悪役令嬢に仕立て上げられた女の子が魔法使いの元で幸せになるだけ
悪役令嬢が全てを捨てて魔法使いの弟子になったりするだけのif versionのつもりです。ご満足いただけたら幸いです。
どうしてみんな、私のことを信じてくれないの?
わたしはキャロライン・ロイヤルフェザー。公爵令嬢です。六歳です。婚約者はこの国の王子様、レオナルド・オラクル殿下です。
実の母は私を産んですぐ亡くなりました。継母は父の愛人だった人です。私は邪魔者扱いされています。うちには男子がいないので、継母の産んだ娘が遠縁の親戚を婿に取り、ロイヤルフェザーを継ぐことになっています。
でも、継母の産んだ娘…一応、腹違いの妹はとても頭が良いみたいです。ありもしない私からの虐待をでっち上げて、私の婚約者と家族、使用人達を騙しています。お陰で私はますます嫌われ者です。特に婚約者は、妹がお気に入りのようで私を露骨に邪険にします。もういっそ、妹があの人の婚約者になってくれたらいいのに。
さて、今日は魔法使いさんがうちに遊びに来るそうです。
魔法使いといえば、とんがり帽子にほうき、容姿端麗な容貌、隣国の救国の英雄!圧倒的な魔力と、術式を展開して使う魔術ではなくそれそのものが万物に影響を与える『魔法』を使い、他国に攻められた隣国を護ったすごい人。
なんでそんな魔法使いさんがうちに遊びに来るのかはわかりません。魔法使いさんからのお願いだそうです。
ふと、魔法使いさんがいらっしゃる玄関の方に目を向けます。私は今部屋に閉じ込められています。妹を虐める悪い子は、魔法使いさんに会っちゃダメだそうです。私は何もしてないのに…。
「やあ、こんにちは」
「え」
びっくりしました。なんの音もなく、突然目の前に魔法使いさんが現れました。
「魔法使いさん…?」
「そうとも。ご機嫌麗しゅう、レディー」
「あ!ご、ご機嫌よう」
「ふふ。可愛らしい子だね。…まったく、彼らは君を信じずあの腹黒い妹君の方を信じるなんて、どうかしているよ」
「え…?」
「さあ、私は魔法使いだからね。星読みでもあるんだ。君の数奇で…なんとも面白い星の運命を教えてあげよう。君はね、実は聖女なんだよ」
私が聖女…?
「この国では、十五歳になる少女には教会で聖女認定式が執り行われる。もちろんハズレの年もあるけれど、毎年やるのが恒例だね。その年は本当なら君という大当たりがいたのに、君が聖女などあり得ないとして王太子になった君の婚約者が口を挟み、王家とずぶずぶの関係にある大司祭が教会全体に圧力をかけて再度君だけ再認定することになる。そしてその君の再認定の結果が出る前に君は妹を虐げる悪女として断罪されて婚約を破棄され、国外追放される。聖女は心清らかな乙女がなるものだ。君が君の妹のいうような悪女そのものなら、聖女なわけがないから、ということだろう。さっきも言った通り、君は聖女として大当たりだ。ただいるだけで、国を守れる。元々聖女は、酷い災害に見舞われる年にこそ力の強い聖力を得る。特に何もない年には聖女すら誕生しないのが常だ。君を国外追放したこの国は滅びることになる」
え、そんな!
「でも、その頃には君は国にも家族にも婚約者にも愛想を尽かしているから、大丈夫。ただ、行き先がないまま国外追放されるのは困るだろう?だから、国外追放されたら私の国においで。私を訪ねてくるといい」
「でも…」
「他人の心配より自分の心配、だよ。それに、私も聖女の弟子を持てるなんて面白そうだし、何も気にする必要は無い」
なでなで、と、私の頭を撫でる魔法使いさん。
「私は、アーロゲント・ウィザード。西の森に住む、千里眼持ちで人嫌いな魔法使いさ。覚えておいで」
「…はい、魔法使いさん」
「じゃあね」
魔法使いさんは話が終わるとパッと消えました。
ー…
その後なんやかんやあって、私は十八歳になった。魔法使い…アロとはたまに夢の中で会ったり、家族に内緒で外で会ったりしていた。
さて、アロの言う通り私は妹を虐げたとして、聖女認定式の結果も認められず再認定を強要され、断罪され、婚約破棄され、再認定の結果も待たずに国外追放された。この時点で私は国も王太子となった殿下も家族も見限っていた。
着の身着のまま国外に出た私は、しかし行く当てはあったのでそのまま、アロのところに行く。
「アロ、いる?」
「もちろんいるとも。やあ、キャロル。面白いことになったようだね?」
「そうなのよ。貴方の言った通りの結果になったわ。本当に聖女認定式に口を出すなんて、王太子殿下には呆れたわ。そのせいで国が滅びるというのに。しかも婚約破棄は王家の開くパーティーの席、大勢の貴族の前で行われたのよ。誰一人聖女認定式で一度は選ばれたはずの私を庇ってくれなかった。みんなが私を笑っていた。絶対忘れないわ…もちろん、その場で新たな婚約を発表して、みんなから祝福された妹が一番憎いけれど」
アロは、今や私の唯一の異性のお友達だ。人嫌いなくせになぜか私には甘い。
「まあ、国を出るにはちょうどいい切っ掛けになったじゃないか」
「まあねぇ」
「そもそも、君が本当に聖女だと誰にもバレずに済んだのは彼らの君への悪意のおかげだし」
とんがり帽子を脱ぎながら彼は言う。その通りよね。
「確かに、聖女なんかに認定されて一生あの国で腐った大司教のいる教会に閉じ込められるよりは今の状況の方がマシね」
「ところで、早速だが、君、私の弟子にならないかい?きっと君と過ごす日々は楽しい」
「衣食住を保証してくれるならね」
「それは良かった。実は君が婚約者破棄された時点からハウスシェアの準備をしていたんだ」
「行動力すごいわね、貴方」
「それだけが取り柄さ」
ー…
アロの弟子になって数ヶ月。我が祖国は灰燼と化した。私が国を出てすぐ魔物に襲われたらしい。平民達は幸いにも重傷者も出さずにこの国に来られたけれど、貴族や王族は何故か集中的な攻撃を受けて壊滅したらしい、いい気味ね。まあ、平民達だけが無事だったのは私の祈りのおかげ。平民達に手を出せなかった魔物達が貴族や王族を嬲ることになるとは予想していた。王太子と両親と妹には恨みがあるし、あの婚約破棄の場で私を嘲笑った貴族や王族のことは忘れない。これは報復よ。
ところで、私の魔法の適性はというと、実は全然ない。聖女の力とはまた別だし。魔術は得意なんだけどなぁ。
「キャロル。ヒーリングは使えるようになったかい?」
「多分…どう?」
「とても上手だね」
また上手いことばかり言って!
「もう!私は真面目にやっているのよ!」
「うん、私も素直に褒めているさ」
もう、アロったら。
「ねぇ、キャロル」
「なに?アロ」
「星が綺麗だね」
「あら、月も綺麗よ?」
「…それは、OKの返事と取っていいのかな?」
「ふふ、もちろん。…婚約してくださる?」
「キャロル!」
「きゃあ!いきなり抱きしめないでよ!痛い、痛いから!力込め過ぎ!」
「ああ、私だけのキャロル!愛してる!」
「だったら回りくどい言い方せずに最初からそう言いなさいな!」
こうして私は、魔法使いの弟子兼愛おしい婚約者になったのでした。
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