うるとら☆妄想文学少女@かなみちゃん
雨が降ってきた。ボクは急いで近くのアーケード街に駆け込んだ。どんよりと雲が空を覆い、道往く人々の表情もどこか浮かない。
「世界は灰色に染まった」
隣のクラスのかなみちゃんが呟いた。いつからボクの側にいたのだろう、まるで気が付かなかった。
彼女は口数が少ない。いつも図書室で本を読む。国語の点数が良いわけではない。ボクはそれしか知らない。
かなみちゃんの髪は雨に濡れていた。制服や鞄も湿っている。
「あの、これどうぞ。まだ使ってないから安心して」
ボクは握っていたタオルを差し出した。その勢いでふんわりと柔軟剤が香る。
艶めくかなみちゃんの栗色の瞳が真っ直ぐに据えられている。真剣な眼差しにボクは思わず息を飲んだ。視線はボクを貫き背後へと注がれている。かなみちゃんはタオルに興味がないようで、ボクはそっと手を降ろした。
「恋する乙女」
ふいにかなみちゃんが言った。振り向いたボクは女の人が傘をさして歩いている姿に驚いた。アーケード街は屋根があるのに、女性が傘を閉じないのは余りに不自然だ。でもどうして「恋する乙女」なのかボクは分からない。
「いい題材が見つかった」
そう言い残してかなみちゃんは去っていく。
ボクは再び歩き始めた。傘を求めコンビニへ向かうと、売り切れていた。駅まではまだ長い。ボクはすっかり肩を落とした。
「あれ?田中クンじゃない」
クラスのマドンナ佐々木さんだ。手には購入したてのビニール傘。
「ごめん、最後の一つだったの。申し訳ないから一緒に使わない?」
頬が赤くなり、口をパクパクさせながらも、ボクは佐々木さんの言葉に甘えることにした。駅までの道は、いつもの通学路なのに、佐々木さんといるだけでまるで天国のようだった。
相合い傘で距離が近い。佐々木さんの柔らかなロングヘアーが風になびいている。楽しそうな表情と笑窪が頭から離れない。しかし幸せな時間も永久には続かない。
「あー、あたしここで曲がるから傘あげるね。大丈夫、すぐそこだし。それより田中クンとこんなに話したのは始めてだね。映画が詳しくてビックリした」
「ボ、ボクも佐々木さんのこと色々知れて良かった」
「ねえ今度オススメの映画観に行かない?それじゃまた!」
佐々木さんと別れ、駅に着いてもボクは夢心地だった。改札を抜けても脳内はお花畑だ。
電車に乗ったとき、周りがクスクスとボクを笑っている。乗客の視線集まる僕の右手で開かれたままの傘の雨粒がキラリと光った(了)