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過去と未来と

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 アンジェリーナはジェラルドと共に王宮から公爵邸へ戻った。エミリーとリサ、それに数人の使用人に迎えられる。そこからパトリックがジェラルドについて執務室へ向かう。いつも通りの公爵邸の夜の光景。


 アンジェリーナは侍女に着替えを手伝ってもらい、サロンで一息していた。

 エミリーが晩餐の用意が整ったことを告げにきた。


「奥様、今日の晩餐にはお好きなものが沢山でるようですよ。」

「まあ、楽しみ!」

「妃殿下のお相手でお疲れでございましょう。邸では奥様が少しでも楽しんでいただけるようにと頑張ったのですよ。」

「ふふ、せっかく気を使ってくれているところ申し訳ないけど、あちらでも楽しんでいるのよ。レティシア様はとっても良い方だし、ほんとに楽しいのよ。あっ!そうだわ、忘れる前に二人には伝えておかなきゃ。」


 レティシアからの本格的なお茶会への参加依頼を侍女達に伝えると、二人は目を輝かせて喜んだ。エミリーとリサは、ドレスと宝飾品の購入許可を早速パトリックに申し入れなくてはと、目配せした。

 他国から嫁いできて、これまでどのご婦人ともお近づきにならなかった王太子妃殿下。彼女達の仕える女主人が、その王太子妃の心を開き、お気に入りになったことが心から誇らしい。   

 

 二人はアンジェリーナがいれば、バーンクライン公爵家の未来は華やかになること間違いなし、と確信した。





 八年前のバーンクライン公爵邸――


「若様、お手伝いいたしましょうか。」


 ジェラルドの部屋へ朝の係のメイドが訪れ、控えめに言った。

 初めて見る顔だった。


「手伝い?」

「はい。若様、大丈夫でございますか?もし、お辛いのであれば、無理しなくても宜しいのですよ?お体に障りますから。」


 ジェラルドは目を覚ましたばかりで、寝台の上で上体を起こしていた。

 16歳の若くて健康な肉体は元気で、薄手の肌掛けの股間の当たりが雄々しく盛り上がっている。

 ジェラルドは、数年来続くこの現象を忌々しく思っていた。出さないと辛いということは分かっているが上手くいかないのだ。 


 ジェラルドの寝起きの頭では、メイドの言葉の意味がよく理解できなかった。すると、そのメイドは手慣れた動きでジェラルドの下穿きをずらした。


「なっ!何をする、止めろ!!」


 ふらつく頭を2~3回振り言葉にしたものの、メイドの動きを止めることはできなかった。

 メイドに刺激され、身体の中の熱が高まっていった。


「もう一度、お手伝いさせていただいても?」

「…ああ。」


 ジェラルドの長年の苦しみは、この日の朝をもって解消されたのだった。


 このメイドは自分の手伝いをするために充てがわれたのだ。自分は迂闊に公爵家の血をばら撒いてはいけないのだから当然だと、ジェラルドは認識した。

 そのメイドの名はマリアンヌといった。ジェラルドはマリアンヌを朝の係に命じた。


 ジェラルドは公爵家の嫡男に取り入ろうとする令嬢が、いかに多いか教育されてきた。相手には好印象を与えつつ、深い仲にはならないよう躱す手立てを教え込まれてきた。

 ずっと、男性の本能にもしっかりと蓋を被せてきたのだ。しかし、マリアンヌの前でその蓋は呆気なく開いてしまった。そうして、ジェラルドは初めての快感にのめり込んでいった。





 アンジェリーナが登城した日にジェラルドは、レティシア妃とのお茶の時間に顔を出す。

 春の陽だまりの中、アンジェリーナとレティシアは、その日に学んだことや最近の出来事、流行りの話題などを、楽しそうに生き生きとした表情で話している。その光景は、まるで美しい花が咲き誇っているようで眩しいほどだ。


 ジェラルドはアンジェリーナの顔を眺め、目を細めながら黙って話を聞いていた。話しが佳境に入るとアンジェリーナの瞳に光りが増し、キラキラと宝石のように輝き始める。ジェラルドは、その瞳に魅入られていった。


――――――ふと、気づいた。


 邸でも王宮でも夜会でも、アンジェリーナと一緒にいると楽しい。

 あぁ、この笑顔を見たかった、会いたかったんだと。



 アンジェリーナとは偽装結婚だ。当初は白い結婚にするはずだった。それなのに抱いてしまった。別にやましい気持ちがあった訳ではない。ただ抱きたかったのだ。

 アンジェリーナに対しては後ろめたさもあるが、あの笑顔を見ると抱かずにはいられない。


 はたして、マリアンヌに対してこんな気持ちになったことはあるだろうか?

 マリアンヌはおとなしく従順だ。口数が少なく会話も少ない。過ごす時間のほとんどは閨の中、行為が終わればそれまでだ。

 今まで、楽しいとか会いたいとか思うことはなかった。そもそも、何らかの気持ちを抱いたことがないのではないか。


 ならば、なぜ夫婦になりたかったのか?

 ジェラルドは、自分の気持ちを理解し整理しようと思った。


 これまでは、いつもマリアンヌが傍にいた。これからも、ずっとマリアンヌが傍にいることを疑わなかった。

 これからの未来にも、マリアンヌは傍にいるのだろうか?

 そして、これからの未来には、アンジェリーナが傍にいないのだろうか?


 ジェラルドは次第に、マリアンヌの元へ向かう足が遠ざかっていた。






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