第12話 『足止め方法』を探す
視界を覆っていた白いものは、そのまま私のほうへ倒れこんできて。
「きゃぁぁぁ」
私はそれに押しつぶされてしまった。
完全に視覚を奪われた私は、ジタバタと暴れるがモフモフな感触が……モフモフ? 何とか顔を離すと、白い犬……ではない狼の顔が見えた。
この子は昨晩のハクロー? 今日は実体化してるの?
混乱している私の耳にチィエルの声が聞こえてくる。
「よし、ちょっと押さえ込んでおけ! ……あっ、何かあったらちゃんと守れよ?」
「ガゥッ」
「チィ姉さん! なんのつもりですか!?」
「ふふん、ペケはそこで待ってなっ。あたしが一人できっちり解決してきてやる!」
そのまま腰の短剣を引き抜き、教会のほうへ歩いて行ってしまった。
まさか、一人で乗り込むつもりだろうか?
「ハクロー、どいてっ! どきなさいっ!」
「…………」
またそっぽを向かれて完全に無視されてしまった。確か精霊種は命令に忠実だと聞いた事がある。
何とか抜け出ようともがいてみたが、なんとか右腕が自由になっただけで、体は完全に押さえつけられてしまっていた。
……この方法だけはしたくなかったけど、こうなったら仕方がない。
私は自由になった手をカバンに伸ばし、小瓶を取り出すと親指で蓋を開けて、ハクローの鼻元に持っていった。
「ぎゃうんっ!」
その強烈な臭いに、ハクローはたまらず飛び跳ねて距離を取り、恨めしそうな顔でこちらを見ている。
精霊種とはいえ、やっぱり嗅覚が鋭い狼のようだ。
小瓶をハクローに突き出しながら。
「また邪魔したら、今度は鼻にかけるからねっ!」
「…………」
相当嫌だったのか大人しくなったハクローを横目に、私は蓋を閉めて内ポケットにしまった。
制服は土で汚れ、髪もボロボロだったが、チィエルの事が心配になり教会の方へ走り出した。
◇◇◆◇◇
教会に着くと、壁沿いに窓に近付いて中を覗きこんだ。
わざわざ覗きこんだのは、中の様子を知るのに捜索魔法を使うほど、魔力が残っていない為だ。
中の様子は、派手に散乱している椅子の影で、縛られている子供が1人……2人、側に男が1人……今、頭を抑えながら起き上がった男が1人。
子供が2人に増えている? よく見てみると片方はチィエルだった。
猿ぐつわをされ、手を後ろで縛られており、モゾモゾ動いている所を見ると、まだ生きているようだ。
「よかった……って、捕まってるじゃないですかっ!」
小声でツッコミを入れつつ、さらに中の様子を探るため、耳を澄ますと男たちの話声が聞こえてきた。
「おい、大丈夫か? なんとか捕まえたが……」
「いてて……なんなんだ、このガキは? いきなり襲ってきやがって」
「ガキにのされてんじゃねーよ。それより、俺らの事を誘拐犯と呼んでいた。バレたんだ! 領主のガキを連れて依頼主の所まで、さっさと逃げようぜ」
「あぁそうだな……お? このガキはエルフか、こいつはこいつで高く売れそうだな……へへへ」
依頼主? いや、今はそれどころではない。
あの人たち、逃げるつもりだ!
今すぐミレーヌと憲兵隊が格好よく登場してくれるのを期待したいけど、時間的にまだ来るわけがなかった。
本で読む物語のヒーローは、時間の壁でも越えているのか? と思うぐらい絶妙なタイミングで来てくれるけど、残念ながら現実はそんなに都合よくいかない。
私がなんとか足止めしないと! なにか方法は?
窓から中をもう一度覗くと、今度はチィエルと目があった。しかし、彼女はすぐにプイッと後ろを向いてしまう。
「拗ねてる場合じゃないんですよ!?」
小声で抗議してみたが、さらに挑発するかの如く、こっちに向かってお尻をフリフリしている。
「この状況で、バカにしてる!? ……ん?」
よく見てみると、後ろの手に何か光るものを持っているのが見えた。
「あれはナイフ? そういえばベルトの後ろに隠してあるって言ってたような?」
あのまま縄を切って脱出しても、すぐに捕まっちゃう。なんとか誘拐犯の気を逸らせば……。
周りをキョロキョロしていると、いつの間にかハクローがすぐ近くまで来ていた。
どうやらチィエルの命令通り、私を守ってくれているみたいだ。
……さっきはひどい事しちゃったかな?
あ! ひょっとして、この子ならあの二人を倒せるんじゃ?
「ハクロー、あの二人倒せる?」
「…………」
またプイッとそっぽを向かれた。
私はハクローの頬をぐいぐり引っ張りながら。
「聞きなさい!」
しかし、ハクローは意に介さず、動こうとはしない。
どうやら私のお願いは聞く気がないようだ。精霊種は命令に忠実だとは聞いていたけど、緊急事態でも融通が利かない。
頬を引っ張られたハクロー越しに、大きな石像があることに気がついた。
「あ……あれを使えば、ひょっとして! その為には……」
ハクローの頬から手を離し、私は内ポケットからMポーションを取り出した。
その瞬間、ハクローは飛び跳ねて遠くまで離れる。よほどコレを警戒しているらしい。
私は意を決して、蓋を開けると一気にそれを飲み干した。




