第10話 『ミレーヌ』を探す
私たちは課長室に通されていた。どちらかと言うと連行に近かったけど……。
荷物をソファーの脇に置いて、薦められるがままソファーに座る。思ったよりふかふかのソファーで体が沈み、慌てて体勢を整える。
テーブルを挟んで先ほどの威厳たっぷりの女性が座っており、その後ろには仮設受付にいた少女が立っている。この女性もエルフ族のようで大変美しく、歳は20代後半ぐらいに見えた。おそらく彼女が、この街の生活課の課長だろう。
「お主ら、ガレッドの紹介らしいが……そちらの黒い服を着た娘!」
「えっ、はい!?」
名前すら名乗らず始まった会話に戸惑いながらも、さらに姿勢を正す。
この女性にはなにか有無を言わさぬ迫力があるのだ。チィエルなど、すでに蛇に睨まれたカエルのように固まっている。
「お主、なにやら不思議な魔法が使えるらしいな……この手紙によると捜索魔法と言ったか?」
ガレッドさん、そんな事まで書いていたのか……。
「はい、物が探せる魔法です」
「なんでも探せるのか? 私は長いこと生きているが、そのような魔法は聞いた事がない。すまないが実演してもらえぬだろうか?」
「え? えぇ、いいですよ。あまり広範囲でなければ……何を探しましょうか? 探すにはワードという目標の情報が必要なのですが?」
なんでも探せるかというと、実はそういうわけでもない。
捜索魔法も、決して万能というわけではないのだ。
例えば、術者……つまり私が認識できないワードには反応しないし、子猫のマーニャの時のような高低差も識別できない。
つまり「地中 宝物」と検索しても、その宝物が「金」なのか、「宝石」なのか認識できていなければ反応しないし、どの深さに埋まっているのかもわからない。
その女性は少し考えると、後ろの少女に確認を取り。
「そうさな……では、『ミレーヌ』という人物ではどうだ?」
「他に情報はありませんか? 年齢など何でもいいのですが……」
「では、16歳で頼む」
「わかりました」
私はいつものように手に魔力を集中させてから開放するように広げた。
「捜索魔法」
消費を考えてかなり弱めに使ったが、なんとかこの建物内の地図が表示される。
「ほぅ……」
それを見たエルフの女性は感嘆の声を上げ。
「ミレーヌ」
続けて、最初のワードをつぶやくと、この部屋に赤いマーカーが現れた。そのまま次のワードもつぶやく。
「16歳」
特にマーカーには変化がなかったので、捜索魔法を止めて。
後ろにいた少女を指差す。
「彼女がミレーヌさんですね?」
「正解だ、たいしたものだな」
「それほどでも……」
急に褒められて照れていると、彼女はさらに真剣な顔になった。
「来て早々で悪いが、お主らに力を貸して貰いたい」
「え?」
◇◇◆◇◇
このエルフの女性の名前は、レーン・スイリーという名前だそうだ。
トルターン生活課の課長と、兼任でこの街の憲兵の長も勤めているとの事だった。
そんな彼女から、私たちは街で現在起きている事件の解決に向けた依頼を受けることになったのだ。
「現在、この街ではかなり緊急度の高い事件が発生している。それの対応に憲兵も含め生活課の職員もほぼ全て、その事件に向けて動いてもらっておってな……」
部屋の外が慌しかったのは、そのせいだろうか?
「いったいどんな事件ですか?」
「誘拐だ」
誘拐? そう言えば、先ほど門番さんが頻発していると言っていた。
「子供達が攫われているって話でしょうか? 先ほど小耳に挟んだのですが……」
「耳が早いな、話が早くて助かるが……半分正解といったところか」
「半分ですか?」
彼女は、頷きつつ。
「ふむ、そちらに関しては問題ない。先ほど憲兵隊がアジトに突入、子供達を救出したと報告を受けている」
「そうなんですか、それはよかった……」
私が安堵していると、場の空気に慣れたのかチィエルが復活して、テーブルの上に身を乗り出しながら。
「じゃ、どいつが誘拐されたんだ?」
「なんじゃ……小娘、話の邪魔をするでない」
「ぴぁっ」
彼女の一睨みで、再びチィエルの動きが止まってしまった。
小刻みに震えて漏らしてしまうのではないかと、心配になるぐらいの脅えている。
彼女は物怖じしない性格かと思っていたけど、どうしたんだろう?
「話を戻すが、攫われたのは領主の息子だ。とんだクソガキでな、一人で屋敷を抜け出した際に攫われたらしい。発覚したのは1時間ほど前……まったく迷惑な話だ」
領主の息子をクソガキ扱い……ガレッドさんが豪快と言っていたけど本当のようだった。
「これが、その子供の情報が書き込まれた書類だ。これを元に探してくれ」
書類を受け取りながら頷く、そして過度の期待をさせてしまっても困るので、先に弁解もしておく。
「わかりました、緊急事態ですし微力ながら手伝わせていただきます。しかし、捜索魔法は、魔力の消費の関係上、広範囲となるとあと1回、範囲を絞ってもあと数回ぐらいしか使えないと思います……すみません」
彼女の眉がピクリと上がり、すぐにミレーヌの方を向き。
「魔力をどうにかすればいいのだな? ミレーヌ、倉庫からアレを持ってこい。それで、こいつらと同行するのだ」
「はい、大婆……」
ミレーヌの言いかけた言葉にジロリと眼光が鋭くなる。
「いえ、レ……レーン様」
「ふむ、気をつけて行ってこい。見つけたら連絡を、救出は憲兵に任せろ」
ミレーヌは慌てて部屋から出ていき、レーンはこちらを向き直してから。
「ミレーヌに任せておけば魔力は何とかなるはずだ。入り口であやつと合流しろ。他に必要なものがないなら、すぐに行動に移れ!」
「はっ……はい」
どうやって魔力の問題を解決するかわからなかったが、なぜかその声に逆らえず、私たちは命じられるまま入り口へ向かって走り出した。




