前科6 栗見さんとスリ
「ううう。またやってしまった……」
がっくりと肩を落とす栗見さん。
「家に置いてある自分の自転車と全く同じ見た目だったから、自分のだと勘違いしちゃったんでしょ?」
「うん……」
「大丈夫、よくあることだよ」
嘘だよ。絶対ないよ。
「一緒に返しに行こうね」
自転車を返しに学校の駐輪場まで戻って来た。
たぶん持ち主は部活中の生徒だったのだろう。一時的にチャリパクしちゃったのは多分バレていない。ギリセーフだ。(アウトです)
「持ち主さん、勝手に持って行ってごめんなさい」
パクってきた自転車を元の位置に戻し、栗見さんは深々と頭を下げる。ちゃんと謝れて偉いね。
「一応、指紋消しておこう」
手慣れてるね。
***
電車の方面が同じなので途中まで一緒に帰ることになった。やったね。
「なんか、すごい混んでない?」
普段、この時間はそこまで混んでいないハズだが、何故だか今日はホームに人が溢れ返っていた。
「もう一個の路線が止まっちゃってて、こっちに振替輸送してるみたいだね」
「うげー、混んでるのヤダなぁ」
混雑ももちろん嫌だが、満員電車の中に栗見さんを乗せるのは何かすごい心配だ。
「栗見さん、痴漢とか気を付けてね」
「やらないよ!」
「される方の心配だよ!」
「そっちかー」
加害者意識が強過ぎるよ。
「でも大丈夫。わたし、小学校のとき空手やってたんだ」
「そうなんだ」
「もし痴漢されても、過剰防衛するから大丈夫!」
正当な範囲に留めておこうね。でも栗見さんに痴漢する奴なんか過剰防衛されて当然だね。
そんなこんなで電車が到着。
扉が開くなり、中から物凄い数の人が溢れ出てきた。
「のわー!?」
「栗見さーん!?」
人波に飲み込まれ、栗見さん姿が見えなくなってしまう。ぴょこぴょこ動く彼女のポニテだけが辛うじて見えた。
「大丈夫!?」
「へ、へーき……」
人の群れが過ぎ去り、ボサボサ頭の栗見さんが姿を現した。もみくちゃにされ、げっそりと疲れ切った顔をしている。
「び、びっくりした。電車乗り過ごしちゃったね……」
「また次のに乗ればいいよ。それより怪我はない?」
「うん。ありがと。でも、なんか疲れて喉乾いちゃった。ちょっとジュース買ってくるね。えっと、財布財布……」
鞄に手を突っ込み、財布を取り出そうとする栗見さん。
直後、あ!っと大きな声を上げて目を見開く。
「あぁ! さ、財布が……!」
「え!? 盗られた!?」
「増えてる……」
増えたの!?
「うわぁ、スラされたー」
スラされってなに。初めて聞いたよ。
本日の罪状:窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
判決:ちゃんと返したのでセーフ(アウト)