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第1話:命がけ不法侵入

最近こういう小ネタを考える事が増えた気がします。

その光景を最初に見た時「ああ、これは絶対に夢だ」と思った。

だって、夜中に突然、自分の部屋の何もない所が光って、気が付いたら羽根が生えて白い服来た美人で金髪の女の子が居るんだぞ。

どう考えても夢じゃねえか。

しかもその子が俺をみてこういうんだぞ。


安房(あわ) (つむぐ)さん。

あなたは今から1時間21分後にこの部屋の1つ下の203号室で起きる、山下めぐみさんの寝タバコが原因で発生する火事により死亡します」

「は、はぁ。それはご丁寧にありがとうございます」


思わず間抜けなお礼を言っちまったじゃねえか。

どんだけ具体的なんだよ。


「ところで、あなたはどちら様ですか?」


いかん、突然すぎる事に俺も動揺しているみたいだ。

夢でそんな事を聞いても答えてくれるわけないじゃん。


「私は、宣告女神のルルイエル・ルースルーです。遠慮なくルルちゃんと呼んでください。

好きなものはベビーカステラ。嫌いなものは福神漬けです」

「って、答えるのかよ!!」

「ひゃっ」


と、いかんいかん。驚かせてどうする。

冷静になれ俺。

もし仮にこれが夢だとして、これで慌てて何かしても誰にも気づかれずに起きて自分を笑うだけだ。

逆に夢じゃなかったら?どっきりでもなんでもなかったら?本当にもう死ぬのか?


「なあ、ルルちゃん」

「はい、なんですか?」

「さっき言った俺が死ぬっていうのは嘘じゃないのか?」

「はい。あと15分で発火する火によって、この部屋は全焼し、気付かず寝ていて逃げ遅れた紡さんは焼け死にます」

「今思いっきり説明受けてるけど?」

「大丈夫です。『これは夢だ』と思った紡さんは、この後ベッドに入って寝てしまいます」

「いや、ここまで聞いてのんきに寝れる程、神経図太くないし!」


そこまで言った俺はアパートのガラス扉を開けてベランダに出る。


「まっ、例えもうすぐ死ぬとは言え、早まって自殺してはいけません。

ちゃんと宣告通りに焼け死んでください」


ちょ、この女神、宣告だけじゃなく、死ねって言ってきたんだけど。

でも、これではっきりしたかもしれない。

この宣告が絶対のものじゃないって事が。

それに。


「俺は自殺する為にベランダに出た訳じゃない」


今から階段で降りてチャイムを鳴らしても気付かれなくて、中に入れないかもしれない。

そもそもこんな夜中に男が訪ねてきても絶対に扉を開けたり話を聞いたりしないだろう。

火事はすぐ下の部屋だっていうんだ。

なら、ベランダにある非常降り口を使って降りた方が確実だ。


そうして人生で初めて非常口を使って下の階に降りた。

これって不法侵入で捕まるよな。ってそれは今は置いておこう。

ガラス扉から中を覗く。

ベッドの上には下着姿のまま不自然な格好で寝ている女性が見えた。

あ!あの手の形はまるでタバコを持つときの手じゃないか?

その下に目を向けると、薄っすらと煙が出ているような……ってマジかよ!!

急いでガラス扉を開けて(鍵掛かってないし。不用心過ぎだろ)部屋の中に入り、テーブルの上にあった飲みかけの缶ビールを掴んでタバコの火にぶっかけた。


「ふぅ、あぶねえ。でもこれで一件落着だな。後はしれっと部屋に帰って寝直そう」

「んんぅ?」


くっ、まさか。

このタイミングで起きるとかありかよ。


「だあれ?」


どど、どうする。一歩間違えば即豚箱行きだぞ。

何気にさっきよりもピンチじゃないか?!


「あ、あー。俺は神の使いさ。

今夜君が寝タバコで火事を起こすから助けてあげる様に神様から遣わされたんだ。

ほら、その証拠に左の布団を見てごらん」

「ひだり……あ、なんか焦げてるぅ」

「そう。幸い火はもう消したから安心して眠ると良い。それじゃあ俺はこれで」

「ん、ありがとー」


俺は女性が寝ぼけている間にさっとベランダに出てガラス扉を閉めて自分の部屋に戻る。


「ふぅぅぅ。やべえ、まだ心臓がどくどく言ってる。

これで、多分大丈夫だよな。咄嗟のアドリブだったけど。

いやぁ、俺ってもしかして男優の才能あったりするんじゃねえかな」


と、そこまで言ってから何か忘れているような……って、そうだ。

さっきのルルちゃんとか名乗った女神は?

いない、か。

結局あの女神が来てくれなかったらマジで焼け死んでた可能性があるんだから、今度あったらお礼を言わないとな。

って言っても、そう何度も死の宣告をされても堪ったもんじゃないけどな。



翌日の朝。

空は快晴。実に気持ちのいい朝だ。

俺は大学に行く為に玄関を出て階段を下りる。

と、ちょうど下の階の人と鉢合わせた。


「おはようございます。山下めぐみさん」

「え、あ、はい。おはようございます。あれ?」


俺は元気に挨拶を交わしてそのまま自転車に乗って大学に行った。

そのせいで、その後のつぶやきを聞くことは無かった。


「……さっきの声、どこかで聞いたような。それに名前……」

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