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73 胡麻博士の調べていたこと

「さて、この金剛杵を売り払った人物がどういう人物であったのか、わしはすぐに知りたいと思った。ところが骨董屋の店主はプライバシーだのなんだの言って、頑なに口を閉ざして教えてくれなかった。この法具が盗品であるのなら調査のしようによっては白緑山寺から盗み出した犯人を特定できるというものだ。ところが、我ながら恥ずべきことだがその後、わしは窃盗団の逮捕に貢献しようなどという世俗的な興味がまるで湧いてこなかった。それよりも平安時代の法具の民俗学的興味にすっかり心が支配されてしまった。わたしはこれを持ち帰り、しばらくして、自分の手元に置いておくことが勿体無く感じられてきた。愛娘の楓にプレゼントしたいと心から思った。勿論、白緑山寺の調査を進めた後にサプライズの雰囲気を醸し出しながら和尚に法具をお返ししようとも思っておった。

 さて、わしは白緑山寺の資料集からあの金剛杵が白緑山寺のものと同一のデザインであることに気づいて白緑山寺の調査に乗り出した。楓と久しぶりに会ったあの日、わしは滝沢教授を探しにきたふりをして、いや、それは本当に会いたかったのだが、大学に侵入した。そして楓に思い切って金剛杵をプレゼントすると共に、白緑山大学の図書館に到着し、白緑山寺の資料集などを隈なく調べてゆくと、非常に摩訶不思議なことがわかってきた。なんとおったまげたことに、これは本来、白緑山寺の宝物館に収蔵されているはずのものと傷跡の形まで完全に同一のものだった。しかしそれでもまだ同じものとは思いもよらなかった。翌日、白緑山寺で事件に巻き込まれたわしは、しばらくこのことを忘却していたが、今朝から白緑山寺に戻り、聞き込みを行っていたのだ。すると驚くべきことに、件の金剛杵は観音堂で密室殺人が起こった日に盗み出されたとされるいわくつきのものだった。わしはまさに金剛杵が完全に同一のものと知るに至った。しかし、もし窃盗団がそのような危険をおかしてまでこの金剛杵を盗んだのなら、それが骨董屋で安く売られていたのは一体全体どういう訳だ。だってそれだけの危険をおかして盗んだものを普通の骨董屋に安い金額で売るかね……?」

「そんな物騒なものをわたしが持ってるのめっちゃ危ないじゃん……」

 と楓は不安げに呟いた。


「まあ、聞きたまえ。知れば知るほど、この金剛杵には()()()()()()()()ということがわかってきた。迂闊に寺に返してよいものかわからなくなってきた。殺人事件が起こった日に盗まれた金剛杵がなぜ骨董屋で売られていたのか。この謎を解かなきゃならん。しかしこれはわしの手に余る仕事だ。そう。探偵の羽黒君に相談すべき話なのだ。そこでこの金剛杵を受け取りにきたのだ……」

「どうぞどうぞ、もう持ってこないでください……」

 楓はそう言って、金剛杵を手に取ると強引に父親に押し付けたのだった。

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