借金!?
初めての投稿です。
よろしくお願いします!!
深く澄んだエメラルドグリーンの瞳、キラキラ輝く瞳に引き込まれる。
まるで、瞳に真実を問われているように。
あの瞳に見つめられると嬉しくなる。元気になって勇気が湧いてくる。
あの瞳に見つめられると素直になる。正直に全てを打ち明けたくなる。
◇◇◇◇
「「「しゃ、しゃ、借金?」」」
家族全員が固まった。王都にあるローズウッド伯爵家のタウンハウス一室では、只今家族会議の真っ最中。
当主のローズウッド伯爵アーネスト、隣にはその母親のミシェリアが一人掛けの椅子に、テーブルを挟んだ長椅子には、長女のアンジェリーナ、次女のフローラが座っている。テーブルの脇には、書簡を携えた家令のビクターが控えている。
「金額を確認したら流石に隠しておけなくなって…。見てもらった方が早いと思ったから、書類を持ってきたんだ。」
アンジェリーナの兄であるアーネストは、借りてきた猫のように縮こまっている。
アーネストはビクターから書類を受け取ると、恐る恐るテーブルの上に並べた。
晩餐を終えた後、青白い顔をしたアーネストの口から『話があるんだ』と言葉が零れたとき、もはや手遅れになっているであろうことは、誰しもが察した。これまで数々の問題を起こしてきたアーネストであったが、借金は始めてである。
ローズウッド伯爵家は古くからの歴史があるだけで、領地経営が特別上手くいっているわけではない。ごく普通に伯爵家として体面が保たれる程度の経済力だった。前ローズウッド伯爵エヴァンスが一年前に亡くなるまでは――
この家の大黒柱だったエヴァンスを失ったローズウッド伯爵家は深い悲しみに包まれ、次第に領地経営も傾き始めた。アンジェリーナは伯爵家の領地運営について学び始めたが、おいそれと簡単にはいかない。その隙にアーネストは新しい儲け話に乗っかっていた。
ここ最近、アーネストは家に留まることなく忙しく出歩いていた。家族はアーネストの交友関係に口を挟んだことはないが、かなり心配していた。アーネストはお花畑な性格で、これまで幾度となく騒動を引き起こしてきたからだ。そして、その都度家族で乗り切ってきたのだ。
「お兄さま。一体どういうことですの? このような大金、何故借りたのです?!」
アンジェリーナは泣きたい気持ちだった。借金の額が半端な金額ではない。
「ごめんね。そんなに怒らないでおくれ、僕も辛いんだ。」
「……っ」
「簡単に儲かるという話だったんだ。でも僕は怪しいと思って、ちゃんと説明会にも行ったんだ。」
「――その説明会って有料だったんじゃないでしょうね?」
まさかと思いつつも思わず確認してしまう。アーネストは驚いたような顔をした後、くしゃりと破顔した。
「アンジーはとても勘がいいね。その通りだよ。説明を聞いたらほんとに簡単だったんだ。時間はかかるけど僕にもできそうだったから商材を購入したんだ。」
「その商材はどうしたんですか?」
「それがつい最近、壊れてしまったんだ。購入先も引っ越してしまっていて、移転先が分からないんだよ。」
この場の空気がずんと重くなった。
どう考えても詐欺だろう?
「どうして、どうしてそんなことを……」
アンジェリーナは怒りを抑え込もうとぐっと拳を握りしめた。だが、抑えきれずにプルプルと戦慄いた。
アンジェリーナはちらりと横に座るフローラに目を向けた。フローラは来年16歳になり、社交界デビューを迎えるのだ。多額の借金を抱えたままでは、お先真っ暗だ。フローラは事の重要性がわかっているのか、黙って俯いている。
長女のアンジェリーナは婚約の話が遠のき行き遅れ状態。既に醜聞になっている。その上、借金で次女が社交界デビューができないなんて事態になったら、ローズウッド伯爵家は醜聞まみれだ。
「アンジー、そんなに怒らないでおくれ。僕も反省しているんだ。」
「怒りたくもなります! 大体お兄さまは何を思って新しい商売など始めようと……!」
感情の高ぶるままテーブルを力強く叩く。テーブルの上のカップが揺れガチャと悲鳴を上げた。
「ほら、お父上がいなくなってしまって僕が当主になったんだ。しっかりしないといけないと思って頑張ってみたんだ。」
「兄上……」
アンジェリーナは頭が痛くなってきて、こめかみを揉んだ。
フローラは今にも泣きそうな顔をしている。アンジェリーナは隣に座る妹の手を優しく包み込んだ。
「何かいい方法はないかしら……」
アンジェリーナは、ふうっと大きく息を吐いた。
それから数日たっても、手立ては見つからなかった。アンジェリーナが自室で考えを巡らせていると、家令のパトリックがやってきた。
「アーネスト様が執務室でお待ちです。」
アンジェリーナは怪訝な面持ちで兄の元へ向かった。
「アンジェリーナ、バーンクライン公爵家から婚約の打診が来ている。なんでもお前のことが忘れられないらしいんだが、心当たりはあるのかな?」
アーネストはニタニタと妖しい笑みを浮かべて言った。
「えっ、思い当たることはございませんわ。公爵家の方にお目通りしたのなら、忘れる訳はございませんもの。何かの間違いでしょう。」
アンジェリーナが参加した数少ない社交の場で言葉を交わした相手は、一番爵位が高くても侯爵家。それも挨拶程度だ。
「そうか……」
アーネストは残念そうに呟いた。
「それで、公爵家に招かれているんだがどうする?」
「情報が間違っていないか確認して頂くようお伝えください。」
「まぁ、でも顔を見れば間違いだと気づくだろう。折角の機会だ、記念に行っておいで!」