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第9話:デート オア 終活 後編

何とか後編までたどり着きました。

(ちなみに前編を書いた段階で中編後編の内容は白紙でした)

それから……


「安房さん。ランチはあそこのお店で……」


という指示に従って行けば、ブレーキとアクセルを間違えた車が店内に突撃してきたり。


「安房さん。演劇をやってるみたいですよ。見に行きましょう」


と言われて飛び込みで冒険活劇の演劇を見に行けば、役者がぶつかった大道具の壁(照明器具付き)がなぜか俺に向けて崩れてきたり。


「こ、公園で一休みしましょうか」


と誘われた自然公園では溺れている子供を助けに池に飛び込んだら足に水草が絡みついて溺れそうになったり。

不幸中の幸いで助けた子供の父親が紳士服の販売店を営んでいたので、お礼も兼ねて濡れた服の代わりに、普段ならまず手の届かないスーツ上下セットをプレゼントされてしまった。

そんなドタバタも漸く終わった頃には既に日が暮れていた。

今はバイト先の近くにある公園を通って家に帰っている途中だ。


「で、ルルちゃん。流石にもう無いんだよな」

「はい。残念なことに今日は打ち止めです」

「いや俺としては全然残念じゃないから。

にしても今日はなんだったんだ?

行く先々でトラブルに遭遇したんだけど」

「それが、実はですね……」


珍しく真剣な顔をするルルちゃん。

あれ、もしかして結構重大な問題が起きてたのか?


「いつもは宣告をした後、安房さんを送り出してるじゃないですか。

それだとなかなか上手くいかないので、なら私が一緒に居て直前で宣告すれば、慌てた安房さんは準備する間もなく死んでくれるのではないかと。

って、慌てた安房さん。ぷぷっ」

「おいこら」


自分で言って自分でウケてるんじゃない!

全く、つまりいつもとそんな変わらないってことか。

一瞬でも心配した俺が馬鹿だったな。


ザザッ

「ん?」


気付けばいつの間にか10人位のはげの男達が道を塞いでいた。

手には金属バットとかナイフとか物騒なものを持っている。


「おう、来やがったな。

この前の借りをきっちり返させてもらうから覚悟しやがれ!!」

「えっと……だれ?」


ルルちゃんの方をチラッと見たが首を振られた。まぁルルちゃんが分かる訳ないか。


「てっめ。忘れたとは言わせねぇぞ。

てめえのせいで女には逃げられるし、兄貴にはどやされるし散々だったんだ。

指の1本どころか腕の1本くらいじゃないと落とし前付かないんだよ!!」

「女……兄貴……。あぁ!先月の。

路地裏で女性をレイプしようとしてた変態集団!

丸坊主になってたからわからなかったよ」


そういえばそんなこともあったな。

ちょうど女性が襲われる現場に居合わせたんで助けた後、隣の組との抗争に巻き込まれそうになって、何とか女性共々雲隠れしたんだっけ。

いやぁあの時は危なかったね。


「この頭もお前のせいなんだよ!!」

「あ、ちょっと待って。靴紐結ぶから」

「はぁっ!?」


突然しゃがんだ俺にあっけに取られて動きを止めたやくざな方々。

俺はしゃがみつつ周囲をサッと見て後ろに2人しか居ないことをしつつ、紐を結ぶフリをして砂を掴む。

で、立ち上がる反動を利用して一気に後ろの2人に肉薄すると、砂で目潰しをしつつ脇腹に一撃を入れて走り抜けた。


「ぐぁ」

「くそ、逃がすな。追え!!」


俺は追いかけてくる男達の足音を聞きながら隣のルルちゃんに尋ねた。


「今日はもう打ち止めじゃなかったっけ?」

「えっと、変ですね。こんなことは今日の予定には無かったんですが」

「じゃあ、もう1人の方か」


何でか知らないけど俺の命を狙っているのはルルちゃん以外にも居るらしくて、更に言うと、そっちのはルルちゃん以上に悪辣なものが多い。

ルルちゃんは基本誰かの危機に便乗して俺の死を宣告してくることが多いけど、もう1人は周りを巻き込んででも俺を殺しに来るんだよな。

どうにかならんものか。


「おら待て~~!!」

「逃げ切れると思うな!」


ちっ、しつこいな。

お、ちょうど角を曲がった先に神社、じゃない屋敷なのか。普通とは違う大き目の家があって、その門が若干開いてる。

そこに潜り込ませて貰ってあいつらを撒くか。

急ぎ門の中に入って、すぐさま閉める。


「……」

「おらー逃がさんぞーー」

ドタドタドタッ


足音が通り過ぎていった。

ふぅ。ひとまずは何とかなったか。


「なにやら表が騒がしいですね」

「!?」


建物の方から聞こえてきた声に振り向けば、黒い着物を着た俺より少し年上位の女性が立っていた。


「あなたは……」

「えっと、俺はその」

「まぁ。もしかして祖父を見送りに来て下さったのですね。

さぁ、どうぞこちらに。もう間もなくですので」

「は、はぁ」


なにやら勘違いをされたらしい。

でもその人は既にスタスタと屋敷へと入っていってしまったので、慌てて後を追った。

道すがら。


「祖父は騒がしいのは嫌いな方でしたので、今日は限られた人しか来ていないんですよ」

「そうだったんですね(何の話だろうか)」

「あなた様もさぞや祖父と懇意にされて居られたのでしょう」

「いえ、どうでしょう」

「さ、こちらです」


俺の当たり障りの無い返事を聞きながら、部屋のふすまをそっと開けた。

中の光景を見た瞬間、何に居合わせたのか一瞬で理解できた。


『納棺』だ


部屋の奥で横になっているのは80歳位の老人。

その顔は、苦悶の表情1つ無く、誇らしげですらあった。

俺は静かに部屋に入ると、そっと参列者の方々に礼をして末席に座った。

そこからは粛々と納棺が行われていく。

以前映画で納棺師を取り上げたものがあったけど、実際にこの目で見る納棺はあれ以上に神聖な何かを感じた。

そしてつつがなく納棺が終わった。

最後に喪主と思われるお婆さんが俺の所にも挨拶にやってきた。


「今日はお越し頂き、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。急に来てしまい申し訳ございません。

それにしても、とても良い顔をされていましたね」

「……そう、言ってくださいますか」

「もちろんです。自分の使命を全うした、人生を悔いなくやりきった顔をされていました」

「それを聞けて安心しました。

いつもどこかで私達の為に無理をさせてしまっていたのではないかと心配していたものですから」

「大丈夫だと思います。

若輩者の私が言うのも憚られますが、この方は全てを含めて自ら選んでいたでしょうから。

その苦労もこの方の幸せの一部だったのだと思います」

「ありがとうございます。

生前、あなたがあの人とどのようなことがあったかは存じません。

ですがあなたのその眼差しを見れば分かります。

あなたは厚く遇なすべき方だと。

どうぞこれからは私共を家族のように接してくださっても構いませんよ」


な、なんだろう。

だんだん話が大げさになっていく気がする。

これはそろそろお暇した方が良さそうだな。


「宜しければ今晩は泊まって行ってくださっても……」

「あ、いえ。お心遣いは有難いのですが、家に戻らなければならない用がありますので」

「まぁそうでしたか。それではあまり長く引き止めてもいけませんね。

千鶴。玄関までこの方を、ってそうだわ。まだお名前も聞いてませんでした。私としたことが」

「そうでした。私は安房 紡と言います」

「紡さんですね。私は師仙院 かなえと申します。今日は本当にありがとうございました」


そうしてお互いに挨拶をした後、最初に案内してくれた女性、千鶴さんの案内で最初の門の所まで戻ってきた。


「私からもお礼を言わせてください。

今日はありがとうございました。祖父も祖母も大変喜んでおりました」

「いえ、私のほうこそ慌しくて申し訳ない」

「あ、そうそう。

外で騒いでいた者たちは、うちの若い衆がしずめておきましたので、ご安心ください」

「何から何までありがとうございます」


しずめる?……鎮めるだよな。沈めるじゃないよな。

若干不安に思いながらも門を出たところで、再度挨拶をして家路に就いた。

高級スーツが皺になるのは勿体無いのでしっかりハンガーに掛けてから、ベッドに倒れこんだ。

家に着くまでが○○だ、なんて言葉もあるし、今度こそもう何もないよな。

そんな事を考えつつ、俺の意識はすぐに夢の中へと沈んでいった。


途中、高級スーツを入手してなければ、門を潜ったところでただの不審者としてつまみ出されていた件。

世の中、どこがどう繋がるのか分かりませんね。



ひとまずこれにて当分更新は無いかと。

メインの連載をこれ以上止める訳にもいかないですし。

(ネタが思いついたら突発的に増えますが)

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