


 「ウッ……」と、怯んだ少女が、その兵士を目の前にして──何処から取り出したのであろうか、短刀をコトリ……と、床に置いてから静かに正座をした。


「私たちが、魔族の末裔である疑いが晴れないのでしたら、私は此処で自害致します。けど、弟のトシキだけは助けて下さい! 本当に、本当に、私たちは……」

「フッ。健気なものだな? 良し。お前に免じて、二人とも命だけは助けてやろう? おいっ! この者たちを二人まとめて城に連行しろっ!!」

「そ、そんな!!」


 私は訳も分からないまま、少女とともに固いロープでグルグル巻きにされ、捕らえられてしまった。ビシッ!と、私の後ろ手にされた手首に縄が喰い込む。けれども、私が少女に「ど、どうなっているのですか?!」と、静かに小声で尋ねると、「良いから黙ってて!」と同じく小声でヒソヒソと返事が返って来た。

 その時──。

 ……あり得なかった。私は目を疑った。

 あわや、兵士たちに連れ去られそうになった瞬間、私と少女の二人と、兵士たちとを挟んだ何も無いはずの空間に──。紫電の光が稲妻の様に走り抜け、ドォォン!と凄まじい物音が響き渡り、竜巻の様に舞う塵芥が一人の人物を形成して行った。

 ──その異形の角と隆起した黒い肉体は、まさに悪魔と呼ぶに相応しかった。そして、その雷光を宿した瞳が、私と少女へと向けられ……ニタリとした笑みが口元に浮かべられて居た。


「あらら。こんな場所で〝魔王〟もとい、〝蔵前〟さん? 何をなされて居るのですか?」

「あ、あ、貴方はっ?!」

「ぐっ!! ……こ、この化け物めぇっ!! つ、ついに、本性を現したなっ?!!」

「ご苦労。君たち、兵士諸君は、もう下がりたまえ……」

「ひっ! あ、悪魔め……。総員、撤退っ!! 撤収! 撤収っ!! 逃げろぉっ!!」


 先程の兵士長らしき美男子が、焦燥しきった顔を引き攣らせつつ、ビクビクと身体を震わせながら逃げ帰って行った。蹴破られた木製の扉が、大勢の逃げ帰る兵士たちの足に踏み付けにされる。それを見て居た──私には何処か見覚えのあった人物が、異形に見えた悪魔の変身を解きながら「ふうっ。やれやれ……」と、溜め息混じりに前髪を掻き上げた。やがて、何処から取り出したのか、いつもの眼鏡を掛け終えると、私と少女に振り向き様に話し掛けて来た。縄は、いつの間にか解かれ──私は腰を抜かして、ただただ震えながら……その人の名前を口にした。


「……た、た、田中さん?!」

「──フィリィも蔵前さんも、無事かな?」

「もう! レイキ!! イベントが台無しじゃん!! ご新規様が……」

「ふふ、フィリィ? 隣に居られる御方を目を凝らして、良く見てご覧? ただのご新規様?」

「目を凝らしてって? うーん……。そっちの世界によく居る、ただのオジサンじゃ……。って、え?!」

「良い反応だね、フィリィ? もう、お分かりかな?」

「って、え? え、えぇっ?!! こ、この魂の奥深くに秘められし、揺らめく様な絶大なる魔力はっ!! こ、これって……」

「うーん。実に良い反応だよ、フィリィ? そりゃあ、驚くよね?」


 私には何が何やら、さっぱり訳が分からなかった。しかし、此処が何処であれ、窮地を脱したのには違いない。私は目を瞑り、天に祈りを捧げながら、蹴破られた家の扉の外に浮かぶ、煌々と光り輝くお月様に向かって手を合わせて居た。


「ま、魔王様っ?! お、おやめ下さいっ!! て、天に向かってお祈りを捧げるだなんて、ら、らしくないですよ!! わ、私たち魔族にとっては、貴方様の存在こそが──」

「フィリィ。……落ち着きたまえ。無理も無いのですよ。魔王様は、神々と勇者たちとの死闘に敗れ去り──忌まわしき転生の秘術をその身に受けられ、魔力を完全に封じ込められてしまったのだから。今は、もう……ただの人よりも、ずっと──か弱き存在なのです」

「うっ! うぅっ!! ま、魔王様ぁーっ!! う、うえぇぇんっ!!」


 私がポカンと夜空のお月様を眺めて居ると──。田中さんが、〝フィリィ〟と呼んでいた少女が私に抱き着いて咽び泣いて居た。私がポケットからハンカチを取り出して「あ、あの、泣かないで下さい。これで涙をお拭きになって……」と言うと、フィリィと言う少女は、私のハンカチを手に取り、ズビーッと鼻をかみながら更に号泣した。フィリィさんの嗚咽が止まらないその様子に、何だか私も、たまらなく悲しくなってしまった。






 

 

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です! うーむ、この先どうなっていくのか興味深いですm(_ _)m
ええええええええっ!? ままま、待ってっ、待って! 仮想現実は!? 仮想現実はどこ行った!? い、いや待て、これから、これからだ!
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