前科4 栗見さんと不法侵入
「あ、もしもし、先生? 病院行ってきましたよ。ハイ、検査も終わりました。検査結果は……どぅるるるる……え? 演出いらない? ハイ、異常ナシでした。どうも。え、このまま早退していいんですか? 分かりました。では、ハイ」
担任に無事を報告し、スマホを放り投げ、ベッドに横になる。僕は優等生なので、言われる前に早退済みなのだ。
階段から落ちた時は死んだかと思ったけど、幸いにも傷一つなかった。きっと栗見さんの突き落とし方が上手かったんだね。
「ふぁ、ちょっと寝るかぁ」
病院行ったりしてたら何だか疲れてしまった。ちょっと仮眠しよう。
〜仮眠〜
うわ。三十分だけのつもりだったのだけど、結局二時間くらい寝ちゃった。すっかり夕方だ。
お腹空いたな。何か食べよう。と思って自室から出てキッチンに向かうと、人の気配を感じた。
確か、今日は家族全員帰りが遅くなるって聞いていたんだけど。誰だろう。
「あ、布里須くん、起きた?」
栗見さん!? 栗見さんが、僕の家のキッチンに!? なんで!?
「先生から無事とは聞いていたけど、心配で来ちゃった」
「そ、そうなんだ。わざわざありがとう」
「本当ごめんね? 大丈夫?」
「うん。この通り、元気いっぱいだよ」
「よかったー。ほんとよかったよー」
目に涙を浮かべ、心底安堵したような表情だ。栗見さんは優しい子だなぁ。
「あ、おかゆ作ったから、よかったら食べて?」
栗見さんの手料理だって!? 嬉しい! 外傷だからお粥食べる必要ない気がするけど!
「そういえば、今日お家の人は?」
「みんな帰るの遅いんだって」
「そうなんだ。じゃあ、二人きりだね」
「う、うん……」
改めて言葉にされるとヤバイな。栗見さんと二人きり……。
邪な心の中を見透かしたように、栗見さんがジトーっという目を向けてきながら、クスクス笑う。
「ちょっとー? 女子と二人切りだからって、えっちなこと考えてるでしょー? えっちなことはダメだよー?」
「か、考えてないよ」
「ほんとかなー? えっちなことは青少年保護育成条例違反だよー?」
条例の前に法律を遵守しようね。
「えっちなことされる前に帰ろーっと」
「な、何もする気ないって!」
「冗談冗談。布里須くんがそんな事する人だなんて思ってないよ。これからバイトなの」
「あ、そうなんだ。時間ないのに、本当ありがとう」
「いいって〜! 布里須くんの元気な姿見れたしね」
栗見さん、天使すぎるよ!
「それじゃ、また明日。学校でね〜」
「うん。気をつけてね」
あぁ。帰っちゃった。もう少し一緒に居たかったけど。
まぁ二人きりの状況で僕の心臓が耐えられる自信なかったけどね。
それにしても、まさか栗見さんが僕の家に来てくれるなんてな〜。
……あれ、ちょっと待てよ。
僕以外の家族みんな外出中。僕んち八階。このマンション、オートロック。どうやって入って来たの? こわっ。栗見さん怖いよ。……まいっかー! おかゆおいしー!
本日の罪状:住居侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)
判決:おかゆ作ってくれたのでセーフ(アウト)