表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うるとら☆妄想文学少女@かなみちゃん

 雨が降ってきた。ボクは急いで近くのアーケード街に駆け込んだ。どんよりと雲が空を覆い、道往く人々の表情もどこか浮かない。

「世界は灰色に染まった」

 隣のクラスのかなみちゃんが呟いた。いつからボクの側にいたのだろう、まるで気が付かなかった。

 彼女は口数が少ない。いつも図書室で本を読む。国語の点数が良いわけではない。ボクはそれしか知らない。

 かなみちゃんの髪は雨に濡れていた。制服や鞄も湿っている。

「あの、これどうぞ。まだ使ってないから安心して」

 ボクは握っていたタオルを差し出した。その勢いでふんわりと柔軟剤が香る。

 艶めくかなみちゃんの栗色の瞳が真っ直ぐに据えられている。真剣な眼差しにボクは思わず息を飲んだ。視線はボクを貫き背後へと注がれている。かなみちゃんはタオルに興味がないようで、ボクはそっと手を降ろした。

「恋する乙女」

 ふいにかなみちゃんが言った。振り向いたボクは女の人が傘をさして歩いている姿に驚いた。アーケード街は屋根があるのに、女性が傘を閉じないのは余りに不自然だ。でもどうして「恋する乙女」なのかボクは分からない。

「いい題材が見つかった」

 そう言い残してかなみちゃんは去っていく。

 ボクは再び歩き始めた。傘を求めコンビニへ向かうと、売り切れていた。駅まではまだ長い。ボクはすっかり肩を落とした。

「あれ?田中クンじゃない」

 クラスのマドンナ佐々木さんだ。手には購入したてのビニール傘。

「ごめん、最後の一つだったの。申し訳ないから一緒に使わない?」

 頬が赤くなり、口をパクパクさせながらも、ボクは佐々木さんの言葉に甘えることにした。駅までの道は、いつもの通学路なのに、佐々木さんといるだけでまるで天国のようだった。

 相合い傘で距離が近い。佐々木さんの柔らかなロングヘアーが風になびいている。楽しそうな表情と笑窪が頭から離れない。しかし幸せな時間も永久には続かない。

「あー、あたしここで曲がるから傘あげるね。大丈夫、すぐそこだし。それより田中クンとこんなに話したのは始めてだね。映画が詳しくてビックリした」

「ボ、ボクも佐々木さんのこと色々知れて良かった」

「ねえ今度オススメの映画観に行かない?それじゃまた!」

 佐々木さんと別れ、駅に着いてもボクは夢心地だった。改札を抜けても脳内はお花畑だ。

 電車に乗ったとき、周りがクスクスとボクを笑っている。乗客の視線集まる僕の右手で開かれたままの傘の雨粒がキラリと光った(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かなみちゃん、すげぇ!((((;゜Д゜))) とても面白かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ