エピローグ 『後日談』★
月日は流れ、私は今も『夢の図書館』働いている。
変わった事と言えば……。
「主任~!」
そう、主任に昇進したのだ。
今、こちらに走ってきているのは、最近入った新人の2人だ。
真新しい黒い制服に身を包み、初々しい感じがとても可愛らしい。
「こらっ! 貴女たち、通路を走ってはいけないわよ」
「す……すみません」
すこし叱っただけなのに、凄く恐縮されてしまった。
私、そんなに怖いかしら? これ以上、怖がられないようにと笑顔を作ってから。
「それで、どうしたの?」
「あの……これ、どうでしょうか!?」
彼女は、一冊の本を差し出してきた。
私は、どこかで見覚えのあるその本を受け取ると、タイトルを見て驚く。
「『チィエルとの物語』……懐かしいわね。残念だけど、これは主に見せた事がある物語だわ」
「そ……そうなんですか? それじゃ戻しておきますねっ!」
その子は本を受け取ろうと手を差し出してきたが、私は首を振ってニコリと微笑む。
「これは私が戻しておくから……あら? そちらの本は?」
もう一人の子が、隠すように持っていた本に気が付いた。
「あ……この本も一緒にあって、続きかも? と持ってきたんですが……」
おずおずと差し出さた本のタイトルをみて、私はさらに驚いた。
本のタイトルは『チィエルの冒険』
「……そっか、ちゃんと物語は続いていたのね」
私はタイの留め金をいじりながら、上を見上げて物想いにふける。
「主任?」
しかし、彼女らの呼びかけで、すぐに現実に戻されてしまった。
いけない、今は勤務中。部下たちに恥ずかしいところは見せられない。
「この本も私が預かるから、貴方たちは他の本を探して来てくれるかしら?」
「はい! わかりました」
元気よく返事をする新人さんたちを、可愛らしいなと思っていると、ある事が気になりはじめた。
「あー……貴女たち、この本読んだ?」
彼女達は、いきなりの質問に少し戸惑いながらも。
「えっと、教えてもらった通り、タイトルとあらすじを読んで最初の方を少し読んだだけですが……」
「そう……それならいいわ、その調子でお願いね」
最初の方……なら、大丈夫かな?
新人たちはお辞儀をすると、時々こちらを振り返りながら去っていった。
「主任ってカッコいいよなっ! 出来る女って感じで!」
「うん、私憧れてるの!」
帰り際の新人たちに、そんな話をされているとは露知らず、私は笑顔で新人の子たちを見送ていた。
◇◇◆◇◇
近くの椅子に座ると、まず『チィエルとの物語』の表紙を見て、自嘲気味笑う。
「あの子たちが、最初の方だけしか読んでなくて良かった~。若気のいたりというか、部下には見せれないシーンが色々書いてあるからね」
彼女たちは、なぜか私の事を憧れの目で見てくるから、天蓋付ベッドで大はしゃぎとか、私のイメージが壊れちゃいそう……。
「しかし、懐かしいなぁ。チィ姉さん少しは成長したかな? ふふふ……あんまり想像できないな。今の私を見たら、またガー! って怒りだしそう」
そのシーンを想像してクスクスと笑うと、ページを捲って最後の空白ページで止める。
内ポケットから万年筆を取り出し、あの日伝えれなかった一文を書き加えた。
我が、親愛なる友、かつ最初の読者である、チィエルに深い感謝を
────クリスティーナ・クロスベル
私は本を閉じると席を立ち、書架に本を納める。
その瞬間、本は音も立てずに消えた。またどこかの書架に移動したのだろう。
それを確認後、席に戻るともう1冊を小脇に抱えた。
「これは、また後で読もう! チィ姉さん、あの後一体どんな冒険をしたのかな?」
そして、再び主が気に入る本を探しに、書架の間を歩きはじめるのである。
Fin.
チィエルとの物語はこれで完結です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。




