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第18話 『帝立図書館』を探す

 帝立図書館────

 私たちは呪符屋を出た後、すぐに図書館に来ていた。

 入館時に守衛に止められたが、レーンさんが渡してくれた紹介状のおかげで、すんなり通して貰えた。スイリー家が凄いのか、レーンさんが凄いのかわからないけど、守衛さんが固まっていたので紹介状の効果は抜群だったみたい。

 

 読書が出来るスペースまでくると、ひとまず備え付けの椅子に座る。


「レーンさんって、やっぱり凄い人だったんですね?」

「…………」


 チィエルに話しかけてみたが、反応がなく机に伏せている。

 

「チィ姉さん、元気出してくださいよ。アレはアレで何かに使えるかも?」


 先ほどまで、あんなに大はしゃぎしていた彼女が、なぜこんなに沈んでいるかと言うと……理由は、あの『成長促進』のマジックアイテムである。


 思えば、色々思いあたる節がある。

 私は、みんなが言っていた事を少し思い出してみる事にした。


 ライさん曰く『確か冒険者の間で人気らしい』

 あの筋肉店主が『愛用』している

 呪符屋の店主が『女の子だし程ほどにねぇ』と言っていた。

 

 私は、彼女の脇に落ちていた説明書を拾うと、内容に目を通す。


 キャッチコピーは『新米冒険者にオススメ! この商品を使って鍛えればバランスよく筋肉がつく! 今日から君もマッスルだ!』


 続けて説明文を読むと、このアイテムは駆け出し冒険者ご用達のアイテムで、体を重くする効果を持っているみたい。

 結論を言ってしまえば、このアイテムはいわゆる体を鍛える為のトレーニングアイテムだったのである。


 確かに、嘘偽りのない『成長促進』のマジックアイテムではあるけど、グラマーに成長できると思っていたチィエルの希望とは違い、だいぶショックだったみたい。

 それで説明書を読んだ瞬間から、ずっとこんな感じなのである。

 

「チィ姉さん、私ちょっと本探してきますから」

「……ぅー」


 顔を伏せたまま、手を振っている。

 仕方ないと思いながら、私は席を立ち本を探しに歩きはじめる。

 


◇◇◆◇◇



 『帝立図書館』なんて、仰々しい名前をしているこの図書館は、名前に負けずかなりの蔵書量を誇っていた。

 無限に増え続ける『夢の図書館』程ではないとは思うけど、ひょっとしたら扱っているジャンルは、こちらの方が豊富かもしれない。いくら多いと言っても、ちゃんと整理されているから捜索魔法(サーチ)に頼る必要はない。


 まず私が探さなくてはいけないのは世界地図だ。何をするにも地理を知らなくては始まらない。

 しばらく歩くと、世界地図が載っている本を見つける事ができた。

 かなり豪華な装飾が施された巨大な本で、引き抜くのに少し苦労したけど……。


「この大きさだと、立ったまま読むのは、さすがに無理ね」


 浮遊魔法(レビテーション)を使い、本を軽くすると元いた位置まで戻る事にした。



◇◇◆◇◇



 元の席に戻ると、チィエルの姿がなかった。


「気晴らしに、どこかに出かけたのかな?」


 捜しに行こうかと少し考えたけど、一人になりたいのかも? と思い直した。

 席に座り、持ってきた世界地図を広げる。

 

 どうやら、このクルト帝国が中心に描かれた地図のようだ。クルト帝国がある大陸をムラクトル大陸といい、それ以外に2つほど大きな大陸があり、後は島国が点々とあるらしい事がわかる。

 それより問題なのは……地図のどこにも見覚えがない事だった。

 

「……あんまり考えたくなかったけど、私が知らない世界にでも飛ばされてしまったのかな?」


 原因と思われる『本』は、なんと言っても『夢の図書館』の蔵書だ。

 そんな『本』が1つぐらい混じっていてもおかしくはない気がしてくる。


 私はカバンの中から『本』を取り出すと、ペラペラと捲ってみる。

 最初は空白のページしかなかった、この『本』も今ではチィエルとの日々が綴られている。

 5分の4ほど捲ると、再び空白のページが広がっていた。

 

「もうすぐ終わりね。せっかくだから続きを書いていこうかな……」


 しばらく万年筆を走らせていると、急に眠気が襲ってきた。

 

 疲れがたまっているのかな? 今日はフカフカのベットでよく寝たはずなのに……。

 あれ? そう言えば、この場所……どこかで見たような?



◇◇◆◇◇



 私は一人霧雨の中、歩いていた。

 周りの風景から、先ほど見た市場の近くのようだ。


 いつの間に、こんな所にきたのだろう?

 

 辺りをキョロキョロと見回していると、突然ガシャーンという、何かが割れたような大きな音が聞こえた。どうやら路地の方からのようだ。

 私は、その音に誘われるように路地に入って行く。

 

「いつまで下手な歌を歌ってんだ、この爺ぃ!」


 いきなり響いた怒鳴り声に、一瞬身構える。

 路地の奥では、片手に酒瓶を持った典型的なよっぱらいの中年が怒鳴り声を上げており、くたびれた帽子とケープに身を包んだ老人がリュートを弾いていた。

 酔っ払いは酒を煽りながら老人に文句を言っているようだったけど、老人は意に介さず弾き続けている。


「やめろって言ってんだよっ!」


 そんな老人の態度に痺れを切らしたのか、酒瓶を老人に向けて投げつける。

 投げた酒瓶がゴンッと老人の頭に当たり、跳ね返って地面で割れたが、老人は変わらずリュートを弾き続ける。

 その瞬間、私はたまらず老人と酔っ払いの間に飛び出した。

 

「や……やめてくださいっ!?」

「あぁ~?」


 酔っ払いは、空ろな目で私を嘗め回すように見ていたので身体を強張らせる。

 

「はっ、ガキかよ」


 私には興味がないように鼻で笑い、そのままフラフラしながら、表通りの方へ歩いて行ってしまった。

 

 私が振り返ると、老人は額から血を流しながら、なおも歌い続けていたので、急いでハンカチをポケットから出して、血を拭こうと手を伸ばしたら老人は首を振った。

 

 このお爺さん……そこまで歌うのを止めてほしくないの?

 

 私は戸惑いながらも、老人が歌い終わるのを待つことにした。


 老人は歌う……。


「何処かより現れた英雄」

 

「幾多の困難を越え、災いを退ける」

 

「だが、物語を終えた後、英雄の姿はなく」


「その物語のみが語り継がれていく」


 よくある英雄譚と感じると共に、なぜか心に響く歌だった。

 私は拍手をしながら、笑顔で。


「素敵な歌ですね」

「あぁ、ありがとう、お嬢ちゃん……っとと」


 出血からかフラついている老人の傷を、急いでハンカチで押さえてから、リボンを解いて彼の頭に巻いて止血する。


「すまんな、お嬢ちゃん」

「お爺さん、なぜ歌うのをやめなかったの?」

「フォフォフォ……これはワシの矜持じゃよ」

「矜持?」


 老人はニヤリと笑うと、まるで歌うかの如く語りはじめた。

 

「詩は歌い上げれなければ意味がなく、歌は聴衆が居てこそ完成する。それがたった一人の客であってもな」

「素敵ですね」


 老人は少し照れくさそうに笑った。


「時に、お嬢ちゃんは迷子かね?」

「えっ? どうしてですか?」

「こんな路地裏に、お嬢ちゃんのような子がくるなんて珍しいからのぉ」


 私が迷子? なぜか、そんな気がしてきた。


「迷子……かも? 初めてきた街なので……」

「どうやら手ぶらのようだが、地図も持っておらんのか? ワシが案内してやろうか?」

「手ぶら?」


 そう言えば、カバンがない。 図書館に置いてきたのだろうか?


「図書館に帰らないと」

「図書館に行きたいのか? それなら……」


 私は首を振って答える。

 

「大丈夫です、地図はありますから。私、探すの得意なんですよ!」


 怪我をしている老人に、これ以上無理をさせるわけにはいかない。

 

「それではお爺さん、お大事に」


 笑顔でお辞儀をして、その場を去る。

 表通りに出ると、私はすぐに捜索魔法(サーチ)を使う事にした。

 あのカバンを探しに行かなくては……。

 

捜索魔法(サーチ)


 周辺の地図が表示されたのを確認してから、目的地のワードを唱える。


「図書館!」


 ふと意識が朦朧(もうろう)として膝を折る。

 あれ、魔力(マナ)切れ……?


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