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第16話 『シルクの海』を探す

 トルターンを飛び立ってから、数時間が経過していた。

 レーンさんの言った通り、このスーと呼ばれた大鳥はとても速く、すでにかなりの距離を移動している。

 

 彼女に聞いたところによると、この子はハクローと同じく精霊種で、名前がついているので彼女と本契約を結んでいる精霊だろう。

 寄合馬車で15日はかかる距離を、1日も掛からないというのだから、物凄い速度で飛行している。

 地上を見てみると矢のように景色は流れているが、展開された魔力(マナ)の結界があるので風圧などは感じず快適な空の旅を満喫できた。

 もしそれが無ければ風圧で首が飛ぶか、私たち自身が大空へ飛び立つだろうことは、疑いようもないと考えると少し怖いけど……。

 再び地上を見ると、大きな街と大きな川、そこにかかった大きな橋が見えてきた。

 おそらく、あれが交易都市セレスターンとセレス大橋だろうか?

 確かに一部崩壊しているが、すでに修理に取り掛かっているようだった。あの調子ならすぐに通行が可能かもしれない。

 

「これ、領土間の通行の問題とか大丈夫なんですか?」

「はははっ! 大丈夫、気付かれやしないさ」

 

 レーンさんは楽しそうに笑っていたが、現在私たちは領地の境を飛び越えている。

 普通なら、領地に入る際に通行税等を払わなければいけないのだが……。ミレーヌが緊急事態以外は使えないと言っていた理由がわかったような気がする。


「帝都に着いたら、そのままスイリー家の別邸に行く。私はすぐに戻らなくてはいけないが、帝都滞在中はそこにいるライという小僧に頼れ」

「はい、ありがとうございます」


 その後、帝都の話を聞きながら飛び続ける事、数時間が経過した頃、地平線にかなり大きな城壁が見えてきた。


 今までに見た事がない規模の都市だ。あそこが帝都クルトタールだろうか?

 そう思うと、私の胸は期待と不安で高鳴りはじめた。

 


◇◇◆◇◇



 スーはバサバサという羽音と共に、郊外にあるスイリー家別邸の庭に着地した。

 

 帝都上空にこんな大鳥が出現したら、大騒ぎになるのでは? と心配したが、どうやら魔力(マナ)の結界は認識阻害の役目も担っているようで、地上を見ても気が付かれた様子はなかった。

 さすがに着地の際の、大きな羽音には気が付くようで、屋敷から使用人と思われる人々がゾロゾロと現れていた。

 

 レーンさんがスーから飛び降りると、使用人たちは整列して一斉に頭を下げる。


「いらっしゃいませ、レーン様」

「ふむ、ご苦労。ライ坊はおるか?」


 使用人の後ろから、口ひげを生やした青年が前に出て。


「ライ坊はやめてくださいよ、レーン様。私はこれでも28ですよ?」

「はははっ! 私に比べれば貴様らなど小僧よ。似合わんヒゲなど生やしおって」


 似合わないと言われたヒゲをさすりながら。


「これはこれで必要なんですが……それで、今日はどんな御用ですか? 貴女が帝都まで来るなんて、トルターンで何か急変が?」

「ん? まぁ、緊急事態といえばそうなのだが……そっちは気にしなくていい。しばらく、こやつらの面倒を見てやって欲しいのだ」


 その青年は、私たちの事をじっと見つめてから。


「この可愛らしいレディ達は?」

「お前の家の恩人さ。あとの事はこやつらに聞くといい、私は急いで帰らねばならんからな」

 

 説明するのが面倒になったのか、さっさとスーに再び飛び乗ると、すぐに飛び立ってしまった。


「相変わらず、(せわ)しない人だ」


 空を見上げていた青年は、私たちの方を見ると笑顔で。

 

「では……可愛らしいレディたち、我が屋敷へようこそ」



◇◇◆◇◇



 その後、その青年は先に屋敷に帰ってしまったが、老齢の執事が私たちは屋敷の部屋へ案内してくれて、紅茶と焼き菓子を振舞ってくれた。

 

「しばらく、ご寛ぎください。ご主人様がいらっしゃいますので……」


 老齢の執事は、一礼して部屋から退室していった。

 

 しばらくして、先ほどの口ひげをした青年がメイドと執事を引き連れて部屋に入ってきた。

 反応して私が立ち上がると、彼はそれを制するように右手を前に出して。

 

「あぁ、座ってていいよ」


 一応頭を下げてから、もう一度ソファーに座る。

 

「さて、改めて……私の名前は、ライディース・フォン・スイリーだ。気軽にライと呼んでくれていい。帝都にはトルターン大使として駐在しているんだよ」


 彼は優しそうな声で、人を落ち着かせる雰囲気をまとっており。整った顔立ちだったが口ひげだけが浮いていた。


「私の名前は、ペケと申します。こちらは、チィエル」

「よろしくな〜」


 チィエルの態度が気になるのか、執事さんの顔が若干引きつっているが彼は笑顔で。


「それで、大婆様は君たちの事をスイリー家の恩人と言っていたけど、どういう事なんだい?」


 私たちは、彼にレオ君誘拐事件の顛末と滞在理由を掻い摘んで話した。

 彼は頷きながらそれを聞き終えると。

 

「……なるほど、レオがね。確かにスイリー家の恩人だ。改めて弟を救ってくれた事、感謝する」


 この人、レオ君のお兄さんだったのか、そういえば少し似ている気もする。


「いえ、そんな……」

「それで君たちの目的は『帝立図書館』と『成長促進』のマジックアイテムを探しにきたと?」

「そうそう! 帝都では『成長促進』のマジックアイテムが人気って聞いたんだけど!」


 チィエルが興奮気味に身を乗り出したので、ライさんは一瞬怯んだが笑顔で答えた。


「あぁ噂には聞いているよ。確か冒険者の間で人気らしいね」

「本当か!? どこで売ってるんだ?」


 本当にあるんだ……てっきり詐欺アイテムか、なにかと思っていたのだけど……。

 

 彼はヒゲを擦りながら答えた。

 

「う〜ん、私も詳しくはわからないけど、おそらく市場にあるだろう。『帝立図書館』も市場の近くにあるから、明日にでも馬車を出させるよ」

「おー!」

「ありがとうございます」


 彼は席を立ちながら。


「さて、私はそろそろ退室させていただくが、君たちはゆっくりして行きたまえ。メアリーさん」

 

 メアリーと呼ばれた赤毛のメイドは一歩前に出て。


「はい、ライディース様」

「滞在中の彼女たちのお世話は、よろしく頼むよ。」

「わかりました」


 そう言うと、彼女は一歩下がりお辞儀をする。

 彼はもう一度こちらに手を振ると部屋から出て行った。

 

 メアリーさんは、こちらを向いて。


「それでは、お部屋にご案内します」


 私たちは彼女について行き、2つ用意された客室の前で別れると、それぞれの部屋に別れた。

 通された部屋は、やっぱり豪華な作りだったけど、その中でも一番目を引いたのは天蓋付きベッド!

 乙女の憧れ天蓋付きベッドである。恥ずかしながら、私も少し興奮しているのがわかる。

 

「それでは、何か御用がありましたらお呼びください」


 そう言って、メアリーさんはお辞儀をすると退室した。

 誰もいない事を確認した後、私は夢にまで見た『シルクの海』にダイブしたのだった!


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