第6話:悲しいお知らせ
あ、今回は主人公死にません(いつも死んでませんが)
夜。
部屋の一角が光ったかと思ったら、いつもの宣告女神ルルちゃんが現れた。
なんだかんだ言って彼女からこうして宣告を受ける回数も10を超えた。
さて、今回はどんな無茶な宣告を身構えていた俺は、ふとルルちゃんがとても悲しそうな顔をしているのに気が付いた。
「おい。ルルちゃん、何かあったのか?」
「………………はい。安房さん」
たっぷりと間をおいて頷くルルちゃん。
これはただ事ではないな。
「俺で良かったら、死ぬ以外なら力になるぞ」
「はあぁ。そうですね。宣告通り安房さんが死んでいれば何も問題は無かったのですが。
安房 紡さん。悪いお知らせと悲しいお知らせがあります」
お知らせ?という事は、いつもの宣告とは別なのか。
そう思いながら話の続きを促す。
「まず、悪いお知らせですが。ここ数回、私の宣告が不鮮明になっていた原因が分かりました。
どうやら、他の女神が安房さんに目を付けたようなのです」
「他の女神?って、もしかして、そいつも俺を殺そうっていうのか?」
「いえ、私は安房さんを殺そうとしている訳ではありません。ただ死を宣告しているだけですよ」
「いや、俺にとってはあんまし違わないから」
「心外です。まぁとにかく。その女神は危険なんです。重々その女神に死を齎されないように生き延びてください」
「お、おう。ルルちゃんから生きてくれって初めて言われた気がするぞ」
「そして私の宣告に従って死んでください」
「やっぱそうなるよな!」
くそっ、ちょっと喜んだ俺が馬鹿みたいだ。
「で、悲しいお知らせって言うのは何なんだ?」
「それは。じつは次の宣告が最後の宣告になってしまいそうです」
「え、そうなのか。それはまた何でなんだ?やっぱり俺が死ななかったからか?」
「そうですね。安房さんが宣告通り死んでいれば問題なかったのですが。
何度も宣告を失敗した所為で、その。お金が尽きました」
「はあっ!?」
おかね?
神様もお金が必要なのか?
いや「宣告するのもタダじゃないんですよ?」とか言われても知らないし。
まぁ確かに賽銭とか、地獄の沙汰も金次第なんて言葉があるくらいだしな。
神様の世界にお金があってもおかしくは無いか。
「それってつまり、俺に金を貢げって言ってる?
自慢じゃないが、そんな裕福じゃないぞ」
「はい。安房さんの預金額が1万飛んで21円なのは分かっています」
おい、なんでそんな事調べてるんだよ!
しかも残念な子を見るような目をするんじゃない。
たまたま家賃とか授業料とか払った後だってだけだ。
「お金はお金でも神界での通貨です。
神としての特別な仕事をこなすとボーナスが貰えるのです。
私はこれまで安房さんの死に掛けられた特大のボーナスを各種オプション付きで狙っていたのですが。
お陰で、今まで貯めていたお金が底をつきそうなのです」
「何で俺の死に。って、その各種オプションってもしかして、例の具体的な宣告の事か?」
「はい。他にも色々ありますが、一番は1点掛けですね。他にも連鎖とか多段ヒットとかフィーバーとか」
「……表現をどうにかしろよ。それじゃゲームかギャンブルだよ」
つまりあれか。
今まで具体的な死を宣告してきたのって、彼女なりの親切心なのかと思ったけど、そうすることでボーナスが高くなるからって、そういう事なのか。
「そんな訳で、今はあと1回分の宣告資金しか残っていないんです。
次外れたら、私今月はピンチなんです。大好きな週刊エンジェルも買えないんです。
どうにかしてください」
……割と緊迫していないんじゃないか?
というか、俺の命の価値は週刊誌以下なのか。
うーん、でもそう言う事なら。
「よし分かった。俺に秘策がある。この宣告なら俺も喜んで受け入れるっていうくらい凄いのがな」
「ほ、ほんとうですか!?」
「ああ!だからルルちゃんは俺のいう事に続いて宣告してくれ」
「ごくっ。分かりました」
「じゃあ、行くぞ。
『安房 紡さん。あなたは21XX年3月27日15時32分11秒、桜が満開になっている中……』」
「おぉ、良いですね!!それでそれで?」
そう言いながら俺の言ったことを復唱してくれるルルちゃん。
ちょっと心苦しい所もあるが、俺の平穏な人生の為だ。
それにさっき言ってた1点掛けにもなってるから、大丈夫だろう。
おれは続きを伝えていく。
「『あなたは大勢の友人や、最愛の妻たちに囲まれる中、笑顔で眠るように死にます』」
「……眠るように死にます。っと。
ふぅ。これできちんと死んでくれるんですよね!!」
「まあな。ただちょっとだけ時間があるから、その間、きちんとこの宣告が上手く行くように見守っててくれよな」
「分かりました。任せてください。
よおし、これでボーナス間違いなしです」
そう喜びながら、ルルちゃんは消えていった。
ただそこまで喜ばれると心苦しいな。
だって21XX年って、俺が100歳の年だし。
でもこれで俺の人生は100歳まで安泰だってことが決まったんだ。
しかも最愛の妻も居るんだぜ。
いやぁ、今まで頑張って生き延びてきた甲斐があるってもんだ。
そんな事を思いながら、俺はベッドに横になった。
########
そして1週間後。
目が覚めるとベッドの隣にルルちゃんが居た。
「おはようございます。安房 紡さん」
「ああ、おはよう……って、おい。この前のが最後じゃなかったのかよ」
「いいえ。宣告が最後になりそう、とは言いましたが、最後だとは言っていませんよ」
「くっ、言われてみればそんな気もする。
でも、例のボーナスが入るのって、宣告どおり俺が死んだ時じゃないのか?」
「はい。ですが幸い、昨日が給料日でして、何とか今月も乗り切る事が出来ました」
給料日って。女神も給料制なのか。色々と世知辛いな。
じゃなくて、この前の宣告があるんだから、もう俺に宣告する必要はないんじゃないか?
「いえ、それはそれとして。やっぱり良い事は早い方が良いじゃないですか。
なのでこれからもどんどん宣告していきますから、ちゃんと死んでくださいね♪」
ね♪じゃねぇ。全然良い事じゃないし。
くそっ、こうなったらとことん生き抜いて見せるからな。
覚悟しておけよ!!
一応今回までが第1部、みたいな感じです。
次回からは前回ちらっと出てきた女神たちも色々してきて、さらにドタバタになっていく予定です。
それにしても、主人公は自分が言った言葉を間違えた事に気付いていません。
最愛の妻『たち』って……。いやぁ日本語って怖いですね。