第4話 『保証人』を探す
ターナー夫妻との夕食後、夫妻のご厚意により借りることができた金物店の2階にある一室に来ていた。
室内は簡単なベッドとテーブルが1台ずつ、椅子が2脚、キャビネット1台とライトが1個。
質素な造りだが、仮住まいとしては問題のない感じだ。
1つ問題があるとすれば……あまり大きくないベッドが1台しかないことだけど……。
隣で荷を解いているチィエルを見つめて。
「このサイズなら大丈夫よね」
「なにがー?」
小声で言ったのにしっかり聞こえていたようだ。
「い……いえ、この部屋なら二人で住んでも大丈夫って思って」
「そうだなー、明日は早くから動きたいし、そろそろ寝ようか~?」
そう、明日は『冒険者免許』を取得するための保証人になってくれる人を捜すのだ。
まずは近くの商店の方々に聞いて廻るつもりだけど……って、あわわわ。
ふと隣を見てみると、いつの間に脱いだのか裸同然の格好でチィエルがベッドに入り込もうとしていた。
「チィ姉さん、もう少し恥じらいをですね……」
「ん? 別に女同士なんだから気にしなくてもいいだろ? それにペケの格好だって人のこと言えないし!」
「うぅ……」
そうなのである。正直私も人の事は言えない姿だ。
制服しか持っていなかった私に、ターナー婦人が何着か服を貸してくれた。
それはとてもありがたいのだけど、この寝巻き……色々透けてしまっていて恥ずかしい。
「と……とにかく、灯りを消しますよ」
ランプの灯りを消してから、暗闇の中を手探りでベッドまでたどり着き、そのままベッドに潜り込んだ。
思っていたより疲れていたのか、目を瞑るとそのまま眠りに落ちてしまった。
◇◇◆◇◇
「ぐえっ」
翌朝、突然腹部に重みを感じた私は、乙女の朝に相応しくないうめき声をあげてしまった。
ゆっくり瞼を開けてみると……朝の優しい光と共に、私の上で猫のように丸まって眠るチィエルが見えた。どうやら寝相は良くないみたいだ。
「起きてください、チィ姉さん」
ゆさゆさと揺らすと、ふわっとだらしない声を出しながら起き上がり伸びをした。
「むにゃ……おはよ~」
「いいから、降りて服を着てください!」
「ふぁ~い」
モゾモゾと私の上から降りると、脱ぎ散らかしてあった服に着替えはじめた。
私もベッドから起き上がり、掛けてあった制服に着替える。
彼女は大きなカバンとケープを除いた全てを装備している。それらは街中では不要だということだろう。
さすがに私も『本』は置いていこう。
身支度が終えた後、ターナー婦人が用意してくれていた朝食を皆で一緒に取り、さっそくフィスターンの街に繰り出すことにした。
◇◇◆◇◇
数時間が過ぎ、お日様が頭上高くに輝く正午頃……私たちは、大通りから外れたところにある大きな公園のベンチに座っていた。
近くの売店で買ったサンドウィッチを食べ終わったあたりで、チィエルが深いため息と共につぶやいた。
「み……見つからない!」
数時間掛けて様々な場所に行き、保証人になってくれる人を捜してみたが、話を聞いてもらう事すら難しかったのだ。
冷静に考えてみれば当たり前な話である。
実際の年齢はともかく、見た目が幼く素性も知れない子供の話を聞いてくれる大人なんて、なかなかいないものだ。
「どうしましょうか? あっ……」
ふと前を見てみると、黒い子猫が歩いていた。
綺麗な革の首輪も付けているし、随分と毛並みがよい。
私がしゃがみ込んでチチチッと呼んでみたら、ニャーっと一鳴きして差し出した手にじゃれ付いてきた。
「可愛い」
思わず頬が緩んでしまう。ごろりとお腹をみせてきたのでお腹や顎を撫でてあげたらゴロゴロ鳴いていた。
カラフルな首輪には名札が付いており『マーニャ』と書かれている。やっぱり飼い猫のようだ。
「マーニャちゃんって言うんだね~」
可愛い猫と戯れる時間は、とても幸せなひと時だったが……。
「ガー! なんで見つからないんだー!」
突然チィエルの無粋な叫びが響き渡り、驚いた猫が逃げてしまった。
「チィ姉さん!」
「え? なに……?」
急に怒鳴られて、きょとんとした顔で首を傾げている。
「なんでもありません! ほら、午後も捜しに行きますよ」
「そ……そうだね、午後も頑張ろう!」
猫と戯れる時間は惜しいけど、今は『保証人』捜しを優先させなくてはいけない。
私たちは再び大通りのほうへ歩きだした。