第3話 『拠点』を探す★
無事フィスターンに入った私達は、さっそく冒険者ギルドに向かうことにした。
正門から続く道は、さすが大通りだけあって露店や商店も数多くあり、中規模の街ながら活気に溢れていた。
「この道を抜けた先にギルドがあるんだよ」
「そうなんですね、さっそく向かいますか?」
「当然!」
私達は賑やかな露店を横目にギルドに向かって歩き始めた。
彼女は冒険者になるのが待ちきれないのか、期待に胸を弾ませている様子で先ほどより荷物を上下に揺らしながら歩いている。
しばらく歩いて行くと、白い大きな建物が見えてきた。
彼女が言うには、あの建物がギルドらしい。
冒険者ギルドといえば、物語によく出てくるような酒場の様なイメージをしていたけど、私の勝手なイメージだったみたい。
現実はもっと堅牢な建物で、どちらかと言うと役所のように見える。
「さぁ! さっさと登録を済ませよう!」
彼女は片手を掲げて意気揚々とギルドの中に入っていった。
◇◇◆◇◇
数分後……
私たちは子猫のように後襟を掴まれ、建物の外に追い出されていた。
「なにするんだよ! このハゲ!」
「誰がハゲだっ!」
そう怒鳴った大男は、2メートル近くありそうな巨漢で、シャツのボタンが今にもはち切れそうなぐらい筋肉の塊、剃っているのか頭髪はなく顎ヒゲは生やしていた。いくら軽いとは言え、私達二人を軽々と運べるのも頷ける。
「いいかい、お嬢ちゃん達? ここは役場なんだ、子供が遊びにくるところじゃないんだよ」
「え? 冒険者ギルドではないのですか?」
「冒険者ギルド? あぁ、時々そう呼ぶ奴らもいるがね。ここは役場の生活課さ、俺は課長のガレッドだ」
この人が生活課の課長? 街の中でなければ山賊の頭にしか見えないのだけど……。
そんな失礼な事を考えていたのが顔に出ていたのか、ガレッドは一瞬ギロリと私を睨むと話を続けた。
「アンタは、まだ話が通じそうだからもう一度言っておくが、住人じゃない奴らに『往来証書』は発行できないんだ」
「往来証書?」
「正式名称は『帝国内自由往来身分証明書』って言うんだが聞いたことないか? そこのガキみたいなのは『冒険者免許』とか呼んでるみたいだがな」
それが旅が楽になるって言っていた『冒険者免許』か……。
「その証書を貰うにはどうすれば? やっぱり、お金でしょうか?」
「いや、基本よそ者には発行しない決まりなんだ……が、まぁ市民の保証人が3人もいれば特例で発行することもある。流れ者が運搬等の働き手になる場合もあるからな」
「なるほど、わかりました。ありがとうございました」
私が頭を下げると、ガレッドは肩にかけていたチィエルの荷物を地面に置いて役場に戻っていった。
「さて、どうしましょうか?」
その後、私達は今後の事を話し合うため、彼女の父親の知り合いだという金物屋に向かうことにした。
◇◇◆◇◇
金物屋は、大通りから少し外れた路地にあった。
2階建てで看板にはターナー金物店と書いてあり、店内は鉄臭くお世辞にも綺麗とは言えなかったが、最低限の清潔感は保たれている。
さらに店内を見渡すと、剣や斧といった武器もあったが、どちらかというと生活用品である鍋や鉄製のランプなどが多く展示されていた。
店内を見ているとカウンターの奥の中年の男が、こちらに気が付いた様子で声をかけてきた。
「ん? なんだガーディっとこの小娘じゃねーか」
おそらく店長である中年の男がぶっきらぼうにそう言うと、彼女は手を振りながらカウンターに近付く。
「ターナーさん、お久しぶり~」
「どうした? 何か届け物か? 親父さんに何か注文しとったかな?」
「いや、そうじゃなくて、実は……」
役場で一悶着あった事を彼に話した。
その話を聞きおわったターナーは、腹を抱えて笑い出し。
「ガハハハッ、ガレッドの野郎も頭堅いからなぁ」
「笑い事じゃないよ、ターナーさん」
「悪い悪い! まぁ俺が保証人になってやってもいいけどよ、もう何人か必要んだろ?」
「そうなんだよね~」
どうやら他にはアテがないようで彼女は肩を落としていた。
「ところで、そっちの変わった格好をしたお嬢さんは?」
「あっ、初めまして私はペケと言います。チィエルさんに助けていただいて……」
私は簡単に経緯をターナーさんに話した。
「……難しい話は、よくわからんが大変だったな。それじゃ行くところねーんだろ? 二人とも泊まってくといい! おーい、かぁちゃん!」
「なんだい、あんた?」
呼ばれて奥から中年の女性が出てきた。
背丈は普通だが全体的にがっしりしたイメージのその女性は、まさに職人の妻といった感じだった。
彼女はチィエルを見るなり笑いながら、ガシガシとチィエルの頭を撫でて。
「おや、チビエルじゃないか! 相変わらず小さくて可愛いね」
「誰がチビエルだっ!」
チィエルはジタバタと暴れていたが、今までの様に本気で怒っている様子ではなかった。
おそらくこのターナー婦人には懐いているのだろう。
「かぁちゃん、こいつらしばらく泊まってくから面倒みてやってくれ!」
「いきなりだねぇ……そっちの子もかい? まぁわかったよ。そろそろ飯時だし、詳しい話はその時にでも聞こうかね」
「よろしくお願いします」
そう言いながらお辞儀をすると、私の頭も優しく撫でてくれた。
こうして私たちは、このターナー金物店を『拠点』に、しばらく街に滞在することになったのだ。