(3)
その頃、壁を作った張本人は何もなかったようにパソコンをいじり、台風を作った嵐士は「腹減った」と叫んでいた。
高速を降りながら壱が言う。
「そういえばさ〜ぁ?鏡平。壁作るのってリードにとって基本中の基本だけど…タイミングずれたら足止めにならなかったんじゃない?落とし穴の方が有効的だったんじゃないかな?」と壱。
「…この俺がタイミングを間違えることはない。」と鏡平。
「そうだね」と壱は鏡平のあまりの自信のありように嬉しさのあまり苦笑いをした。
「あ〜ぁ…。なんか嵐士と鏡平だけ活躍してない?俺もSTGの奴らビビらせたかったぁ」と陸。
「どうせ、また追ってきますよ。STGは国の機関で超能力者を管理するという名誉があるからね。それに超能力者を逃がしたということが公になれば国民から圧力がかかる」と壱。
「俺らに賞金賭けているんだぜ?もう、公にしているじゃん」と嵐士。
「…たぶん種族不明として賞金賭けているんじゃないかな?いちおうキープビリティの身分は一番守られているから、私がキープビリティだと確認出来れば、賞金は一度消えると思うよ?でも、また復活するだろうね。ちなみにSTG以外は逃げたことをそこまで重要視はしてないと思うよ?私達の賞金は全てSTGが隠しカメラの映像を写真にして国政に送りつけ賞金を懸けるように依頼したんだろうね?」と壱。
「じゃあ、にぃさんは逃げる必要なくない?」と陸。
「陸…私が前にいった話聞いていた?」と壱。
「えっ?…なんだっけ?」と陸。
「まぁ、いいや、どうせ雰風と燦と鏡平にまた話さなきゃと思っていたし…」と壱。
「ああ!パドリックの話?」と嵐士。
「そう!!」と壱。
「パドリック?」と不思議そうに聞き返す雰風に鏡平がパソコンを見ながら言う。
「パドリック共和公王国。人口5000万人。首都パドリク、世界大戦の時に伝説となった無敵のパドリック兵の出身国。六人の王様がおり、六種族が平等に暮らす国。」
「そう。パドリックはこの世界で唯一、種族による身分制度がない国なんだ。だからこの国に上手く亡命出来れば、私達は身分の心配をすることなく一緒にいれるんだ。」と壱。
「でも、パドリックはこの国から遥か西にあるのですよ?今、僕らがいるユースタリア国がパーラーリア地区でパドリック共和公国はウェーストラーリア地区その間にはセントラーリア地区、イーストラーリア地区、カンターラーリア地区、砂漠地区、高地地区、オアスラーリア地区、の少なくとも6つの地区を超えていかないとなりませんよ?それに1つの地区に少なくとも4つの国が入りますよ?」と鏡平。
「そんなことは承知の上だよ?私はもう十年前のようなことを繰り返したくないんだ」と壱。
「…」
鏡平はなにも言えず下を向いた。
沈黙が続いた…。鏡平も陸も嵐士も燦も雰風も10年前の壱の姿が10年間脳裏に焼き付いて離れなかった。
「私はこの10年、ただ兄弟を国から取り戻すことしか考えていなかった。覚えている?私が10年前君たちに言った言葉…」と壱。
雰風は10年前の光景を思い浮かべる。
あれは大雨の日、5才の壱が国政の役人に押さえつけられながら叫んでいた。
「陸!!嵐士!鏡平!!燦!!雰風!」と役人に無理やり連れていかれる5人に向かって手を伸ばす。
「兄貴!兄貴!」と必死に手を伸ばす陸。
「イヤだ〜放せ」と暴れる嵐士。
震え涙を流しながら壱に向かって必死に手を伸ばす鏡平。
「壱兄さん!!」と必死に叫ぶ燦。
殴られ蹴られ血を流し、ぐったりしながら役人の腕の中で壱に血だらけの手で手を伸ばす自分の姿。
それぞれの車に乗せられ去って行く兄弟に必死に叫んでいる兄の姿を雰風は朦朧とする意識の中で見ていた。
車が発車する時、壱兄さんは役人の腕をすり抜け何かを叫びながら5台の車を追っていた。
あの時壱兄さんは何を叫んだのか?雰風の耳にはその言葉は届いていなかった。
「…絶対、迎えに行くから!!…だろ?」と陸が静かに言う。
「さすが!陸だねぇ?」と壱は笑って言う。
「10年間、その言葉が俺の中には響いていた」と陸は恥ずかしそうに言う。
「だから、迎えに来たのか!!」と嵐士。
「そういうこと!!」と壱は笑う。
「確かに兄貴は昔から絶対、約束破らなかったな?」と陸。
「そうそう、陸と嵐士には何度約束をやぶられたか」と壱。
「うっせ」と嵐士。
「アハハ…まぁ、いいじゃん」と陸は笑った。
「そういえば、パドリックに亡命するのは分かったけど…その国ってそう簡単に亡命できるの?」と雰風。
「おお!!よくそこに気づいたな?雰風」と嵐士が褒める。
「私達、6人が一斉に亡命すれば大丈夫。」と壱。
「どういうことですか?」と鏡平。
「アレだろ?…6種族が集まった状態で亡命すればいいんだろ?」と陸。
「おい!!なんでそういう微妙なところだけ覚えているんだ?陸兄貴!!」と嵐士
「アハハ…」と陸は笑った。
「まぁ、陸の言う通りなんだけど…細かく言うと6種族が一人ずつ入った6人を1つのグループとして亡命する必要があるんだ。だから、たとえば6人の中にマンカイドがいなくロギアが2人いた場合、亡命は認められない。この場合はロギアを2つのグループに分けて1つのグループにはロギアの変わりにマンカイドを入れて、もう一つのグループにはロギア以外の5種族を入れなければならないんだ」と壱。
「1つの種族から1人ずつでこの世界には6種族あるから6人ってこと?」と雰風。
「そう、さっきも言ったけど…パドリックは6種族が皆、平等に暮らす国だからそれになじめない人は国を荒らすだけだろ?亡命者はどこの国から来たかパドリック側には分らないから亡命者を国に入れるのには慎重なんだろうね?」と壱。
「亡命者を篩いにかけているってことですね?」と鏡平。
「まぁ、そういうこと!だから私達は誰一人いなくなるワケにはいかないんだ!」と壱。
「なんで?」と陸。
「だから!!陸兄貴!ちゃんと話聞いていたか?」と嵐士。
「う〜ん…半分くらい?」と言いながら陸は無邪気な笑顔を嵐士にかえす。
「だから!!俺ら6人は皆、種族が違うだろ?」
「うん…」
「パドリックに亡命するには6人全員で亡命しなきゃならないって言うルールがあるワケ!!!!」
「へ〜ぇ」と陸は感心したように頷く。
「分かった?」と嵐士。
「うんうん、分かった、分かった」と陸は楽しそう笑って頷いた。
「ってか、壱兄貴これからどうするんだ?」
「う〜ん…」と壱は少し悩んで言った。
「今日はもう宿へ行こうか?この道路の先にマルシャという港町があるはずだから…すごくのどかな町だから私達が追われ者でも気づかないとおもうよ…」
「それはマルシャの民の町か?」と陸が壱に聞く。
「その通り!!さすが陸だね」と壱。
ある理由でしばらくこの作品を休載させていただきます。
解決し次第、連載を開始いたします。ご迷惑をおかけしてすみませんm(_ _)m
今後ともよろしくお願いします。
by.天海 聖哉&成田 慎也