前科9 栗見さんとプリズン・ブレイク
梅雨が明け、夏の日差しが眩しくなってきた頃。
「布里須くん、かーえーろー?」
栗見さんと僕は、時々一緒に帰る仲になった。
だけど、この現状に満足してはいけない。もうすぐ夏休みだし、もう少し関係を進展させたいところだ。
「あ、あの、栗見さん……」
「んー?」
よし、デートに誘ってみよう。
そう思い立ち、道を歩む栗見さんを呼び止めた。気持ちを奮い立たせ、震える唇で言葉を紡ぐ。
「よ、よかったら……一緒に遊ばない?」
「うん、いいよー」
やった! 誘えた!
「なにして遊ぶー?」
不意に駆け出したかと思うと、栗見さんは道に面する公園へと入って行ってしまう。
あれ、もしかして、公園で遊ぶのを誘ったと思われてる……?
まぁいいや! 学校帰りに公園で遊ぶのもなんか青春っぽいしね!
「あ、見てー。ケイドロしてる」
「ほんとだ。懐かしいね」
砂場を檻に見立てて、小学校低学年と思しき小さな子供たちがキャッキャと遊んでいた。
「昔よくやったなー、ケイドロ」
「僕の地域だとドロケイって呼んでたよ」
「ケイドロだよ」
「え、だから僕的にはドロケイなんだけど……」
「ケイドロね」
「ドロケ……」
「ケイドロ」
「はい……」
なにその異常なこだわり。
「わたしたちも混ぜてもらおうよ!」
「え」
「少年たちー! お姉ちゃんたちも混ぜてー!」
すごい。コミュ力がすごいよ栗見さん。
「お姉ちゃんもドロケイやりたいのー?」
「ケイドロね」
「え、ドロケイでしょ?」
「ケイドロ」
「はい……」
小学生脅かしちゃダメだよ栗見さん。
そんなこんなで栗見さんの圧倒的コミュ力のもと、小学生に混じってドロケ……ケイドロをやることになった。
「わーい! わたしドロボー! 盗んで盗んで盗みまくってやるー! うけけけけー!」
栗見さんが見たことないテンションになってる。そんなに泥棒になりたかったんだね。ゲームの中だけに留めておこうね。
「よーし少年たち! まずは駅前の宝石屋さんに行くよー!」
「「はーい!」」
リアルケイドロしないでよ。小学生を共犯にしないでよ。
あ、騒いでたら、いつの間にか警察役の子が栗見さんの後ろに……。
「はい、お姉ちゃんタッチー」
「んなぁぁぁぁぁぁ!?!?」
速攻捕まっちゃったね。
「嫌だぁ〜、刑務所は嫌だぁ〜」
「捕まった人は牢屋に入らなきゃだめだよー」
泣き喚く栗見さんが小学生に引き摺られる図……。
抵抗虚しく、栗見さんは牢屋(砂場)に放り込まれてしまった。
が、警察の子が目を離した瞬間。
「刑務所やだぁぁぁー!」
「あー! お姉ちゃんが脱獄したー!」
さすが栗見さん! ルールなんてお構いなしだね!
本日の罪状:単純逃走罪(1年以下の懲役)
判決:プリズン・ブレイク面白い(おすすめ)