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第7話 『旅支度』を探す★

 よく晴れた朝、私たちは商店街を歩いており、あの夢を見てから2週間が経っていた。


 この2週間の生活と言えば、朝起きると生活課へ向かい、依頼を受け、完了したら報告に戻るという生活を繰り返していた。

 もちろん帝都までの路銀を稼ぐことが目的で、主な仕事は失物捜索と荷物運搬のお手伝いが多かった。

 荷物運搬は基本重労働で、非力な私たちには向いていないかと思えたが、チィエルは精霊魔法の応用で精霊に手伝って貰い、私は浮遊魔法(レビテーション)を使うことで問題なく仕事をこなすことができた。

 浮遊魔法(レビテーション)は、私が図書館勤務の時に使っていた接触したものを浮かせる魔法で、いつもは重い本を運ぶ時に使っていた。

 捜索魔法(サーチ)に比べて、魔力(マナ)の消費が極少量なのも嬉しい。

 

 この2週間で変わった事と言えば、最初の依頼人である革職人さんが、子猫のマーニャを助けてくれてお礼という事で、私に靴を作ってくれた。

 脛まで隠せて紐がついたブーツで、色は制服に合わせて染色してくれてある。これで旅に出る時に足を痛めることもないはずだ。ついでにお願いしてあったカバンが今日完成するという事だった。

 

 多少路銀も貯まったので、その完成を待って次の街に移動することを決めていたのだ。

 出発は明日、それで今日はお世話になった方々に挨拶に向かう事にした。

 

「まずは革職人さんのお店ですね」

「あたし、あの猫苦手だなー」


 店内にはいるとマーニャがニャーっと出迎えてくれた、相変わらず可愛い。

 私たちを見つけた店長が、軽く手を振りながら。

 

「やぁ黒猫ちゃん、よく来てくれたね。注文のカバンなら出来上がっているよ」

「あはは……店長さん、黒猫ちゃんはちょっと……」


 彼は何故か私のことを黒猫ちゃんと呼ぶ、黒猫好きはマーニャだけにしていただきたいところだ。

 

「ほら、こんな感じでどうだい?」


 そう言いながら、彼は出来上がったカバンをカウンターの上に置いた。

 そのカバンは全体的に制服に合わせて染めてあり、白いラインが入った肩掛けの紐が付いていた。頑丈で結構な量が入りそうなそのカバンは、旅の荷物を運ぶには丁度いい感じだ。

 

挿絵(By みてみん)

 

「ギャー」


 突然の悲鳴に振り向いてみると、チィエルの手にマーニャに噛みついていた。

 

「何しているんですか、まったく」

「いたたた……ちょっと撫でようと手を出しただけなのに……」


 呆れつつ私は店長さんの方に振り向き、笑顔で頭を下げて。

 

「素敵なカバンをありがとうございます。大切にしますね」

「ははは、気に入ったようでよかったよ」


 手を擦りながら、カウンターの方を向いた彼女は。

 

「おっちゃん、あたしらそろそろ次の街へ行くんだ」

「そうなのかい? それは残念だな……」


 彼女は明るい笑顔で。


「きっと、またくるよ!」


 その後、私たちは挨拶に回りの続きで商店を廻り、ついでにまだ揃えていなかった『旅支度』を整えていった。



◇◇◆◇◇



 私たちが最後に訪れたのは役場の生活課だった。

 ガレッドさんに挨拶にきた私たちは応接室に通された。その部屋に向かう途中で可愛いらしい女性にデレデレした彼を目撃してしまう。私は、見なかったことにしようと心に決めていたのだが……。

 

 しばらくしてガレッドさんが応接室に現れたが、チィエルがニヤニヤ笑いながら……。


「やるな、ハゲ! 浮気か? デレデレして気持ち悪かったぞ」

「なっ!」


 先に釘を刺しておくべきだったと後悔したが、時すでに遅くガレッドさんの拳骨がチィエルの脳天に向けて振り下ろされていた。

 

「ぐぉぉぉぉぉ……」


 頭を抑えてうずくまるチィエル。

 どうやら、彼女は最初に追い出された事を未だに根に持っているようだ。


「バカ野郎、あれは妻だ!」

「え?」

 

 あのゆるふわで可愛らしい感じの女性が、この一歩間違えればオーガと間違えられそうな人の奥さん?

 

「おい、お前も何か失礼なこと考えてないか?」

「いや、とても可愛らしい人だったなと思って」

「お前にも、わかるかっ!」


 それから2時間ほど、奥さんがいかに可愛く聡明で素晴らしい女性なのかという自慢話を延々と聞かされ、私は笑顔で相槌をする機械と化していた。早く終わってくれないだろうか?

 チィエルはというと即面倒だと悟ったのか、こっそりソファーの後ろに隠れて寝ているようだ。


「……というわけなんだ。どうだ可愛らしいだろう?」

「そうですね……」


 そこで彼はようやく壁に掛けてあった時計をみて。

 

「おぉ……ごほん。ちょっと喋りすぎたか? で、お前ら今日は何の用なんだ?」

「そうですね……え? あっ、わ……私たち明日街を出て、次の街へ行こうかと思いまして挨拶に来たんです。」

「なに、そいつは急だな。次はどこに行くんだ?」

「トルターンという街だそうです」

「トルターンか……そうか、ちょっと待ってろ」


 彼は席を立つと部屋から出て行った。

 そこでチィエルが起きだして……。


「ふわぁ~、話は終わった~?」

「終わった~じゃありませんよ、一人だけ逃げてひどいです」


 彼女はソファーに座りながら。


「まぁまぁ、いいじゃない。それでハゲは?」

「ちょっと待ってろと言って出ていったけど……。」


 しばらくして彼が封筒を持って帰ってきた。その封筒をこちらに渡しながら。

 

「これを持っていけ、トルターンの生活課の向けの紹介状だ。あそこの課長は俺の昔の仲間でな。まぁ、ちょっと豪快なところもあるが悪いやつじゃない」


 この人に豪快といわれる人って、いったい……。

 封筒を受け取ると、頭を下げて。

 

「ありがとうございます」

「まぁ向こうでも頑張れ、この街に戻ってきたら顔を出せよ」


 そう言って、私たちの背中を軽く叩いてくれた。



◇◇◆◇◇



 その日の夜の食事は、いつもより豪華だった。

 ターナー婦人が、旅立つ私たちへの餞別として腕によりをかけてくれたのだろう。

 それを皆で談笑しながら食べ、滞在中の思い出話に花を咲かせた。


 夕食後、チィエルはターナー婦人に連れて行かれてしまった。今日は一緒に寝るのだそうだ。

 私は1人、日記代わりの物語の執筆をしていた。


「今日も色々あったな~、どれもこれも図書館での勤務では味わえない素敵な事ばかり」


 チィエルと出会ってからの事を、一つ一つ書き綴っていく。

 脚色は特に必要ない。彼女は無茶ばかりするので、そのまま書いても物語として楽しそうだ。

 

 いくらか書いたところで眠くなり、今日はもう寝ることにした。

 明日はついに旅立ちだ。

 

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