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37 藤沢隆市刑事

 その頃、白緑山寺では警察による初動捜査が難航しており、今も継続中であった。

 自家用車で遅れてやってきた、栃木県警の藤沢隆市(ふじさわりゅういち)刑事は、若干三十八歳にして警部の美男子であったが、その冷たい表情からは何を考えているのか分からない凍りの男という印象を周囲に与えた。今日は非番だったのだが、白緑山寺で殺人事件があったと言う話を聞いて、自宅から車で急行してきたのである。

 二年前に田崎弥生が殺害された時も、この藤沢刑事が捜査を担当していた。

 部下の袴田と共に、日が暮れてライトアップされている観音堂の前に立っている。


 すでに現場検証の大部分は終わっていたが、いまだに周囲に警察官がうろついている。

「それで被害者の身元は割れたか」

「秋元彩子。東京都内の吉祥寺に住む今時のOLですね。今回は旅行でこの白緑山寺に訪れていたようです」

 と袴田は状況を説明する。

「一人で旅行していたのか?」

「そのようですね。白緑山温泉の旅館に昨日から宿泊しています」

「うん。それで、被害者は一人で白緑山寺に来たのか、それとも誰かと共にこの白緑山寺にやってきたのか」


「運行バスの運転手はこの女性に見覚えがないと言っています」

「バスを利用していないということは、被害者の移動手段は、タクシーか、自動車の二択しかない。タクシー会社に問い合わせたか?」

「ええ。しかし、そんな人は乗せていないということです」

「もし、被害者が自分で自動車を運転してここまで来たのならば、近隣に被害者の自動車が今も残っているはずだ。だが、それもないとなると、被害者は、犯人の自動車に乗せられてこの場所まで来たことになる」

「ええ」

「山道に自動車が残っていないか探せ。とにかく近隣の聞き込みをすることだ」

 藤沢刑事はそう言うと、鋭い顔をして周囲を睨んだ。冷徹な美男子であるから睨むと任侠映画のような凄みが出る。不細工な男が睨むと恐怖感を与えるが、美男子が睨むと精悍というものだ。

 群馬県警の根来警部(ねごろけいぶ)は「群馬県警の虎」と恐れられているが、この藤沢隆市(ふじさわりゅういち)警部は「栃木県警の鷹」と恐れられている。


「事件発生当時、本堂にいた人々が今も僧坊で休んでいるのですが……」

 と袴田は言った。

「第一発見者か」

「第一発見者の僧侶の他に、仏教民俗学者の胡麻零士と私立探偵の羽黒祐介という人物が今も僧坊で休んでいます」

「仏教民俗学者に私立探偵? くさいな……。そのふたりに直接話を聞いてみたい……」

「分かりました。それと住職の和尚もいます」

「そうだな。御老体を夜更かしさせてはいけない。御住職から話を聞くとしようか……」

 そう言うと藤沢刑事は本堂のある方向へと歩いていった。

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