第15話 『移動手段』を探す
帝都行きを決めてから、さらに2日が経過していた。
本当はすぐにでも出発したかったけど、降っていた大雨がなかなか止まなかったので出発を見合わせていたのだ。
今日は3日ぶりの快晴になり、私たちは出発前に生活課に訪れている。
トルターン生活課、課長室────
私たちの前には、レーンさんが座っている。
「あたしたち、そろそろ帝都に行くことにした!」
チィエルもこの滞在期間中に慣れたようで、レーンさんと普通に話せるようになっていた。
「そうか、もう行くのか。帝都というと、やはり北のセレス経由で行くのか?」
「はい、大陸街道を北進してセレスターンを経由してから、そのまま帝都へ向かうつもりです」
トルターンから帝都に向かうには、大陸街道という大きな街道を通って、セレス川を越えて交易都市セレスターンを経由するのがもっとも安全なルートで、私たちもそのルートで向かう計画だった。
「ふむ、では私もガレッドを見習って、紹介状の1つでも書いてやろうか。……しばらく、待っていろ」
レーンは席を立つと執務用の大きな机に向かい、ペンを取るとスラスラと書いていく。
しばらく後、バーンっと大きな音を立てて扉が開き、慌てた様子のミレーヌが課長室に駆け込んできた。
「大婆様、た……大変です!」
ジロリとミレーヌを睨むと慌てた様子なのを察してか、呼び方は咎めずに不機嫌な声で。
「何事だ? 騒がしいぞ」
「いま、セレス方面に向かっていた商隊から連絡があったんですが……どうやら、大雨の影響でセレス大橋が一部崩落したらしくて……」
「なんだと!? ここ数日の大雨のせいか、また面倒な。ミレーヌ、お主はこの事を商人組合の方へ連絡しておけ。まぁ、あの連中は耳が早いから不要だろうがな」
「は……はい」
ミレーヌは、部屋から急いで出て行く。
レーンは続きを書きながら、こちらを向いて。
「お主らも聞いての通りだ、出発は見合わせたほうがいいだろうな」
「橋の修理は、どれぐらいかかるのでしょうか?」
「修理か? 私は専門家ではないし、被害状況もわからんが……」
レーンは少し考えた後。
「そうだな……軽微な損傷だとして、通例であれば仮設と補強で通れるようになるのに早くて1週間、本格的に直すとなると2ヶ月以上はかかるのではないか?」
「他に使えるルートはありませんか?」
紹介状を書き終えたのか、彼女は筆をペン立てに置き、手紙を封筒に入れている。
「他のルートか……まずセレス川の船便を使うルートがあるが、これは時間的には橋の修復を待っても大差ないかもしれんな」
「船が出ているなら、待つよりそっちのが早くないか?」
「お主は少しは頭を使え、通常使うセレス大橋のルートが壊れているのだぞ?」
チィエルは首を捻っていたが、私は少し考えてから答える。
「そのルートを使ってた人が殺到するという事でしょうか?」
「ふむ、その通りだ。船には限りがあるしな、しばらくは非常に混むだろうな。セレスターンは交易都市だから商人優先になるだろうな」
「なるほど……」
レーンは、そのまま話を続ける。
「他のルートとなると、一度西側へ向かいピピラ経由で大周りするルートだ。こちらも比較的安全なルートだが、帝都までは馬車で2ヶ月ぐらいだな」
「2ヶ月か~あたしは別に構わないけど」
チィエルがこちらを見ている。3日前に相談した時から、私が焦っているのに気がついているようだ。
正直2ヶ月ものんびり旅をしている余裕はない。
顔にはっきり焦りの色が出ていたのか、レーンが聞いてくる。
「それほど急いでいるのか?」
「はい……出来れば」
「ふむ……まぁいいだろう。もう一つ特別ルートがある。通常はこんな事では使わんが、お主らにはレオの件で恩義もあるしな」
「えっ?」
私が驚いて顔を上げると、レーンさんは私の顔の前に封筒を突き出して。
「ほれ、紹介状だ。ミレーヌから聞いたが、お主『帝立図書館』に行きたいのだろう? あそこは通常平民では入れないが、受付でそれを見せるといい」
私がきょとんとした顔で封筒を受け取ると、レーンさんはニヤリと笑って。
「お主ら、高いところは平気か?」
◇◇◆◇◇
私たちは、レーンさんに生活課の屋上に行くように言われて待っていた。
嵐が去った翌日だからか、どこまでも広がる青い空が、いつもより高く感じられた。
空を眺めているとドアが開き、レーンさんとミレーヌが一緒に現れた。
「待たせたな」
レーンの手は、大きめの角笛の様なものを持っている。
ミレーヌはおずおずとレーンに話しかけた。
「レーン様、まさかスーを使うつもりですか?」
レーンは頷く。
「領主様から、緊急時以外の使用が禁止されていますが……」
「なに、ちょっとセレス大橋の様子を見てくるだけだ。橋の状況はトルターンに取っても交易面で緊急の案件だからな。そのついでに、ちょっと帝都に寄ってくる」
ミレーヌは渋い顔をしていたが、なにを言っても無駄と諦めたのか、その場から離れた。
ミレーヌが離れたのを確認した後、レーンは角笛を口にすると一気にそれを吹く。
かなり大きな音がするかと思ったけど……音がしていない。失敗だろうか?
そう思った矢先、上空からピィィィィィという大きな音と共に、バサバサと巨大な羽音が聞こえてきた。
空を見上げると、白というには白すぎる影が降りてくるのが見えた。
ドシーンという地響きと共に着地したのは、真っ白な大きな鳥。顔は鷲のような精悍な顔つきで、広げた翼は20メートルはありそうな巨大な鳥だった。
着地の衝撃で、転がっていたチィエルが起き上がりながら驚いて。
「な……なんだ、こいつ!?」
レーンは、鳥の顔を撫でながら。
「この子はスーだ。お主らを帝都まで、この子が運んでくれる」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「安心しろ、この子は速いぞ。おそらく1日も掛からぬ、帝都までの『移動手段』としては一番だろう。ちょっと問題もあるが些細な事だ」
3人も乗って大丈夫かと聞きたかったのだけど、レーンさんの様子から心配はなさそうだ。一刻も早く帝都に行きたい私にとってはありがたい提案だった。
「おー、かっこいいな!」
すでにチィエルは喜んで、スーと呼ばれた大鳥の背中に乗っている。
私は少し躊躇したが、続いて乗ってみると背中は予想よりフカフカで気持ちよかった。
最後にレーンさんが飛び乗ると、ミレーヌに向かって。
「すぐに戻ってくるつもりだが、しばらくの間は頼むぞ。基本的なことは部下がやってくれる」
「はいっ、いってらっしゃい」
レーンがスーの頭を軽く撫でると、ピィィィィィィという鳴き声と共に翼を広げた。
スーを覆うように結界のような魔力の膜が見える。
スーが羽ばたいた瞬間、見ていた風景が生活課の遥か上空へ切り替わった。
衝撃等がまったくなく瞬間移動したかのような感覚だった。
スーは、再びピィィィという鳴き声と共に、北へ向かって飛びはじめた。




