第7話:デート オア 終活 前編
ご無沙汰してます。
久しぶりにネタが頭を過ぎったので投稿。
「安房さん、明日はデートしましょう」
「は?」
夜。
そろそろ寝るかと準備してた所に、突然現れた宣告女神のルルちゃんがそう言ってきた。
「また突然だな。どんな風の吹き回しだ?」
「まぁまぁ良いじゃないですか。どうせ明日は予定何もなかったですよね」
「無くて悪かったな」
「そこで、このルルちゃんと1日一緒に過ごせるんですから良いじゃないですか」
「はぁ。まあいいけど」
これはなにを言っても無駄なパターンだなと、早々にあきらめる俺。
ステータスに理不尽耐性とかあったら、かなり高レベルなんじゃなかろうか。
そう思いながら明日に備えて眠りに就いた。
「安房さ~ん、起きてください」
「んぅ?あぁおはよう、ルルちゃん。まだ薄暗いけど今何時?」
「5時2分ですね」
「ふぁ。今日は休みだし8時まで寝かせて」
そう言って2度寝しようとした俺をルルちゃんが引っ張り起こした。
「ダメですよ。今日は私とデートに行く約束じゃないですか。
さぁ。ぱぱっと支度して出発しますよ。時間は待ってはくれないんですから」
「ぬぉ~、にしても早過ぎじゃねえかぁ」
別に寝起きが悪い訳じゃないんだけど、いつもより2時間も早くおこされると流石にな。
そうしてルルちゃんに急かされながら向かった先は高層デパートの屋上。
休日は子供向けのアトラクションが行われるそこに、俺達は来ていた。
時刻は午前6:03。
当然オープン前の時間なのだが、なぜかルルちゃんが案内したルートは扉の鍵が全て開いていた。
「で、なんでこんな所に来てるんだ?
ここにある遊具で遊ぶ、にしてもまだスタッフも来てないし機械も稼動していないんだけど」
「やだなぁ、安房さん。私はそんなに子供じゃないですよ。
確かに他の人には見えない私だと開演時間に来ても遊べない可能性は大ですが。
それより、あっち。フェンスの向こうです」
引っ張られるに任せてフェンスまで来たけど。って。
「ちょっと待て。フェンスの向こうって落ちたら死ぬじゃねえかよ」
「はい、そうですよ。安房さん。
安房さんは今からあそこにいるおじさんと同じ様にこのフェンスをよじ登って乗り越え、見事ビルから飛び降りて死ぬんです」
言いながら指差した先を見れば、今まさにフェンスをよじ登ってるおっさんが見えた。
って、あのおっさん。なにしてるんだ?
「おーい、そこのオッサン。危ないぞ」
「なっ。君は一体誰だ。
こんな時間になぜここに居る!?」
「え、なに?きこえないー。言いたいことがあるならまずは降りてきてよ」
本当は普通に聞こえてるんだけど、わざと聞こえないフリをしてみた。
すると渋々といった感じで降りてくるオッサン。
「だから。君は見たところ部外者だろう。なぜここにいる」
「それは俺もよく分からないんだけど、少なくとも来る途中の扉の鍵は開いてたぞ。
もしかしてオッサンが開けてそのままだったんじゃないか?」
「いや、そんなことは……」
口ごもる所を見ると、心当たりがあるのかもしれない。
これは今が話の主導権を握るチャンスか?
「ま、何はともあれ。自殺したって何の意味も無いぞ。
ここ数ヶ月で何度も死に掛けてる俺が言うんだから間違いない」
「ふんっ。若造が、知った風な口を聞くな。
私はな。このデパートの創業者の1人だった。
最初は小さな商店だったところから悪戦苦闘してとうとう念願のデパートを創り上げるまでになった。
ところがだ。つい最近になって、息子を含めた幹部どもに裏切られてな。
経営方針の転換に、創業メンバーの左遷と、もう最初の経営理念の面影は無くなりかけている。
手元に残ったのは僅かばかりの金だけだ。
なら私達のした事は何だったのかと、急に虚しくなってしまたんだ」
そう語りだしたオッサンの背中は寂しそうだった。
うーむ、大学生の俺にはちょっと荷が重い話だな。
「まあでも。無くなったんならまた創れば?」
「簡単に言うな。25年だぞ。もしかしたらお前が生まれる前からだ」
「確かにな。でも今なら資金もあれば、経営のノウハウもあるんだろ。
なにより打倒すべきライバル店まである。
折角なら裏切った奴らを見返してやろうや」
俺がそう言うと、しばらく考え込んだオッサンは、何かが吹っ切れたように「けっ」っと笑った。
「お前名前は?今幾つになる」
「??安房 紡、21歳で大学生だ」
「そうか。なら丁度良いな。これを持って行け」
「これは、名刺?」
「就職活動する時にはそこに連絡して来い。幹部待遇で雇ってやる」
いま思いっきり雇うのニュアンスが違って聞こえたんだけど。
ま、オッサンが元気になったみたいだから良いか。
「じゃあな。職員に見つかったら怒られるから気をつけて帰れよ」
そう言ってビルの中へと入っていくオッサンを見送った。
って、そういえば俺達は何しに来たんだっけ。
と思ったらルルちゃんに腕を引かれた。
「さ、安房さん。次に行きますよ」
「え、ちょ。結局ここには何しに来たんだ?」
「決まってるじゃないですか。安房さんに死んでもらうためです」
「言い方、言い方。もうちょっとオブラートにな」
「でもタイミングを逃してしまったので、次に行きましょう」
「っておい」
それは次の死にスポットに向かおうって話なのか!?
一体このデートにはどんな意味があるんだ。
切りが良かったのでここで一区切り。
「そんな簡単に説得されるか!!」というのはご都合主義万歳です。