第17話 『成長促進』を探す★
翌朝、朝日がカーテン越しに射し込み、部屋がやさしい明かりに包まれていた。
憧れの天蓋付きベッドで目覚めた私は、まだ寝ていたい気分でシーツをさすっていた。
とても幸せな気分だけど、今日は『帝立図書館』に行かなくてはいけないから、早く起きて準備しないと……。
身体を起こすと、メアリーさんが用意してくれた寝巻きを脱いで、畳んであったシャツに着替える。スカートを履き、ベッドの横に置いておいた靴を履いて紐を締める。鏡台まで歩き、椅子に腰をかけてからゆっくりと髪を梳いていく。
「うん、とりあえずこんな感じでいいかな」
髪のセットが終えると、ドアからノックの音が聞こえてきた。
「失礼します。おはようございます、ペケ様」
挨拶が済むと朝食の乗ったカートを押しながら、メイドのメアリーが入ってきた。
カートの上の朝食を、ベッド横の丸いテーブルに並べながら。
「本日の予定は、朝食後に市街までと伺っておりますが、変更はございませんか?」
「えっ……はい、そのつもりです」
「わかりました、それでは馬車と御者を手配しておきます。……コーヒーと紅茶、どちらが?」
「では、コーヒーをお願いします」
その後、メアリーさんが用意してくれた朝食を取ってから、外出の準備を済ませ屋敷の玄関へと向かった。
◇◇◆◇◇
玄関へ行くと、すでにチィエルがいて手を振っている。
「やっと来た~早く行こう、ペケ」
「チィ姉さん、おはようございます。朝から元気ですね」
「やっと念願の『成長促進』のアイテムが手に入るんだぞ? そりゃテンションだって上がるってもんさー」
立派なヒゲを生やした中年紳士風の御者さんが、こちらを見ていたのでお辞儀をすると、御者さんは帽子少し浮かせて微笑んだ。玄関からメアリーがパタパタと小走りで向かってきて。
「ペケ様、チィエル様、お帰りは夕方という事でよろしいでしょうか?」
「はい、5回目の鐘が鳴る頃には用事も終るかと思います」
この5回目の鐘とは、およそ17時ぐらいを指している。どうやら教会が正午から1時間置きに鳴らしているらしいのだ。
「わかりました……では、トールさん、そのようにお願いします」
メアリーさん言葉に、御者さんが再び帽子少し浮かせて答える。
彼の名前はトールさんと言うらしい。
「彼は無口ですが、仕事はきっちりします。5回目の鐘が鳴る頃に『帝立図書館』前にお迎えに向かいますので、ご安心ください」
「わかりました、ありがとうございます」
私とチィエルが馬車に乗り込んだのを確認すると、トールさんは馬車を発車させた。
◇◇◆◇◇
私たちが乗った馬車は、1時間ほどで『帝立図書館』前までたどり着いた。
私たちが馬車から降りると。トールさんは再び帽子少し浮かせて微笑み、そのまま馬車を走らせた。
本当に無口な人ですね……。
私は『帝立図書館』を見上げる。
かなり強固な造りの建物で、建物全体が威圧的な印象だった。
図書館は、もっと人に開かれるべきだと思うのだけど……。
本当はすぐにでも図書館で調べ物がしたかったけど、今日は買い物が優先かな?
すでにテンションが上がり過ぎて、今でも走り出しそうなチィエルの方を見る。
「早くいこう!」
彼女はそう言うと、私の手を掴んで走り出した。
◇◇◆◇◇
市場に着くと、彼女はそのまま目に入った店に飛び込んでいく。
私はついて行きながら、店の看板を見る。ランブル道具店。
道具屋さんか……。
店に入ると、様々な雑貨が綺麗に並べてあり、店主の几帳面さがうかがえる。
ぼーっと店内を眺めていたら、奥から野太い声が聞こえてきた。
「あらぁ~可愛らしい子たちねぇ、お客様かしらぁ?」
奥から現れたのは、フリフリのドレスで着飾ったオーガ……いや、人族の男性……だろうか?
ガレッドさん並みの筋肉と巨躯で、己の筋肉を誇張したポーズで私たちを出迎えてくれた。……逃げ出したい。
「おっちゃん! ここに『成長促進』のマジックアイテム、売ってるか?」
「おっちゃんは、や・め・て! ランブルさんって、呼んで欲しいわぁ」
喋るたびに胸筋がピクピクしている。……今すぐ逃げ出したい。
「それで『成長促進』のマジックアイテムだったかしら? 残念だけどアレなら呪符屋ねぇ」
「呪符屋か、ありがと~」
「アレに興味を持つなんて、いい趣味をしてるわねぇ。あたしも愛用しているわぁ」
それ以上、何を成長させるというのだろうか? ……今すぐ逃げだそう!
私がそそくさと店から逃げ出すと、すぐにチィエルも出てきて地図を見せながら。
「おっちゃんに、呪符屋までの地図を描いてもらった~」
その地図を頼りに、私たちは呪符屋に向かうことにした。
◇◇◆◇◇
しばらく歩くと呪符屋と思われる建物が見えてきた。
看板を確認するとランブル呪符専門店。……嫌な予感しかしない。
「私、外で待ってる……って、引っ張らないで~」
待ってようとしたところ、チィエルに手を掴まれ、そのまま店内に入ってしまった。
店に入ると、先ほどと同じように品物が綺麗に並べてあり、店主の几帳面さがうかがえる。
引きつった顔をして身構えていると、奥から声が聞こえてきた。
「あらぁ~可愛らしい子たちねぇ、お客様かしらぁ?」
セリフまでまったく一緒だ。咄嗟に目をつぶってしまう。
恐る恐る瞼を開けると、そこには紫の綺麗なドレスに長い黒髪を持った妖艶な美女が微笑んでいた。
「ここは呪符屋よ? 何かお求めかしらぁ?」
少しゆっくり目の話し声に反応して、チィエルが身を乗り出して。
「『成長促進』のマジックアイテムが、ここに売ってるって聞いたぞっ!」
「あぁ、アレね。売ってるわよぉ……という事は、貴女たち冒険者かしらぁ?」
「うんうん、そんな感じ」
「そう……ちょっと待っててねぇ」
店主がカウンターの奥へ向かい、お守りのような紐が付いた小袋を持ってきた。
「金貨1枚だけど、払える?」
「ほら、これ! 金貨!」
すぐに金貨を差し出すチィエル。もはや彼女を止めることは不可能だろう。
店主は金貨を受け取ると笑顔で、小袋と何か書き込まれた紙をチィエルに渡す。
「毎度あり……これに使い方が書いてあるわぁ。女の子だし程ほどにねぇ」
「やったぁ!」
念願のものを手に入れて、飛び跳ねるチィエル。
なんだかドッと疲れたけど、次は『帝立図書館』へ向かわないと。




