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《コミカライズ》【短編版】婚約破棄を宣言した王子と、悪役令嬢は階段から落ちた·····そして2人は叫んだ「私達、入れ替わっている!?」と

作者: 夕景あき

「イザベラ、君との婚約を破棄する!俺の愛しいアイリスを虐めるような醜い性根の人間の顔など、二度と見たくない!国外追放を命ずる!」


俺は卒業パーティホールの階段上の踊り場にて、可愛いアイリスを背でかばいながら、イザベラを指さし大声で言ってやった。


こうして間近で男爵令嬢のアイリスと公爵令嬢のイザベラを見比べると、やはりアイリスの可愛さは秀でて見えた。王太子である俺の婚約者となるものは、のちに王妃になるのだから美しい人間であるべきなのだ。自分の選択は間違っていなかったと改めて感じた。

大きな瞳いっぱいに涙を湛えたアイリスは、ピンクブロンドが艶々しており、赤い頬とぷっくりしたみずみずしい唇の可愛らしい女性だ。

一方のイザベラは黒髪で、公爵令嬢だけあり顔は整っているが、少しツリ目がちできつい印象を与える顔立ちであった。そして血色はあまり良くなく、いつも仮面のような硬い笑みを浮かべていて気味が悪かった。


そのイザベラがいつもの気味の悪い笑みをなくし、顔を真っ青にして震えていた。


俺の発言でイザベラの表情が変わったことに満足した瞬間、イザベラが気を失って俺に倒れ込んできた。

俺は慌てて払い除けてイザベラを階段の方に押しやったが、イザベラの黒髪が俺の服の胸元の飾りに絡みついていた。

気を失ったイザベラの体重は驚くほど重く、胸元を引っ張られバランスを失った俺はイザベラと共にもつれるように階段を転げ落ちた。


体中を強い衝撃が襲った後、内心で役に立たない護衛共に舌打ちしつつ、クラクラする頭でなんとか立ち上がった俺は足元がスースーする事に驚いた。


そして、目線を下にしてギョッとした。


なんと、さっきまでイザベラが着ていたような濃紺のドレスを俺が着ているのだ。


「な、なんだこれ·····」


目線の先を揺れる長い黒髪を引っ張ってみると、自分の頭皮が痛む。


「な、なにが起こったのでしょう、これは·····」


聞き覚えのある男の声に振り向き、驚愕した。


そこには、内股座りで座り込み、護衛に囲まれている金髪碧眼の俺がいたのだ。


金髪碧眼の王太子の姿をした人物と目が合い、頭がスーッと冷えていった。


この状況、思い当たることがひとつあった。


そして、俺達は叫んだ。


「私たち、入れ替わっている!?」

「俺たち、入れ替わっている!?」


***


イザベラは呆然とした表情で何も言わぬまま、王太子として手厚く別室に運ばれて行ってしまった。アイリスが王太子の後を必死について行きながら、こちらをチラリと見た。アイリスのその顔が、こちらを見下した酷く歪んだ表情をしていることに、俺はゾッとして思わず叫んだ。


「待ってくれアイリス、俺が王太子なんだ!」


アイリスを引き留めようとしたが、王太子護衛のザックに肩を蹴り飛ばされた。


「『自分が王太子だ』などと戯言を抜かしたら、今度はその首斬り捨ててやるから二度と口にするなよ」


ザックのあまりの不敬に俺は殴りかかろうとしたが、射殺すような瞳でザックに睨みつけられ、その殺気に俺は言葉を飲み込み固まるしか無かった。


ザックに蹴られた跡も痛いが、階段から落ちたためか体中が痛かった。そして何故かへその下あたりを誰かに殴られ続け、内蔵を捻りちぎられるような痛みが続いていて、痛みのあまり目の前がチカチカした。

誰かに助けを求めようと周りを見渡すも、近づくと皆、俺を避ける。


そんな中、1人の厳しい表情の40代のメイドが来て、俺の手を引いて馬車へと連れ出してくれた。イザベラ付きのメイドだと言う。


すぐに元の身体を取り戻さねばと気が急いだものの、この体調の悪さをなんとかしないと死んでしまいそうだ。


俺の手を引っ張って歩くメイドに下腹部の痛さを訴えると、驚く答えが返ってきた。


「お嬢様の月のモノの辛さは今に始まったことではないでしょう?こんなのいつもの事でしょうに。夜会の催されるタイミングといつも被る点は同情しますが、コルセットはこれくらいキツくしておかないと見栄えがしませんからね」


イザベラはいつもこんな痛みを耐えていたのか、だからあの様な青白く硬い表情をしていたのか。

この痛みを耐えることが出来ていたイザベラの精神力に、俺は驚愕した。

それと共に痛みに耐えかねて、気を失ってしまったのだった。


***


数時間後、目を覚ますと俺は見知らぬベッドに寝かされていた。


さっきのことは夢だったのかと安心して起き上がると、目の前に黒髪がサラサラと流れてきて、俺は悪夢が続いていることに絶望した。


イザベラ付きの例のメイドが入ってきて、俺が起きてるのを見ると小言をまくしたて始めた。


「まったくもう、倒れてしまうなんて本当に困りましたよ。あの後馬車まで運ぶのに人手を借りねばならず、大変だったんですからね。早く起きてください、旦那様がお待ちですよ」


こんなに感じの悪いメイドがこの世にはいるのかと驚きながら、俺は未だ下腹部が酷く痛むことを訴えた。

だが、メイドの答えはすげないものだった。


「貴方が寝てる間にお医者様にも先程見てもらいましたが、打撲跡だけあるものの、別に異常はなさそうとのことですよ。階段から落ちて別の場所が痛むのなら考えますが、その部位ならいつもの月のモノでしょう。婚約破棄されて気まずいのでしょうけど、ワガママ言わないで早く用意してください!」


キツイ口調でそう言うと、俺を無理やり立たせて鏡台に座らせてロングの黒髪を乱暴に櫛で梳か始めた。

髪が引っ張られ、「痛い」と思わず声を上げると「うるさい」とメイドに叩かれて呆然としてしまった。俺が元の身体を取り戻したら、このメイドをどうしてやろうかと思うことで、なんとか溜飲を下げた。


その後、引っ立てられて公爵家当主の部屋に引っ張ってこられた。

部屋に入ると、俺の側近でもあるイザベラの兄オリバーと、リシュリー公爵がいた。

俺は居ても立っても居られず、オリバーに詰め寄って叫んだ。


「オリバー信じてくれ!俺が王太子なんだ!階段から落ちて入れ替わっただけなんだ!その証拠にお前の女の好みだって知ってる!背の低い、守ってやりたくなるような、俺のアイリスみたいな女が好きなんだろ?」


俺がそう言った途端、オリバーに首元に短剣を突きつけられた。王太子として習った護身術で避けようとしたが、ひ弱なイザベラの体は思ったように動かず、すぐに大柄なオリバーに押さえられた。


「婚約破棄された上に王子を階段から突き落とし、挙句の果てに王子の名を騙り、下品な言動の数々·····階段から落ちて打ちどころが悪く頭がおかしくなったとしか思えない。父上、この家を守る為にも殺すか病院送りにするかしかないでしょう」


俺は首元のヒヤリとした短剣から、命の危険を感じ口を閉じた。そして縋るような目で、リシュリー公爵を見た。リシュリー公爵は王太子だった頃の俺の前ではいつも温和な態度だったから、救いがあると思ったのだ。リシュリー公爵は髭を蓄えた口をへの字にまげ、苦々しげに言った。


「病院は金がかかる。政略結婚の道具としてもう使えないなら、殺してしまいたいところだが、そもそもあのバカ王子から国外追放を言い渡されているからな。指示通りに動かないと不味いだろう。まぁ、これ以上イザベラが『自分が王太子だ』などという戯言を言うようなら隣国に向かう途中の馬車を襲わせて暗殺させよう。一週間様子を見て、頭のおかしい発言が治まるようなら、殺さずに国外に捨てるだけでいいだろう。まぁ、殺さずとも勝手にのたれ死ぬだろう」


そう言って、リシュリー公爵はため息をついた。

俺の事をバカ王子と裏で言っていたことにも腹が立ったが、仮にも自分の娘を道具だの、殺してしまいたいだのを目の前で言うのかと、開いた口が塞がらなかった。

国王である俺の父も、王妃である俺の母も、遅くにできた一人息子ということで俺の事をとても大事にしてくれていた。親というのは皆そうなのだと思っていた。こんな親が世の中にいることが信じられなかった。

文句を言ってやりたいが、きっと今余計なことを言うと殺される可能性が高いと思い、俺は内心腸が煮えくり返りながらも口を噤んだ。


いっそ死ねば元の身体を取り戻せるのか?いや、危険だ。

生きてさえいればきっとまた、元の身体に戻れるだろう。イザベラの体で何を言っても、きっと誰にも伝わらない。今は口をつぐみ、全てを耐えて大人しく過ごす、それしか俺には方法がないのだ。


イザベラの体になってから、人の醜い部分ばかりを見せつけられてうんざりしていた。それもこれもどれも、すべてはイザベラのせいだ。


俺が怒りを内に秘めながら部屋に戻ると、机の上の日記帳が目に止まった。

壁の本棚を見ると、同じ柄の日記帳が何冊もあった。手に取って見ると精霊歴156年から始まり、今年の166年まで表紙に書いてあった。

あの、イザベラの仮面のような硬い笑顔の下でどんな醜い事を考えていたのか読んでやろうと、俺は1番初めの156年の本を手に取り、ベッドに潜り込んだ。


***


寝落ちしていたらしく、俺は日記を片手に眠っていた。

相変わらずの黒髪と豊かな胸の膨らみを見て、悪夢が冷めてないことに俺はガッカリしたが、とりあえずイザベラの日記を読み始めた。


10冊全部読み終わる頃には、俺は心が洗われた気持ちだった。


イザベラの事を見直していた。日記の中身は王太子妃教育の復習とその日あった辛かったこと、悲しかったこと、楽しかったことが書かれていた。


イザベラは7歳の時に、俺と婚約した。もちろん政略結婚だ。始めの頃はコロコロ表情が変わる彼女と一緒にいて楽しかった記憶が俺も朧気に残っている。だがいつの頃からか、仮面のような硬い表情になった。


たどたどしくも丁寧な文字で書かれたイザベラの10年前の日記に、その理由は書かれていた。


『将来王妃になる人はいつも微笑みの仮面をつけないといけないそうです。表情を変えると、鞭で叩かれるので気をつけなくては。辛いけど、外国の方にお会いした時にこの国の内情を外に知らせないために重要なことだそうです。殿下を守る為にも、国民を守る為にも仮面を常につけないといけないそうです。頑張ります』


『今日は声を出して笑ってしまいました。その様子を家庭教師が見ていたようで、あとで背中を鞭で叩かれてしまいました。国のために私の心は殺すようにとの、ご指導をうけました』


『5年後までに5カ国語を覚えないといけないそうです。1年で1ヶ国語を完璧に使いこなせるようになるようにとのご指導を受けました。めげてしまいそうで、涙をながしてしまいました。そこを家庭教師にみつかり、鞭で叩かれてしまいました。泣き顔を見せるなど、絶対にしてはいけないことだそうです。しっかりしなくてはなりません』


俺は自国の言葉しか話せないのに、イザベラは5か国語も学んでたのかと愕然とした。

俺は王妃教育がこんなに大変な内容だとは露にも思っていなかった。それどころか、イザベラが必死に教本をめくってるのを見る度に「大変そうなフリをしてイザベラは自分の気を引こうとしているのだ」とさえ思っていた。


13歳の日記にイザベラの母親が亡くなった記述があった。

『お母様は私に言いました「誰もが人の悪い点ばかりに目を向ける中、あなたは人の良い点に気がつける心優しい子です。そんなあなたを王子の婚約者という立場にしてしまって、本当にごめんなさいね。王宮のような伏魔殿であなたの清い心が病んでしまわないか母は心配です。ああ、国守の精霊神よ。どうかこの子をお守りください」そう言って、お母様は祈るように目を閉じました。その後、お母様の目は二度と開きませんでした。私は苦しくて苦しくて悲しくて悲しくて悲しくて仕方がなかったのですが、なんとか家庭教師の教えを守り人前で泣くことを堪えていました』


そう書かれた、彼女の日記は涙で滲んだ跡が何ヶ所もあった。


『お医者様はお母様が亡くなったのは私を産んだ時に内臓を痛めた後遺症だと言ってました。お父様もお兄様もその話を聞いて、私の方を酷く睨みました。きっと、私なんて生まれてこなければよかったのに、そうすればお母様は今も生きていただろうにと思っているに違いありません。私もそう思います』


幼いイザベラの震える文字で書かれた内容に俺は胸が締め付けられる思いがした。


『今日はお母様のお葬式です。雨模様は私の心のようです。お母様が亡くなってからずっと、皆に責められている気がして世界が灰色に見えます。お母様のお墓に手向けられる花達さえも、私が生きていることを責めたてているかのようです。そんな中、殿下が「まぁ。なんだ、元気出せよ」と言って、カモミールの花を1輪くださりました。色をなくしていた世界が、その花を中心に途端に色づいて見えるようになりました。帰って調べたところ、カモミールの花言葉は「逆境に耐える」だそうです。私は、これからは殿下のために生きていきたいと思います』


その文章とともに、雑草のような白い花の押し花がそのページに挟まっていた。


その花を見て俺は、ある記憶を思い出した。


その日は雨だった。雨の中、無表情な婚約者のために葬式なぞ行かねばならず、とても面倒だったのを覚えている。

しっかりした花束が用意されていたのだが、俺が適当にブラブラ持っていたので水たまりに落としてしまい、仕方なくそこら辺の花をちぎって渡した覚えがある。

彼女の母親の墓の前に並べるには、他の立派な花束に比べてあまりにお粗末だったので彼女に直接手渡したのだ。

花を渡した瞬間、彼女の無表情の仮面がおちて、ふわりと可愛く微笑んでくれて、俺はしばらくポーっとなっていたのだった。


俺は、相手を思いやる心に欠けていたのかもしれない·····人の悪口は一切書かれていない思いやりに溢れるイザベラの日記を読み俺は少し反省しはじめていた。


また、イザベラの日記を読むと、俺の母上である王妃からの嫌がらせの数々が目に付いた。

イザベラの母親が亡くなってから、俺の母がリシュリー公爵家に色々口出しするようになったようだ。

優しかったイザベラの昔のメイド達も甘やかされるという理由で解雇され、代わりに今のモネという厳しいメイドが派遣されたそうだ。

王妃教育の内容も王太子である俺より数倍難しく、厳しい内容であったことが日記から分かった。むしろ王妃教育と王太子教育の両方受けていたようですらある。

俺は、イザベラが王妃から虐められていたことにまったく気づかなかった。


内容からイザベラが王妃に虐められていたことは間違いないが、イザベラは一切悪く書かずに『王妃様のような素敵な女性になるためには必要なことなのです』『殿下のためにもっともっと頑張らないと』と健気な内容ばかり書かれていた。


最後の今年の日記を読み始めると、途中入学したアイリスの様子が書かれ始めた。


『アイリス様のような、天真爛漫な女の子に惹かれる気持ちは分かります。悲しいけど、私に魅力がないせいです。私は出来損ないなのだと家庭教師も言いました。だから私は誰からも愛されないのですね。もっと頑張らなくてはなりません』


『アイリス様と、殿下が仲睦まじく手を繋いで歩いていらっしゃった。私は婚約者として努力不足だったのだと思います。もう殿下のためには、身を引くしかないのでしょうか。どのように身を引いたら家にも国にも迷惑がかからないでしょうか』


『学園でアイリス様を私が虐めているという噂が流れています。私はアイリス様とお話ししたこともないし、クラスも違うから席も存じ上げないから虐めることは出来ないとお伝えしたのですが、誰にも信じていただけませんでした』


俺はイザベラの心情を初めて知り、苦しくなっていた。

日記の内容が真実ならば、イザベラはアイリスを虐めてはいない。

だが、アイリスは「イザベラ様に、酷いこと言われるんです!教科書も破かれましたし、ドレスも破かれました!」と言っていた。

誰にも読まれない日記でイザベラが嘘をつく理由はない、まさかアイリスの言ったことが嘘だったのだろうか·····そんな考えが俺の脳裏をよぎった時に部屋がノックされて例のメイドが入ってきた。


俺に会いたいと、王太子側近のクロムとアイリスが来ているらしい。

本当の俺の魂の在処がアイリスには分かって、会いに来てくれたのかもしれない。イザベラに虐められていたというのも誤解だったのかどうか確かめよう。

俺は、アイリスに会いに行くために部屋を出た。


***


「私がクロム様とも付き合ってたって、告げ口したのあんたでしょ?私がイジメの濡れ衣着せたからって酷いわ!仕返しのつもり?え?何もしてないって?嘘よ!じゃないと殿下が私のこと、冷たくするはずないもの!殿下ったら、階段から落ちてから急に私に冷たくなって·····本当に酷いわ!でも、まぁいいわ。クロム様が私を変わらずに愛してくださるから!」


アイリスの発言内容と、その態度に俺は目眩がした。

あの可愛いアイリスが、こんな事を言うはずがない夢なら覚めてくれ·····

俺の願いは虚しく、クロムとアイリスはベッタリとくっついてイチャついていた。クロムは俺に見せつけるように、アイリスの腰を抱き寄せて言った。


「アイリス、殿下は君の作られた顔しか愛さなかったけど、僕は君のその裏表や奔放なところ含めて受け入れてあげるよ。それにしても、バカ殿下が最近あやつり人形になってくれなくて困っているよ。あげく『イザベラ嬢と直接話したい』などと言い出した時には驚いたよ。まぁ、そんな願い叶えてやれる訳はないから、代理で俺がお前の話を聞きに来たって訳だ。なんかあるなら早く話せ!」


上から目線の冷たい発言は俺の事をいつも褒めたたえていたクロムと同一人物とは思えなかった。

何よりアイリスに裏切られていたことが、ショックだった。俺をいつも優しく褒めたたえてくれていたアイリスは偽の姿だったのか!?

俺は絶望で体中が黒く塗りつぶされたかのように感じると共に、怒りがふつふつと湧いてきた。

クロムに一矢報いるためと、真実を伝えるために俺は口を開いた。


「俺が王太子だ!その証拠に俺は、クロムの隠された趣味も知っている!お前は週に一度の娼館通いが趣味だ!そして、お前は性病を患っていて、服薬してることも知っているぞ!これは俺しか知らないはずだ!」


俺がそう叫んだ途端に、クロムが机にあった熱い紅茶を俺に向かってぶっかけた。


「そんな根の葉もないことを二度と言うな。次に言いやがったら、殺してやるから覚悟しろ!」


黒髪から紅茶の水滴を滴らせた俺に、ドスの利いた声でクロムは言って足音踏み鳴らして去って行った。


アイリスは一瞬、性病と聞いて怯んだようにクロムから身体を離したが、「イザベラ様、階段から落ちて頭がおかしくなったのね、可哀想!」とニヤニヤ汚い笑みを浮かべながら俺を見下したあと、クロムの後を追って出ていった。


***


それから数ヶ月が経った。


俺は、まだイザベラだ。


王太子となったイザベラが手を回してくれたのか、調査の結果アイリスへのイジメは事実無根だったとされ、国外追放は無くなった。

だが、公爵令嬢は家に居場所がなかった。貴族の令嬢だとしても、爵位も財産も女性には何も与えられないこの国の現状に、女の身になって初めて思い知った。


殺されないように大人しく屋敷にいた俺を、リシュリー公爵は怪しい年寄りの後妻に娶らせようとした。貰い手がこの家しかなかったとの事だ。


俺も今まで、女の価値は嫁ぎ子を産むことだけだと思っていた。だから何処に嫁がされても当然受け入れて然るべき義務だと思っていた。

だが我が身がそうして、知らぬ男に嫁がせられる立場になると、それは身の毛がよだつほどの地獄に感じた。


俺は女の身になれど、心は男のままなので、男に抱かれるなど想像するだけで吐いてしまいそうだ。また、イザベラの身体を汚されることが、とても耐えられなかった。

人の醜い面にあてられて荒んだ俺の中で、日記から窺えるイザベラの清い心だけが唯一の救いであった。俺は心が荒れる度に何度もイザベラの日記を読んだ。いつも寝る前に日記を開きイザベラの丁寧な文字で『殿下の純真で自分に素直に生きている所が羨ましくも眩しくて、好ましいです』と書かれている部分を指でなぞり、深呼吸してから寝るのがいつしか俺の習慣になっていた。


俺の抵抗虚しく、嫁がせられることが決まってしまった。

俺は覚悟を決めて、嫁がせられる日の夜に抜け出した。イザベラの純潔は俺が守る。


目指すは街の修道院だ。

だが、月に一度のあの腹痛がちょうどその日から始まってしまい、夜風に冷えた体へ激痛をもたらした。護身用の包丁も屋敷から持ち出していたが、これではまともに戦えそうにない。

よろよろ街を歩いて男に声をかけられそうになったが、俺が苦しみに呻いていたおかげで、何かの病だと思われたらしく男は離れていった。


俺は息絶え絶えに、やっとの思いで修道院に辿り着き、修道院の扉を叩いたところで意識が途絶えたのだった。


***


それから数年の月日が流れた。


俺はまだイザベラだ。


もうこのまま死ぬまでイザベラの身体なのだろうかと、最近諦めの境地に達している。


修道院はとても貧しい暮らしだったが、半生を振り返るのにはちょうどいい静かな環境だった。

修道院長のシスターは鶏ガラのように痩せた女性だった。幽霊のようなガリガリの見た目に敬遠していた俺だったが、彼女の心の広さと清さに触れて、今では祖母のように慕っている。

修道院では、日常生活身の回りの世話や家事などすべて自分達で行う。

当初、やり方もわからず、教えてもらうことにも嫌気が差していた俺は不貞腐れていた。


俺は例えどんな身体であっても、俺の魂さえあれば自然と周りに尊重されるような人間なのだと、どこかで思っていた。


だが、現実はまったく違った。


俺はただ、生まれもった権力を笠に着てただけの男だった。周りは王太子という存在を褒めそやしていただけで、俺にはなんの実力もなかった。

実際のところ辛いこと、泥臭いことが嫌いで、勉強や剣術などほとんど真剣に取り組んでこなかった。


裸の王様ならぬ、裸の王子だ。


俺は、役立たずでバカで浅ましいどうしようもない存在なのだと、ようやく気づき始めていた。

だが、それを認めたくなくて葛藤していた。


そんな俺によく話しかけてくれたのが、修道院長のシスターだった。


「貴方は自分の担当分の洗濯をなぜしないのさね?」


「なんで俺·····いや、私が洗濯しなくちゃならないんだ。冷たい水でイザベラの指が荒れるからやりたくない」


「そりゃ、ワガママというもんさ。貴方の代わりにやってくれる人の手は荒れてもいいと言うのかね?」


「そういうつもりではなく·····得意な人がやればいいってことだ!」


「じゃあ貴方は、そのやってくれた人のために何がしてあげられるかね」


「何も·····でも、やりたくない。冷たい水で手が荒れるのは嫌だ。この体を少しでも傷つけたくない。代わりに誰かにやって欲しい」


「おやおや、やってもらって何も返さないのは泥棒と同じだよ。やってもらって当然な世界で生きていいのは3歳児くらいまでさね」


「3歳児だと!?」


「ワガママが通るのは普通はその位までってことさね。4歳もすぎればだんだんと社会に参加し始めて、労働には対価が伴うことや、ワガママを言うと結局自分が損すると学んで、言わなくなるもんだがねぇ」


「自分が損する?何故だ?」


「あれあれ、そんなことも学べないほど、周りがドロドロに甘やかしてくる環境だったのだね。可哀想に」


「可哀想だと?この修道院の教えにも、人に優しくしろとあるではないか?」


「甘やかすのと、優しくするのは似て非なるものさね。この修道院の教えは『本当の優しさ』の方を説いているんだよ。貴方は『本当の優しさ』とは何だと思うかね?」


「本当の優しさ·····」


「自分なりに考えて明日、私に教えておくれ。そうしたら手荒れが治る薬を塗ってあげよう。洗濯はゆっくりでもいいから自分でやること。やり方は教えてもらって覚えているだろ?自分の汚れは自分で綺麗にすることだよ、心も洋服もね」


俺はイザベラの手が荒れないよう、極力効率的になるよう集中して洗濯した。

そして保湿クリーム確保のために、俺は本当の優しさについて考えた。

相手のすべての要望を受け入れてあげることではないのか??いや、その要望を聞いたら、のちのち困る場合もある。はたして、本当の優しさとは·····両親達は俺の願いをなんでも叶えてくれた、俺が耳に痛いことを言ってくる家庭教師や側近を辞めさせた時も直ぐに希望を叶えてくれた。そうして、今は王太子の俺の周りには太鼓持ちのイエスマンばかりで裏表のある人間が集まった。

本当に大切にすべきは、不興を買ってでも俺を正しい方向に導こうとしてくれていた側近達や家庭教師だったのかもしれない。


また、修道院長の言っていた「対価を貰って何もしないのは泥棒と同じだ」という言葉も俺の心に残った。

それは昔の俺ではないか。

王や王太子という立場は、民から税という対価をもらって成り立っている。

王太子である俺は対価を享受して、国民のために何一つしようとしていなかった。それは泥棒と同じだったのか!?と気づいてしまった。


翌日、修道院長に手荒れの塗り薬を貰うために会いに行った。


「本当の優しさとは、その人間の過去と現在と未来を思いやった言動をとることだと思います」と俺が述べると、修道院長は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。


そんなこんなで、なにかと話していると、修道院長はある時、言った。


「貴方はとても純真な心をもってるようさね。そんな中、初めて葛藤をもったのだね。だけど葛藤があるからこそ、共感もできる人間になれたのだよ。人の話を聞くことを覚えたから、とても心が広くなったようさね。ここに来るものは皆、心に葛藤を抱えて疲れてるものばかりさね。『話す』は『離す』だよ。人は話すことで、葛藤と少し離れることができ、心が少し落ち着くのさ。人の過去・現在・未来を思いやる修行だと思い、ここにいる女性達の話を聞くことを心がけなさいな」


俺は内容はイマイチよく分からなかったが、何も無いと思っていた自分の魂を、成長を認めてくれた気がしてとても嬉しかった。


それから俺は、修道院にいる女性達の話を聞くようにした。

女性達の中には見目麗しい元令嬢も多かったが、まったく性欲は感じなかった。性欲というものは体に紐づいているのかもしれない。

何より俺にとって一番大事な存在は日記を読んだ時からイザベラになっていたのもあるだろう。今は俺がイザベラの身体なのだから、究極のナルシストとも言えるかもしれない。


修道院は女性達の、救護施設となっていた。

お金が無く苦しんでいる平民の女性はもちろん、子どもが産めないからと家を出された令嬢や、病になったからと家を出された令嬢。顔に怪我したからと家を出された令嬢、夫に殴られ続け命からがら逃げてきた夫人もいた。なんと殴られたその夫人は話を聞けば、夫は元殿下護衛騎士のザックだという。最近、殿下に職を解かれて荒れて、妻に暴力をふるっていたという。


なぜ物のように扱われなくてはならないのか、女性だって男性と同じ人間だ!

俺は憤りを感じた。それと共にその言葉は昔の自分にも跳ね返ってきた。

俺は物のようにイザベラを捨てようとした。物のように、外面の綺麗なものだけそばに置こうとした。

俺は同じ人間として、女性の内面を見ようともしていなかった。


女性だけではない、俺は周りの側近達の内面も知ろうともしなかった。上辺だけ見て、自分に心地よい言葉をくれるものだけをそばに置いた。そして自分を咎めようとするものは、両親に言って遠ざけてしまっていた。

俺は国の苦しむ民の事を考えたことがなかった。教育は受けたし、数字上の報告なども聞いたことがあるが、自分事として捉えてなかったので、何一つ身についていなかった。


自分の心地良さを一番に優先して何が悪いとすら思っていた。

そうして、まったく人を見る目のない、思いやりの欠片のないバカ王子が出来上がった訳か·····


イザベラと入れ替わってよかったのかもしれない。

俺は自分が無能なばかりに、罪もない心優しきイザベラを国外追放などにしてしまうところだったのだ。

今の俺のこの状況は、当然の報いだ。

精霊神の思し召しだったのかもしれない。


修道院には多くの蔵書があった。

図書館が老朽化して取り壊されそうになった所を、修道院に改装したらしく、古い書物がいくつも残っていた。しばらく生活するうちに俺は、自分の身の回りの世話も手早く終えられるようになった為、空いた時間は修道院に残る書物を読み過ごしていた。

書物を読み、人の話を聞き想像力が身についたせいか、昔の自分の視野の狭さと人としての器の小ささを身に染みて実感していた。

己の過去の黒歴史に居た堪れなくなると、俺は礼拝堂の精霊神の銅像の前に跪き、ひたすら後悔し懺悔する事が習慣化していった。



***

それからまた数年が経った。


その日俺は、朝早く目覚めたので身支度を整え、礼拝堂に向かった。

美しい中性的な精霊神の白い像が、朝日に照らされ眩しく見えた。

俺は、跪きいつものように過去の己の過ちを悔い、改められるよう日々精進して行くことを祈っていた。


過去の俺のまま、国王になっていたらただの無能な国民の税金泥棒になっていたことは間違いない。

王太子の身体に入ったイザベラは、今や国王となった。未だに妻を娶っていない点が問題視されているが、とても国民のためを思った賢明な政策ばかりの政治を行い、その手腕は高く評価されてきていた。彼女の王妃教育での苦労は、今活かされているのだろう。彼女の努力が無駄にならなかった訳だ。だが、きっと彼女には多くのいらぬ葛藤や苦労を背負わせてしまっただろう。

そして俺が傷つけた過去も変わらないのだ。


ああ、あの時に戻りたい。

婚約破棄の前日に。

いや、もっと前か。

そうしたら、もう俺は二度と間違えないのに。


『戻ったとて、お前は間違えるだろう。なぜなら人間は間違える生き物だからだ。それを知るからこそ、自分の短慮で無実なものを傷つけないかよくよく気をつけるようになるのだ。権力者は特にそれを知るべきだな』


いきなり聞こえた透き通るような声に、俺がギョッとして顔を上げると精霊神の白い像が7色に輝いていた。そして石像の口が動いた。


『人は十数年で随分と変われるものだな。我は国守りの精霊神である。あまりにも稚拙な器のない王が立つことにより国が乱れることが見えたので、お前とイザベラを入れ替えたのじゃ』


「あ、貴方様のおはからいでしたか!我が事ながら情けなくも、この国の民を護ってくださったこと感謝申し上げます」


俺はアワアワしながら、慌てて頭を下げて言った。


『よい。王の器はいかに人を思いやれるかだ。以前のお前は自分以外の人間を思いやる心がなかったが、今のお前の器になら多少の民も入りそうだ。全国民が入れる器になれるよう、励めよ』


そう言って、国守りの精霊神が消えると共に俺は猛烈な下腹部の痛みを感じ、気を失った。


***


ふと目を開けると、とても懐かしい天蓋付きのベッドの飾りが目に入った。


もしやと思い、慌ててベッドから身体を起こし鏡の前に立った。

そこには金髪碧眼の王太子である俺が映っていた。

都合の良い夢を見てるのではと、信じられずに頬を引っ張っていると、ノック音がしてメイドが部屋に入ってきた。


「おや、殿下お目覚めですか?」


「いや、ああ。あの·····今は何年何月ですか?」


「殿下が私に敬語を!?ふふ、起きたばかりで殿下は夢の続きの気分なのですね。今日は精霊歴166年の3月末でございますよ。今日の夕方から卒業記念パーティのご予定です」


「そ、そうか·····」


元の身体に戻れた喜びが、身体を満たした。

あれはただの夢だったか!?それにしてもやけに鮮明でリアルに思い出せる·····そう訝しんでいると、メイドが声をかけてきた。


「殿下のその左手についている、ロザリオ素敵ですね。白にも見えますが、光が当たると7色に輝いて見えます」


メイドにそう言われて、左手首を見ると見覚えのない真珠のような輝きのロザリオが巻きついていた。

俺が外そうと引っ張ってみたが、まるで手に吸いつけられてるように外れなかった。


「やはり夢ではなかったと言うことか·····精霊神が精進を忘れるなということで、このロザリオを下さったという事だな·····」


俺は左手に握り拳を作ると、意志を固めた。


「殿下は今日はどうされますか?」


「そうだな。·····卒業式の前に 、婚約者に会いに行く、使いを出してくれ」


「婚約者って·····アイリス様ではなくイザベラ様ってことで良いですよね?」


「当たり前だ、イザベラ以外、婚約者であることはあり得ない!そうか、アイリスや側近達の件も片付けねばならないか·····いや、まずイザベラに今までの謝罪をすることが第一だ!」


訝しんでいるメイドをよそに、俺はこれからの人生をやり直すチャンスをくれた国守りの精霊に深く感謝の祈りを捧げていた。


***

後日談〜イザベラ目線〜


卒業パーティの日の午前中、殿下が私に急遽、会いに来ることになりました。


きっと、学園で噂されているように私と婚約破棄して、アイリス様と婚姻したいとのお話に違いないと思いました。私が殿下に愛されないのは、自分の努力不足だと感じ、不甲斐なさと深い悲しみを感じてました。


しかしお会いすると殿下はなんと、私の顔を見て涙を浮かべ、突然抱きしめてこられたのです。


混乱する私をよそに、殿下は人が変わったかのように今までの自分の行いがいかに思いやりに欠けていたかを、深く深く謝罪されました。地面に這いつくばるくらい、頭を深く下げられるので驚いてしまいました。

そうして、殿下は私の目を見て真剣に言ってくださったのです。

「君の努力家な所を誰より尊敬する!君の清い心を誰より愛している!」


私の胸の中に彼の言葉が染み込むと共に、ボロボロ涙が溢れて止まらなくなってしまいました。


母亡き後、父からも兄からも愛されず自分が嫌いだった私は、ワガママで自分大好きな殿下を眩しく感じていました。

彼の周囲は嘘で充ちていましたが、彼自身は嘘がなかったので、彼に『愛している』と言われたらどんなに幸せだろうと思っていました。

そしてそんな日は絶対に来ないだろうと諦めていたので、彼の言葉が本当に嬉しかったのです。


それから、殿下は卒業パーティ前にアイリス様や側近方と話し合ったそうで、アイリス様や側近の方々はゲッソリとした表情で卒業パーティに参加されてました。


殿下は私を宝物を扱うかのような丁寧さで、卒業パーティのエスコートをして下さりました。

卒業パーティの最中に、殿下が体調を気にかけて腰のあたりを温めようとしてきたり、温かい飲み物をわざわざ用意してくださったりしたことには驚いてしまいました。


本当に殿下は人が変わったかのようです。

殿下の以前の態度も、純真な子供のようで可愛らしいと感じていました。未だに彼の純真さが窺える言動も時折ありますが、本当に大人の男の人に成長されたかのような器の大きさを感じることの方が多いです。

それどころか時々、殿下は大人の女性のような仕草さえ見られます。この前、指先をそろえて口の前において「うふふ」と笑っている様子を見て、驚いてしまいました。

また、殿下は国守りの精霊神への信仰がとても深くなられたようで、毎朝精霊神の像の前で祈りを捧げていると伺いました。それを聞き、私もご一緒させて頂くようになりました。


殿下の成長は留まるところを知らず、この前は大臣達相手に「他国や、歴史から分かるように、民の幸福のためには民を富ませることが必要だ。そのためには緩やかなインフレを起こす必要がある」などと、王太子教育をサボってばかりいた殿下がどこで学んだのかという知識を語っていて耳を疑ってしまいました。


その後、殿下は国の重鎮達にも認められてきたようで国の施策に関わることが増えてきました。最近の殿下はよく人の話を聞き、人の立場を考えて言動をとるので、地の底にあった彼の評価は急上昇しているのです。


また、施策を考える際に、よく私の意見を求めるようになりました。

私が拙いなりに自分の意見を述べると殿下は、「イザベラはこんな事も学んでいたんだね。君の努力を本当に尊敬するよ。愛しているよ」と甘い言葉を囁いて下さるので、私は過去の苦しかった思い出や、惨めな自分が癒されていくのを感じました。


また、殿下はなぜか私の月のモノの周期を把握していて、夜会の日程をズラしたり、食事を温かいものにするように指示して下さりました。私の体調が辛い日には、腰のあたりを温めて下さったり、私が休めるように調整して下さったりしました。殿下の温かい思いやりや優しさに、心打たれる毎日です。


それから数年経ち、前国王が崩御されて、殿下は国王陛下となられました。

陛下は多くの施策を実行しました。その中には、産院の設立や、孤児院の建設、修道院の資金援助など、女性のための事業も多く行いました。


一部の男尊女卑な貴族から「国王はフェミニストだ。本当はオカマなのではないか」などと、揶揄されていたそうです。

実は私も、時々女性的な仕草をなさる陛下に一抹の不安を感じてました。ですが毎晩のように愛でてもらい、2人の王子と1人の姫を授かり育てている今では、陛下が男性であることに、何の疑いも抱いてません。


ある時、議会でブライブ卿という男尊女卑の貴族から、陛下の施策にダメ出しが入りました。その時は、ちょうど別の外交の議案の関係で、私も議会に同席しておりました。


「女に金を使うのは馬鹿げておる」


ブライブ卿は、禿頭を撫で付けながら言いました。


「俺は全ての民を尊重しているだけだ、それとも女子供は国民ではないというのか?」


「女は無能なバカばかりだから、金を投じるだけ無駄だというのだ」


「ほう、貴方は俺の愛するイザベラのように、6ヶ国語を話せるのか?」


「ぐっ·····だが、女性は数学に疎いものが多いし、論理的思考が欠如しているのは事実だ」


「それは教育の問題であろう。それに、数学が出来ようと、その思考が自分がいかに得するかという悪知恵ばかり働くやつがいては国が疲弊する。それが分からないのかブライブ卿!おまえが工事施工業者から賄賂をもらっていることは調べがついている!」


青白い顔で連行されていくブライブ卿を見ながら、議会を見渡して陛下はよく響く声で言いました。


「国政とは想像力を働かせることだ。同性の方が想像しやすい、それは分かる。だが、国を治めるものがそれではダメだ。女性のことを蔑ろにする奴は『想像力』という国を担う重大な資質を欠いているということで、今後査定を厳しくするつもりだ。今後は実力主義に切り替えるから、想像力不足なものの昇進は遅くなるだろう。覚悟しておくように!」


本当に日々私は陛下の器の大きさ、カッコ良さに惚れ直し、隣に立てる喜びを噛み締めています。


有言実行な陛下は、その後『この国の民の一人一人の過去現在未来を、自分事として思いやり、政策をつくる。そして、私欲なく実直に取り組むもののみを評価する制度』を作り上げました。

この制度は長く、この国の繁栄をもたらすことになるのでしょう。

私はそう信じています。


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

ざまぁに挑戦してみようと思い、書いてみましたが成長記録になってしまいました。

面白おかしい話にするつもりが、意外と真面目な内容になってしまい、投稿せず消してしまおうかと何度か思いましたが·····投稿してみます。

もし「楽しんでいただける要素が1mmでもあった」と感じて頂ける方がいたのなら、下の評価ボタンを押していただけると、とても励みになります。

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面白かったです。 最後のブライブ卿みたいな男尊女卑の激しい男って、自分は木の股かキャベツ畑かコウノトリに運ばれて産まれたんか?って言いたくなりますね。 そしてこういう男って、男尊女卑激しいくせに自分の…
[気になる点] 連載版があるらしいので読んできます!
[良い点] ちゃんと変わってた王子は凄いけど、ざまぁがないのが納得いかないです。いじめた王妃やメイドにはギャフンと言わせて欲しかった
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